【連載】中島卓偉の勝手に城マニア 第21回「八王子城(東京都) 卓偉が行ったことある回数 2回」

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はっきり言って上級者編である。上級者変でもいい。

◆中島卓偉画像

関東には江戸城しか有名な城はないと思っているかもしれない、いや、そもそも城になんて興味ないのかもしれない。あるんです。でもあるんです、東京にも素晴らしい城があるんです。東京にもあったんだあああって、チイ兄ちゃんも言ってるくらいですから。東京都八王子にある幻の名城、八王子城です。この城を見学するには上級者でなくてはイマジンがきついかとは思うが、もうかれこれこのコラムも20回を超えてきたということで、そろそろもっと濃いやつ出しておきたいわけである。

初めて訪れたのは小学三年生の時。小学三年性でもいい。何を隠そう、私は福岡出身、福岡育ちだが、おや?あなたは東京都出身ヒップホップ育ちだと?まあいいとして。私の亡き親父は東京都拝島出身で、中島家の親戚は拝島と八王子に集結しており、たまにお婆ちゃんをはじめ親戚に会いに福岡から東京に来ていたのであるが、来る度に城マニアである兄貴が

「卓偉、知っとうや?八王子城ってのがあるとぞ、行きたか~、いつも時間ないけん観に行かれんっちゃんねえ…」

といつもくり返していた矢先に親父が再婚というビッグニュースが!しかも不倫の末、離婚したその不倫相手とけじめを付けるべく不倫相手との再婚ときた!14歳も年下だ!今思えば親父めちゃロリコンやんか!しかも挨拶の為に八王子にある親父の姉さんの家に挨拶しに行くことが決まったのだ。

兄貴は鼻息が荒くなった。ここここここれは八王子城に行ける…かもしれない!

兄貴は毎日八王子城の下調べをし、俺にそれを伝え、とにかく鼻息が荒かった。このまま興奮してぶっ倒れるんじゃないか?という勢いだった。

そして、当日伯母さんの家に着き、玄関を上がり、そわそわした兄貴がボソっと口にした。

「今日帰るの何時?」
親父「おまえ姉さんの家に来ていきなり帰る時間聞くなんて失礼なこと言うんじゃねえ」
伯母さん「ゆっくりしていきなさいよ、まあ大人は大人で話もあるからどこか近所に遊び行ってもいいわよ」
私「大人の話ってなんですか?」
親父「うるさい!」
私「挨拶ってのが大人の話?」
親父「うるさい!卓偉は黙っとけ!」
兄貴「あのう…近くに八王子城って城があると思うんですけど…」
伯母さん「ああすぐこの裏の山よ」
兄貴「見に行ってもよかですか?」
親父「2時間で帰って来いよ?わかったか?って卓偉!おまえもう靴履いてんじゃねえ」
継母「お姉さん本当にすみません…」

すかさず走って飛び出して行ったわけである。考える前に行動する、これが私のモットーなのであるからして。

八王子城の築城は1587年とされているが定かではない。廃城になったのは1590年ということは一致している。何故幻かと言うと未完成のまま豊臣軍に攻められ廃城になってしまった不運な城なのである。城主は北条家であるが、この城は北条家の小田原城の支城であった。いずれ小田原城も豊臣軍に落とされてしまうが関東は北条家が支配しており、この八王子城がもっと早くしっかり完成していればまた戦国時代の歴史も大きく変わっていたかもしれない。

八王子城は標高400メートル近い高さの山に築かれている。言わば山城の部類だ。戦国時代の真っ只中は城がだんだんと山城から平山城、そして平城へと移り変わって行くのに対して、時代に逆行したアプローチだったと言える。パパローチというバンドは全然好きではない。

「殿!時代は山城ではなく、暮らしやすい平山城や平城の方がいいのではないかと…?」

北条氏照「は?関係なくね?周りとか時代とかどうでもよくね?山城が好きなんだから山城でいいんじゃんよ、自分がいいと思うことやんなきゃ意味ないでしょ!自分が最高だと思うことをさ!誰になんて言われてもさ、そいつが何か我々にしてくれるわけ?してくれないよね?するわけないじゃん!でしょ?他人ってのさ、言うばっかで何もしてくれないのよ、いっちょまえなこと言うくせに自分じゃ何も出来ない奴が多過ぎんのよ!だからさ山城なわけ。や・ま・じ・ろ!わかる?」

そう言ったかどうか定かではないが、そういう転換期の時代に逆行したスタイル、これはなんともPUNKだと評価したい。デジタルになってもアナログな音を目指す、アナログを愛す、アナログな手法でレコーディングする中島卓偉という史上最高のロックシンガーのようである。

八王子城は山と山の谷を上手く利用し谷底を流れる川を堀とし、谷の麓を本殿とし、山頂を本丸とし、山の途中にはたくさんの曲輪を置き、堀切ももうけ、天守台も存在した。城の魅力としては山の部分と麓の部分の両方の顔があるということだ。だがやはりまだ未完成だった、これが切ないと思うのだ。

どう見ても大手門からの防備しかしっかり作られてないし、敵は谷だけに攻めて来るわけじゃない。結局豊臣軍が攻め入った時は城内に兵士3000人しかおらず、しかも半分が女や子供だったとのこと。家来のほとんどが小田原城に行っていた為に留守の間に攻められてしまったのである。捕われる前に女子達は御主殿の滝に身を投げ、三日三晩谷底に流れる川が血で真っ赤に染まったという。スリラーのPVのようだ。え?どの辺が?

現在は平成の発掘調査により当時の石垣の復元や門の復元も行われ、見学すれば八王子城を感じれるようになったとは思うが、初めて兄貴と行った1980年代の八王子城は整備が行き届いてなくもっともっと廃墟だった。だがそれがたまらなく良かったのだ。私の想像力をかき立てた。脳内をビシビシ刺激してくれた。石垣の朽ち果てた感じといい、山道の倒れた木の感じといい、戦国時代の狂気を感じた、まさにピンクフロイドだ。心霊スポットとしてもよく取り上げられるがそんなことはどうでもいい、まったくそんなものは感じない。むしろスリラーのPVのようだ。ただもしこの城が完成していたら、そう考えると鳥肌が立つ。

きっと戦国時代東日本最強の山城という評価を得ただろうと思う。未完成だったということで、もし作られていたらと考えるとまず、今八王子城管理棟ガイドボランティアがある場所あたりに絶対に外堀が作られたと思う。しかも谷を流れる川の水を引いて作られたはずだ。これがあれば豊臣軍には簡単に攻められなかったと思うのだ。そして天守台から富士見台方面の堀切の先に搦手口が出来ていれば女子達も逃げることが出来たと思う。城の外から城を築いていれば攻め落とされることもなかったのかもしれない。残念無念である。

そんな八王子城管理棟ガイドボランティアさんに訪れれば城のトレッキング以外のガイドを一緒に歩いて行ってくれる。これは俺もバイトでいいからやらせてもらいたいくらいだ。一団体につき75万円で。ちょっと安く言い過ぎたか。だって卓偉がポールのパートを歌うアカペラビートルズ付きだぜ?ハーモニーで聴きたければオプションで「ジョンのパートを歌う和田唱」ってのもあるし。まあこれはオプションだけに一回につき105万円です。さすが和田さん、グッと下げてくれましたよ。

もし3声で聴きたいっていうあなたは「ジョージのパートを歌う広沢タダシ」っていうオプションもあるんですよねえ。これはね、本当に叩いて叩いてやっと引き受けてもらいましたよ、一回につき280万円。安い!安過ぎる!

ここのボランティアの方々にガイドしてもらうことをお勧めする。非常に濃いイマジンが出来ること請け合いだ。二度目に来城したときはこのガイドをお願いしたが本当にわかりやすかった。大手道の幅は当時は日本一だったなど(今は道幅を狭められてしまっておる)いろんな豆知識を伝授していただけた。

兄貴と来た時は2時間で廻るということでとにかく急いで山を登り、本丸跡でその10年後上京するとは思ってもみなかった東京の街を眺め(絶景である)急いで下山し本殿跡などを廻った。朽ち果てた感じが廃墟になった国道沿いのドライブインのようでたまらなかったのを覚えている。今は綺麗に整備されているのでもっとわかりやすいと思う。だが、あの頃の八王子城を見れたこと、これも城マニアの誇りである。

2時間をちょっと過ぎてしまい伯母さん宅の玄関のドアをそ~っと開けると、居間で伯母さんと親父と継母がまだ話し込んでいる声が聞こえた。

伯母さん「別に再婚するのはさ、顕治の(親父の名前)自由だしあたしは構わないのよ、でもさ、今日だってお母さん来ないわけじゃない?」
私「兄ちゃん、これがいわゆる大人の話ってやつ?」
兄貴「シ~~~~ッ!ちょっと聞いててみっか」
伯母さん「だってあなた達また子供作る気なわけ?だって大変よ~上にあんな二人いたら~」
私「兄ちゃん!子供作るって何?プラモデルみたいに子供って作れるの?」
兄貴「あんな二人って…もうええわ…おまえ黙っとけよ?ただいま~~~~~~!!!!」

居間を見ると継母はハンカチで涙を拭い、親父も下を向きシュンとしていた。

これは北条家が豊臣軍に攻められたように親父もお姉さんに完全に攻められていたわけである。

小学三年生の私はこれがおかしくてたまらなかった。いつも強気でおっかない親父がお姉さんにやり込められている。ぷぷぷ~。

空気を読んだ従姉の当時高校生でハードロック好きのベーシストのお姉ちゃんが

「大哉(兄貴の名前、だいやと読む)卓偉、二階上がってオレンジジュース飲もう!」と言って我々兄弟を連れて行ってくれた。

伯母ちゃんがお姉ちゃんに「あんたヘビメタ聴かせたら駄目よ!」
「うるせえなあ、人の勝手だろそんなの!」

従姉のお姉ちゃんも反抗期真っ盛りだ。

二階に上がりお姉ちゃんの部屋に座り、すかさず兄貴に

「北条家が豊臣軍に攻められたように親父は伯母さんに攻められたっちゅうことやね!」

と言うと兄貴はオレンジジュースを噴き出してしまい絨毯を汚してしまう。

「おまえ何上手いこと言いようとか!黙っとけち言うたやろうが!それ父ちゃんに言うたら殺されるばい!」

で、お姉ちゃんが聴いていた音楽に兄貴が

「これのどこにヘビがいるんですか?」

と、聞いてしまったところお姉ちゃんがオレンジジュースを噴き出すというハプニングが起きる。

八王子城、また訪れたい…。


◆【連載】中島卓偉の勝手に城マニア・チャンネル
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