【インタビュー】キザイア・ジョーンズ、超絶テクがファンクサウンドで炸裂する壮絶な新作『キャプテン・ラギッド』
ブルース、ファンク、アフロビートを融合させて“ブルーファンク”という独自のジャンルを創造し確立した、ナイジェリア出身のタフなアーティスト、キザイア・ジョーンズ。その彼が“キャプテン・ラギッド”なるアフロ・スーパーヒーローとなって壮絶な新作『キャプテン・ラギッド』を発表した。20年以上のキャリアを持つキザイアは、なぜいまこのようなキャラクターをまとう必要があったのか。5年振りの来日公演も間近に迫った彼に話を聞いた。
――前作『ナイジェリアン・ウッド』から約5年。この期間は主にツアーをしていたのですか?
キザイア・ジョーンズ(以下、キザイア):『ナイジェリアン・ウッド』のあと2年くらいはずっとツアーをして、そのあとは個人的にジャマイカとかいろんな国をまわって、ライブをしたり曲作りをしたりしていた。嬉しいことに新しいファンもずいぶん増えていてね。一方、オレの最初のアルバムが出たときに10代だったやつらが今でも観に来てくれたりもする。そうして幅広い年代のオーディエンスが集まってくれるのはありがたいことだよ。
――今回のアルバムのアイディアが生まれたのはいつ頃ですか?
キザイア:アイディア自体はだいぶ前からあったんだ。2005年くらいだったかな。前作よりもっと前からあったんだよ。“ラギッド”というのは、ラゴス(ナイジェリアの旧首都で、ギザイアの出身地)のスラングで、もともとは“壊れた”とか“しっかりしてない”とか、そういうあまりよくない意味を持っててね。でもそれを言い合ってふざけているうちに、どこかクールな意味にも思えてきて、この言葉を使って何かやってみようとショートストーリーを書き始めたんだ。主人公は“キャプテン・ラギッド”で、そいつはラギッド……つまりどっかヌケたところがあるんだが、まわりの状況を理解しようとし、いろんな問題に不安を抱えながらも立ち向かう。そんな発想で書き始めて、それから仲間と話し合いながら、ヤツがどんな風貌で、ヒーローとして何をするのか、そういうことを決めていった。アイディアはどんどん大きく膨らんでいってね。
――キャプテン・ラギッドという架空のキャラクターを作ることで、言いたいことが言いやすくなったとか、伝えたいメッセージが明快になったという側面はありますか?
キザイア:間違いなくあるね。オレは手段を手に入れたんだ。いまキミが言ったように、キャラクターを作ったことで語るべきことが明確になった。オレはナイジェリアの社会、アフリカの社会を批判している。権力の問題、移民や難民の問題などを含め、この社会にある様々な問題について批判をしている。そういう問題はあまり多くの人が話題にしないことでもある。いろいろ難しい側面があるからね。でも、キャラクターを使ってユーモアや風刺を混ぜれば、より伝わりやすくなるし、こちらとしても言いやすい。多くの人が問題について考える、いいきっかけにもなると思ったんだ。
――曲の作り方もこれまでとは違いましたか?
キザイア:ああ、今回は違ってた。今回はまず、ともだちがオレのアイディアに沿ってキャプテン・ラギッドのグラフィック・ノベルを描いてくれたんだよ。で、オレはそのストーリーに合わせてメロディを作っていったんだ。いつもは逆で、メロディに沿って歌詞の内容を考えていく。今回のようなやり方は初めてだったので、いい刺激になったね。因みにヨーロッパではそのグラフィック・ノベルもアルバムと同時に発売されたんだ。
――音楽的には前作にも増してアフロビートを大胆に用いた曲が増えているようですね。あなたの尊敬するフェラ・クティからのインスピレーションも多く入っているようですが、どうですか?
キザイア:アフロビートというのはユニークなクリエイションで、フェラ・クティによって生み出されたものだ。だから彼のオリジナルのクリエイションに近づけるようなものはありえないと思うんだ。真似をしたってしょうがないってこと。オレは自分の音楽をブルーファンクと呼んでいる。20数年前に1stアルバムを作ったときからそう呼んでいて、それがオレのヴァージョンというか、自分なりのやり方なんだ。でも、キミの言ってることは正しいよ。今回のアルバムは確かにアフロビートの要素がたくさんある。アフロビートはいまや独自のジャンルのようにもなっていて、どこにでもあるものになったけど、オレは常に自分のいる環境のなかに音楽を求めているんだ。今回、アフロビートが目立っているのは、作った環境によるところが大きいと思うよ。
――どこで作ったんですか?
キザイア:ラゴスで曲作りをした。ラギッドが住む街にオレも住んで、毎日ラギッドを見ていた感じだった。そしてデモ作りはガーナで行なった。それからロンドンに行ってベーシックを作り、パリでホーンを加えたりして、そのあとニューヨークでミキシングをやった。いろんな街の雰囲気が作品に反映されてると思うけど、特に重要だったのはなんといってもラゴスでの曲作りだね。
――アルバムからのリード曲は、1曲目に収められた「アフロニューウェーブ」。これはあなたなりの現代的なやり方で新しいアフロミュージックを創造したいという気持ちの現れですか?
キザイア:ああ、基本的にはそういうことだ。いま、アフリカン・ミュージックに新しい波がきている。ナイジェリアには興味深い音楽がたくさん出てきているし、イギリスやアメリカにいるナイジェリア人ミュージシャンもいろいろとユニークな音楽を作っている。アフリカン・ミュージックはある意味で未だに隔離されているような側面があるけど、限界を突き抜けてもっと表に出る時期が来ているとオレは思う。だからオレ自身がここでアフロニューウェーブを標榜しているんだ。この曲はとても気に入っている。ファンクとアフロビートとロックの完璧なブレンドだからね。
――因みにあなたの考えるアフロビートの魅力とは?
キザイア:リズミック・インベンション。リズムの発明品ってところだね。アフリカン・ミュージック全体がリズミック・インベンションだと言えると思う。リズムがハーモニーと同じように基本にあるんだ。アフリカの人々は常に新しいリズムを生みだしている。しかも特定の人々に特有のリズムがある。その場所の特有のリズム、その宗教特有のリズムがあるわけだ。で、オレはといえば、ギターをリズム楽器として捉えているところがある。メロディックな楽器としてよりもリズムを生みだすための楽器として用いているんだ。リズムというのは言葉にしたり批評したりするものではなく、とにかく感じるものだ。それは無意識のレベルで作用する。だから使い方をわかっていれば、パワフルなツールになる。アフリカン・ミュージックはだからパワフルなんだと思うよ。
――なるほど。ところであなたがデビューしてからもう20年以上が経ちました。これまでを振り返ってどのように思いますか?
キザイア:これまでに出した6枚のそれぞれのアルバムで、何か普通とは違うことをやってこれたと思っている。自分なりのサウンド、自分なりのスタイルを築くことができたと思うんだ。またナイジェリア人として、オレは人が普段目にしないようなアフリカ性といったものを探求し続けてきた。振り返れば、この20年でまわりの状況はずいぶん変わったよ。音楽ビジネスも大きく変わった。で、近年はまたライブというものがすごく重視されるようにもなった。ライブができないようなミュージシャンは生き残っていけないよな。オレはといえば、20年前から自分はライブ・ミュージシャンだと公言し、そりゃあもうたくさんのツアーをやってきた。そういう意味では、オレのスタンスは何も変わってない。でもハッピーだよな。まわりの状況が変わっても、こうして自分が作りたい音楽を作り続け、ツアーをやり続けることができているんだから。
――そうですね。そして2月にはビルボードライブで5年振りの来日公演もあります。待っているファンに一言。
キザイア:OK。日本で最高のショウをやるよ。いつも通り100パーセントでね。今回はこの新作にある全ての要素を見せるつもりだ。もちろん古い曲もやる。最高のバンドを連れていくから、楽しみにしててほしいね!
取材・文●内本順一
『Captain Rugged / キャプテン・ラギッドアルバム』
1月15日発売
WPCR-15440 \2,580(tax in)
1.Afronewave / アフロニューウェイヴ
2.Nollywoodoo / ノリウードゥー
3.Hypothetical / ハイパセティカル
4.Lunar / ルナ
5.Utopia / ユートピア
6.Falling / フォーリング
7.Memory / メモリー
8.Rugged / ラギッド
9.The Free / アンド・ザ・フリー
10.Laughter / ラフター
11.Praise / プレイズ
12.Angels+Devils / エンジェルズ・アンド・デヴィルズ(* BONUS TRACK)
13.Postcolonialmothership / ポストコロニアルマザーシップ(* BONUS TRACK)
14.Ancestors / アンセスターズ(* BONUS TRACK)
15.Telephone / テレフォン(* BONUS TRACK)
16.Ruggido / ラギード(* BONUS TRACK)
<ライヴ情報>
2014/2/4(火) ビルボードライブ大阪
2014/2/6(木) ~ 2/7(金) ビルボードライブ東京
◆オフィシャルサイト