【インタビュー】「初音ミク&歌い手コンピ」のジャケットを描き下ろしたハロルド作石、ロックだけじゃない自由な音楽観を語る

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ニコニコ動画を中心としたネットシーンで絶大な人気を集める初音ミクと歌い手。だが今や、音楽ジャンルという枠にとどまらず、もはや日本の文化として確立してきたこの2つのアイコンが初連動したコンピレーション・アルバムが12月10日、『Download feat.初音ミク』(ワーナーミュージックジャパン)・『Upload feat.Vocalist』(ビクターエンタテインメント)として発売される。そして、それぞれの作品のジャケット・イラストを手掛けたのが、意外なことにこれがCDジャケット初の描き下ろしとなる漫画家・ハロルド作石氏だ。

◆ハロルド作石 画像

音楽漫画の金字塔『BECK』や、現在連載中の『RiN』などで知られるハロルド氏はロックバンドのサクセス・ストーリーを描いた『BECK』の印象が強いためか、自身が好んで聴く音楽もロック一辺倒であろうという先入観があるかもしれない。ところが、話を聞くとまったくそんなことはなく、気に入った音楽を偏見なく聴いているという。一見、異色なコラボと思いがちな今回の作品を手掛けたことも、ごく自然な興味の流れの中にあったようだ。そのカルチャーに対するフラットな姿勢は、音楽、野球、歴史ものなど数々のジャンルを取り上げてきたハロルド作品に通じている。


■ステージ上のCG映像にみんながサイリウムを振っているという光景
■「なんだこれは!? これは未来の映像だ!」って驚いたのが初音ミクとの出会い

──今回ハロルド作石先生が『Download feat.初音ミク』『Upload feat.Vocalist』のCDジャケット・イラストを手掛けていることは、リリース前から大きな話題になっています。それはやはりロックバンドを描いた『BECK』のイメージとのギャップがあるからだと思うのですが。

ハロルド作石:ああ、そうですか。僕はロックのイメージですかね(笑)?

──あ、特にロックにこだわっているわけではないですか?

ハロルド:そうですね。僕自身、ロックしか聴かないわけではないですよ。

──では今作のジャケット・イラストを引き受けられたのも、決して意外なことではないのかもしれませんね。以前からボーカロイドや歌い手に興味があったのでしょうか。

ハロルド:いや、ボーカロイド全体のことはあまりわかっていなくて、最初にワーナーさんとビクターさんに、描いてみないか?という依頼を頂いてお話に来てもらったときも「ニコニコ動画には、こういう感じでボカロPさんと歌い手さんというのがいまして──」というような、初歩の初歩を説明してもらって。それでこちらからもいろいろと質問して、という感じだったんです。

──ハロルド先生自身は、それまで実際に初音ミクや歌い手の曲に触れたことはなかったんですか?



ハロルド:いや、あります。去年の夏にWOWOWで<SUMMER SONIC>の中継をやっていたんです。僕としては、「あ、今日METALLICAやるな」って思って観てたんですけど、そこで初音ミクのライブも中継してたんですよ。それをたまたま観てたら、ステージに誰もいないわけです。誰もいないと言ったら変ですけど、フロントにCGの映像があって、それに対してみんながサイリウムを振って盛り上がっているという光景で。「なんだこれは!? これは未来の映像だ!」っていうような感じで驚きましてね(笑)。それで初音ミクというものがあって曲を歌っていて、それを喜んでいる人がいるという全容を知って、新鮮に驚いたんですよね。

──たしかに、生身を披露してなんぼのライブというものの概念まで覆される、ある種“異様”と言える光景ですよね。

ハロルド:そして、本当に日本のテクノロジーはすごいなと。そういう体験が去年あり、今回こういうお話があったんで、それは是非やらせてもらいたいなと純粋に思いました。

──新鮮な出会いがあった後で、タイミングも合ったわけですね。

ハロルド:初音ミクというものを元々知っていて、普段からニコニコ動画を観ている人からすると、「今更何言ってるの、このおっさん!?」という感じかもしれないですけど(笑)。普段そうしたものに親しんでいない僕からすると、非常に感心しましたね。本当に日本のテクノロジーはすごいですよ。

──CDのジャケットを描き下ろすのは初めてというのが意外なんですが、きっとこれまでにもたくさんのアーティストから描いてほしいという依頼はありましたよね?

ハロルド:ああ、そうですね。確かにありましたけど、基本的に僕は、本業でスケジュールもいっぱいいっぱいというような感じで仕事をしているんですよ。今日こうしてインタビューに来てもらうのとかは、長くてもせいぜい1時間とかじゃないですか? でも描く作業となると、結構時間を取っちゃう。そうすると、本業も遅れるしどっちもギリギリになっちゃうんで。描く仕事は、納期に余裕を持っていないと、なかなか受けるのは厳しいという場合が多いんですね。今まで頂いたCDのお話も大抵、その締切設定だと無理という感じだったんです。CD以外でも、例えば雑誌で何ページか漫画をお願いしますって頼んでいただいても、タイミング的に難しいときが多かったり。そういう意味では、今回のジャケット・イラストを描くことはだいぶ納期に余裕を持たせてもらいましたし、自分でも描いたことのないものだからやってみたいという気持ちもあったので、タイミング的にはありがたいお話でした。

──初音ミクのイラストはこれまでにも、3頭身でコミカルに描かれたものや、シリアスな画風で描かれたものまでさまざまなバージョンが描かれています。ただ今回は、割とストレートに奇をてらうことなく、ハロルド先生の作風でそのまま初音ミクが描かれているという印象です。どんなところに着目して初音ミクを描こうとしたんでしょうか。

ハロルド:初音ミクに合う絵柄というか、ファンタジー系とか、可愛い女の子を描くのが上手い方が主に描いていらっしゃって、本当にみんなめっちゃ上手いんですよね。だから、今まで僕が音楽漫画を描いていたからといって、初音ミクにギターを持たそうと思ったとしても、もう既にそういうことをやっていらっしゃる方も沢山いて、しかも上手に描いていらっしゃるんで。あまり変にいじったりせずに、僕なりのオーソドックスな形のものを自分の絵柄で描いたというか。基本に忠実な──まずはボディスラムで倒してとりあえず相手を押さえてから、という感じです(笑)。

──なるほど、プロレスファンには非常にわかりやすい例えで(笑)。一方の『歌い手盤』に関しては、モデルにした人たちがいたんですか?

ハロルド:それもですね、僕もそういうもの(ニコニコ動画)が身近じゃない世代なんで、どんな感じの人たちが歌い手さんをやっているかというのはあんまり詳しく把握できていなかったんですよね。実際、素顔をあまり公表していない方とかもいらっしゃるし。例えば、「プロレスファンって、だいたいこうだよね」とかはイメージしやすいじゃないですか(笑)?

──まあ、だいたいわかりますね(笑)。

ハロルド:会場にいる人ってこうだよね、とか。そういう、自分がよく知ってるジャンルであれば「こんな感じかな?」って描けるんですけど、知らないものに関しては難しいんで、今回も頂いた資料とか自分の想像ですよね。そういうところから描くしかなかったんで、ズバリそれが本当に歌い手さんらしいのかというのは確かな自信はないんですけど。



──いやでも、まさにそうで、聴いてるユーザー側も歌い手が本当はどういう人なのかわからないんですよね。でもその匿名性があるからこそ、作り手としても普段の自分から解放されてより表現が自由になっていくかもしれないというのはありますよね。

ハロルド:なるほど。まぁ、どちらにせよあんまり詳しくないので(笑)、僕なりに想像した人たちを描くことでこうなりました。ジャケット以外にも鏡音リン・レンのイラストも描いているんですけど、これに関してはどういう風にお願いしますということは言われなかったんで、まあだいたいこんな感じかなという(笑)。

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