【対談】ひとしずく×やま△&イラストレーター鈴ノ助、新作に込めた“ボーカロイドの感情表現”の極意。

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■ボーカロイドの感情表現には、
■どうしても限界があるんです。



──実際の曲作りは、どのように行なっているのでしょうか。たとえば、だいたいいつもどちらかが大筋を作ってくるのか、時と場合によるのかとか。

ひとしずく:曲作りに関しては3つパターンがありまして。

やま△:そうね、ふふ。

ひとしずく:まずひとつは、私がメロディラインとコードだけのシンプルな土台を作って、それをやまに一度渡して、そこから二人で広げていくパターン。ひとつは、やまがメロディ以外のオケを全部作って、そこにメロディと歌詞を乗せるパターン。

やま△:その場合、オケはほぼ完成形ですね。

ひとしずく:だね。で、もうひとつはやまがドラムのパターンを作って、そこから私が考えるパターン。

やま△:で、そこから(ひとしずくが)触発されて何か出てくるのを待つっていう。「Bad ∞ End ∞ Night」とかはまさにそのパターンだったよね。

ひとしずく:うん、そう。ちなみに今回の収録曲に関しては、「からくり卍バースト」の続編の「Re:birthed」は、やまが先にオケを作って、私がそこにメロディと歌詞をのせたんだよね。

やま△:そうそう。で、「ミスルトウ~魂の宿り木~」と「ミスルトウ~転生の宿り木~」は……。

ひとしずく:私が全部作った後に、やまにドラムを足して、ベースを補強してもらいました。

やま△:「Memories」は、そのふたつのやり方の中間くらいかな?

ひとしずく:だね。私がメロディラインを1コーラスだけ考えて……。

やま△:あとは、こっちでベースとかドラムを入れていったっていう。

──といった新しい曲や“初回限定ノベル同梱盤”の小説のストーリーは、鈴ノ助さんがイラストを描く上でも大きな影響を与えたはずですよね。



鈴ノ助:それはあります。基本的にボカロのキャラクターを使い続けてはいるんですけど、楽曲ごとに年齢とか性格の設定がガラリと変わるんですね。なので、イチから人格を作りつつ、その人格だったらどういう服を着るかなとか、どういう顔つきなのかなとか、どういう髪形を好むかなとかっていうことも考えて。服装っていうのは世界観でもあるので、そのキャラクターをパっと目で見てわかるようなヴィジュアルにしようということは、今回も心がけました。

──小説の第一章、第二章、第三章、第五章の挿絵も、それぞれ物語にグっと惹き込んでくれる重要な役割をはたしていますし。

鈴ノ助:シーンのピックアップはひとしずくと編集担当さんがしたんですけど……。

やま△:ひとしずくさんの世界と鈴ノ助さんの絵が融合しているな、って思いましたよ。絵があって、やっと完成したっていうか。

ひとしずく:うんうん。自分が普段読む小説には挿絵はないんですけど、私たちの作品を手にしたり曲を聴いてくれる方たちって、十代前半の方が多かったりすると思うんですね。そうすると、挿絵があったほうがより想像力をかきたてられるんじゃないかなって。もし私がまだ十代前半くらいだったら、鈴ノ助の描いてくれたきれいで幻想的なイラストがあるっていうのは、絶対に嬉しいと思います。

鈴ノ助:……私の力も少しは世界観が広がる助けになっているのであれば、頑張った甲斐があります。

──というイラストの効果もあって、悲劇へと向かう中でも11人のキャラクターが生き生きと描かれているし、だからこそ感情移入してしまいますから。物語を編み、キャラクター設定をしていく上で、ひとしずくさんが心がけたことは?

ひとしずく:私、実はファンタジーには詳しくなくて。剣と魔法の世界とかってあまり知らないから堂々とは言えないものの、時代が変わったりしても、世界観が変わったりしても、人間の生き方って変わっていないように思うんですよ。ファンタジーの世界って、一人の勇者が頑張って世界を救ったりするけど……。

やま△:確かにね。

ひとしずく:でも、現実の世界ではそんなことはまずあり得ないわけで。もっとリアリティを持たせたいなと思ったときに、リンちゃんもレンくんも特別な力は持っているけど、周りにいる人たちの助けを借りたり、そこにそれぞれの思惑があったり……それを描いていったから、そう感じていただけたんじゃないかなと思います。

──だからこそ、ボーカロイドを用いながらも、人間ならではの感情や業が深く描かれているわけですね。

ひとしずく:ボーカロイドの感情表現には、どうしても限界があるんですけど……そのぶん、歌詞に関してはできるだけわかりやすく感情が伝わるように、相当大げさに書いてはいます。

やま△:あとは、足らない部分をどうやってサポートできるかっていうところで、曲をアレンジしていったりもしていますね。




鈴ノ助:二人がそうやって物語とかキャラクターを明確に描いてくれるので、そこから話を膨らませて話を考えるのは、私としても楽しい作業だったりもします。ひとしずくから渡される設定を、私は結構自由にこねくり回して、変な設定を付け加えて遊んでしまったりとか(笑)。

──ひとしずくさん的には、またそれも楽しかったりして?

ひとしずく:うん、そうですね。さっきも言った通り、自分の中ではあくまでもキャラクターに寄り添うということをテーマとしてやっていて、私が考えるのは服のデザインくらいなので……実際に服を着せるという作業をみんなでやっていく中で、私がイメージした白いワンピースに鈴ノ助がフリルをつけてくれたりとか、かわいい麦わら帽子までかぶせてくれたりとか。そうしたら、今度は歌詞の中に麦わら帽子が風に吹かれて“あ!”って手で押さえる場面を入れようとか……。

鈴ノ助:ふふふ。

ひとしずく:そういう刺激の受け合いは、毎回すごくあります。

やま△:あるね、うん。そこは、ひとりで制作するのと絶対に違うところで。みんなで刺激を受け合って、面白い反応が起こるのを楽しんでやっている感覚はありますよ。

──足し算ではなく、掛け算のような相乗効果があるんでしょうね。

鈴ノ助:それぞれが好き勝手やるんだけど、最終的に形になるみたいなね。

──それはお互いに絶対的な信頼とかリスペクトがあるから、ですかね。

やま△:もちろん、僕は二人に対してリスペクトがありますよ。

鈴ノ助:私は私で、二人に任せておけばなんとかしてくれるって思っていますから(笑)。

ひとしずく:ホント、それぞれが一生懸命頑張っているだけなんですけど、それがうまいことまとまっているのかなっていう。

鈴ノ助:趣味趣向が違いすぎると、アウトプットしたものがケンカしてしまったりすると思うんですよ。でも、創作の方向性がそこまで離れていないからできるんだろうなとは思います。

──響くものや好きなものが似ていたりとか、感性が似通っていたりとか。

ひとしずく:基本、暗い方向に落ち着くっていうところは大筋で合意しているよね。

やま△:間違いない。ははは。

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