【インタビュー】吉井和哉、10年のソロキャリアを総括するベスト盤『18』完成「10年の片づけをして、ようやく綺麗になって“次の場所”へ行きます」

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吉井和哉の10年間のソロキャリアを網羅する、大作ベストアルバム『18』(読み:エイティーン)が2013年1月23日についにリリースされた。「色んな残骸を片付けるような感じで始まった10年」とも自ら言い、と同時に、新たなものを創るために色々な“さよなら”を積み重ねてきた、YOSHII LOVINSONと吉井和哉の10年間……。まさしく波乱万丈な年月から産み落とされた数々の楽曲達と、常に変わらず光を放ち続ける“吉井和哉のメロディ”が今回のベスト盤には凝縮されている。2月からスタートする全国ツアー<TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA>への期待も込めて、過去、現在、そして未来へと続く吉井和哉の変遷を追ってみよう。

◆今の自分で作るベストは、やっぱり、自分のコアな部分の楽曲が入っているものが作りたかった。

――今回のベストは、この10年のキャリアを総括するような内容であり、新曲も要所に配置されていることでさらなる先への予感を感じさせる内容だとも感じました。ご本人的には、この作品がリリースされる今、改めてどんなことを感じてらっしゃいますか?

吉井:やっぱり、僕のソロの10年の活動っていうのは、自分の試行錯誤の10年であったというかね。最初から大風呂敷広げて“ソロ!”っていう感じで、吉井和哉の得意なポップなナンバーが満載の1stアルバム、みたいな始まり方ではなくて、色んな残骸を片付けるような感じで始まった10年だったので……。常にアッパーな精神状態の楽曲ばかりでもないですし。もちろんその曲達は、僕自身が好きでやってたんですけどね。だから、ある程度のストーリーが必要だなっていうのもありましたし、一般的に言うヒット曲満載の“グレイテストヒッツ”のようなベストは、今回は僕は作れないなと。今の自分で作るベストは、やっぱり、自分のコアな部分の楽曲が入っているものが作りたかったんですよね。

――吉井さんのソロ活動の始まり、というと……。去年(2012年12月)の武道館で、そのソロ活動がスタートした当時の作品は特に当てはまりそうな気がするんですが、自身の昔の作品に対して“内省的”という表現を使われていましたね。

吉井:うん、多いですね。内省的というか、何て言ったら良いのかな……。あっ、そうそう。こないだね、“メメント・モリ”っていう言葉を初めて知ったんですよ。今さら、初めて(笑)。“メメント・モリ”って、死生観、常に死を意識して生きる、みたいな言葉ですよね? 簡単に言うと。

――みたいですね。確か、ラテン語で死生観のような意味のある言葉だったと思います。

吉井:で、「あなたの作品は“メメント・モリ”だ」って言われたことがあって、調べてみたら“そういう意味か……”、と。で、それは、死を意識するから生が強く出てくるのかなっていうのは、確かに否定はできないなと思ったんですよ。あっ、そうか、と。じゃあ、“メメント・モリ”って名前に今度はしようかなって。やめましたけど(笑)。

――(笑)YOSHII LOVINSON~吉井和哉、次のアーティストネームがメメント・モリ?

吉井:メメント・モリ・KAZUYA(笑)。まぁ、常に死を意識はしてないですけどね。でも、“人は儚い”っていうことを、小学生のときに父親が死んだときにも思いましたし。こないだまで元気だったのに、こんな風に動かなくなるんだな、って。幼い頃から、そういう儚さを見る機会がわりと多かったからこそ、余計に自分は一人の人間として目標を高くしたかったし。自分の音楽活動もそういう風に始まったところがあるので、もしかしたら、音楽の中に死生観が出てくる源はそこなのかなっていう。それと、さっきおっしゃられた1stアルバムの時期、『at the BLACK HOLE』という作品では、例えば“生きるのが嫌になった”ではなくて、新たな自分、さらなる自分、次なる人生への可能性を探したかったんですよね。“突っ込み”が入ったんですよ。THE YELLOW MONKEYの活動に、僕自身による“突っ込み”が。

――“突っ込み”、ですか?

吉井:うん。ものすごい人気もあったし、普通に、穏便にしていればずっと食べていけるだろうなと思ったし、たくさんのスタッフも抱えていたし。ただ、そこに“突っ込み”が入ったっていう。自分の中で、どうにも、大企業の社員になってるような気がして。そういう中で、少年時代に夢見ていたロックスターではなくて、この30代の半ばを過ぎたころに、これからどういう風に音楽を続けていくんだ? っていう意味でのリアルなロックをやるために……。僕は、やっぱり音楽しかできないので、音楽を続けていきたいために音楽を捨てたんですよね。

――うーん……。当時の状況を改めて振り返ると、今の言葉は重く響きますね。“音楽を続けていくために音楽を捨てた”っていう言葉は。

吉井:それは、言い方を変えると……。よく言いますけど、大事なものを守るために捨てなきゃいけないものって、きっとあると思うんですよね。捨てるって言い方は良くないかもしれないけど、当時は、なんていうか……。さらにハングリーな気持ちになってしまったんです、うん。

――“次へ”というワードが今出ましたが、“次の場所へ”という歌詞が新曲の「HEARTS」にもまさに出てきますね。あと、何かを捨てなければということと重ねると、“さよなら”っていう歌詞が「HEARTS」にも、同じく新曲の「血潮」にも出てきたり。ある意味、常に何かに“さよなら”しながら“次”へ向かっていくっていう、吉井さんが進んできた道が昔の作品にも今の作品にも同じように表れているのも興味深いです。

吉井:うん、うん。じゃあ、“さよなら”って名前にしますよ、今度は(笑)。

――(笑)吉井“さよなら”和哉。そんなに改名したいんですか?

吉井:(笑)まぁそれは、あれじゃないですか? さっき話した僕の人生のことももちろんその中にはあるし、あとは、昭和歌謡世代じゃないですかね。やっぱり、小っちゃいころから、能天気な明るい歌は好きじゃなかったし。明るい歌、好きでした? 小っちゃい頃から。ちょっと“うら寂しい”歌のほうが好きじゃなかった?

――そうですねぇ……。あぁ、今思い出したのは、例えば沢田研二さんです。♪片手に、ピストル……とか、小さい頃は確か好きでした。

吉井:「サムライ」だ。確かに、沢田研二さんはあまりないですよね、明るい歌は。作風的に、ああいうものが好きっていうクセもあるんじゃないかな。ちょっと哀愁のあるものが好きっていうクセが。“追うなよ……”みたいな(笑)。“追わないでくれ……”みたいな。で、寄ってこなければこないで、“なんで寄ってこないんだ!”って(笑)。でも、僕が歌う“さよなら”っていうのは、前向きな“さよなら”で。今までの10年の片づけをして、ようやく綺麗になって、“次の場所”へ行きます。次の場所へ行くためには、別れが必要な場合もある。で、また、その“別れ”は、聴いてくれる人にとっても……。例えば卒業だったり、家を出て都会に出るとか、そういう人にも必ず別れはあるわけじゃないですか。でもそれは、夢をつかむためのさよならだから、決してネガティブな意味ではないんですよね。

◆今は何を歌っても自分なりに消化できるので、今回のツアーでは貴重な曲も聴けると思いますよ。

――そして、これも武道館のMCで言われていたんですが、“雪解けをして……”っていう言葉も印象に残っています。YOSHII LOVINSONの時代から、何が“雪解け”して表れてきたんだとご自身では感じているんですか?

吉井:それはやっぱり、否定していた自分じゃないですかね。ソロの最初は、全部ではないですけど、自分の得意なところを封印していたというか。THE YELLOW MONKEYでやっていたことは僕が得意なことだったし、それじゃダメだと思って封印して始めた、ゼロから始めたスタートだと思うし。だから、そこで凍結したんですよね、自分が得意なものが。MCで言わせてもらったのは、細かいとこは違うかもしれないけど……。ゆったりと、緑の中で回っていた観覧車が、徐々に雪国になっていって、観覧車が止まって、それがずっと続いていたような気がしていて。でも、最近ようやく雪が溶けて、また日差しが出てきて、緑になって……。その、自分の頭の中に出てくる観覧車の画に、“スタバ”もあったんですよ。

――“-5度の雪国のスタバの横に昇る朝日”。それも、「HEARTS」の歌詞ですね。

吉井:そう。その画の中に人はあんまりいないんだけど。あのときは、そういう画が出てきたんじゃないですかね。

――じゃあ、そのソロを始めたときに封印した“得意技”を改めて言葉にするとしたら、どうですか?

吉井:それはね、例えば……。「血潮」は、スパニッシュっぽいギターが入っているんだけど、じゃあ本場のスパニッシュの人が聴いてスパニッシュなのかって言ったら、歌メロはスパニッシュと感じないかもしれないじゃないですか。ギターだけがスパニッシュで、もしかしたらすごく歌謡曲なメロディで。で、その元のメロディには、もしかしたら何の罪も無いのかなって思うようになってきて。罪っていうか、ジャンルは、ね。どこでどんな楽団がどの国でどうするとこんなジャンルになるっていうだけで、どの曲もやっぱり“僕のメロディ”なんだなっていう。

――そうですね。どの曲も“吉井和哉のメロディ”っていう表現は、納得です。さっきのお話の“哀愁”が、どこかに必ず漂ってもいるっていう共通項も含めて。

吉井:そうですね。そのことはまさに、去年の年末の<.HEARTS TOUR>で、自分でも気づいたものでもあって。というのは、あのツアーは、『at the BLACK HOLE』の1曲目でもある「20 GO」っていう曲から始まったんですけど。あの曲は、もうまさに、“吉井和哉のメロディなんて死んでしまえ”と思って作り始めた曲で。“流暢なメロディなんてサムいわ!”って感じの時期だったんで。でもやっぱり、脳はそう思っても、出てくるメロディは“吉井和哉のメロディ”なわけじゃないですか。で、ツアーの1曲目で歌った「20 GO」は、ちゃんと流暢なメロディになってしまっていたというか、あのときイメージしていた「20 GO」ではなくて、もう本当にごく自然にポップな1曲になっていた気がしたんですよ。だから、同じ楽曲でも、演る人とか演るテンションで変わるものなんだっていう思いはありましたね。だから、別の曲でも、「ノーパン」すらも、「HEARTS」も「血潮」も全てが結局、メロディだけ抽出すると吉井和哉の波形になっているというか。

――なるほど。芯にあるのが“吉井和哉のメロディ”、“吉井和哉の波形”で、それを包むサウンドが時期ごとに様々変化してきたというか。

吉井:そう。そのサウンドっていうのは、当時の自分のマイブームであったり、流行りであったり。で、僕のこの10年は、言ってみれば……。同世代や上の世代の方に聴いていただきたいのはもちろんなんですけど、なんとかして若い方にも聴いてもらえないかなと思ってやってきた10年だったんですよね。難しいことは色々出てくるんですけど。若い人は若い音楽を、やっぱり聴くしね。でも、そういうところに届くものを作りたいっていう意味でも、自分を常にキープしたいなっていうのはありますね。そして、若い人に観てもらうにはまだまだ表現方法が全然変わってくるだろうと思ってるんですけど、自分の中では。それこそ“吉井和哉”のイメージを守る部分は大切にしたうえで、より自由な表現方法はないかとか、色々模索してる感じです。

――次のツアーの内容を本格的に固める作業は、これからですか?

吉井:そうですね。(1月中旬の取材日の時点では)メンバーもまだ決まってないんですよ。スケジュールのことなど、色々、諸事情があって。ま、ツアーの初日に誰が立ってるか、ですね。自分がギターを持って立っているかもしれない。誰かボーカリストが横にいて。それで“グッバイ”か!? って(笑)。

――(笑)吉井和哉がボーカリストと“さよなら”って、誰も予想できないですよ。でも本当に、色々な予感や期待を持ちつつ、楽しみに待っています。

吉井:はい! バンド時代は何回か行ったんですけど、ソロでは初めて行くところばっかりでもあるので、今回のツアーは。で、今は何を歌っても自分なりに消化できるので、もう掟破りなバンド時代の曲も……。むしろ、“あんたたち、これ生で聴いたことないでしょ?”ぐらいの曲を入れていったりとか、ほとんど知らない曲をやっていこうかなと思ってるんで、貴重な曲も聴けると思いますよ。ていうのと、今回の<GOOD BY YOSHII KAZUYA>の一番の趣旨は、最終日の福島なので。これは、つい最近決めたスケジュールではやっぱりできないものなので……。“あの日”からプランを立てていたツアーであり、で、そこで「HEARTS」、そして「血潮」をどう聴いてもらえるか。こちらもどう表現できるか、それが全てだし。そこで、自分も、この10年をひとつ埋葬させたいと思うし。要は、“また一緒に頑張っていこうよ!”っていうことがやりたいんですよ。そのための<GOOD BY YOSHII KAZUYA>なんですよね。

取材・文●道明利友


BEST ALBUM
『18』
2013年1月23日発売
【通常盤】(2CD)
TOCT-29115 ¥3,500(tax in)
【DISC-1】
1. TALI
2. CALL ME
3. FINAL COUNTDOWN
4. WANTED AND SHEEP
5. トブヨウニ
6. HATE
7. 20 GO
8. BEAUTIFUL
9. MY FOOLISH HEART
10. BELIEVE
11. 朝日楼(朝日のあたる家)[新録・カヴァー]
12. HEARTS [新曲]
【DISC-2】
1. 点描のしくみ[新録]
2. 煩悩コントロール[新録]
3. 血潮[新曲]
4. 母いすゞ
5. ノーパン
6. ビルマニア
7. ONE DAY
8. バッカ
9. WINNER
10. Shine and Eternity
11. LOVE & PEACE
12. FLOWER

【初回限定盤】(3CD+DVD)
TOCT-29112 ¥5,800(tax in)
【DISC-1】【DISC-2】通常盤と同内容
【DISC-3】【DVD】詳細未定

【完全生産限定アナログ盤】
(180G HEAVY VINYL/アナログ盤4枚組+3CD+DVD)
※レコードバッグ、ポスター付:TOJT-29112 ¥12,000(tax in)
【アナログ盤4枚組】通常盤と同内容、【3CD+DVD】初回限定盤と同内容

<吉井和哉TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA>
2月23日(土)山梨/コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
2月27日(水)東京/府中の森芸術劇場どりーむホール
3月2日(土)山形/山形県県民会館
3月7日(木)兵庫/姫路市文化センター 大ホール
3月10日(日)徳島/鳴門市文化会館
3月13日(水)大阪/高槻現代劇場 大ホール
3月15日(金)鳥取/とりぎん文化会館 梨花ホール
3月17日(日)岐阜/土岐市文化プラザ・サンホール
3月20日(水)群馬/桐生市市民文化会館 シルクホール
3月23日(土)長野/長野ホクト文化ホール
3月29日(金)長崎/長崎ブリックホール
3月31日(日)大分/大分IICHIKOグランシアタ
4月5日(金)茨城/茨城県民文化センター
4月7日(日)秋田/秋田県民会館
4月12日(金)北海道/苫小牧市民会館 大ホール
4月14日(日)北海道/旭川市民文化会館 大ホール
4月20日(土)山口/下関市民会館 大ホール
4月21日(日)佐賀/佐賀市文化会館
4月27日(土)福井/福井フェニックスプラザ
4月29日(月)島根/島根県民会館
5月4日(土)静岡/富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
5月6日(月)愛知/一宮市市民会館
5月11日(土)和歌山/和歌山県民文化会館大ホール
5月12日(日)奈良/奈良県文化会館 国際ホール
5月18日(土)福島/あづま総合体育館

映画プログラム『YOSHII CINEMAS』
2013年1月11日(金)全国ロードショー
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか日本全国の映画館
出演:吉井和哉ほか
・「点描のしくみ Queen of Hearts」予告編
・「YOSHII KAZUYA .HEARTS TOUR 2012」
・「LOST -誰が彼を殺したか-」
http://yoshiicinemas.com

◆オフィシャル・サイト
◆EMI Music Japan
◆吉井和哉 オフィシャル YouTube チャンネル
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