【インタビュー】世界的ジャズメン、ジョバンニ・ミラバッシがジブリ・アニメに傾倒する理由。「日本アニメの人気を、おそらく日本人が一番認識していない。」

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ジョバンニ・ミラバッシが、日本のアニメソングをピアノ・トリオ編成で新レコーディングした『Animessi ~Le Chateau dans le Ciel~』(『アニメッシ~天空の城ラピュタ ほか~』)を2015年1月21日(水)に発売した。今作に収録されるのは、ミラバッシ本人が選んだスタジオ・ジブリ制作アニメを中心とした名作アニメソングの数々だ。叙情感溢れる流麗なナンバーから、美しくもリズミカルでポップな楽曲まで、ミラバッシの魅力が余すところなく収められた作品である。今回、ライターの杉田宏樹氏により、そのアルバムの制作についてはもちろんのこと、アニメに対するミラバッシの情熱と独自の批評が明らかになった。

◆ジョバンニ・ミラバッシ 画像

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ジョバンニ・ミラバッシはイタリア出身のジャズ・ピアニスト。2001年のソロ・ピアノ作『AVANTI!』が母国でヒットすると日本でも注目が集まり、2004年からは定期的な来日公演を重ねて不動の人気を確立している。ミラバッシはいかにして親日家になったのか。3月中旬、東京のホール・コンサートに自身のトリオで出演するためにやって来たタイミングで、話を聞くことができた。



「35年前から、日本のアニメがどれだけ世界で人気があるかということを、おそらく日本人が一番認識していないのではないかと思います。そしてぼくが子供の頃からずっと、アニメ浸けだったことも(笑)。娘もアニメ好きで、初音ミクのファンなんですよ。ぼくは7歳の時にTVで『UFOロボ グレンダイザー』(永井豪原作)を観たのが、アニメ好きになるきっかけでした。子供時代にはクリスマス・シーズンにイタリアのTVでアニメが流れていて、偶然父親といっしょに観た『風の谷のナウシカ』のストーリーの美しさに感動したのです。ナウシカ姫に恋をしました。それから他の作品を観るにつれて宮崎駿アニメのファンになり、劇中音楽にも興味を抱くようになりました。宮崎アニメは、『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『千と千尋の神隠し』など、作品によって対象も描かれる世界も違います。『天空の城ラピュタ』は戦いの多い物語でした。つまり子供向きだったり大人を含めた内容だったりするので、作曲家に対する要求も作品ごとに違ったはずです。宮崎監督と作曲家の久石譲さんはイタリア映画に例えれば、フェデリコ・フェリーニ監督と作曲家ニーノ・ロータの出会いに匹敵すると思います」

ミラバッシは、トリオ+トランペットの2005年作『Prima O Poi』に、初めてのアニメ曲としてスタジオジブリ作品からの「ハウルの動く城」を収録。日本で同名映画が公開されてから、わずか半年後のレコーディングという早業だったことが見逃せない。来日公演でも披露して、親日家ぶりを印象付けたのはファンの間で有名なエソードになっている。

「『Prima O Poi』のレコーディングを控えて、気分転換のために行きつけの映画館に足を運んだところ、ちょうど封切られたばかりの『ハウルの動く城』が上映されていました。そして映画を観たところたちまち音楽が気に入って、レコーディングの時にもし5分余裕があったらこの曲を吹き込みたい、と申し出たのです。そして予定の楽曲がスムーズに録音できたので、この曲はワンテイクで仕上げました。簡単なコードとジャズ用のパートを付け加えた譜面を用意して、録音に臨んだのですが、このメロディは自分が書いたと言っていいほど自然なものです。」

実際は、現地イタリアで同映画が公開された直後のレコーディングだったことが、今回のインタビューで初めて明らかになったわけで、ミラバッシの“宮崎アニメ愛”の強さには驚くばかりだ。同曲がフランスの大衆音楽ミュゼットに通じるサウンドを特徴としている点について、さらに話を聞いてみた。



「ミュゼットは元々、19世紀の終わりから20世紀にかけてイタリアの労働者たちがフランスに出稼ぎにやって来た時に、イタリアの楽器であるアコーディオンで母国への思いを演奏したものが発端になっています。フランスとイタリアの接点という関係性において、ミュゼットが存在しているのです。宮崎監督も久石さんもイタリアに対して憧れを持っているのではないでしょうか。『紅の豚』はイタリアを舞台にした物語で、エンジンに“GHIBLI”の文字がありましたね。劇中ではぼくの『AVANTI!』でも取り上げたフランスの革命歌が使用されていました。地中海沿岸のヨーロッパからフランスにかけての地域の文化や心情に、お二人が憧れを持っていると想像できることも、ぼくがジブリ・アニメとその音楽に共感する部分なのです」

10年前にジブリ・アニメ好きを表明して、日本のファンから支持を得たミラバッシは、「ハウルの動く城」をライブの定番曲にしてゆくが、他のアニメ曲をレパートリーとして増やすことはなかった。本人としては進めたい気持ちがあっても、レコード会社などの周囲の事情を鑑みると難しいのが現実だったし、ライブやツアーでは直近のアルバムの収録曲がプログラムの柱になるのが常だからだ。しかしそんな状況が昨年2014年になって改善。キャリア初のアニメ曲集が制作され、今年2015年1月に最新作『Animessi』が登場したのである。

「15年前から実現させたいと温めていた企画です。この間、アニメに対する世の中の評価が変わってきたことや、宮崎監督が長編アニメの制作から引退することを発表されたこともあって、遂にレコード会社からこの企画のオファーを受けました。一度やると決めたことは必ず実現させる。ぼくはしつこい性格なんですよ(笑)。これまでの自分の実績やアーティストとして確立したイメージを踏まえると、アニメ曲集は“売れ線”に走ったのではないかと捉えられる懸念が、制作者側にあったようです。パリの有名なジャズ・クラブのオーナーから、今年の1月2日と3日に出演を依頼されました。新年にふさわしい、何か特別なプログラムをやってほしいというのです。『Animessi』は今のところ他のレコード会社との契約があるため、ヨーロッパでの発売は未定なのですが、ちょうどレコーディングが終わったばかりでもあり、同作の収録曲でプログラムを組んだのです。正月早々、多くの人々は自宅で寛いでいて、わざわざライブハウスに足を運んでくれる人は少ないだろうと思っていました。でもライヴはラジオで生中継されて、ファンにもメディア関係者からもいい反響をいただきました。演奏した曲が入ったCDはないのか?と多くの問い合わせを受けたほどです」

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