【インタビュー】さめざめ、女たちの隠された日常とそこに秘められた情念・純情について語る
■恋愛に限らず人生に悩んでいるときに聴いてほしい曲もいっぱいあります■
――いわゆるカタルシス効果ですよね。だから、ハマるときはガチッとハマる。
笛田:そうですね。口に出したいけれど出せない女の子の本音を歌うのが、さめざめのテーマなので、“ここまで私のことを言い当ててくれた人はいなかった”っていう声を貰えると、やっぱり嬉しいです。だからこそ表現も赤裸々になってしまって……例えば「あの女」の“ふざけんな、あの女”とか、「ぶりっこぶりっこ」の“ムカつくんだよ”とか、女性が人前で口にするのは憚られるような台詞も歌詞にしてるんですよ。あとは、懐かしい響きのする単語を、あえて入れたりもしてますね。例えば、6曲目の「ズボンのチャック」とか。
――その理由は?
笛田:人間って大人になっても、気持ちは子供のままなんですよ。だけど10代なら美しい片想いに終わっていたものが、成長するにしたがってセフレになってしまったり、綺麗事だけでは生きられなくなってしまう。だから、あえて純なイメージの単語を入れることで、そうやって穢れていく心の様を描きたかったんです。
――そのピュアさって、実はさめざめの核じゃないかと思うんです。大人の醜さ、理不尽な現実を描くことで、裏返しに“ピュア”を歌いたいんじゃないかと。
笛田:おっしゃる通りです!「あの女」の主人公にしたってホントに醜いですけど、そのぶん真っ直ぐで、ただ、相手を好きなだけなんですよね。「コンドームを~」も相手が好きすぎるあまりに、盲目になってしまう“恋愛バカ”の歌ですし。今日は彼と会えた/会えなかった、連絡が来た/来なかった……っていう一喜一憂で日々生きている、傍から見ると滑稽であり、おバカであり、純粋であり、自分の恋心に対して強いプライドを持っている。さめざめの曲に出てくるのは、そんなピュアでロックな女性たちなんですよ。
――正直なところ、そうやって冷静な判断力を失ってしまうくらい誰かを好きになるというのが、愚かだなと思う一方で羨ましくもありますね。
笛田:結局、恋する気持ちって、大人になってもピュアなんですよ。私だって最近、夢に好きな芸能人が出てきたりして、気持ちだけは10代の頃と変わらないんだなぁって実感しましたからね(笑)。でも、女性には結婚とか仕事とか、恋愛以外にも頑張りたいものってあるわけで、だから「愛とか夢とか恋とかSEXとか」みたいに、恋愛に限らず人生に悩んでいるときに聴いてほしい曲も、さめざめの中にはいっぱいあります。
――“どんなに悩んでいても、明日すべてが変わるかもしれないから頑張ろう”という、人生における普遍的なメッセージが込められていて、男女問わず勇気づけられますよね。だからこそ聞きたいんです。なぜ、そこにあえて誤解されかねない“SEX”というワードを入れるんですか!?と。
笛田:それは私が大人になって以降、“性”というのが日常的にあるものなので、そこを除外すると逆にリアリティが無くなってしまうのと。やっぱり、人が歌ってないものを歌いたいんですよね。自分にしか表現できないものを表現したい。確かに「愛とか夢とか~」はサビに“SEX”というワードが出てくるので、有線やラジオでパっと耳にした方にはSEXソングのように勘違いされてしまうこともあります。でも、もう一回聴いてみたら良い曲だったとか、別のさめざめの曲をキッカケに聴き返したときに、“ホントはこういう内容だったんだ。奥が深いな!”と思ってもらえたら嬉しいなって。
――最初からわかりやすく訴えるよりは、そのほうが確かに心に刺さりますけれど、結果、間口が狭まるわけで……なんともあまのじゃくというか。
笛田:私、ホントにあまのじゃくなんですよ! だから、同じように最初は“こんな歌、共感できない”って言いながらも、実は身に覚えのある人も想像以上にいるんじゃないのかなって、そんな期待をしてるんです(笑)。
――なんだかんだ言っても、聴き手の共感は目指しているわけですよね。
笛田:そうですね。ラストの「あたしがいなくなれば」も、何年か前にひどく落ち込んで人間不信になってしまったとき、思い詰めた末に“私がここに存在すること自体がいけないんじゃないか”っていう結論に到って、吐き出すように書いた曲なんです。だから、すごく自分本位な曲ではあるんですけど、同じように自分を責めるくらい落ち込んでる人って、世の中にはすごく多いと思うんですね。そんな人が夜中の2時3時にこの曲を聴いて、ガンガンに泣いてくれたら、少しは楽になってもらえるんじゃないかなぁって。
――実体験から生まれた曲だけに、鬼気迫るような激情に圧倒されました。が、あえて突っ込むと、ものすごく自意識過剰な歌でもありますよね。“あたしがいなくても 世界は廻るんでしょ”とありますが、いなくなって世界が回らなくなる人間なんて、そもそも誰一人いない。
笛田:確かに(笑)。さめざめの曲って主人公がみんな自意識過剰で、“私中心で世界が成り立っている”っていう想いがベースになってる歌詞が、すごく多いんです。「愛とか夢とか~」にも“あたしの人生も よくあるもので終わるの?”ってあるように、どこかで自分は特別なんですよね。自分がいなくなっても世界が変わらないことが許せない。もちろん、そんなこと口に出しては言わないけれど、“私だけは絶対違う”っていう、何か得体の知れないプライドを持っている。そういうのって、実は皆さん大なり小なりあるんじゃないかと思うんですよ。
――女の子って子供のころに、よく“お姫様ごっこ”的なものをやるじゃないですか。その根本が変わらない。
笛田:そうそう。心のどこかで夢見てるんです。みんなは“ヒドい男だからやめろ”っていうけど、私だけは幸せにしてくれるはずだ!とかね(笑)。
――そんな愛すべき“おバカさん”のピュアな性根が描かれているのが、さめざめ作品の最大の魅力なんでしょうね。
笛田:そう言っていただけると嬉しいですね。“さめざめ”というアーティスト名も“さめざめ泣く”という日本語から来ているんですが、あれって“声を押し殺して泣く”という意味なんですね。女性って本当に辛いときは、トイレの中だとか自分の部屋だとか、他人に見えない場所で声を出さずに泣くことが多い気がするんです。だから名前を“さめざめ”にすることで、悲しいこと/辛いことを歌う人なんだと印象づけたかったですし。人には言えない想いを綺麗事抜きで言葉にすることで、世の中から隠されている“日常”を浮かび上がらせていきたかったんです。
――嘘のない想いを書くからこそ、純粋さが際立つんですもんね。
笛田:その純粋さを、このベスト盤で理解してもらえたらなぁと。インディーズ時代の曲を録り直しつつ、名刺代わりになるような多種多様な選曲になっているので、さめざめを知らない方にも“入門編”として受け取っていただけると思います。
――しかし、これが入門編となると、上級編になったら一体どれだけディープになってしまうんでしょう……?
笛田:もちろん、こんなもんじゃ終わらないですよ。今後、発表していく曲を楽しみにしていてください(笑)。
取材・文●清水素子
『さめざめ問題集』
5月15日発売
VICL-64016 \1,980(tax in)
1.みんなおバカさん
2.コンドームをつけないこの勇気を愛してよ [二〇一三年版]
3.ぶりっこぶりっこ
4.愛とか夢とか恋とかSEXとか ~シングルバージョン~
5.ぐるぐる禁断ラブ [二〇一三年版]
6.ズボンのチャック
7.あたしがいなくなれば [二〇一三年版]
8.あの女 ~地獄の扉はすぐそこに。ピアノ編~
<さめざめpresents“13年5月、恋は五月病” 大阪編>
5月19日(日)梅田Shangri-La
[問]GREENS 06-6882-1224
<さめざめpresents“13年5月、恋は五月病” 東京編>
5月31日(金)渋谷CLUB QUATTRO
[問]DISK GARAGE 050-5533-0888
◆さめざめ オフィシャルサイト
◆ビクターエンタテインメント