【インタビュー】eliは渋谷系をどう見ていたのか。本当は何をやりたかったのか?
■デビューするのやめよう、それが10代のときのあたしの決断
──根本が違いますよね。モッズがあって、レゲエにいって、ON-Uとかもそうだけど、例えば、"ツバキハウス"みたいなロックからUKシーンに繋がっていくような流れのクラブがあって、そっちとボビー・ブラウンとかそういうアメリカのR&Bがかかってるクラブってまったく別世界ですもんね。
eli:まったく別世界。だから、横浜の"サーカス"に頑張って行くみたいな。あったんですよ、昔。黒人ばっかりで、ずっとニュージャック・スウィングがかかってるの。山田詠美みたいなお姉ちゃんがいっぱい(笑)香水の匂いだけで酔っちゃう。
──プワゾンばっかりでね。
eli:そうそう。ぶぉーって(匂いの)壁がそこにあってぶつかっちゃうみたいな。でも、このお姉さんたちみたいになれるかと思ったら、やっぱ根性ないからなれないのよ。どっちかって言うとまだナチュラルな人だったから。
──いくつくらいの時ですか?
eli:17歳とか18歳とか。そういうとこに行くのって勇気いるじゃない。どきどきしちゃって。端っこでがんばってランニングマン踊るみたいな(笑)レゲエのとこもいったけど、お酒を飲む人でもなかったし、やっぱりなんか圧倒されて帰ってくるみたいな。
──分かります。
eli:圧倒されるよね。こんな大人の世界の人たちみたいに出来ないって思ってたら、そっち(モッズ)系統の友達がいて、そうすると、ZOO、スリッツっていうクラブがあって、そこはもうON-Uナイトもあったし、そこの繋がりでフリッパーズ・ギターとか(トウキョウ No.1)ソウルセットへっていう。
──行きましたよ。ZOO、スリッツ。ラヴ・タンバリンズ出演ってあったから行ったら、カラオケで「Never Can Say Goodbye」歌ってたっていう(笑)バンドじゃないのかよ!って。
eli:ほんとぉ?覚えてないなぁ。スリッツはアコースティックでずっとやってたのよ、デビュー前。だから、素直なことなのよ、表現したいことが。そうでしょ、17~18歳の女の子がペブルスが好きとか言ってるの、ジョディ・ワトリー素敵とかジャネットがかわいいとか言ってるの超普通のことだって思うのね。
──それは難しいところですよ、その時代だと。
eli:そうかなぁ。
──ほかにいないですもん。
eli:まぁねぇ。知ってる人がいないのも分かるけど。
──あのへんってヒットパレードなんですよ、アメリカの。
eli:そうだね。
──それを音楽として捉えて、私もああいう音楽をやりたいとか言う人って、当時はほとんどいなかったじゃないですか。
eli:一人もいない。クルーエル・レコードってのはカヒミ・カリィとかがいたでしょ。で、カヒミと喋ってると「セルジュ・ゲンスブールが」とかいって(笑)それ言いたいことはわかるけど、私どうしたらいいんだろう?(笑)
──カヒミ・カリィにボビー・ブラウンを啓蒙するってのは?(笑)
eli:そうそう(笑)で、瀧見さんとかは、アメリカのビルボードのトップ20のものが好きですっていう女の子ってのは普通に嬉しかったんだと思う。それをマジメにやろうと思ってる女の子に出会って。普通不可能なことはやらないじゃん。最初にそれを除けるわけよ。英語とかビルボードのトップ20なんて絶対にないわけ。
──クルーエルじゃなくても、どこかの日本のインディー・レーベルがああいうR&Bをやりましょう!なんて言ったってできるわけもないし、理解もされないしってんで、選択肢がなくなちゃうのはしょうがないですよね。
eli:最初から選択肢がないの。だったらデビューするのやめようって。それが10代のときのあたしの決断だったの。CD出すのなんかやめればいいんだって。小林泉美さん(註:別名MIMI。人気セッション系キーボーディスト。「うる星やつら」の主題歌なども手がける。ソロ作も多数)って人と友達で、いいシンガーがいるんだけどってソニーに持ってったら、英語じゃ意味分かんないからダメだよっていわれて、すっげえだっせぇって怒りながら帰ってきて。
艦長:昔、仕事でMIMIさんとはいろいろ繋がりがあって。
eli:ほんとぉ。あたしMIMIさんちに居候してたの。で、もういいって思ったの。歌を歌ってることが好きだし、こういう歌が歌いたいんだって思ってたし、それを歌えるようになったらもういいんじゃないかって。自分は幸せだよね。別に誰も不幸にならないじゃん。もうそれで十分だ、理解しようがないよねって。テレビ見れば分かるじゃん。おニャン子とかいるんだよ。そういう世の中で、バンドブームがあって、イカ天とかやってるわけ。あんなんしか世の中って認めないんだ、みたいな。
──おニャン子があって、バンドブームがあって、その後が渋谷系じゃないですか。音楽の軽いところって言うか、適当なところばっかりが3つ連続で続いた時代なんですよね。
eli:あたしはその中に放り込まれて苦悩したっていう。あたしの前だとマンディ満ちるさんがいるんだけど、彼女はアシッド・ジャズのシンガーだから、みんながそれに対してかっこいいってなったでしょ。沖野(修也)さんは英語ができる人しか使わないし。あっちのシーンでそれができてるので、(英語で)やっても大丈夫かなと。あたしなんかちょっと救われた部分がある。
──デビューするのが第一歩っていう時代だから、まずそこに一歩足を踏み入れないと何も始まらないって思ってる人が多かったんでしょうね。
eli:うん。もうファッションからだから。古着屋から始まってるところもいっぱいあったでしょ、あの頃って。
──古着はブームでしたね。
eli:ファッションも合体すると、シーンとして作りやすいのは確かにあるんで。そうすると面白い人たちが集まる。昔ピテカントロプスってクラブがあって、そのお店の奥さんみたいな人と何度かお会いして話し聞いてたら、メロンとかの衣装やってたと。いちばん面白かったのはコルクで服を作ったことかしらって。コルクって縫えるのねとか言って。とにかく何でもいいから面白いことしてみようって。その話を聞いたときに、こういうことで街のシーンができるんだって。渋谷系で、街でちゃんとそういうシーンをあたしはやってたつもりだよ。あくまでもマスじゃなくストリート。だからレコード屋さんとかもよく行ってたし。そういうシーンは今もある方がいいと思ってる。小さい場所でもなんでもいいから。藤沢に住んでたんだけど、土日に素人でも普通に音楽をやってるの。みんながこんなに音楽やってるものなんだって思うと面白くて。そういうことが街のあちこちであるんだけど、メディアがぜんぜん採り上げないから、そういうものがあるんだってことを一般の人がぜんぜん分からない。あたしが思うのは、街の音楽が盛んにできるようにするっていう。
──地方ごとに特色が出るよね。
eli:そうそうそう。そしたら面白くなるのになぁーって。絶対にストリートのシーンから生まれるじゃん。絶対に大手からはシーンが生まれないの。街のことを勉強して、今こんなダンスが流行ってるってテレビでやるのがすっごい遅いの。あたしが知ったの何年前だと思ってんのって。その遅さとかも耐えられないっていう。