【インタビュー】People In The Box「僕らが守ろうとしているのは音楽に対する誠実な気持ちだけ」

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People In The Boxが8月6日にシングル「聖者たち」とアルバム『Wall, Window』を同時リリースした。全21曲、1トラックでメッセージを届けた前作『Weather Report』から1年足らずで発表となった新作アルバムと、TVアニメ『東京喰種トーキョーグール』のエンディングテーマとなっているシングル、両作についてBARKSでは彼らに話を聞いた。制作にあたり3人はどのような意欲で臨んだのか、また、そこからバンドの現状がわかるインタビューとなった。

◆インプットの時間がたくさんあったので、アルバムにすごく反映されてると思います
今の自分たちが出てる作品になったのですごく満足してます


──今回はニューアルバム『Wall, Window』と初のタイアップシングルとなる「聖者たち」が同時リリースですが、作品の性格としてこの両者は別物と考えていいのでしょうか。

波多野裕文(Vo&G/以下 波多野):別物ですね。作った時期も違うし。アルバムは年明けくらいからレコーディング……?

福井健太(B/ 以下 福井):そう。で、ライブがあったりしつつ、3月終わりに完成した感じですね。で、「聖者たち」のほうは4月から5月にかけてのワンマンツアー中にアニメのエンディングテーマというオファーを受けて、そこから急遽作りました。

──『Wall, Window』は前作『Weather Report』から1年足らずと、アルバムとしてはかなり短いスパンでのリリースとなりますね。

波多野:単純にスケジュールが巻いたんです(笑)。ツアーが入っていたし、その前になるべく早くレコーディングを終わらせようっていうのはありましたけど、だからって別に急いだわけでもなくて。

──ツアーで新しい曲もやりたいし、とかは?

波多野:それは全然(笑)。ライブを前提にすることがピープルではあんまりないんですよね。作品は作品、ライブはライブっていう。

──今作を作るにあたって何かテーマやコンセプトは立てられていましたか。前回の『Weather Report』は全21曲を1トラックで聴かせるというある意味、異色作だったわけですが。

波多野:『Weather Report』のときはバンドのあり方とかそういうものを自分たちで見つめ直したい気持ちもあってちょっと振り切った方向に行ったんですね。で、今回はそれとは別のことをやろうっていう反動みたいなものが出発点にあって。でも作り始めてみると反動というよりはもっと原点に戻るというか……。実は制作の前に3ヵ月、休みをもらいまして、そこで得たリセット感で制作に入ったという感じだったんですよ。

福井:1トラックで全21曲というめちゃくちゃな作品を出して、3ヵ月というめちゃくちゃな休みをもらって(笑)。3人それぞれにインプットの時間がたくさんあったので、それはアルバムにすごく反映されてると思いますね。今の自分たちが出てる作品になったのですごく満足してます。

◆あるときにふと“僕はPeople In The Boxに人生を傾けているのに、
なぜそんなことで出し惜しみしてるんだ?”って思ったんです


──制作の取っ掛かりはどんな感じだったんでしょう。

福井:これまでは3人でスタジオに入って、リズムを考えたりとかコード進行どうしようとか、そういう感じで作ってきてたんですけど、今回は初めてデモ音源という形で波多野ちゃんが作ってきた曲を3人で具現化していったんですよ。そういう作り方って世の中的にはスタンダードかもしれないけど、僕らにとっては新鮮で。すでに風景が見える曲たちをみんなでアレンジしていくのがすごく楽しかったですね。

山口大吾(Dr/ 以下 山口):時間も今までより全然かからなかったしね。ただ、今まではみんなで1から作りながら、その中で“こんなリズム、どう?”とか自分のアイデアも出してはディスカッションしてやってきたわけですよ。でも今回は最初にあるのが自分のビートじゃないから、感覚的にはコピーするのに近い気がして。もちろん、そこから自分なりにしっくりくるようにいろいろトライしながらやってはいたんですけど、そういう意味では1からというより5から作っていった感覚で、それがちょっとストレスではありましたね。今でもまだ完全には自分のものになってない気がしてて。いや、できあがった作品自体にはすごく自信も愛情もあるんですけどね。

──そういう作り方をしてみてよかったです?

山口:いい勉強になりましたよ。今まではメンバーに対しても、たぶん自分が得意だったり好きなパターンを発信してたと思うんですけど、今回はそうじゃないところから入っていって、それだけでも成長してると思うし、今後の作り方を考える上でも得たものは大きいだろうなって。

──そもそもデモから作りはじめようと思われたのには波多野さんの中で何か理由があったんでしょうか。

波多野:理由というか……3ヵ月のお休みをもらって、じゃあ何をするかっていえば曲を作るわけですよ(笑)。休みといってもスケジュール上の話であって、音楽をやってる人間にとっては全部が音楽に繋がっていますしね。そうやって締切とか曲作り期間とかに縛られず、純粋に生まれた曲っていうのは自分にとってすごく大事な曲になるんです。ただ、これまではそういう曲をバンドに持っていくのは悪いなって気がしてたんですよね。自分のエゴをメンバーに押し付けてしまうことになるんじゃないかって。でも、あるときにふと“僕はPeople In The Boxに人生を傾けているのに、なぜそんなことで出し惜しみしてるんだ?”って思ったんです。自分の中からこんなに純粋に曲が出てきたっていうのに、なんで俺は本気を出してないんだ? って。

──それで、メンバーに思い切って呈示してみたんですね。デモを送るときって怖くありませんでしたか。

波多野:やっぱり怖さはありましたね。今まで避けてきたことでもあるし、その曲たちは全部、自分そのものでもあるわけですから。

◆“今、自分たちがいるこのフィールドはちょっともう飽きた”って言ったんですよ
もっと上のキャパシティ、スピッツだったり、それぐらい大きいところにいきたい、って


──みなさんは波多野さんのデモを聴いて何を思ったんでしょう。

山口:単純に“ああ、いいな”って。これ、波多野ちゃんは覚えてないみたいですけど、『Weather Report』を作ったあとかな、六本木でラジオ収録があって、その帰りにふたりで話してたときに俺、“今、自分たちがいるこのフィールドはちょっともう飽きた”って言ったんですよ。もっと上のキャパシティ……具体的にはスピッツだったり、それぐらい大きいところにいきたい、って。そしたら波多野ちゃんが“次の作品、ちょっと俺、作ってもいい?”って言ったんですよね。その後、断食道場とか行ってましたし。

──いきなり断食!?

波多野:あれはやるもんじゃないです(笑)。塩とか野菜とか、ちょっとずつ摂るものじゃないと危ないですよ。

──全部まるっきり断ってたんですか。

波多野:まるっきりです。水のみです。

福井:何日ぐらい行ってた?

波多野:3日目の夕方にはもうダメになってたね。あと半日あったけど。

山口:水だけで3日保つのもすごいけどね。あと半日頑張ろうっていう気持ちにはなれなかったんだ。

波多野:うん。しかもそれ、飢餓感じゃないんだよ。関節が痛くなる。歩くのが困難になってきて、それで俺、“あ、こんなことやってる場合じゃない”って(一同爆笑)。下山して一食、ちゃんと食べたらすぐに痛みが引いたからね。食べ物ってすごいんですよ。

──断食に行かれたのは意気込みの表われだったんでしょうか。

波多野:いや、単に趣味みたいなもので。

山口:趣味っておかしいだろ、それ(一同爆笑)。

波多野:食べ物ってそれ自体が不純物というか、食べることによってどこからが自分になって、どこまでが違うのか、考えたりしてたんですよ。で、一回、食欲がなくなったときがあって、あんまり食べずにいたら体調がすごくよくなって。これは完全に食事を抜いてみたらヤバいことになるかもと思ったら……。

──逆の意味でヤバいことに(笑)。その断食体験はこのアルバムに何か反映されていたりします?

波多野:ほとんどないです(笑)。何もない。

福井:「影」っていう曲にはあるかもよ。

──“ピエロは肉を食べる”(歌詞より)ですもんね。

波多野:ははははは、無意識に(笑)。

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