【インタビュー】20代最後に刻まれた、HYの心の結晶『Route29』

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2012年3月7日にリリースとなったアルバム『PARADE』から、9ヵ月という短いタームで登場することとなったHYの8thアルバム『Route29』。既に名作のひとつとして多くの人々に染みわたっているであろうNHK連続テレビ小説「純と愛」の主題歌「いちばん近くに」を擁する、HYからファンの皆へ向けた、愛と決意に満ち満ちた作品である。

◆HY画像

20代最後の作品という『Route29』に込められた、HYの等身大の気持ちとは、何か。

――8thアルバム『Route29』は、身近にあり過ぎてつい見落としてしまうような、でも、本当に大事なことはきっちりと歌にしていこう、という想いが伝わってくる作品だと感じました。

新里英之:まさに、そうですね! 前作『PARADE』を引っ提げたアリーナツアーをしながら、まずは「タイムカプセル」という曲を作るところから制作がスタートしました。NHKさんから沖縄放送局の“復帰40年”のテーマソングを一緒に作ってもらいたい、というオファーをいただいて生まれた曲で、HYの5人と、NHKのタイムカプセル企画に参加してくれた1700人以上の皆と一緒に作った歌でもあるんです。「どういうテーマで伝えていこうか?」と皆で話した時に、過去を振り返って重い戦争の話をしたりするのではなく、これからの明るい未来のことを考えて作って行こう、となって。それで、10年後、20年後、「未来はどうなっているのか?」について、未来へ手紙を書いてもらったんですけど、すごくいいことが書かれていて。そこからイメージしながら作っていきましたね。

名嘉俊:小学校の文集に掲げたような夢を実現する人って、本当に一握りなんだな、と感じさせる、1700通以上のいろいろなハガキでしたね。夢を諦めるのもひとつの答えだけども、またさらに新しい夢を見つけてるんだな、と思いました。この曲を作るにあたって、自分たちも久しぶりに「HYとしてどういう風に20周年目を迎えるのか?」について、ちゃんと話し合ったんですよね。20年目にはHYだけのプライベートスタジオがあって、スタジアム1本ではなくスタジアムツアーを回りたいね、じゃあ、そのためにどうするのか?とか……そういう話し合いが今回、『Route29』というタイトルにもつながったんですよ。20代最後だし、今の自分たちが日ごろ抱いてる想いを等身大で込めて行こう、って。

許田信介:今回、「至近距離恋愛」「RAPしてチン!」「流れ星」の3曲は、久しぶりに沖縄でレコーディングしたんですよ。そのことで、「沖縄にスタジオが欲しい!」という気持ちがより一層、深まりましたね。(仲宗根)泉が今、産休中なので(※11月2日、無事に出産)、東京まで来るのは辛いというのもあったんですけど、沖縄だとすごくリラックスしてレコーディングに挑めるし、この日録った曲を聴きながら帰れるっていうのもまた、いいんですよね。

――なるほど、精神面にも影響を与えるんですね。「いちばん近くに」は既に、NHK連続テレビ小説『純と愛』の主題歌としてOA中ですが、どのようにして生まれたんですか?

英之:最初は、自分の色を出すのが難しかったんです。プレッシャーもありましたし、やっぱり幅広い年齢のたくさんの方が聴いてくれるから、歌詞が皆にすっと入って来るような聴きやすい歌を作らなきゃいけない、という枠にハマッてしまって……。でも、最終的には初心に戻って書くことができました。この29年という年月を経験したからこそ、自分の汚い部分もすべて曝け出して書くことができた気がしています。でも、どうしてもうまく書けないところがあって、そこはいつも信じているメンバーに委ねよう、ということで泉に「アイディアある?」と訊いたら、3時間ぐらいでパッと書いて来たんですよ。僕が悩んでいた時間が無駄になるぐらい……最初から渡しておけばよかった(笑)。これは恋愛の歌でもあるし、夢に向かって頑張っていく気持ちも入っていて。お互い助け合いながら信じ合っていれば壁も絶対に乗り越えて行けるし、遠く離れたとしても、相手のことを思っていれば近くに感じて、また頑張って行ける…そういう“信じるパワー”を込めました。

――30歳を目前に控えている皆さんですが、大人になっていく過程で“HYらしさ”は形を変えながらも、軸の部分は、常にしっかりとありますよね。

俊:ブレないのはきっと、ファンの皆がいるからかな、と思います。気持ち、曲を書く時のイメージ、ライヴ……すべての根本にあるのはファンの皆だから。去年162本のライヴをやった後、今年7公演やったのですが、首都圏だけだから「地方からは行けないです」という声が多かったんですよ。そのファンの皆にとっては、HYに逢えない月日がすごく長くなるわけで。だったらどうしよう? もう一枚アルバム出そう! 会えない間この曲聴いといて! という想いもあって『Route29』を出したかったし。ファンの皆に逢いたい、一緒に歌いたい、と思い続ける日々の中で生まれた曲たちなんですよね。新しい道も皆で決めたし、「突き進んでいくぞ!」という想いを込めて付けたタイトルだし、そこもブレないですね。

――このアルバムを待っている皆さんに、どう届けたいですか?

宮里悠平:皆、日々いろいろあると思うんですよね。恋愛とか、夢に向かって歩いている中で、この作品が、悩んだ時に皆を支えてくれるような、一歩踏み出す勇気を与えてくれるようなアルバムだったらいいな、と思いますね。世界観も身近なものが多いので、身近な忘れがちなもの、生きて行く中で大切な人の存在にもっと気づいて、また新しい一歩を踏み出していける日々になってくれたらいいな、と思います。

俊:人生一度きりだ、と自分は思ってるし、その中で日々の過ごし方とか、迷いながら生きているんだけども、ポジティブに考えれば、迷うのも選択肢があるからこそ、ですよね。一歩踏み出す瞬間、このアルバムが背中を押してくれる時も、一緒に悩んでくれる時もあると思うんです。自分たちの日々の中に散らばったものをかき集めた全8曲なので、いつもそばに置いていてほしいな、と思いますね。

取材・文:大前多恵
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