マリオ・ビオンディ、力強くもなめらかなヴォーカルで会場を圧倒

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5月10日、イタリアのソウル・シンガー、マリオ・ビオンディが、ロンドンの名門ロイヤル・アルバート・ホールのステージに立った。ニュー・アルバム『Sun』のインターナショナル・リリースを記念し開かれたこの公演は、英国においてこれまでで最大規模。そして、国内最高峰のコンサート・ホールでのスペシャル・パフォーマンスとなった。

◆マリオ・ビオンディ画像

本国イタリアでは、デビュー・アルバム『Handful Of Soul』(2006年)でいきなり1位を獲得。以来、押しも押されぬ国民的スターの1人であるビオンディだが、英国でこんなに早くここまでビッグになるとは批評家にとってもファンにとっても驚きだったという。しかし、「イタリアのバリー・ホワイト」「青い目のアイザック・ヘイズ」と称される彼の深く暖かいバリトンは、ジャズだけに留まらず、ソウル、スタンダード、ポピュラー・ミュージック・ファンを瞬く間に魅了。とくに、アシッド・ジャズの旗手やソウル界のレジェンドとコラボした新作『Sun』は、1月にイタリアでNo.1に輝いて以来、英国でも注目されてきた。(ちなみに『Sun』は、イタリアで同時期にリリースされたジャスティン・ビーバーやアンドレア・ボッチェリのアルバムを押しのけて1位を獲得している)

そのワールド・プレミアとなるこの夜のショウは、同作品をプロデュースしたアシッド・ジャズのパイオニア、ブルーイと彼のバンド、インコグニートだけでなく、アルバムに参加したオマーやジェイムス・テイラー(JTQ)、さらにはUKジャズ界の名ギタリスト、ジム・マレンがゲスト出演するという豪華なラインナップ。これまで数々の名演を生み出してきたロイヤル・アルバート・ホールに相応しいショウになった。

ジャイルス・ピーターソンのラジオ番組でビオンディの曲を耳にした瞬間、彼の声に魅せれたというブルーイからの紹介後、3ピースの黒いスーツに白い革靴というスタイリッシュな姿のビオンディがステージに登場。長身でモデルばりのスタイルに、スターの貫禄とカリスマをそなえた彼が現れただけで空気が一変、13人ものビッグ・バンドをバックに発せられたディープなバリトン、力強くもなめらかなヴォーカルで瞬時に会場を制した。

それだけでもこの夜が特別なものになるのは予想できたが、そこにインコグニートのシンガー3人が加わることで、ヴォーカル・パフォーマンスはより幅広くカラフルなものに。そして、5曲目でこの夜最初のゲストを紹介。ビオンディが「ずっと追いかけてきた」という、アシッド・ジャズやブリティッシュ・ネオ・ソウルの先駆者オマーをステージに迎え、ニュー・アルバム収録の「Never Stop」をデュエット。軽快なオマーの歌声と低くハスキーなビオンディのヴォーカルが溶け合う絶妙なハーモニーを奏でた。

続いて、アシッド・ジャズの旗手で世界屈指のハモンドオルガン・プレイヤー、ジェイムス・テイラーが登場。彼のファンキーでサイケなオルガンにブラス・セクションのスパイスが効いたグルーヴィなサウンドでオーディエンスの身体を揺さぶった。その後も、ささやくような甘いイタリア語で始まる「La voglia la pazzia l’idea」で会場をロマンチックな雰囲気に包み込み、「Lowdown」でインコグニートの女性ヴォーカリストと熱いデュエット――まるで玉手箱からお宝が続々と飛び出してくるようなワクワクするパフォーマンスを繰り広げた。

中盤では、つかの間ビオンディがステージを離れ、インコグニートがジャズやソウルのパワフルな演奏を披露。そして、白いスーツと黒いシャツに着替え、クールな伊達男ぶりを発揮するビオンディがステージに戻ると、ショウはいよいよ佳境に。「My Girl」、この夜のハイライトの1つとなった「Serenity」などこれまでのヒット曲が続き、さらなる盛り上がりを見せ、ラストの「This Is What You Are」(2006年にリリースされたデビュー・シングル)で会場は大合唱となった。

2時間半にもおよんだパフォーマンスは、ビオンディのディープでソウルフルなヴォイスを満喫できただけでなく、ブルーイとの軽快な掛け合いを通じ、彼の気さくでユーモアに溢れた人柄に触れることができ、大きな会場ながら親密な雰囲気に包まれた暖かいショウだった。

新作『Sun』には、この夜共演したブルーイ、オマー、ジェイムス・テイラーをほか、チャカ・カーン、アル・ジャロウ、ブラン・ニュー・ヘヴィーズのヤン・キンケイド、1970年代ソウルの名曲を数々生み出してきたリオン・ウェア&リチャード・ルドルフらが参加。フルボディのイタリアン・ワインのように深く芳醇なテイストを持つこの名盤は、日本でも5月22日にリリースされた。

Ako Suzuki, London

セットリスト
1. Shine On
2. Come To Me
3. What Have You Done To Me
4. Woman Woman
5. Never Stop (featuring Omar)
6. Deep Space (featuring James Taylor from J.T.Q.)
7. Catch the Sunshine
8. La Voglia, La Pazzia, L’Idea
9. Light To The World
10. Girl Blue
11. I Can’t Read Your Mind
12. There’s No One Like You
13. Lowdown
INCOGNITO PERFORMANCE
14. Ecstasy
15. My Girl
16. Serenity
17. This Is What You Are

バンド
・BLUEY (Incognito) – CO PRODUCER GUITAR & PERCUSSION
・RICHARD BULL (Incognito) – ACOUSTIC & ELECTRIC GUITARS
・MATT COOPER (Incognito) – MUSICAL DIRECTOR / KEYBOARDS
・SIMON HALE – STRING ARRANGER / KEYBOARDS
・JIM MULLEN (Brian Auger's Oblivion Express) – GUITAR
・JAMIE ANDERSON (Incognito) – TENOR SAX & FLUTE
・NIGEL HITCHCOCK – ALTO SAXOPHONE
・SID GAULD (Incognito) – TRUMPET & FLUGEL HORN
・KEVIN ROBINSON (Incognito) – TRUMPET & FLUGEL HORN
・TREVOR MIRES (Incognito) – TROMBONE
・JOAO CAETANO (Incognito) – PERCUSSION
・FRANCESCO MENDOLIA (Incognito) – DRUMS
・FRANCIS HYLTON (Incognito) – BASS
・VANESSA HAYNES (Incognito) – VOCALS
・NATALIE WILLIAMS (Incognito) – VOCALS
・TONY MOMRELLE (Incognito) – VOCALS
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