【インタビュー】阿部真央「最後の私」に込められた、膨大な感情の渦
この曲にこめられた膨大な感情の量を、どうやって言葉にすればいいだろう? 阿部真央のニューシングル「最後の私」は、痛切な失恋の情景を一編の小説かドラマのごとくせつなく美しく描きながら、未だ傷口から血のにじむような生々しい感情がほとばしるバラード・ナンバー。ストーリーテラー、メロディメイカー、ヴォーカリスト、そして全体のサウンドのプロデューサーとして、かつてない深みを手にした阿部真央の姿がはっきりと見えてくる、素晴らしいシングルだ。
◆「最後の私」PV映像
──いきなり、カップリングの話からしていいですか? 3~5曲目に去年のクリスマスイヴに東京でやった弾き語りライヴの曲が入っていて、これが本当に素晴らしいんですけども、あの日はどんなライヴでした?
阿部真央:あの日は、大阪で2週間前にライヴをやったあとで、その時の反省を生かせるようにと思ってたんです。
──反省というのは?
阿部真央:久々に一人でワンマン・ライヴをやって…たぶんほとんどがデビュー後についてくれたお客さんの前で、バンドの音に慣れているお客さんをどうやって一人で楽しませられるか?ということだったので。構成も全部一人で考えて、大阪の公演をやったんですけど…けっこう、ぐだぐだした空気になっちゃったんですね。私自身もすごい緊張してしまって。そのあとの東京公演だったので。「これだけタイトな構成にすれば大丈夫だと思うけど…」という気持ちで臨んで、結果としてはものすごくいい形で終われて、今後の弾き語りライヴをやっていくための布石みたいなライヴができたと思います。課題はいっぱい残りましたけど、ひとつひとつの楽曲はていねいに歌えたので、あとで聴いた時に「けっこういいな」と思えたんです。
──この3曲、「都合の良い女の唄」「モンロー」「デッドライン」を選んだ理由は、特に出来が良かったから?
阿部真央:ライヴ音源なので、ピッチがちゃんとしてるとか、歌詞を間違えてないとか、そういうこともあるんですけど、まず弾き語りのバージョンで聴いてほしい曲を選びました。「都合の良い女の唄」はライヴで初めてやった曲なんです。「モンロー」は打ち込みの曲なので、全然違うバージョンで楽しんでもらいたかったのと、「デッドライン」に関しては最初の頃からずっと人気の曲で、ライヴを音源化したことがなかったので。今までの阿部真央のコア・ファンも喜んでくれるし、このシングルのリード曲で初めて阿部真央に興味を持って聴いた人が「ライヴではこんなふうに歌うんだ」って、興味を持ってもらえるかな?と思った3曲なので、入れました。
──「モンロー」とか、みんなの大合唱になってるじゃないですか。しかも女子の声がすごく多い。
阿部真央:女の子は多いですね。男の人も増えてきましたけど、断然女性のほうが多い。同姓でそこまで応援してくれるのって、曲が本当に好きなんだなと思えるし、熱を感じます。
──ファンとの関係って、デビュー当時から比べて変わってきてると思います? 真央さんにとってファンとは?ということですけど。
──確かに去年のアルバム『戦いは終わらない』には、そういう意識をすごく感じました。
阿部真央:そうですね。考え方が変わったんだということを、作品としてやっとみんなに届けられるようになったという感じはします。インタビューでもそういうことをずっと言ってたし。
──その時期を経て、今回のシングルなんですけどね。「最後の私」。ええと…どこから聞きましょうか。
阿部真央:どこからでもどうぞ(笑)。
──ではまず、いつ頃作った曲ですか。
阿部真央:去年の9月の終わりくらいに作りました。恵比寿ガーデンプレイスの広場があるじゃないですか。あそこのベンチに座ってて、夜7時に、最初の4行が出てきたんです。歌詞とメロディが同時に出てきたんです。
──何か、その時に頭に浮かんでいたシチュエーションや、事件はあったんですか。
阿部真央:そのちょっと前にこういう恋をしてて、失恋をして…ある程度引きずってたんですね。大体いつも失恋の曲を書く時は、ちょっと回復してから書くことが多いんですけど、今回これを書き始めた時に、回復したとかしてないとか実感する前に曲が出てきちゃって…ということは、「曲が生まれかけているということは私が元気になりかけてるのかも」とか思ってたんだけど、書いていくにつれて、「あれ? まだ引きずってるかも」というのがわかった曲でもあって。自分の中では特殊な状態の中で生まれた曲という感じはしますね。傷心中にできた曲です。
──ああ、やっぱり…というか、最初にちょっともごもごしたのは、この曲に入ってる感情の量がハンパなかったんで、どう聞いていいか戸惑いがあったんですよ。何かとんでもない事件があったのかな?と思うぐらい、痛切な思いを感じたので。
阿部真央:ああ~。
──すっごくいい曲なんですけど、簡単に「いい曲ですね」とは言えない重みがあるというか。
阿部真央:でも、普通の恋ですよ(笑)。何か障害があったわけでもないし、ただフラれたという感じですけど、私の彼に対する気持ちが、意外と大きかったんでしょうね。そこは、書いていって私も気づいたんです。そんなに好きだったのか?って。
──そういうことって、よくあるんですか。書きながら自分でも驚くようなことって。
阿部真央:あんまりないんですけどね。だから、新しい感じでした。
──こういうリアルすぎる出来事を書く時って、どんな気持ちなんですか。ものすごく感情移入してしまうとか。
阿部真央:何を言いたいかをつむぎだしてる段階で、「こんなに好きだったんだな」ということは感じてるんですけど、泣きながら書いてるとかそういうことではなく、全然冷静に書いてましたね。そのへんは自分の中で、ものを作る作業に移行してるんだなと思います。
──曲を書く人ってすごい。…って、ここで個人の感想を言うのも何ですけど(笑)。自分ならこれほどの痛みをこれだけ的確な言葉にできるだろうか…とか思っちゃいました。
阿部真央:まぁでも、ほとんど嘘つきだと思いますよ、曲を書いてる人は(笑)。
──あはははは。ですかね。
阿部真央:すごく思うんだけど、曲を書く人、物語を書く人は、とんでもない嘘つきか、とんでもない被害妄想者だと思う。良く言うと、想像力がとっても豊かなんですよ。だから、それが仕事にできているうちは、本当にありがたいですよね。
──本当に心を打つ曲でした。
阿部真央:ありがとうございます。でも、この曲は嘘じゃないからね(笑)。
──今回も、サウンドは真央さんのセルフ・プロデュースですか。
阿部真央:いちおうセルフ・プロデュースですけど、前のアルバムほど私が中心に立ったわけではなく、もっとみんなでやった感が強いです。十川ともじさんにアレンジをお願いしたんですけど、「一番にはリズムを入れないでください」とか、「シンプルな構成だけどドラマチックにしたい」ということだけをお伝えしたら、それをものすごく的確に汲み取ってくださって。だからこれ、最初にアレンジしてもらった段階からほぼ変わってないんです。そう考えると、曲が生まれた段階、アレンジの段階、CDのパッケージに至るまで、全部がスムーズに行ったから、この曲はラッキーな子なんだなと思います。
──カップリング2曲目「短い言葉たったそれだけその一言だけ」もアコースティック・ギターと歌だけだし、今回のシングルは非常にシンプルで生々しい阿部真央の姿がぎゅっと詰まった、統一感のあるシングルだと思います。
阿部真央:最初から考えていたわけじゃないんですけど、「短い言葉たったそれだけその一言だけ」も、バンドでアレンジする案もあったんですけど、弾き語りでもカッコ良さが伝わるんじゃない?というディレクターさんのアイディアで。あんまり時間がなかったというのもあるんですけど、結果として弾き語りのライヴ音源があとに続くんで、自然ですよね。良かったなと思います。ラッキー(笑)。
──もしかして2013年はよりシンプルに生々しいサウンドと表現を追及するという、そういうメッセージがあるのかな?と思ったんですよね。
阿部真央:今思っているのは、もっと私が今発信したいものを自由に出して、でも聴いてる人が楽しいとかグッとくるという、うまいバランスを探しながら素直に曲を作っていくことです。サウンドやアレンジの面でも、もっと私の感覚でやってみたいです。ただ、前のアルバムで初めてセルフ・プロデュースをやったんですけど、すごいガチガチになってた感じがあったので、もっとみんなを信じて楽しもうと思って今回やってみたら、すごくクオリティの高いものができたので。今はそっちのほうがいいんだなと思ってます。その上で、自分の中に新しく出てきた俯瞰の眼を使って表現できる曲も書いて、どこまで私の視野が広がったかな?ということを探る1年にしたいですね。ガンガン行くぜ、というテンションではなく、もっといろいろ探したいなという、そういう年になると思います。
取材・文●宮本英夫
「最後の私」
2013年3月6日(水)発売
初回限定盤CD+DVD PCCA03794 \1,575(tax in)
1.最後の私
2.短い言葉たったそれだけその一言だけ
3.最後の私(Inst.)
阿部真央 弾き語りらいぶ 2012・冬~クリスマスだよ!来るでしょ?来るよね!?の巻~
4.都合の良い女
5.モンロー
6.デッドライン
DVD
阿部真央 弾き語りらいぶ 2012・冬~クリスマスだよ!来るでしょ?来るよね!?の巻~ドキュメント
通常盤CD Only PCCA.70361 \1,050(tax in)
1.最後の私
2.短い言葉たったそれだけその一言だけ
3.最後の私(Inst.)
◆阿部真央オフィシャルサイト
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