【インタビュー】イアン・アンダーソン(ジェスロ・タル)来日直前の彼から日本人ファンへ激烈メッセージ

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4月15から来日公演を行うジェスロ・タルのフロントマン、イアン・アンダーソン。この公演は、あの名作の名作『ジェラルドの汚れなき世界』そして『ジェラルドの汚れなき世界 2』を完全再現するという夢のような企画になっている。そのイアン・アンダーソンを来日直前に直撃。『ジェラルドの汚れなき世界』の秘密、現状の音楽界について思うこと、そして日本のファンへのメッセージを語ってもらった。

■ジェスロ・タルの『ジェラルドの汚れなき世界』(Thick As A Brick)について

──ジェスロ・タルは、1作目からトラッドフォークやハードロック、ジャズなど様々な音楽性を取り込んだユニークなサウンドが特徴でしたが、それが一つの完成形になったのが5作目の『ジェラルドの汚れなき世界』だと言われています。そして、これがジェスロ・タルを代表するサウンドだと一般に受け止められていますが、ご自身ではどのように思いますか?

イアン・アンダーソン(以下、イアン):これはジェスロ・タルの代表的なサウンドと言うより進化の途中の一部だ。とても重要な部分だがこれが全てではない。全体像にはもっとクラシックとフォークの要素が含まれている。しかし、この作品ではロックの素晴らしい楽器をふんだんに使った。ハモンドオルガン、ギブソン・レスポール、フェンダー・ジャズベース。そしてフルート、これは決してロックでよく使われる楽器ではないが。

──当時、このようなサウンドは自然に生まれてきたのでしょうか?それともこの音を作り出すために試行錯誤、紆余曲折があったのでしょうか?

イアン:私は毎朝、数分間作曲し、午後にバンドと会っていそのリハーサルを行った。私たちは10日程で労苦して全体を作り上げた。そしてそのままレコーディングに進んだ。『ジェラルドの汚れなき世界2』も11年2月に同じような方法で作ったmmだが、その年にツアーを行っていたので、レコーディングは間が空いて時間がかかった。

──架空のコンテストで取り上げられた詩をテーマにしたり、それを報じる記事をカバーアートに使うなど、このユニークなコンセプトはどのようにして生まれたのでしょうか?

イアン:自分が25歳の時に小さな男の子(ジェラルド・ボストック)の目線で書いた。40年後もそれはまだ通用するようだね。自分の今の成熟した、大人びた考え方でもだ。脳は歳を取るし、残念なことに身体も歳を取る。それはマディー・ウォーターズやベートーベンでも同様だ。すべての音楽は永遠だ。それが良い音楽ならな。

──社会的なメッセージがこのアルバムのテーマになっていると思いますが、それを架空の少年の詩という形で伝えようとしたのはなぜだったのですか?

イアン:少年時代は価値観、伝統、文化などを吸収していく時期だ。ただ、それらの見方は多少歪んで単純化されているかもしれないが、それも大人になっていくにつれ変わっていく。歌詞を書くにあたってそれは良いアイディアに思えたし、40年後の今でもそう思っている。

──40年前のこのアルバムは、世界中で今も聴き続けられています。それはなぜだと思いますか?

イアン:ほとんどのポップとロックは、型にはまっていてありきたりだ。失敗することもあるが、面白いことにトライしようとする新旧のいくつかのバンドもいた。それでもオリジナリティーを目指して失敗する方が真似るよりは遥かに良い。プログレ/フォーク/メタルのファンはたくさんいて、多くは十代、二十代だが、それでもアルバムをチャートインさせるには足りない。しかし、今ほどチャートが意味なくなった時代はない。だからそんな事を気にするのはやめよう。

──このアルバムはジェスロ・タルにとって、そしてあなたにとって、この40年の間どんな存在だったのでしょうか?

イアン:複雑な音楽とシンプルなコミュニケーションの絶妙なバランスを常に思い出させてくれる作品だ。一般的なリスナーにとって面白い作品を作るのは難しい。だからコンサートではシアトリカルな演出と舞台で観客に飽きさせないようにするんだ。途中のインターミッション中に帰る客はいない。

■『ジェラルドの汚れなき世界 2』について

──2012年に完結編とも言える『ジェラルドの汚れなき世界2』が発表されましたが、続編を作るというアイディアはいつごろ生まれたのですか?

イアン:これまで『TAAB(ジェラルドの汚れなき世界)』の続編を作ってくれと何回も言われてきた。ノスタルジアを避け、ジェラルド・ボストックのキャラクターを現代に持ってくる良いアイディアを39年後にようやく良い思いついたんだ。

──この続編の制作に取り掛かるきっかけは何だったのでしょうか?

イアン:内容、コンセプト、音楽スタイルを慎重に考え、検討して作った。舞台は1972年ではなく40年後の現代。苦労に値するコンセプトと制作する十分な理由を見つけるために40年間かかった。私達は2枚のアルバムをレコーディング通りに演奏し、それぞれの間に15分の休憩が入る。つなぎのビデオなどを含めたら私達と一緒に2時間30分を過ごすことになる。だから柔らかいクッション、暖かいスープ、サンドウィッチを持参してくれ。長い映画みたいだ。

──現在は40年前に比べて、音楽シーンも変化しているし、使われる楽器やレコーディング方法も変わってきています。続編を作るにあたって、40年前の作品ともっとも大きく違っていたことは何ですか? また、以前と変わらず同じようにしようと意識したことは何ですか?

イアン:もちろんレコーディング方法は変わったし、ライヴでは70年代になかったテクノロジーを使う。しかし、中心にある楽器は同じだ。ハモンドオルガンにギブソン・レスポール、フェンダー・ジャズベース。もちろん私のフルートとアコースティックギターだ。また、持ち歩いているメディアサーバーでより面白い映像と照明の演出が可能だ。

──『ジェラルドの汚れなき世界 2』が完成した後、ご自身で聴いてみて、以前と違うところ、共通するところはどんなところだと思いますか?

イアン:私は最初の作品を彷彿させるために、1作目からのスタイルとモチーフを維持した。オリジナルを髣髴させるものをファンは楽しむ。しかし、同時に2作目としてのアイデンティティーを持たなければならなかったし、新たな音楽の領域を探検する必要があった。コンテンポラリーミュージックの音は30年間そう変わっていない。80年代にディジタルサンプリングやシークエンシングの技術が発展してから複雑になっただけだ。サウンド自体はあまり変わっていない。人々は忘れがちだが、60年代初頭に電子楽器が導入され、70年年代にシンセサイザーが紹介されたときに音楽は大きく進歩した。80年代にディジタルテクノロジーが現れ、それからはポップとロックの進歩は限られている。正直、今日のロックバンドは60年代後半のものとあまり変わらない。

■ジェスロ・タル、イアン・アンダーソンの音楽や姿勢について

──『ジェラルドの汚れなき世界』に限らず、ジェスロ・タル、およびイアン・アンダーソンの音楽には、前述のようにトラッドフォークからハードロック、ジャズなど様々な音楽の要素が取り入れられていますが、その中でジェスロ・タルの音楽の中核になるのは何だと考えていますか?

イアン:フォーク・ロック・メタルだ! それが一体何なのかさっぱり分からないが。私自身のルーツはブルースとジャズだが、私自身の作品にはその要素はあまり感じられないかもしれない。シンフォニック・クラシカル・ミュージックの方が大きいね。

──様々な音楽を取り入れるという姿勢は今も同じですか?

イアン:それは変わらない。私は落ち着きがない男で、キッチンにいるクレイジーなシェフに多少似ている。材料をブレンドして常に新しい料理にチャレンジする。失敗も面白いさ。

──へヴィなロックに多彩な音楽が取り入れられているサウンドも、フルートを導入したスタイルもユニークで、後の数多くのロックバンドに大きな影響を与えましたが、逆にあなたはこれまで(音楽に限らず)どんなものに影響を受けてきたのですか?

イアン:エリック・クラプトンのようなギタリストだ。フルート奏者としては伝統的なクラシックやフォークの奏者とは違うものを目指した。1967年の夏にクラプトンが弾けない楽器を捜した。素晴らしいギタリストが次々現れ、私はおそらくその中の一人にはなれないと感じたから。だから衝動的にフルートを買った。そしてそれはあやうく失敗に終るところだった。何故なら半年間は音を出せなかったんだ。ようやく1968年1月にそれらしい音を出せるようになり、その一ヵ月後には毎晩ステージで吹いていた。5ヵ月後にデビュー作を作った。私は覚えが良かったな。ただ、そうせざるを得なかった。クラプトンがある日急にフルートを吹き始めることに備えてね!

──現在もっとも興味のある音楽ジャンル、音楽シーンは?

イアン:イギリスとアメリカのニュー・フォークのシーンだ。自身のルーツを重んじながらフォークの伝統と学術的な見方にとらわれない新しい世代のアーティストたち。

──社会的なメッセージがテーマになっているアルバムも多いと思いますが、メッセージをより強く伝えられる手段として、語るようなヴォーカルスタイルを取り入れたのですか?

イアン:私ははっきりと聴こえ理解しやすいようにしたいと思っている。時には語るように歌うことがそれを助けることもある。しかし、いつもは楽譜通り歌っているつもりだ。

──現在の様々な社会的な問題の中で、リスナーにもっとも訴えたいことはどんなことですか?

イアン:宗教紛争、人口過剰、過剰な愛国心の危険性、資本主義の強欲及び腐敗。私達人間は美しいが危険だ。アート、科学、悪を合わせ持っている。もし異星人が私達を研究したら面白く感じるだろうね。そうかもしれない。

■来日公演について

──これまでに何度も来日公演を行なっていますが、日本の印象、日本のオーディエンスの印象はいかがですか?

イアン:日本ではあまりプレイしていないが、もちろん海外でも日本のファンをよく見かける。私達は和食が大好きだ。文化と伝統の礼儀正しくフォーマルなところも大好きだ。車、コンピューター、カメラ、電化製品すべて大好きだ。『TAAB』を1972年にプレイし、観客を困惑させたのを覚えている。今回はビデオで字幕をつけるんだ。だからよりわかり易いかもしれない。お互いチャレンジするのはエキサイティングだ。

──今回は『ジェラルドの汚れなき世界』と『ジェラルドの汚れなき世界 2』の完全再現ということですが、この2枚のアルバムそれぞれについて、ライヴで再現するにあたって意識していることを教えてください。

イアン:『TAAB』は1972年にUKツアー、ヨーロッパで数回、日本、アメリカで2回のツアーで演奏した。完全再現ではではなかったが。そして40年後、今度は本当にレコーディングされた通り再現する。それぞれのミュージシャンはツアーが始まる前に各自で準備したんだ。よって、スタジオでのリハーサル時には作品を熟知していた。そして10日間リハを行い、ビデオと照明のキュー出しも確認した。指が良く動くようにきっちり練習をした!

──今回の再現ライヴについて、以前、“ビジュアル面も加えより演劇的なショーになる”とコメントしていましたが、ステージセットやショーの内容について、今の時点で明かせることがあったら教えてください。

イアン:過去のツアーに比べてより演劇的要素を含んだロックコンサートだ。映像もあり、パフォーマーもいる。ステージ上で何人もの老人が楽しんでいるのを見られるよ。私達はこのショーを本当に楽しんでいる。

──今回来日するにあたって、もっとも楽しみにしていることは何ですか?

イアン:食べること、寝ること、写真を何枚か撮ること。新しい Fuji X-E1でね。レンズはF1.4 35 mm primeだ。そしてもちろんステージ上で三響フルートを吹くこと。

──日本のジェスロ・タル ファン、ロックファンにメッセージを!

イアン:『THE WALKING DEAD(http://www.amctv.com/shows/the-walking-dead)』を見てくれ。義理の息子のAndrew Lincolnが主演で、彼は是非日本に行ってプロモーションをしたがっている。彼は日本料理を作るのも大好きで、キッチンで尖がったナイフを振り回している。

■ジェラルド・ボストックから特別なメッセージ:

みんな元気か? そうだったら良いけどね。久しぶりにみんなに会えるのが楽しみだけど、僕はあまり元気ないんだ。ベラルーシで強盗に遭って、パスポートもクレジットカードも全部盗まれたんだ。だから僕の銀行口座まで金を振り込んでくれ。イギリスのOld Rectory, Mulberry Lane, St Cleve。君の銀行口座情報とパスワードも忘れずに教えてくれ。

■来日予定メンバー
イアン・アンダーソン(vo, flute)
フローリアン・オパーレ(g)
デヴィッド・グッディアー(b)
スコット・ハモンド(ds)
ジョン・オハラ(key)
ライアン・オドネル(vo, stage antics)

<公演日程>
4月15日(月) 大阪 サンケイホールブリーゼ
[問]大阪ウドー音楽事務所 06-6341-4506
4月16日(火) 東京 TOKYO DOME CITY HALL
[問]ウドー音楽事務所 03-3402-5999
4月17日(水)川崎 CLUB CITTA'
[問]CLUB CITTA' 044-246-8888

◆ウドー音楽事務所
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