【インタビュー】木村大「いろいろなジャンルのギタープレイを演奏して“クラシックギタリスト”というよりも“ギタリスト木村大”になれた」

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■「SPANISH FLY」は一気に弾き切って録音した
■最後に“Yeah!”って叫んだほどのスッピン状態

──多感な少年時代にそれらの音楽を聴いて育った木村さんが、『HERO』というタイトルでトリビュート・アルバムをリリースするわけですが、選曲の基準はギタリストありきのものですか? それとも楽曲ありきですか?

木村:その両方がすごく大事で。選考の順番はアーティストからだったんですが、彼らが書いたオリジナル曲だったり、代表曲だったりが一番重要なことでした。

──木村さんのオリジナルを除く10曲10人のギタリストは、すべて自身のギターヒーローと言っていいですか?

木村:はい。10代とか20代前半の頃は、ハイテクニカルに弾きこなすのが上手いギタリストだと思う傾向にあったので、当時の自分だったら入れてないギタリストかもしれないですが、それが今はギターっていろんな弾き方があっていいと思っているんです。もちろん速いとか上手いとかは、プレイヤーとして当然必要なんですが、それは10ある表現のなかの2つか3つの要素でいい。良い音で聴かせることだったり、良い楽曲を聴かせるということが大切で。ギターは、幅広い人に愛される楽器だし、人を喜ばせる楽器だから。

──そういう意味で、いわゆる王道ギタリストのカバーに加えて、スティングの「FRAGILE」をはじめ「LOVIN' YOU」など、歌の印象が強いけどギターが素晴らしい楽曲からのセレクトもあるのでしょうか?

木村:その通りです。やっぱりスティングはすごい。音楽を伝えるという意味では本当に芯のあるアーティストですね。それに彼は、中南米のクラシックギタリストが弾く曲とかもかなり弾いていて、ギタリストとしても尊敬できるんです。「LOVIN' YOU」はミニー・リパートンのイメージが強いと思うんですが、実はデヴィッドTウォーカーというスタジオ系のジャズギタリストが、ソロで弾いているんですね。鈴が鳴っているような感じや泣きのフレーズもボンボン出てくる。オトナな音楽のギターヒーローという位置づけで。だから、いろんなタイプのギタリストがいるというところで、歌ものからもよりギタリストに精通している楽曲をピックアップしつつ、自分が本当に好きで弾きたい曲を集めて演奏することができました。

──たとえばヴァン・ヘイレンの「SPANISH FLY」やランディ・ローズの「DEE」などは、原曲もアコースティックなインストナンバーですが、それも選曲のポイントですか?

木村:アコースティックな楽曲問わず、70年代や80年代のロックスターが残してきた曲ってギャンギャンやるようなものではなくて、ゆったりとして良いなって感じられるものが多くあって。良い音楽がたくさん作られた時代感というか、それがそのまま財産だと思えるんです。それに僕らクラシックの音楽はゆっくり聴いたりするのが日常で、まさに今回セレクトした曲は、頭を振るようなものだけではないんです。

──ゆったりと言えども、「SPANISH FLY」はかなり速いですよ(笑)。

木村:ははは(笑)。それも、みんなピック弾きでコピーするでしょう。指弾きした「SPANISH FLY」は今まで見たことがなかったのでやっちゃおうと。レコーディングでは、途中で違う弦が鳴っちゃってるところもあるんだけど、そんなことは関係なしに、これは一気に弾き切ってしまおうって。よく聴くと、最後に“Yeah!”って言葉が入ってる(笑)。あれはもう一発で弾き切って出た言葉で。今どきのアルバムのなかでは珍しいかなっていうくらいのスッピン状態が録音されているんです。

──その空気感や気合いが音に封じ込められていますよね。アコースティックギターだったりガットギターだったりが原曲に存在しているものが多いなかで、「PURPLE HAZE」は原曲が思いっ切りファズギターですが?

木村:今回のアルバムはロックの王道に近いセレクトもあるし、そのルーツのなかではジミヘンはやっぱり外せなかった。黒人系なのに白人系のロックをしているという背景も含めてね。それに僕はずっとクラシックギターという楽器を弾いているんだけど、今回改めてロックはもちろん、ポップな要素を入れたクラシカルな作品を発表することになったとき、ジミヘンなくして成立しないなって。

──ギターヒーロー史としても、木村さん自身としても、アルバムに絶対に入れたかったアーティストのひとりであり、楽曲だったという。

木村:僕らのようなフィンガーピッキング系ギタリストが、ガット弦をかき鳴らして、そこにエキゾチックな要素を入れたらカッコいい「PURPLE HAZE」になるんじゃないかって。でも実際、最初に録ったときは、弾いてたらリズムが全然わからなくなっちゃったんですよ。「PURPLE HAZE」ってそういう魔力めいたものを持っている曲で、改めてジミヘンは神だなって感じる瞬間だった。“HAZE”は煙のほかに、イビるとか舐めんなよみたいな意味で使うこともあるから、ジミヘンにイビられちゃったという(笑)。

──ははは(笑)。では収録曲のなかで一番シビれた楽曲は?

木村:やっぱりエマーソン・レイク・アンド・パーマーの「THE SAGE(賢人)」かな。楽曲自体も非常に素晴らしいんだけど、歌詞がすごいんですよ。

──あら、先ほど歌詞は耳に入らないという話もありましたから、それは意外です(笑)。

木村:あ、そうですよね。さっきと違うこと言ってる(笑)。でもね、エマーソン・レイク・アンド・パーマーのいろいろな曲やギタープレイを聴いてみたなかで、「THE SAGE(賢人)」があまりにもいい曲だったから、どんな歌詞なのか気になって調べてみたんです。そうしたら、まさに自分の想像しているような世界観だったんですよ。排他的なところがある吟遊詩人の歌。世界を巡り巡って、人に喜びや幸せを問うんだけど、精神的な孤独を描いた歌詞で。その詞の内容と楽曲を合わせて、わ、すごい曲だなって改めて思った。だから僕のオリジナル以外では、アルバムの最後に持ってきたんです。

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