【インタビュー】志倉千代丸、「昼はマイコン、夜はバンドマン」からアニメ・ゲーム音楽の世界へ。そして最新コンピへの“こだわり”
――今回リリースになる『THE WORKS ~志倉千代丸楽曲集~8.0』同様に、これまでも楽曲集を発表していらっしゃいますけど、今お話し頂いたように時代とともにサウンドの変化があると思います。今作をリリースするにあたって志倉さんが感じている変化はどんなことでしょうか?
志倉 : そうだなぁ。CD-ROMが出てきてオーディオでゲームに収録できるようになった時に、そのタイミングで既にPro Toolsがあったんですね。本当に初期の、もう拡張するのに、「エクスパンション・シャーシ」っていう、でっかいボックスにボードをいっぱい差さないとプラグインなんか全く動かない時代のPro Toolsなんですけど。その時代から、トラックを全部波形で扱っていく時代に突入するんですよ。さらにどんどんPCのスペックが上がっていくことで、その2、3年後にはPC一台でPro Toolsが動く時代になっていくんですけど。それと同時にツールも、シーケンサーひとつとってもどんどん安価になり、要するに一般の人でも手が届く価格帯になっていったんですね。で、その後にニコニコ動画のような発表する場もできて、かなり音楽が一般の人でも敷居が下がって、色んな人が触れるようになってきたという、そういう時代の変化を見てきた感じはありますね、この20年の間で。例えば音作りで言うと、ツールの傾向と共にアレンジの傾向も変わっていったりするんですよ。だからツールが便利になっていくと、例えば「アルペジエーター」みたいなものが普及し始めて、ソフトウェアで色んなアルペジエーターがツールとしてプラグインの中に出てくると、世の中の音もそれを多用した音が増えるんですよ。そういうことはありますね。
――それはギターでAmのアルペジオを弾きたいと思った時に、数限りなくパターンがあるということですよね。
志倉 : そうですね。だから便利過ぎてますよね、今は。だってメロディを生成するみたいなことまでできちゃいますから。誰が作ってるんだっていう(笑)
――ただ、志倉さんもそういうツールができていく過程で、力を与えていった1人なんじゃないかと思うんですが。
志倉 : どうでしょうね。僕は、良くも悪くも「お前らがどんなものを聴きたいかじゃなくて、俺が何を作りたいかなんだ!」っていう強い意志があるクリエイターじゃないんです。「みんなが聴きたいものを作りたいんです」っていう、作家としてはだいぶ迎合パターンなんですよね(笑)。例えば僕が作ってるゲーム作品も、「今の市場に受け入れられるのはこういうものかな」っている分析から入ってるんで、そこまでのこだわりもないんですよ。
▲『THE WORKS ~志倉千代丸楽曲集~8.0』
志倉 : そういうミュージシャンの方も多いじゃないですか。でも全くそれが無いんですよね。そういう意味ではゲームとか音楽のトレンドが流れていく方向に僕も流れていくし、その中で何か新しいことをやろうという気持ち、どういった自分のカラーを出そうかという研究は自分なりにはしているんですけどね。この楽曲集って、前の会社の物も含めると実は11枚目になるんです。ただ毎回そうなんですけど、全部なんらかの作品ごとに作られた楽曲なので、楽曲集自体に「8.0はこういうカラーです」というものは無いんです。
――単純に年代ごとの作品でまとめられている楽曲集ということですか?
志倉 : そうです。だから楽曲集の『1.0』なんて聴きたくないですね、恥ずかしくて(笑)。もう昔過ぎて僕の中で恥ずかしいんですよ。だからこの『8.0』も3年後には恥ずかしいと思います(笑)。
――でもそれはクリエイターとしては良いことじゃないですか? 最新の作品が一番良いということですから。
志倉 : そういう自我はあるのかもしれないですね。でもファンの方の中には、初期の作品のここが好きっていう風に言ってくれる方もいらっしゃるので嬉しいんですけど、そういうのを聴く度に今の自分の判断だけが正しいんじゃないよな、ってますます思うんですよ。「この曲大丈夫かな?」って思う曲が評価されたり、全く自分の評価とユーザーの評価が別物なので、やっぱり自分が正しい答えを持っているわけじゃないんですよね。
――毎回リリースする度に、思いもよらないファンの方の反応があったりするわけですか?
志倉 : あります、あります。だから今回の『THE WORKS ~志倉千代丸楽曲集~8.0』も、「何曲目の何々が一番良いです」とかいうのも、当然僕とはずれてる意見もたくさん出てくると思います。やっぱり答えは自分が持ってるわけじゃないし、ずっと探究ですよね。
――でも逆に毎回どんな反響があるか楽しみですよね。
志倉 : そうですね。その反響を聴きたくてリリースしてると言ってもいいですね。
――アルバムを聴かせて頂いて、ロック・サウンドと可愛らしいアイドル・チックな曲調で2分されている印象を全体的に感じたんですが、そういうバランスは考えて収録曲をチョイスしているんでしょうか?
志倉 : 色んな作品の色んなアーティストが入っているアルバムなので、アーティストの偏りが無いようにはしていますが、全体を見てみるとそれぞれがなんらかの作品のタイアップになっています。でも、その作品自体の原作を僕自身が書いてるものが、16曲中14曲あるんで、そういう意味でのこだわりは半端ないんですよね。原作を書いて、その主題歌を作ると、だいたいその原作のキーワードを集めた作詞になるんですけど、そうではなくてその作品の伏線をワードとして表現するというやり方を取ってるんですよ。だから歌詞の中に書かれている伏線の意味を回収するには、そのアニメなりゲームを見るしかないんです。キーワードを集め過ぎちゃうとつまらないんですよね。だから伏線になりそうな言葉を敢えて集めてるというこだわりはありますね。
――そうすることでひとつの作品として完成するということですか?
志倉 : 主題歌の後にゲームやアニメの本編があるわけですけど、観た後にもう一度主題歌を聴くと、その意味が見えてくるという仕掛けをしたいな、と意図的にしています。
――最後の曲「Find the blue」は志倉さんご自身がボーカルを取っていますね。
志倉 : ボーナス・トラックとして入れている感じなんですけどね。
――ご自分で最後を締めようという気持ちがあったんでしょうか?
志倉 : 全然、ないです!
――全然ないですか(笑)。
志倉 : ユーザーさんとのやりとりで、「千代丸さんも歌って!」っていう声があったんで、「じゃあ、歌っちゃおうかな?」っていう悪ノリです(笑)。
――志倉さんが曲を作る時に、モチベーションを上げる方法って何かありますか?
志倉 : そうですね……。今、悩みがあるとしたら、自分の“やる気スイッチ”がどこにあるのかわからないということなんですけど(笑)。たぶん、同じ悩みを持っている作家さんとか多いと思うんですけどね。どこを探しても無いんですよ、やる気スイッチが。「あれ!?全然やる気起きないぞ!?」みたいな。
――そこからどうやって作品ができるんですか?
志倉 : 「ああ音楽やりてぇな~」っていうやる気スイッチが突然入るんですよね。それが何故かはわからないんですよ。例えばTVを見ていてCMソングか何かを聴いたときに、「あ、曲作りたい」って思ったり。たぶん、作家さんてみなさんそうだと思いますよ。だから、これをするとやる気スイッチが入るというのが無いんですよ。だから「締切、昨日まででしたけど、どうなってますか?」みたいな電話が制作から来るわけですよ。だから「ごめん、やる気スイッチが見つからなかったわ」って言うんですけど。それ以外の理由が見つからない時があるんですよ。
スタッフ一同 : (苦笑)
――本当にそうだからそう言うしかないという(笑)。
志倉 : そうなんですよ。でもまあ、そうもずっとは言っていられないので(笑)。そうだなあ、お風呂に入ってスッキリするとちょっとやる気が出るとか、多少工夫はしてますけど。昔は車の中でしか作曲できないという時代もあったんですけど。それも燃費が悪いんで(笑)。
――楽曲集の中には煮詰まってできた曲なんかもあると思いますが、その辺りは志倉さん自ら解説しているライナーノーツを読んで頂くと作品への想いが伝わりそうですね。
志倉 : そうですね。アルバム全体で言うと、12曲目と13曲目以外はタイアップ元の作品(「STEINS;GATE」、「ROBOTICS;NOTES」)自体も自分で作っているので、そういう意味では作品との一体感みたいな所は、だいぶ“ドヤ顔”で送り出せる自負があるんですよ。その辺は作品も知っているみなさんには、深く刺さる楽曲になっているんじゃないかな、と思います。
――では最後に、BARKSをご覧のみなさんにアルバムについて改めて一言お願いします。
志倉 : 楽曲を聴いて貰って、是非作品の方にも興味を持って貰えたらなと思います。色々な作品の伏線がこのアルバムに入っているので、アニメを観たりゲームをプレイして頂いて、その伏線を回収して欲しいと思います。
取材・文●岡本貴之
コンピレーション・アルバム『THE WORKS~志倉千代丸楽曲集~ 8.0』
2014年1月29日発売
FVCG- 1266 3,150円(本体3,000円+税5%)
収録曲:
01.拡張プレイス
02.フェノグラム
03.海風のブレイブ
04.刻司ル十二ノ盟約
05.La*La*Laラボリューション
06.咆筐のメシア
07.いつもこの場所で
08.非線形ジェニアック
09.純情スペクトラ
10.極上HEAVEN
11.鋼の鎧纏う、三百の大司祭
12.The Moon is Not Alone
13.イナンナの見た夢
14.あなたの選んだこの時を
15.禁断無敵のダーリン
16.Find the blue セルフカヴァーバージョン
◆志倉千代丸 Twitter
◆THE WORKS~志倉千代丸楽曲集~ 公式サイト