【ライブレポート】キリンジ、堀込兄弟ラストステージ。「15年退屈しないでやってこれたのがいちばんよかったなと思ってます」
堀込泰行、堀込高樹のバンドとして1996年に活動をスタートさせて以来、“堀込兄弟”としてのキリンジの歴史がついに最終章へ……。2012年10月、2003年の春ツアーをもって泰行がキリンジを脱退し活動のフィールドを自身のソロワークに専念、高樹がキリンジの名を継いで活動していくと発表。そして、10作目のアルバム『Ten』が2013年3月にリリースされ、泰行・高樹体制のキリンジのラストステージとなったこの日──2013年4月12日の<KIRINJI TOUR 2013>最終日、東京・NHKホールはこれ以上ないほどの万雷の歓声に包まれた。
◆キリンジ画像
アコースティック・ギターを手にした泰行が中央に、エレキギターを手にした高樹が上手側に立つ、いつもどおりの編成のステージから奏でたオープニングナンバーは「グッデイ・グッバイ」。良い日、旅立ち……そんな直訳もできそうなタイトルからして一抹の寂しさを感じてしまいつつ、頭上から降り注ぐまばゆい光とともに広がってゆく美しい声のアンサンブルに、ライブの幕開けからいきなり心を奪われる。そして、続いたのは1998年作、メジャーデビューシングルとなった「双子座グラフィティ」。サビの軽快なリズムに合わせて客席から手拍子が巻き起こり、会場は序盤から早くも一体感で包まれる。
「<KIRINJI TOUR 2013>千秋楽にようこそ、おいでくださいました。僕らも出し切って、楽しんで、悔いのないようにやりたいんでね。皆さんも最後まで、ちょっと長くなりますが、ゆっくりと楽しんでいって下さい」(泰行)
“堀込兄弟”の最後の舞台だからこそ、出し切って、楽しんで、悔いのないように……。まさにその言葉どおり、結論から言うと、この日のライブはじつに全33曲、トータルタイム約3時間45分というキリンジ史上最大と言ってもいいボリューム感たっぷりな内容となった。そして、キリンジの歴史を1ページ、1ページとめくっていくように、結成以来の17年間に生み出してきた楽曲達を披露してゆく二人。「風を撃て」はスピード感豊かに、かと思えば「野良の虹」は強いアタックのベースをイントロに、ファルセットを交えてたおやかなメロディーを紡ぐ、etc……。スピーカーから流れ出した瞬間から彼らの所業だと分かる歌声を軸にして、ときに昂揚感たっぷりに、次の瞬間には厳かにと、めくるめく変化に富んだサウンド・アプローチはキリンジ独特の音楽観の真骨頂だ。
「「Ladybird」、久々にやりましたけど、このバンド、メンバーでやるとちょっと男っぽくなっていいな、なんて思って僕はやってるんですけれども。さぁ、そうこうしてるあいだにも、アコースティックな楽器がいくつか並びましたけれども…。それは、ガットギターっていうんですか? クラシックギター?」(泰行)
「そんなこと説明しなきゃダメですか?(笑)」(高樹)
自然体なたたずまいでのそんなやり取りも、彼らのライブの楽しさのひとつ。会場の雰囲気が和やかになっていく中で、田村玄一(G、ペダルスティール)、千ヶ崎学(Ba)、楠均(Dr)、伊藤隆博(Key)から成る『Ten』のレコーディングメンバーとのセッションによる、「Ladybird」を始めとするこれまでの数々の楽曲にキリンジのメンバー自身も新鮮さを感じているよう。そして、「小さなおとなたち」からはウクレレ、ウッドベース、ピアニカなどへバンドメンバーが楽器をスイッチし、音色がさらに彩り豊かなものへとなってゆく。
「3月27日にですね、キリンジの10枚目のアルバム『Ten』がリリースされました。なかなか、粒ぞろいな……(笑)。地味ながらも、粒ぞろいな(笑)。僕は気に入ってるんですけどね」(泰行)
「『SUPER VIEW』っていうアルバムが出て、それを作っていたのが去年の秋だったんですけど、また半年ぐらいで……。やればできるな、って(笑)。わりと小気味の良い感じのアルバムになりまして、今回のツアーもその中から何曲かやっているんですけど」(高樹)
9作目のアルバム『SUPER VIEW』以来、リリース・タームとしては約4ヵ月強というハイペースぶりでリリースされた『Ten』からは、「夢見て眠りよ」と「ナイーヴな人々」の2曲を中盤で披露。高樹の言葉どおり、小気味良いテンポ感を刻みながら、ドゥ・ワップを思わせるコーラスも印象的な「夢見て眠りよ」。「ナイーヴな人々」もギターのリズミカルなストロークが心地よい中、高樹を筆頭にしたバンドメンバーによるコーラスが泰行のボーカルを優しく包み込む。
「ムラサキ☆サンセット」から始まった後半ブロックは、さらに楽しい仕掛けを随所に施しながらライブを展開させてゆく。「You&Me」は泰行が声にエフェクトをかけて、まるでギターソロのようなボーカルを披露する遊び心豊かなパフォーマンスに歓声が飛ぶ。ニューウェイブチックな香りをほのかに感じるシンセも印象的な「都市鉱山」は、一声一声が力強い高樹のリード・ボーカルが会場のボルテージをさらに上げてゆく。そして、ムードはまた一変……。「CHANT!!!!」ではパーカッションのようなドラム、バンドメンバーも加えた4声コーラスなどがステージを染める深紅の光と相まって、民族音楽にも似た妖しげなムードをかもし出す。
「なかなかボリュームのあるところでしたけど、皆さん大丈夫ですか?」(泰行)
この時点で、ライブ開始からすでに2時間を大きく経過。他のライブでは終了を迎えてもおかしくない濃厚なボリューム感にファンは疲れるどころか、ステージを見つめる眼差しに熱がさらに帯びる。そのライブ後半、ファンの心を強くとらえていた1曲をあげるなら、まずは「早春」だろう。泰行と高樹が背にするステージ後方のLEDライトに、草原の風景が描かれる。“wake up, wake up, wake up, wake up──”。3階席まで立錐の余地なく埋め尽くされたNHKホールの広い空間へメロディが雄大に響くとともに、草原の風景が花へと変わり、赤、白、黄色と色づく花弁が開花してゆく。まさにそのタイトルの通り、春の季節に描く、音色と色彩の美しきシンクロニシティが感動的だ。
そして、季節は一転、アップテンポの「夏の光」で会場に大きな手拍子が巻き起こる中、ライブは終演へ刻一刻と近づき……。<ブルーバード 僕は旅立つ 小さな不安に 大きく窓を開け>。“堀込兄弟”のキリンジが並び立つ最後の舞台というシチュエーションに繋げがちになってしまうのは良くないなとは感じながらも、本編のラストナンバー「ブルーバード」はやはり、この日に聴くからこそ一音一音、一言一言が胸に本当に染みる。泰行と高樹の背には青空が、そして、雲の映像が流れてゆく。<ブルーバード 空へ羽ばたく どこへ行っても 口笛を吹こう>。今日という日に似合い過ぎる、なんて叙情的なエンディングなんだろう。
「それではですね、あんまりしんみりしてもあれなんで。とてもとても懐かしい曲で、“茜色したあの空は”という曲を聴いて下さい。今日はどうもありがとうございました!」(泰行)
「Drifter」、「千年紀末に降る雪は」、「スウィートソウル」でファンの歓声に応えたアンコールは、「茜色したあの空は」で軽快なリズムが跳ねる、跳ねる、跳ねる、跳ねる! 会場の照明が全て照らされる中で全員が手拍子を鳴らす中で、泰行は歌いながら「どうもありがとうございました!」と感謝を告げる。そして、ステージを降りたメンバーをさらなる歓声が呼び戻し、ダブルアンコールで「エイリアンズ」をさらにファンへ贈る。
「本当にキリンジはファンに恵まれたグループだなといつも感じておりました、ありがとうございます。とても楽しい15年というか、退屈しないでやってこれたのがいちばんよかったなと思ってます。これから、新しいキリンジは兄が受け継ぐことになります。よろしくお願いします」(泰行)
「よろしくお願いします」(高樹)
「僕は、マイナー競技でオリンピックを目指そうかと思ってます(笑)」(泰行)
「どういう意味かよく分かりませんが(笑)」(高樹)
「(笑)よければ、僕の音楽も聴いてみて下さい」(泰行)
こんな飄々としたやり取りも、とりあえずは今日で見納めだ。切なさで心がキュッとなってしまうが、ファンは大きな拍手と笑顔で二人を送り出す。
「悲しい気持ちの人もいるかとは思いますけども、二人ともミュージシャンとしてこだわりがあってこういうことになったっていうことですから、僕としては、あまり皆さんに悲観して欲しくないと思っております。本当にどうもありがとうございました!」(泰行)
「ありがとうございました!」(高樹)
「本当に感謝してます。じゃあ、最後は“悪玉”という曲をやろうと思います」(泰行)
泰行から高樹へとリードボーカルをリレーし、二人の歌声が重なる。聴き手の胸を焦がす、まさにキリンジらしいハーモニーだ。そして、高樹がギターソロを奏でる傍らで、泰行は自らのギターを手で叩きリズムを刻む。そのリズムに、観客の手拍子が重なる。「最後、皆さんで!」(泰行)。「マイクよこせ、早く!」。ポップさと毒っ気が同居しているような、これもまたキリンジらしい「悪玉」の歌詞を泰行にリードされてファンは笑顔で大合唱し、最後は演劇のカーテンコールのように会場総立ちで拍手を続ける。
「曲がないんで、もう乾杯しちゃいました(笑)。本当に今日は、どうもありがとうございました! これからもよろしくお願いします!」(高樹)
「どうもありがとうございました! 本当に感謝してます。本当に素晴らしいファンの皆さんに支えられてやってきました。どうもありがとうございました! また、どこかで!」(康行)
鳴り止まない歓声に応えて再びステージへ登場した二人の手には、すでに缶ビールが握られている(笑)。そして、ファンと同様に、二人とも表情は満面の笑顔だ。お涙頂戴的な演出は、皆無。そこにはただ、自身の音楽の道をストイックに追求し続ける、いつも通りのキリンジがいた。観客を煽るMCはなくても、華美な演出はなくても、音楽が鳴るだけでこんなにも大きな一体感が生まれることが本当に素晴らしい。あくまでも音楽で多くの人達の心を繋いできた彼らの17年間のミュージシャンシップの真髄を、“堀込兄弟”としてのキリンジの最後の舞台であらためて見させてもらえた気がした。
そして、そのミュージシャンとしてのこだわりを、泰行はソロとして、高樹はキリンジとしてこれからも表現してゆく。これからも続いていく二人の音楽の旅路を、大いなる期待を持って見守っていこうじゃないか──。
文●道明利友
10thアルバム『Ten』
2013年3月27日発売
【初回盤】CD+DVD COZP-759~760 ¥3,675(税込)
【通常盤】CD COCP-37897 ¥3,150(税込)
1.きもだめし(作詞/作曲:堀込高樹)
2.ナイーヴな人々(作詞/作曲:堀込高樹)
3.夢見て眠りよ(作詞/作曲:堀込泰行)
4.ビリー(作詞/作曲:堀込泰行)
5.仔狼のバラッド(作詞/作曲:堀込高樹)
6.黄金の舟(作詞/作曲;堀込高樹)
7.阿呆(作詞/作曲:堀込泰行)
8.手影絵(作詞/作曲:堀込高樹)
9.dusty spring field(作曲:堀込泰行)
10.あたらしい友だち(Album ver.)(作詞:堀込高樹/作曲:キリンジ)
Produced & Arranged by キリンジ
[初回限定盤のみDVD付]
新曲MusicVideoに加え「キリンジTV the FINAL」を収録
◆キリンジ オフィシャルサイト
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