【インタビュー】森広隆 vs スガ シカオ、濃縮グルーヴの名にふさわしい濃密な時間に向けてお互いを語る

ポスト

ファンク・ブラザーズと言えばかつてのモータウン・レコードの専属バンドだが、この二人の関係はまさに文字通りのファンク・ブラザーズ。12月5日、東京キネマ倶楽部で開催されるイベント<JAM ADDCIT>において、森広隆とスガ シカオのセッションが実現する。日本のポップス・シーンにおいて本物のファンクのグルーヴを感じさせる唯一無二の存在であるスガ シカオと、同じくファンクにルーツを持ちながら独立した自由な活動を続ける森広隆の顔合わせは、イベントのサブタイトルにある“CONDENCED GROOVE”=濃縮グルーヴの名にふさわしい濃密なものになるはずだ。そのイベントに向けた今回の対談では、以前から親交の深い二人にお互いの音楽性、森広隆のデビュー当初の秘話、そして今回のイベントへの意気込みなどをたっぷりと語ってもらった。

■スガさんの曲で一番難しいのは、本当のファンクのニュアンスを出してるところ。ど真ん中じゃないですか。(森)
■今はインディーなんで、別に売れなくてもいいから(笑)。大衆性とか考えずにできるんで。(スガ)

森広隆(以下、森):“JAM ADDICT”という企画は、お互いにもっとジャム・セッションで絡める時間の多いライヴをやりたいと思って始めたんですよ。普通の、ちゃんとリハーサル通りにやるものよりも、もうちょっとミュージシャン的な部分を引き出したいというか。

スガ シカオ(以下、スガ):でも森くんの曲、難しいんだよ! 譜割を覚えるだけで2週間ぐらいかかるよ。

森:(笑)でもスガさん、前に7ef(ナナエフ/かつて渋谷にあったライヴ・バー)で一緒にジャム・セッションした時、めっちゃリード・ギター弾いてたじゃないですか。

スガ:弾いてた弾いてた。酔っ払ってね。

森:それがすっごいカッコよくて、目に焼きついてるんですよ。だから今回“JAM ADDCIT”を何回か続けてやることになって、スタッフに“森くんが呼びたいのは誰?”って言われて“駄目もとでスガさんにお願いしたい”って言ったんです。

スガ:荷が重い…。

森:それで直接お電話させていただいたら、まさかのOKをいただいたという。それで舞い上がっちゃって、いろいろ要求が増えたところもあるんですけど(笑)。もう楽しみで楽しみで、あれからずっとコソ練してます。

スガ:この間のクアトロ(5月17日、森広隆の渋谷CLUB QUATTRO公演)の時、すごいソロ弾いてたじゃん。全然できないとか言ってたくせに、“なんだよ、こんなに弾けるようになってんじゃん!”って。

森:いやいや(笑)。今も練習してますよ。1243、1243…って(※ギターの運指練習のこと)。ものすごく基礎的なことなんですけど、あらためてやってみると全然できなくて。

スガ:ソリストじゃないもんね。オレもそうだったけど。オレなんかもともと、カッティングしかできない上にアコギだから、ソロから一番遠いところにいたんだよ。

森:だからあの日、7efで酔っ払ってエレキですごいソロを弾いた時に、イメージと違ってびっくりしたんですよ。

スガ:2006年ぐらいからソロを練習し始めたんだよ。

森:そうなんですか? それまでは…。

スガ:まったくソロは弾いてない。バンドの中でもストロークとカッティングしかやってなかった。バンドが変わってから自分でもソロを弾かなきゃなんなくなって、すっげぇ練習し始めたんだよね。1日中練習してたな。

森:僕はまだ、ここ数か月ぐらいです。コソ練してますよ。

──12月5日の当日にセッションする曲は、もう決めてるんですか。

森:はい。一応候補曲は、スガさんにメールさせていただいてます。

──そんなに難しいんですか、森さんの曲って?

スガ:曲全体を10としたら、6か7ぐらいは絶対に歌えないパートなんで。残りの4ぐらいをおすそ分けしてもらって絡んだりできればいいかな、ぐらいに難しい。

森:変な決めとか、多いですよね(笑)。

スガ:え? っていう決めも多いし、よしんば覚えられたとしても、あの高速スピードで歌をはめられない。16分(音符)の、ギターのカッティングみたいに歌がはまっていくじゃない? ほんとに、セッションに向かない曲をたくさんお持ちで(笑)。

森:なんかすいませんって感じです(笑)。

スガ:Aメロだけかと思ったらサビも決め決めで、全部無理じゃんみたいな(笑)。でもクセでやってるんだろうね。

森:そうですね。僕がスガさんの曲をコピーしても、やっぱり感じが出なかったりするし。自分に得意な譜割にしちゃって、何か違うな?という部分がすごくいっぱいあります。

──どういう特長があるんですか、スガさんの曲は。森さんから見ると。

森:スガさんの曲で一番難しいのは、本当のファンクのニュアンスを出してるところ。僕はもうちょっと漫然と“ファンキーなもの”が好きですけど、スガさんの曲はファンクのど真ん中じゃないですか。

スガ:そうかな? 森くんのほうがファンキーだと思うよ。曲の構成もそうだし、パッと聴いた感じとかさ、ジャンルはファンク以外の何物でもないじゃない。

森:僕が思うファンクって、パーラメントとかああいう…。

スガ:テンポの遅いやつね。

森:そうです。遅くて、グルーヴしてて、コードもあんまり変わんなくて。その中でスガさんはメロディ、言葉のセンス、歌い方で、同じコードの繰り返しの中でグルーヴしていく、そういうものが多いと思うんですよ。僕はコードも変えちゃうし、ファンキーな要素はあっても、スガさんみたいに“本当のファンクを日本語であんなにカッコよくできるんだ”というのは真似できないです。

スガ:確かにコードは変わんないね。

森:何か変化を入れないと、普通だったらもたないですよ。それなのに、誰にでも聴きやすいようにしているのはどこに秘密があるのかな?って、いつも不思議なんですけど。

スガ:セブンス(・コード)の時に、メロディにメジャーペンタ(MAJOR PENTATONIC SCALE)とマイナーペンタ(MINOR PENTATONIC SCALE)をくっきり分けて使うんだよ。だからAメロをマイナーペンタで歌い始めて、Bメロになった時に同じコードでメジャーペンタで歌い替えると、同じコードなんだけど変わった感がパッと出る。そういうのを駆使してるんだよ。

森:ああ、そうか。スケールを使うんですね。やっぱり黒人の音楽って、メジャーコードにマイナースケールを合わせたり…。

スガ:そうそう。セブンスって、3度を鳴らさなかったらマイナーでもメジャーでもないじゃない? ギターで3度をなるべく弾かないで、メジャーとマイナーを決定させないまま曲をどんどん進行させちゃって、歌がマイナーに行ったりメジャーに行ったりできるようにする、というのをすごいやってたね。

森:ああ、なるほど。しかもそれがどんどんシンプルになっているというか、コードも音数も減らす方向に行ってる気がします。特にここ何枚か、どファンクっぽいのが多くないですか? あえてワンコードでやるみたいな。

スガ:そうだね。今はインディーなんで、別に売れなくてもいいから(笑)。大衆性とか考えずにできるんで。

森:やっぱり独立される前って、いろんな人のことを考えてやってたんですか。

スガ:そうだね。関わってるスタッフは30人とか40人とかいるし、作品どうのこうのじゃなくて“売れたイコール成功”みたいなことは、集団で動いてるとやっぱりそうなっちゃうから。数字はどうでもいいとしても、スタッフの雰囲気は俄然良くなるよね、売れると。

森:でもスガさんがすごいなと思うのは、その時も音楽的に深いもの、自分がカッコいいと思うものをやって、ポップスというところを意識する部分もあって、質を下げることは絶対してないじゃないですか。それがすごいなと思います。

スガ:自分の中では、書いてる曲のバランスはそんなに変えてないつもりなんだけど。結局シングルの表題曲が決定される時に、ダークな曲は絶対に選ばれないから、どんどん脇役みたいになっていっちゃう。昔はそういう曲が選ばれてたんだけど、そのたびに失敗するからスタッフが選ばなくなったの(笑)。そうすると、表に出て行くスガ シカオの名刺みたいな曲は、全部ポップなものに成り代わっちゃう。でもオレ的には、書く曲のバランスはあんまり変えてなかったんだよね。どっちが主役になるかということだけだったんだけど。

森:スガさんの作る曲の中にもともとポップな要素も含まれてて、そっちをクローズアップしてる状態だったということですね。

スガ:そうそう。だって1枚目のアルバムで、“ファンクやってます”とか言って弾き語りだからね。全然ファンクじゃねぇじゃん! みたいなさ(笑)。デビューアルバムからゴチャマゼだったから。

◆インタビュー続きへ
この記事をポスト

この記事の関連情報