【インタビュー】JAYE公山、サザンソウル『Taste of Emotion』誕生のオモテウラ
"西の横綱"と呼ばれるソウル・シンガー。そして、ゴスペルの伝道師。JAYE公山は、1990年代にベーシストの清水興やファルセット・シンガーのシルキー藤野とのHuman Soulで、ブラザー・トムやルーサー"No.1"市村らとのReal Bloodなどで活動。近年は、自らのクワイア、Jaye's Mass Choirを率いて、ゴスペル・シーンでも活躍しているアーティストだ。日本人には珍しいハード・シャウターであり、レンジの広い喉を活かして、ディープなサザンソウルから、ディスコやスウィート系のコーラスもこなす。ソロ作品も何枚かリリースしているが、久しぶりの全国流通となるアルバム『Taste of Emotion』がVivid Soundより発売された。
◆JAYE公山画像
まず、驚いたのがこのジャケット。多くの人にはきっと分からないし、分かってもそれほど意味を持たないだろう。しかし、一部のマニアにとってはたまらないだろうし、これだけで「間違いない」と思わせる(そのタネ明かしは本編で)。フィジカル盤が売れなくなった時代だからこそ、こういうこだわりや遊び心は捨てたくない。そして、音質へのこだわり。関西在住のJAYEが東京に出てきたタイミングを捕まえて、話を聞いた。(JAYEさんの発言は、大阪弁のイントネーションでお読みください)
──まず、ジャケットの話ですけど、見る人がみれば分かるけど、分からない人には…。
JAYE:まったく分からない。表はジョニー・テイラーなんですよね。
──『Good Love』ですね。
JAYE:そうです。マラコのね。裏はO.V.ライト(のバックビート盤)そのままっていうね。
──この時点で既にマニアックな匂いがするんですが、もともとはどういうコンセプトから始まったんですか?
JAYE:コンセプトはねぇ、いまディープ・ソウルを歌う人いないじゃないですか。だから、ディープ・ソウルのいい曲だっていうのを紹介したいなっていうね。そういう思いで。まぁ、自分の好きなことやるっていうのがコンセプトですね。
──サザンソウルって、これまでの日本では「語るもの」だったわけですけど、歌い手の立場からするとどんな魅力があるんでしょう。
JAYE:サザンソウルってソウルの中でもより演歌っぽいですよね。だからほんとエンターテイナーの音楽やと思ってるんですよね。ダイレクトに伝わりやすいって言うか、引っ張ることなく、ストレートにバーンといける音楽。より日本人にウケやすい演歌のテイストで感じてもらえるのがサザンソウルだと思うんですよね。
──外国人が演歌を歌うのが難しいように、サザンソウルを日本人が英語で歌うのもなかなかハードルが高いと思うんです。向こうの人と同じように歌うのも大変だし、日本人らしさが出過ぎてもどうなのかと。
JAYE:今回もね、ジョニー・テイラーのマラコの時の曲で「I'm Changing」ってのがあるんですけど、詞がすごい共感するっていうか、ああ、わかる~っていうのがあるんですよ。O.V.ライトの「A Nickel & A Nail」なんかはちょっと違うんですけど。あれはスタイルから入ってるんですね。「I'm Changing」なんかは詞の世界がすごくこれぞソウル!みたいな。なんていうか、サザンソウルの男の主人公って、わりとどうしょうもない情けない男が多くて、やっぱブルースに通じるんですよね。日本で言うたら、演歌、エレジーみたいな世界にすごい通じてて、こんな情けない男だけどおまえを愛するよ、がんばってるんだぜオレは、みたいな。バカな男の一本気みたいな、そういう男に共感するっていうかね。ああ、それ、おれもわかるわぁ~っていう、その共感って部分がすごくあります。
──JAYEさんの中にもそういう部分があるってことですか?
JAYE:やっぱあるんでしょうねぇ。「I'm Changing」なんか特にすっごい情けない男で、悪いことして怒られて、女の人が逃げるとまた追いかけて、でもまだお前を愛してるぜみたいな。こんな情けない男嫌やわって。そういう世界観が男には誰でもあると思うんです。だから、詞の世界というか、エレジーが分からないとサザンソウルはなかなか歌えないと思うんですよ。カッコだけじゃムリですもん。
──そういうのってある世代には通じると思うんですけど、若い子にはどうでしょう?
JAYE:若い子は分かる必要ないと思います。なんかこれカッコいいなくらいでね。それ以上分かるとおかしい、ムリ(笑)。そんな若い人がこんな世界分かってもらったら困るくらいの(笑)やっぱり経験値が大事な音楽なんですよ。「Wildflower」なんかもそうですけど、いろいろな恋を経験した女性が、もうやぶれかぶれで成長していくみたいなストーリーでしょ。恋に破れても、かわいい花からワイルドな花に育っていくっていう。これはもう女性のエレジーですよ。歌い出しの1行目から「She's faced the hardest times you could imagine」でしょ。「彼女がいかにつらい人生を歩んできたかお前わかるか」みたいな。そういう歌い出し、そこのとこでグッとくるんですよ。でも、まぁ、若い人にも聴いて欲しいな。
──日本語のオリジナルではそういう歌詞ってわけにもいかないと思うんですけど。
JAYE:日本語はねぇ、よりもっと分かりやすくウケたいみたいな(笑)。ラブソングでもそんなひねくれたのじゃなくって、もっとストレートな。「Love Love Love」って曲なんか、もう「愛してる、愛してる、愛してる」みたいなそんな曲なんですよね。だから、そういう日本語のラブソングは、もう老若男女誰が聴いてもストレートに分かる、ああ、いいね、これ、なんていうポップな詞を書きました。
──曲もいろんなタイプがありますよね。それも、ソウル云々よりも聞きやすさを重視しているんですか?
JAYE:音楽ってコンセプトが決まってたら、例えば食べもんなんかと一緒で、今日はお寿司食べに行くぞ~!ってすごい旨い寿司屋を狙って行くときもあれば、何でも食べたいって思うときもあるじゃないですか。これね、何でも食べたいCDなんですよ。だから、お寿司も食べたいけれども、焼き肉も出てくるし、洋食も出てくるし、和食も出てくるしみたいな、そういうのにしたかったってのはありますね。あんまりカテゴライズしないで。
──でも、ジャケットは思いっきりカテゴライズされてますよね。
JAYE:ず~っと聴いてもらうと、なんか1本筋通ってるなみたいなのがわかると思うんですね。根本的には、サザンソウルのサウンドってのはあると思います。
──オリジナル曲とカバーを半分ずつくらいにしようと思ったのは?
JAYE:カバーってなんぼやってもカバーなので。オリジナルをやらないと。日本人がひっかかるソウルと、日本人の中でもマニアしかひっかからないソウルとあるんですけど、そのどっちにもひっかかってほしいんですよ。そのためにオリジナルがないと。日本語ってのはやっぱ大きいですよね。ディープソウルなんかは日本語で歌いようがないので、それはそれで好きなエリアとしてやってるんですけど。まぁ、日本語で訴えかけたいっていうのは、基本的にはいちばんありましたね。
──「I Love You Darling」はポップな曲ですけど、こういう曲は自分で歌うことを想定して書くんですか? 例えば、REAL BLOODの時の「シルクの雨」はシルキー(藤野)さんが歌うことを想定して書いていると思うんですけど、自分ではこういう曲は歌う機会がないとも言ってましたよね。
JAYE:そうです。もともと自分がファルセッターになりたかったんですよ。自分はどっちかっていうと、分類しなくてもシャウターって言われるんですけど(笑)、ほんとはすごくファルセットに憧れてたんですよ。だからどっちもやりたいってのはあったんだけど。スウィート系のコーラスグループって、いちばん盛り上がるところはファルセッターとシャウターの掛け合い。でも、スウィートなところの最後のところはファルセッターが華を持つ。それが自分がコーラスグループをやるときの美学やったんで、だからファルセッターが歌うための曲はすごく書きたいと思ってました。自分が歌うために。でも、歌えないから誰かが歌う。そういうことです。
──ほかの曲でも、こんな人に歌ってほしいなーと思って書いたりするんですか?
JAYE:しますねぇ。アルバムの最後に入ってる「ポートレート」って曲は、もともと女性のために書いた曲です。遠距離恋愛の曲なんですよ。主人公の女性は、遠距離恋愛してちょっと苦しんでる。ちょっとつらい思い出があるんだなぁ。そういうコンセプトで詞も曲も書いたんですけど、あまりに曲が良くて好きなので、自分で歌っちゃったっていう(笑)。自分の経験にはそういうのがぜんぜんないんで、フィクションになっちゃうんだけど。
──さっきのコーラスグループの話にも繋がりますが、いま、SDJ(※JAYE公山率いる男性4人のコーラス・グループ。メンバーはJAYEのほか、Suga-PimpsのJun-BayとFunky-T、ファルセット・シンガーのDaisuke。)ってコーラスグループを組まれましたよね。SDJのライブのMCで、ヒットを飛ばしたいと言ってましたけど、レコーディングの予定はあるんですか?
JAYE:2015年ぐらいからやろうかってのはメンバーの中からもなんとなく持ち上がってきたり、周りからもちょっと言われてて。割とああいうクラシカルなスタイルのコーラスグループが昨今ないんで、CD出すんなら聴きたいなって、ちょっと期待してくれてるんだと思います。
──SDJ用の曲も増えてきてますか?
JAYE:増えてきてますね。オリジナルは(バリトン担当の)準ちゃんも書いてるし、オレも何曲か書いてるし、あとはカバーの曲はコレって決めたのもあるし。基本的にはフィラデルフィアよりもニュージャージー寄りのちょっとスウィートな柔らかい甘茶系な曲をやりたいと思ってます。
──ジョージ・カーみたいな?
JAYE:ジョージ・カー、あそこまでいくとね~。でもWhatnoutsとかやりたいですよね。でも、そんなんもやりつつ、ダフトパンクとかね、ジャミロクワイみたいなアプローチの曲とか、そういう1990年代とか2000年入ってからのアプローチ、最近で言ったらブルーノ・マーズとか。ブルーノ・マーズの曲調って、いうても彼もクラシックじゃないですか。ああいう曲調でコーラス・グループが歌ったらどうなるのかとかね。そういうアプローチもやりたいし。
──旧いスタイルにこだわってるわけじゃないんですね。
JAYE:新しいスタイルもやりたいし、クラシカルなこともやるみたいな。ファルセッターでもシャウターでもクラシカルなスウィート系の曲を歌えないと、新しめのアプローチをしても聴いてても感情移入できないんですよ。だから、昔のよう知っててめちゃくちゃ好きなんだけど、今のアプローチしてるっていう。そういうのがいちばん理想かなと。
──ちゃんとルーツが見えるってことですね。
JAYE:ルーツが見える。言うたら、達郎さんのアプローチはすごい好きですよね。何聴いてもフィラデルフィア・サウンドを感じるけど、日本向け、新しいみたいな。ただ彼の場合は自分一人で全部コーラスやっちゃうんで、コーラスグループとしては成立してないから、それはコーラスグループとして分担してやりたいなっていうのはあります。
──例えば、テンプテーションズなんかだと、時代によって音がどんどん変わっていくわけですけど、そういうイメージですか?
JAYE:そういうスタイルでいきたいですね。でも、旧いのもやる。ベーシックな甘茶系のコーラスグループとかドゥーワップもやるけど、この曲は行くで!勝負かける!って時は日本語のポップな曲ですね。新しいアプローチでもどこかにノスタルジーがある。そこをいちばん狙っているんです。
──SDJもソロも、ポップなアプローチっていう部分では、感覚的に近いものなんですか?
JAYE:近いですね。ほんとはポップなのが好きなんですよ。もともと何聴いて育ったかっていうたらカーペンターズとか、エルトン・ジョンとか、やっぱビートルズ。小学校、中学校のとき、そういうのを聴いて育ってるんで。やっぱりメロディがきれいな楽曲が好きなんですね。メロディがはっきりしてて覚えやすくて口ずさめる。それが自分の楽曲作るときの基本法則。みんなはそうは思ってないと思うんですけど(笑)
──アルバムのバックはオールド・フリーバードが担当してますけど、彼らを起用した理由は?
JAYE:やっぱりそこらへんですよね、新しさ。20代後半、30代になったばっかりのあの年代の人が、ほんとにコテコテの、すごいこのディープなやつ聴いてるしやるなって思ってたんだけど、やっぱりね、ソロなんか聴くとね、ちょっと違うんですよ、我々世代がやってたディープなソウルと。新しいアプローチっていうか、これはおれが考えてることにいちばん近いなって思ったの。しかも、クラシカルなのもできる。だから、今回のアルバムでは、ギターなんかもそうですし、キーボードもそうですけど、新しいんですよ、アプローチが。決して昔の、1960年代1970年代のコテコテのリズム&ブルースのギタリストがブルーノート一発で弾いてる、そういうアプローチじゃない。
──やってみて相性はどうですか? 自分と同世代の人と、彼らのような若い人だと違いますか?
JAYE:違いますね。良くも悪くもやっぱりライトです。聴いてもらうとディープに聞こえるけど、やっぱりライトなイメージを全体的に感じると思うんですよ。それが彼らの持っているリズム感とかアプローチ。例えば、ベースがシミちゃん(清水興)でドラムがジミー(橋爪)とかね、だったらもっとハードになったと思うんですけどね。
──コッテコテじゃないですか(笑)
JAYE:ギトギトみたいなね(笑) それはあんまりないと思いますね。やっぱりどっかライト。なんか受け入れやすい。それはやっぱり最初からすごく考えてます。
──このCDはサウンドのパワーがすごいですね。ドスンとくる感じで。
JAYE:これ、ライブ・レコーディングが基本なんですよ。スタジオで録ったやつもありますけど、ベーシックはライブ・レコーディング。歌はほんとに1箇所か2箇所入れ替えたくらいで、全部そのままなんですよ。だからすごい臨場感がある。あと、音ですね。聞いててもさらっと流れない、どっかこう引っかかる。バーとか飲み屋とかで聞いてたら、しっかりベースとドラムと歌が聞こえるイコライジング、ミックスダウンをわざとしたんです。たぶん、家のミニコンポで聞いてもらったら音が歪んでると思いますよ。ちょっと割れてるっぽい聞こえ方するんですけど。バーとか飲み屋とかそういうところで聞くと、えっ、これなんでこんなにハッキリ聞こえんの?っていう聞こえ方すんの。それはなんでかっていうと、最終段階で(赤坂の有名なソウル・バー)「ミラクル」にミックスダウンの最終形を持っていって、聴いてみて決めたんですよ。
──完全にソウル・バー仕様じゃないですか。
JAYE:ははははは。ソウル・バー仕様(笑)。でも、ソウル・バーだけが基準じゃなくって。日本のCDって聴いててペターッとしてるんですよ、音が。立体的じゃないんですよ。これ聞いたらすごい立体的なのわかると思いますよ。なんかガヤガヤしてるところとか飲み屋さんでかけてても、エッて振り向く音を目指して作りました。だから、ミックスダウンの段階からレコーディングまで含めて、スタジオに350時間ぐらい入りました。すごいミックスダウンに時間かけて作ってます。そういうところも聴いてほしいですね。
おまけ。JAYE公山のもうひとつの顔といえば、オリジナルの焼き肉のたれである。ライヴ会場の物販にこれだけを買いに来る人、箱買いする人、作り方を教えてくれませんかと聞いてくる食品会社の社員。すでに様々な伝説を生み出しつつある「キングだれ」(※ノーマルと辛口あり。通販でも買えます。http://shop.jayes-net.com/)の話。
JAYE:あ、タレね。タレは2つ理由があるんですよね。自分のビジネスじゃないの。ウチの母親。もう仕事なくなっちゃって。このタレの元ネタは家内のお母さんが持ってて、すごくおいしいから一般向けに作って、おれが改良して売ってくるからこれで仕事し、言うて。売れたお金はぜんぶお母さんに渡してる。だから親孝行のひとつなんです。あともうひとつは、メンフィスでアイザック・ヘイズが料理番組持ってたでしょ。自分の顔のイラストが入ったアイザック・バーベキューソースってのがすごく売れてるんですよ。今でもメンフィスの大きいスーパーマーケット行って、扉がウイ~ンって開いたら、アイザック・へイズの顔のバーベキューソースがど~ん!と積んであるで。あの人、料理番組で、速水もこみちみたいやけど、エプロンして大根トントントントントンって切る。すごいんですよ。いや、マジで。マジです。メンフィスでしかやってなかったんですけどね。メンフィスでバーケイズとのレコーディングの時に、それ見たから。
──めちゃくちゃインパクトがありますね。
JAYE:ありすぎますね。いったい何やってるんやと。あのいでたちで、ワッツタックスの映像しか見たことない人がこれ見たら倒れるぞと。レストランも持ってるんですよ、あの人。すごくおいしくて、いつ行っても1時間2時間待ち。で、そのバーベキューソースがテーブルごとに置いてあって、それをかけて食べるんですけど、あ、この人、このバーベキューのソースを作るのがすごく好きなんやってのが分かって、それとかけてますやんな。
──ジェイさんも焼肉のタレが売れてもCDが売れないみたいな話もあったじゃないですか(笑)
JAYE:そうそうそう。ソウルって言うたらコテコテの音楽ですから、焼肉のたれと結びつけても違和感ないなぁみたいな(笑)ソウルといえば焼肉ちゃうの?みたいな(笑)
取材・文:池上尚志
JAYE公山 ニューアルバム発売記念ライブ<The Finale at Shibuya OK.>
8月31日(日)
@SARAVAH 東京
Vo.:JAYE公山
G:星川薫
Sax, Fl:春名正治
B:六川正彦
Ds:成田昭彦
Key:半田彬倫
コーラス:桑村カズタカ、佐藤翔、北原さちこ
ゲスト:SDJ(Daisuke, Jun, Atsushi)
18:00 open 19:00 start
Adv. 4,500円(1drink付) Door. 5,000円(1drink付)
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