【インタビュー】摩天楼オペラ、『AVALON』生々しいバンドサウンドと神々しいシンフォニアで織りなす“劇的ロック”
ドラマティックな展開の果て、描き出される安らぎの地。それは天上でも死後の世界でもなく、今、我らが生きるこの世にこそ見出せる――。“合唱”をキーワードにした一大コンセプト作『喝采と激情のグロリア』から1年半。摩天楼オペラの3rdアルバム『AVALON』は、自らの力で現世に楽園を創り出すための果敢なチャレンジだ。生々しいバンドサウンドと神々しいシンフォニアで織りなす“劇的ロック”は、聴く者の胸を震わせて、思いのまま生き抜く力を注ぎ込む。メンバーもファンであるという「ロマンシング サ・ガ」シリーズのサウンドを手掛ける伊藤賢治氏、キャラクターデザインを担当する小林智美氏とのコラボレーションも必見。そして<AVALON TOUR>のファイナルとなる10月18日・日比谷野外音楽堂ワンマンで、極上の癒しと感動を味わうべし。
■1曲の中での起承転結./ドラマ性がよりいっそう増して
■これまで自分たちが培ってきたものを開拓し直すことができた
◆摩天楼オペラ『AVALON』~拡大画像~
▲『AVALON』 |
▲苑 |
▲Anzi |
▲彩雨 |
▲燿 |
▲悠 |
苑:前作『喝采の激情のグロリア』(2013年3月発売)の流れから脱却して、新しい摩天楼オペラを探すという目的を成し遂げることができたと、自分たちでも感じています。単純に楽曲の幅が広くなっただけでなく、1曲の中での起承転結./ドラマ性がよりいっそう増して、これまで自分たちが培ってきたものを良い意味で開拓し直すことができたなと。
――その“新しい摩天楼オペラ”を引き出したのが、今回掲げていた“劇的ロック”というキーワードですよね。
燿:そうですね。アレンジは全曲“劇的ロック”というワードに沿って進めましたし、個人的には1枚通しての“劇的”感を大事にしたいと考えて、前に出るところと引くところの緩急を今まで以上に際立たせました。曲の中での押し引きもあれば、曲ごとの押し引きもあり、一方、フレーズを決め打ちせずに即興性を重視したことで、より“ロック”感も押し出していけたのではないかなと。だから音源とライブとでは結構違ってくると思います(笑)。
彩雨:その“劇的”をどう英訳にするかで、またニュアンスも変わるんですよ。“ドラマティック”と取るなら展開美。例えば急に激しくなったり、静かになったり、変拍子が来たりだとかで、もし“シアトリカル”と取れば、ステージでどう表現するか?を意識したものになる。また、ちょっと意訳ですけど“シネマティック”と解釈するのであれば、情景描写になると思うんですね。今までの摩天楼オペラでも景色が浮かぶような楽曲はたくさんありましたが、今回はおどろおどろしい効果音の入った曲があったり、神々しいコード進行があったりと、シネマティックな部分は強くなっている気がします。
――なるほど。結果、よりバラエティ豊かな楽曲が揃った上に、どの曲もインパクトが強くて個性的です。
苑:ただ、“劇的ロック”を意識したのは楽曲面の話で、作詞面では“どれだけ自分に素直に書けるか?”ということを、ひたすら考えていました。だから自分以外の人物を主人公にした曲は本当に少ないし、結局どれも訴えていることは同じで、とにかく想いのまま自由に生きる、そんな自分の気持ちを素直に歌うということが柱になっています。
――そんな生々しい作品に、『AVALON』という一種ファンタジックなタイトルを持ってきたのは、何故だったんでしょう?
悠:結構早い段階で出てきたワードだったよね。この部屋(事務所の会議室)のホワイトボードに書いていた覚えがある。
苑:そうだっけ?(笑)結局、今回の歌詞内容を集約すると、自由に生きることで自分の居場所を求めていくということで、そこに“AVALON=安らぎの地”を求めて旅するアーサー王の伝説が重なったんです。ただ、そういった楽園だとか天国とかって、死後の世界として描かれていることが多いけれど、死んでしまわないと辿り着けないのは寂しいじゃないですか。要するに今、生きている現実世界でAVALONを見つけていこうという、それが今作の核たるメッセージなんですよ。
燿:その『AVALON』というタイトルや“劇的ロック”というワードが苑から出てきたとき、この壮大な世界観には小林智美さんの絵が合うんじゃないかと思って、今回、初回プレス盤の外箱イラストをお願いしたんです。僕、もともと「ロマンシング サ・ガ」シリーズのファンで、その音楽を担当されている伊藤賢治さんと数年前から交流があったんです。そこでキャラクターデザインを担当されていた小林さんを紹介していただいて、いつか良い形でコラボレーションできたらいいですねと話していたんです。で、今回がその時じゃないかとオファーさせていただいたら快く引き受けてくださり、せっかく小林さんが描いてくださるなら伊藤さんにも参加していただきたいということで、幕明けSEの作曲を伊藤さんにお願いすることになったんです。
――結果、「ロマンシング サ・ガ」を手掛けた方々がサウンド・ビジュアル双方に参加するという、豪華すぎるコラボレーションが実現したと。
燿:はい。しかも伊藤さんと小林さんが一緒に仕事されるのって、「ロマンシング サ・ガ」シリーズ以外では今回が初めてなんですよ。
苑:ジャケットイラストに関しては“楽園/天国”というザックリとしたイメージだけをお伝えしたんですけれど、本当に『AVALON』の世界観にピッタリの仕上がりになりました。
彩雨:1曲目のSE「journey to AVALON」は、2曲目にCシャープマイナーの「天国の扉」が来ることが決まっていたので、そこと繋がりやすいものというオーダーの上で伊藤さんにメインテーマを作っていただいて。最初にデモを聴いた瞬間から、全員一致で“これだね!”っていう感じでした。その他のアレンジは僕が作っているんですが、幕が上がってから僕らがステージに入場して、バンド演奏が入るタイミングまで全部計算してあるんです。そういう意味ではシアトリカルな曲で、サウンド的にはこれから冒険が始まるような一種の“夜明け感”を意識しました。
――まさしくRPGのオープニングのような幕開け感ですよね。そこから続く「天国の扉」はキャッチーなメタルサウンドといい、“何をしたっていいんだ”と訴えかける歌詞といい、まさにアルバムの入口に相応しい。
Anzi:実は「Orb」と同時期に作っていた曲で、レコーディングも一緒に終えてしまっていたんです。その時点でアルバムの構想も何となく見えていたから、じゃあ、アルバムのオープニングを飾る曲として仕上げていこうと、春のツアーでも1曲目に演奏して、アルバムまでの期待感を煽っていったんです。だから「隣に座る太陽」(7月発売の先行シングル)より前、もう2013年の9月ごろには録ってたから、苑が「声が若い」って言ってました(笑)。
苑:1歳若いのは結構な違いですよ!
――つまり時系列的にもアルバムの入口にあった曲で、必然的に自ら行動することで不満を希望へと変えようと歌う3曲目「隣に座る太陽」への繋ぎもバッチリです。
燿:4曲目の「輝きは閃光のように」は小林さんにジャケットを描いていただけると決まってから、じゃあ、ゲームっぽいものを彷彿させるような曲が欲しいと作った曲です。RPGのボス戦で流れているようなループ系のシンプルなメロディをサビで盛り込みつつ、イントロとアウトロは壮大!みたいな。
Anzi:この曲のギターソロは珍しく手こずりましたね。何か速いのを弾かないと合わないようなソロセクションだったんで、普段あまりやらないパターンのライトハンドとかを使っているんです。しかも、何曲かまとめて録った日の最後のほうに弾いてて、疲れたから後日に回した記憶がある。
燿:あのギターソロは聴いてほしいなぁ。あとはキーボードも“シンフォニックに”っていう僕のザックリとしたオーダーに彩雨が見事に応えてくれて、イメージ通りのものが出来たので“さすが!”と思いました。
――その彩雨さん作の「3時間」は、新曲の中では唯一の創作ストーリー曲で、とにかくおどろおどろしい。
彩雨:明暗をハッキリつけて途中で変拍子になったり、半音ずつ下りていく展開で調を感じさせなくしたりと、まさしく“ドラマティック”という意味での“劇的”を具現化した曲ですね。歌詞は「ジョジョ(の奇妙な冒険)」が元になっていると聞いた気がする。
苑:すでに主君が殺されているにもかかわらず、自分たちが死ねば主君は助かると騙されて、この世を恨みながら死んでいく……っていうエピソードが「ジョジョ」にあるんですけど、曲を聴いたとき、その話がフッと浮かんだんです。それくらい憎しみタップリの曲だったんで、そこから“人間が最も憎しみを膨らませるのって、どんなときだろう?”と考えた結果、もう憎しみを相手にぶつけられず、どうすることもできないときだろうと。それで死刑を宣告されて執行されるまでの3時間を切り取った歌詞を書いたんです。
――なるほど。それは完全に呪うことしかできない状況ですもんね。
苑:そういうことです。最初のサビが終わって間奏に入るところでは何年かぶりに語りを入れていて、ヘッドホンで聴いてもらうと後ろや横から聴こえる面白い仕掛けがしてありますから、ぜひヘッドホンで聴いてもらいたいですね。
――そこから一転、晴れやかなインストゥルメンタル「Stained Glass」へと続きますが、こちらは苑さんいわく“一直線なバイキグソング”とのこと。
Anzi:単純に“AVALON”というテーマから、人生の船旅をしているようなイメージで書いた曲ですね。その“人生の旅”を別の言葉で形容しようと考えて、思いついたのがステンドグラスだったんです。色鮮やかで光と闇があって、なおかつガラスという脆い素材で出来ている。そんな一瞬の輝きみたいなところに美学を感じた。あとはステンドグラスって聖書の場面が切り取って描かれていたりするから、それも場面ごとに展開の激しい曲にはピッタリかなと。
悠:その場面展開を上手く、より明確に出来ているのは、やっぱりキーボードのおかげだと思う。メルヘンな感じで、途中に出てくるグロッケンも最高!
Anzi:何より聴いてほしいのがベースライン。メインテーマを弾いているギターの裏で鳴ってるベースが、アルバム一番のクサさなんですよ。メタラー的に言うと、あれは異臭騒ぎですね!
燿:いや、あれはコード進行がクサいからで、俺のせいじゃない!
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