ザ・ローリング・ストーンズ結成50周年、最も深く知る2人がストーンズの現在を語る Vol.2
元レコードコレクターズ編集長であり『クロスファイアー・ハリケーン』の5万字を超える日本盤解説書も執筆した寺田正典、そして日本唯一のストーンズ・オフィシャル・フォトグラファーの有賀幹夫という、日本におけるストーンズ有識者2大巨頭に訊くインタビュー、第2回である。ここでは『クロスファイアー・ハリケーン』に収められた映像から、知られざるストーンズの横顔を切り取ってみよう。
◆ザ・ローリング・ストーンズ画像
ザ・ローリング・ストーンズの波乱に満ちた道程を2時間で駆け抜ける『クロスファイアー・ハリケーン』日本盤は、12月19日(水)に世界最速発売となる。襲いくる音楽と映像の塊は、暴力的なほどだ。一度見ただけでは、圧倒的な情報量のハリケーンに巻き込まれてしまう可能性がある。もちろん、ストーンズの歩んできた混沌を"体験"することも本作の楽しみ方のひとつだが、貴重なレア・テイクの数々も丁寧にチェックしておきたい。そのために役立つのが、日本盤ブルーレイ/DVDのみに収録された解説書だ。寺田氏が、5万字を超える解説文を執筆。ボックスの蓋が閉まるギリギリの限界に挑戦したブックレットは、ストーンズ研究史において重要な位置を占めるであろう大作だ。ちなみに日本盤の解説書は、通常3千字~4千字が目安とされている。
寺田氏は解説書の執筆について、こう語る。
「執筆期間は約20日。主に、収録されている映像のソースを特定するのに苦労しました。特に1964~1967年頃までのライヴやニュース映像については、コマ送りで見て、データ本と突き合わせたり、写真集や当時の雑誌のグラビア、既発のDVDやブートレグ映像とも比較しながら、検証しています」
本作が監督ブレット・モーゲンのフィルターを通したストーンズ像を描いているため、時にはバンドの演奏フッテージと熱狂する観客、そして流れる音楽が、それぞれ別の公演から再構築したものもあった。
「『ミッドナイト・ランブラー』の演奏シーンのなどは、カットごとに使われている映像を区別するための簡単なメモを作るだけで、半日以上かかっています。調べが全く進まなくて、1日で原稿が5行しか進まないこともありました」──寺田正典
だが、そんな調査を経ることで寺田氏自身、学ぶことが多かったという。
「1967年、ポーランドのワルシャワで撮ったライヴ映像が少しだけ収録されていますが、観客のノリが凄い。当時の共産圏におけるロックの浸透度そのものを見直させる部分もありました」
「この解説書を書くことは、自分にとってのストーンズを捉え直す作業でもあった」(寺田氏)という解説書は、"もうひとつの『クロスファイアー・ハリケーン』"と呼ぶことの出来るものだ。
一方、有賀氏は『クロスファイアー・ハリケーン』の映画としての"ドラマ性"を指摘している。
「事実だけを羅列したドキュメンタリーではなく、ストーリーがわかりやすくなるような緩急とメリハリが付けられています。ストーンズの栄光を物語る作品であるのと同時に、悲哀も感じさせる。ブライアン・ジョーンズの挫折と死、ミック・テイラーのバンド離脱にしてもそうだし、1972年アメリカ・ツアーが凄まじい盛り上がりを迎えた後、ミック・ジャガーが楽屋に戻ってきて、座ってフッと一息つく。そしてその後のバンドの混乱や、個人的葛藤を描いた展開に『悲しみのアンジー』が効果的に使われていて、この曲の魅力を再認識しました」
そんなドラマの中で、映画のオープニングを飾り、ストーンズの絶頂期のひとつとして描かれているのが、1972年のアメリカ・ツアーだ。
「ギター・バンドとしてのストーンズが最強だった時期」──寺田正典
「ステージが最高だったのに加えて、トルーマン・カポーティが同行したり、アンディ・ウォーホルが見に来たり、エポックメイキングな出来事が多い。翌1973年のオーストラリア、ヨーロッパ・ツアーも素晴らしいけれど、ロック・カルチャー的影響力はこの時期のストーンズのひとつの特徴でしょう」──有賀幹夫
もうひとつ、1972年アメリカ・ツアーが『クロスファイアー・ハリケーン』の軸のひとつとして描写されているのは、"幻のドキュメンタリー"『コックサッカー・ブルース』へのブレット・モーゲン監督のオマージュという側面もあると考えられる。
「『コックサッカー・ブルース』は1972年アメリカ・ツアーにロバート・フランク監督が同行して撮影したもので、ストーンズのツアーの狂乱を描いていましたが、お蔵入りになってしまった作品。『クロスファイアー・ハリケーン』は、彼らの危険なイメージを改めて描き直したものだと言えます」(有賀氏)
「『クロスファイアー・ハリケーン』は1972年アメリカ・ツアーを報じるTV番組『ディック・キャヴェット・ショー』から始まる。番組そのものではなく、なぜその番組が映し出されたテレビ受像機のシーンから始めるんだろう?という疑問を持つ人もいるかもしれないけれど、このシーンが『コックサッカー・ブルース』からのものであるということを考えると、つじつまが合う。モーゲン監督は『コックサッカー・ブルース』からこの映画を始めようとしたのではないでしょうか」(寺田氏)
「『ミッドナイト・ランブラー』のシーンで、アップル・レコーズに務めていたことがある「ミス・オデール」ことクリス・オデールという女性がアイスクリームだかポテトサラダを艶めかしく食べるシーンが挿入されていますが、『コックサッカー・ブルース』の同曲のシーンにもまったく同じようなカットが挿入されている。そんなあたりからも、モーゲン監督がそうとう『コックサッカー・ブルース』を意識していたことが窺えます」(寺田氏)
デビュー50周年のアニヴァーサリー・イヤーを経て、新たな旅路へと乗り出していくストーンズ。第3回では、寺田・有賀両氏に、2013年のストーンズの展望を占ってもらおう。
ライブフォト撮影:有賀幹夫
12月13日@アメリカ・ニュージャージープルデンシャルセンター
インタビュワー:山崎智之
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