【インタビュー】山崎あおい「みんな、夏を楽しむフリをしていながら切ない感情を心に持ってるんじゃないかな」
山崎あおいの新曲「夏海」は、初恋を忘れられず前に進めない女の子の歌。夏なのに周りに付いて行けない、はしゃげない。そんな夏を過ごしている人に贈るキュンとほろ苦い夏ソングだ。カップリングにはタイトル曲同様、札幌時代に書いた「Pastime」「Subway」。収録曲すべて、海や川沿いの風景、地下鉄、聴いた人の記憶の中にある風景がよみがえり、忘れていた青春時代を思い出させてくれる。山崎自身はどんな思いでこの曲を書いたのだろうか?
■歌詞の中で「次の夏」って言ってるから
■あくまでも今年の夏は捨ててる感じなんですよ(笑)
――夏ソングということなので、弾けた感じなのかと思いきや、初恋をひきずって前に進めないという切ない曲なんですね。
山崎あおい(以下、山崎):はい。高校生のときに書いた曲なんです。当時から夏が近づくと、お祭りとか花火大会に誰が誰を誘ったとか、周りがソワソワしはじめるじゃないですか。でも、自分はそんな雰囲気に追いつけないって感じがしていたんです。あと、夏の匂いを感じると胸が痛むような切ない気持ちもあって。実はみんなも夏を楽しむフリをして口には出さないけど、そういう切ない感情を心に持ってるんじゃないかなと思ったんです。
――周りに彼氏とか彼女が出来て行く中、自分だけ一人で取り残されるというのは誰にでもありそうですね。周りにも夏にもついて行けなくて、クーラーの効いた部屋で引きこもっちゃうような。
山崎:そう。夏の開放的な感じになりきれないんですよね。やっぱりどこかで何かを引きずってモヤモヤがあるというか。できることなら自分も周りと同じように彼氏を作ったりして夏を堪能したい気持ちもあるんですが、そうなれなくて、結局一人で過ごしちゃうっていう気持ちを書きました。
――歌詞はこんなに切ないのに曲調は夏らしく爽やかで。
▲「夏海」初回限定盤
――爽やかではあるけど、やっぱり「はしゃぐ夏」のイメージのアレンジではないですよね。一人で海を見ているような。
山崎:私の夏のイメージ自体がはしゃぐって感じじゃないですからね。はしゃいで友達と遊んだ思い出もあるんですが、そんなときでも、「何年か後にこれが良い思い出になるんだろうな」って思ってるんですよ。
――夏の渦中にいても夏を俯瞰してるんだね。
山崎:そう(笑)。いつでも俯瞰しながら遊んでいて、一歩引いたところに気持ちを持ってって夏を過ごしているので。夏って楽しいよね、弾けるよねっていう感じじゃなく、寂しいよね、儚いよねってイメージがあるんです。
――夏を刹那的にとらえてるんですね。
山崎:私が北海道出身だからっていうのもあるのかもしれない。
――北海道は夏って一瞬だもんね。一気に秋になる。
山崎:そうなんです。札幌は大きな花火大会も一つしかないし。一瞬で過ぎ去るものっていうイメージがあります。
――札幌だと、札幌祭りの頃から夏の雰囲気になりますよね。でもまだ夜は肌寒くて。
山崎:そう。お祭りの会場になってる中島公園のそばに高校があったので、夏の切なさの一番大きな原因は札幌祭りですね。ちょっとイケイケの男子が昼休みに抜け出してお祭りに行って、みんなにリンゴ飴を買ってきてくれたりするんです。そういうのを見ていると胸がキュンと詰まるんです。「あぁ、今年も夏が来ちゃったんだ」って苦しかったですね。だいたい、お祭りに一緒に行って仲良くなって、次は豊平川の花火大会で告白するという流れなので、花火大会のあとにはいつの間にかカップルが増えているんです。花火で告白したって話を聞くと取り残されて行く……って感じてました。
――まさにこの曲のような体験をしているわけですね。「夏海」っていうタイトルは造語ですか?
山崎:友達の名前なんです。出会ったときから夏っぽくて綺麗な名前だなと思ってたので、いつかタイトルにしようと思ってたんですが、すごいピッタリきたので。この曲を書いたときに景色が浮かぶ曲にしたいと思って、サビで「夏の海」って景色が浮かぶような言葉にしました。タイトルを考えたときに、夏海ちゃんの名前が合うなぁと。
――タイトルだけで夏の海のイメージが浮かぶものね。その海のイメージって北海道の海ですか?
山崎:書いたときは実は湘南のイメージだったんです。北海道の海ってイメージ湧かないんですよね。
――確かに。夏の海水浴でも寒いものね。唇が紫になっちゃうから。
山崎:そうなんです。すごく寒い。湘南の海は曲を作った当時はまだ行ったことはなかったんですが、テレビとかで見るじゃないですか。街の雰囲気もいいし。こっちに出て来てからは何回も行ってるんですよ。受験でこっちに来たときに初めて行って。だから今はこの曲の夏の海はリアルに湘南のイメージですね。夕方の海のキラキラした感じを想像して唄ってます。
――海辺で一人で海を眺めているようなイメージですよね。
▲「夏海」通常盤
――一人で朝日を見に行ってしまうなんて行動的ですね。
山崎:朝日そのものを見て感動するの好きなんですが、何かをやったっていうのが好きなんです。経験値として積み重なって行く感じがして。「朝日を見たことがある」っていう経験をしたことがあるっていうのが好き。
――そういうのがきっと歌詞に生かされるんですね。
山崎:そうかもしれないですね。
――歌詞の中では、最初は「寂しくない」って強がってるけど、最後は「本当は寂しいの」って素直になっているから、もしかしたら脱出できるのかもしれないよね。
山崎:でも、「次の夏」って言ってるから、あくまでも今年の夏は捨てるって感じなんですよ(笑)。次の夏には気持ちの整理をつけたい思ってるんだけど、前向きなのか前向きじゃないのかよくわからない締めですよね(笑)。
――もうちょっと時間が必要っていう過程の歌だものね。失恋したときは、この曲みたいに一回落ち込んだり、一人になって考えたりする時間って大事。
山崎:私もそう思います。一人の時間って大事だし、寂しい夏に浸るのもありなのかなと。感傷的な気分になってみたり。そういう夏も意外と嫌いじゃないなぁって。
――この曲はそういうときに聴きたい曲ですね。終わった恋に敬意を払う時間ですよね。女子には必要。
山崎:そう。大事に大事に。感傷に浸って、ちょっと悲劇のヒロインを気取ってみるというか。こういう切ない曲に自分を投影してみたりして。楽しんでやることではないかもしれないけど、わざわざ苦しんでそうしているわけでもないような気がするんですよ。
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