【インタビュー】LOVE PSYCHEDELICO「“BEAUTIFUL WORLD”というのは自分の外側にあるものじゃなくて中にあるんだよ」
コンビニエンスという名のもとに、すべてが平凡に均一化されてゆく時代を憂う前に。こんなふうに時間と手間をかけてしっかり熟成させた逸品に出会えたことを、生きる喜びとしてまず祝福しよう。LOVE PSYCHEDELICOの3年3か月ぶりの新作『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』は、前作『ABBOT KINNEY』で自分たちの音楽的ルーツを確かめたあと、あの震災を機に音楽家としての自己を見つめ直した2人が、今再び愛と希望を高らかに歌いあげるカジュアルで躍動的で普遍的なロック・アルバムだ。日々のこまごまとした雑念をしばし忘れ、すべての音から溢れ出すかぐわしい香りと深いコクを、どうか時間をかけてゆっくりと楽しんでほしい。
■アルバムの曲を作っていく頃はとても軽やかな気分だった
■曲を持ち寄ったりセッションしたり自由な感じがあったね
──長い間、待った甲斐がありましたよ。ほんと素晴らしい。
KUMI:ありがとう。
──前作から3年3か月ぶり、ですか。
NAOKI:実際に作ってたのは2年ぐらいかな。それでも長いけど(笑)。
──今回は、2人が曲のモチーフを持ち寄って共作して…というパターンが多かったと聞いたんですけども。
NAOKI:そうだったね。
KUMI:いつもよりもさらにそうだった。セッションが多かったよね。震災のあとに最初に作った「Beautiful World」と「It's you」はすごく時間をかけて、自分たちの中に深く入って作った曲だけど、それを超えてアルバムの曲を作っていく頃には、とても軽やかな気分だったよね。もちろん創作の苦しみはあるけれども、曲に向かう軽やかさはすごくあった。だからお互いに曲を持ち寄ったり、セッションしたり、自由な感じはすごくあったね。
NAOKI:その前に『ABBOT KINNEY』を作ったことも大きかった。
──音的には、そうですよね。前作の持っていたルーツ・ミュージックへの愛情というテーマの延長上に、今回の作品もあると思います。
NAOKI:延長というか、自分たちの中では『ABBOT KINNEY』以降という感じかな。あそこで自分たちのルーツであり憧れであるものを、ちゃんと自分たちのものにしたというか。
KUMI:消化して吸収したという感覚があったよね。
NAOKI:乗り越えたというよりは、“手に入れた”というほうがいいかもしれない。そんな自分たちにどんな音が鳴らせるか?というテーマがあって、最初に作ったのが「Dry Town」(2010年5月リリースのシングル。セカンド・アルバム『LOVE PSYCHEDELIC ORCHESTRA』収録曲のリメイク)。まとまったレコーディングとしては震災以降ではあるんだけど、サウンドとの向き合い方としては、「Dry Town」以降は一貫してたよね。
KUMI:うん。
NAOKI:『ABBOT KINNEY』を作っていた時というのは、“探求しよう、考えよう、勉強し直そう”という気持ちでレコーディングに向き合っていたんだけども。どうやったらアコギの音をもっとうまく録れるだろう?とかね。そういうスキルを手に入れた自分たちに、どんな音が鳴らせるのかな?ということが、昔一度録ったことのある「Dry Town」をもう一度レコーディングする中で、「これはイケるな」というものがあった。そのあと震災があって、「Beautiful World」からまた制作が始まったけれども、“『ABBOT KINNEY』以降の自分たち”ということは、無意識のうちにあったと思う。一度ルーツをあそこまで探求させてもらったので、ルーツの呪縛からは解き放たれたよね。
KUMI:うん。
──『ABBOT KINNEY』よりもさらに音数が減って、非常にシンプルになった印象があります。
KUMI:そうだね。
NAOKI:ドラムとベースとギターと…。
──あと鍵盤とパーカッション、曲によってはちょっとホーンとストリングスが入るくらい。
KUMI:楽曲自体もシンプルだしね。一番自分の中の根源にあるものというか、そこがシンプルに出たというか。
──シンプルだけどものすごく躍動的。頭の2曲のファンキーなリズムが、アルバムを印象づけている部分があると思うんですよね。とてもグルーヴィーなアルバム、というふうに。
NAOKI:全体的に、そうかもしれないね。ホリー(堀江博久)の弾くクラビネットとオルガンがすごくフィーチャーされていたり、「Almost Heaven」みたいな、今までになかったタイプのファンクをルーツにした曲もあるし、ファンキーな要素は前よりもあるかもしれない。特に「No Reason」をそういうふうにグルーヴィーな曲ととらえてくれるのは、すごくうれしいな。オレたちの中ではこの曲は、ロックンロールだけど、クラブ・ビートなんだよね。
──あ。なるほど。
NAOKI:ライヴハウスというよりはクラブでかかりそうなビートを、ロックンロールで表現したらどうなるかな?と。“チャカチャカチャカチャカ”っていう、普通だったらエレキギターで全部やりそうなところを、視点を変えてエレクトリック・ピアノに置き換えるだけで、急に世界がクラブ・ミュージックなムードを持つという、ちょっとしたアイディアというか。目新しいデジタルな音とかじゃなくて、ちょっと視点を変えるだけで、ロックンロールは今でもこんなに躍動するし、今の音楽になるし、“ロックンロールってこんなにスタイリッシュなんだ”ということをしたかったというのはすごくある。
──しかも、ごく自然にやっているでしょう。「これとこれを掛け合わせて」とかではなく。
NAOKI:そういう、ミクスチャーの感覚はないね。むしろ、ライヴを見に行ったら「意外と普通の曲だった」と言われるぐらいの…。
KUMI:オーソドックスだよね(笑)。
NAOKI:ライヴではDJを入れて…とか、そっちには行く気ないから。エレキギターやフォークギターを使ったロックという表現の中で、どこまでできるか。時にカジュアルに、時にオシャレに、時にハードにというのを、みんな知ってる普通の楽器でどう表現するか。そういうことの、2013年バージョンだという気はする。自分なりの、新しいやり方として。
──ばっちりです。まさにそういう曲、そういうアルバムだと思います。
NAOKI:そういう意味で「No Reason」「Calling You」は、うまくできたと思う。「Calling You」はね、さくっとできたんですよ。曲の生い立ちを話すと、実は長いんだけども。
KUMI:もともと作ってた曲があって、それが崩壊して、新たに作った曲だから。最初はドラムを白根ケンちゃん(GREAT3)に叩いてもらって、八割方できてたんだけども。
NAOKI:歌詞も書いてたし。でも歌ってみたら「あれ?」みたいな。
KUMI:いろいろ変えてみたんだけど、駄目で、崩壊して。でもケンちゃんのドラムがすごく良くて、いいグルーヴだったんだよね。そこからインスピレーションがどんどん湧いてきて、新たに作り直したのがこの曲。だからディスコビートの感じがあるのは、ケンちゃんのエッセンスかなと思う。
NAOKI:この曲も今までにない感じだよね。こういう新しいタイプの曲に出会えたのは、偶然にしては良かったよね。
◆インタビュー続き
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