柴田淳【インタビュー】『COVER 70's』メロディの濃さや強さが圧倒的なので、こういう曲作りたいんだよなぁと憧れながら唄いました
――ということは、今作は自分の中でも革新的なものだったってことじゃないですか?
◆柴田淳【インタビュー】『COVER 70's』~拡大画像~
柴田:プロデューサーさんにも「唄い方変わったね」とか「こういう歌も練習してきたんだね」って言われたんですが、唄い方を変えたわけでも練習したわけでもなく、本来、こういう風に唄いたかった。それを表現できる環境にできたことと、自分の曲ではこういうメロディが作れなかったっていうだけで、今までもこういう唄い方をしていたんですって言ったら、「新しい柴田淳が人の曲だと見えるんだね」って話になったりして。自分自身も「歌」って楽しいんだなって思えたんですよ。柴田淳の歌って難しくて楽しんでる暇がないから(笑)。参加ミュージシャンも、オリジナルに参加している人が来てくださったりして、みんな楽しんでくれたんですよね。だから今回、すごくいい化学反応が起こせたカバーアルバムになったのかなと思います。
――それは感じます。
柴田:でも、最初に言った通り、私なりにうまく唄えたぶん、次のオリジナルアルバムはどうしようってプレッシャーが生まれました。しかも今回カバーした曲は、マンモス級のヒット曲じゃないですか。これと比べられちゃうと……。私が歌手であればこういう想いは抱かなかったと思うんですよ。作家さんたちがプレッシャーになるだけで。でも私はシンガーソングライターじゃないですか。そうすると、リスナーの人はカバーだろうとオリジナルだろうと、結局同じ土俵に上げられちゃうので。「あぁ~、このあとにやるのはやっぱりキツいな」って感じ。比べてほしくない(笑)。名曲と言われるだけのパワーもあるし、演奏がなくても唄えちゃうメロディの濃さ、強さが圧倒的なので。やりながらこういう曲作りたいんだよなぁと憧れながらやってて。すごく勉強になりました。ホント、どうしよう。
――若干、今はネガティヴなんですね(笑)。
柴田:本当にどうしましょうね(笑)。
――今作の曲って、例えば「青春の影」なんて、いまだにこの歌詞はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか、歌詞の解釈に関して議論されていたりしますし、初回盤に収録された「卒業写真」は音楽の教科書に載っていたり、本当にポピュラーな曲ばかりですもんね。そのプレッシャーは理解できます。
柴田:そうなんです。でもねヒット曲なんですけど、後半の歌詞の内容はあまり知られてなかったみたいなのもあるんですね。じっくり聴いたらすごい歌詞だった!とか。「飛んでイスタンブール」もすごいひどい男に捨てられていたりするし、「22歳の別れ」なんて17歳で同棲していたり(笑)。みんなも唄ってたんだけど、実際、よーく聴いてみたら凄いねっていうのがたくさんあった。当時はグルーヴ感に乗せられて唄ってただけで、今回のレコーディングで「そうなんだ!」って思った曲が何曲もありましたね。これをオンタイムで聴いてた人すら新しい発見ってたくさんあると思いますよ。
――子供時代に聴いていた曲って、確かにすごいことを唄ってるけど、そのときは気付いてなかったっていうのが結構ありますよね。
柴田:私のオリジナルにも「紅蓮の月」とかドロドロの内容のものがあるんですけど、「子供が唄っています」とかファンの方から聞くんです。「大丈夫かなぁ?」ってなりますよね(笑)。ませてるなぁと思うけど、唄っている本人はませてるわけではないんですよね。呪文のように唄っているだけで意味なんて考えてない。
――子供の頃唄っていた曲ばかりということは、これは柴田さんの原点ですよね。
柴田:そうですね。全部の曲がお風呂で唄えちゃうんですよ。自分の曲は演奏がないと唄えないのが多くて。でもそれは、やっぱりメロディが弱いってことなんですよ。伴奏に助けられているということなので。ヒット曲ほどメロディが強くて唄いたくなる曲で、でもその唄いたくなるっていうのは、メロディが簡単だったりするんです。そういう曲ってお風呂で唄っても気持ちよくなってくるんです。それで「歌って気持ちいいなぁ」というのは学んだし原点だと思う。でも、こうやって改めて原点に触れて、私なんてまだまだ足下にも及ばないし、キャリアって言葉なんて10年では使えないなぁって思いました。ようやくスタート地点に立ったのかなって。
――原点に触れたことで精神的にも原点に戻ってるんですね。
柴田:そうですね。自分で潰してきた今までのカバー企画をなぜ出そうとしたのかというと、デビュー12年とか13年とか、中途半端な時期に出すと唐突になっちゃうし、ネタ切れなんだとかスランプなんだとか変に思われたくないというのもあって、10周年という一環で出せば形になるかなって思ったり。後は10年の歌唱力と私の世界を試したかった。オリジナルを越える越えないじゃなく、10年の柴田淳で唄ってみるとこうなったって作品になるかなぁと思ったし、やっぱりこんなに引っ張って今になったっていうのは、もし神様がいるならば10年という節目にやらされた感がありますね。今だったんだなって。今やることに意味がありそうだなって。10年やってきたというのは、次からは一回やったことを繰り返していくことだと思うんですね。そういう時の節目にこれをやらされた感があるから、運命じゃないけど、物事ってなるようになってるのかなって。
――見えない力に押されてできた作品なんですね。
柴田:はい。オリジナルアルバムよりも反響があるだろうなっていうのは思ってたんだけど、やっぱりその通りで。それが自分にとって、作詞作曲というところがなくても、歌手として受け入れられているんだっていう再確認になったりして、自信にもなったりしたわけで。それを持って、これからの10年歩いて行くんだなって。色んな巡り合わせを感じますね。
取材・文●大橋美貴子
『COVER 70's』
2012.10.31 リリース
VICL-63934 \3,300(tax in)
<初回限定盤特典>
・ボーナストラック『卒業写真』収録
・スリーブケース仕様
・本人描き下ろしライナーノーツ付き
・初回盤ブックレット限定フォト仕様
1.異邦人 (久保田早紀 1979年)
2.みずいろの雨 (八神純子 1978年)
3.迷い道 (渡辺 真知子 1977年)
4.あなた (小坂明子 1973年)
5.木綿のハンカチーフ (太田裕美 1976年)
6.飛んでイスタンブール (庄野真代 1978年)
7.春春の影(TULIP 1974年)
8.秋桜 (山口百恵 1977年)
9.東京 (マイ・ペース 1975年)
10.スカイレストラン (ハイ・ファイ・セット 1975年)
11.22才の別れ (風 1974年)
12.Mr.サマータイム (サーカス 1978年)
13.卒業写真 (荒井由実 1975年) ※初回限定盤のみ収録
◆柴田淳 オフィシャルサイト
◆ビクターエンタテインメント
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