【連載】Large House Satisfactionコラム「夢の中で絶望の淵」Vol.6「腐れモノづくり野郎に絶望」前編

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深夜零時、私鉄I線に乗った。


混み合った車内に偶然空席を見つけた俺は、そそくさとそこへ座り、鞄から文庫を取り出して読み始めた。


すると向かいの座席のあたりが俄かにざわつき出したので気になって顔をあげると、

俺の座った座席の斜め向かいに、珍妙なファッションの男が存在していた。



車内はなかなかの混み具合だったが、乗客達はその男の前を避けるように立っていた。

てゆーか避けてた。


その影響は俺の座席周辺にも及んでおり、

おかげで俺は、きゃつを観察することができた。





実に珍妙なファッションであった。


一見してこれといった特徴もない白いシャツの右袖口に、

血痕とみられる赤い染みがべったりとくっついていた。


そしてさらに珍妙なことにってゆーか恐ろしいことに、

左側の胸ポケット、つまりきゃつの心臓部分に、

錆びた鋼鉄の棒のようなものが突き刺さっており、血が滲んでいたのであった。



よく見るとそれは直径五ミリ程の針金を何本か束にしたものだった。

胸から突き出た部分は湾曲しており、長さはおよそ三十センチほどで、先端は鋭く尖っている。


極度に浅く腰掛けているところをみると、どうやら針金の束は貫通していて、背中からもそれが飛び出していることが予想された。


シャツとスボンには細かい汚れや擦ったようなやぶれ、ほつれなどがあり、

ついさっきなんらかの事故に巻き込まれたんじゃないか?と訝しく思うようないでたちであった。



ってここまで読んだ君らはえらく不審に思うんじゃないかな。

その気持ちもわかるけど、こうなると大抵、


「そんな即死確実みたいな感じの怪我をしている人を珍妙ですなーとか言って観察しているなんて鬼畜、人非人の猿豚野郎の所業だと思いますけど、あなたはどう思ってるんですか?ツイッターで拡散します。私はこんなの絶対、許せません!(>_<)」


などと話を最後まで聞かないでヒステリックに騒ぎ立てる愚昧なネットユーザーとかがいて、なんと世知辛く、暴力的な世の中だろう、これはやはり政治が、政治家が悪い!くぅっ!と叫んでサイゼリヤで安いワインを飲んで下痢をしたい気分になるが、

話は最後まで聞いていただきたい。
下痢はしたくないし。



俺がそんな重傷をおっているニーチャンを、繰り返し珍妙だ珍妙だと小憎らしい腐れオウムのように言ってるのは、

その重傷のニーチャンが馬鹿猿のように人をなめた薄ら笑いを浮かべていたからである。



▲絵:小林賢司
みんなもうわかってると思うけど、

きゃつの胸に突き刺さった邪悪な針金の束は、突き刺さったように見せかけた作り物だし、

もちろん血痕も偽物である。

汚れやほつれも、よく見れば明らかに不自然だった。



そら俺だって最初はギョッとしたよ。

だってなんか刺さってんだもん。
血も出てるし。


しかしこいつが、自分はちぉょっと浮世離れしてますよー?みたいな小癪な顔をして、つか、周囲の目なんて僕は全然気にしてないんだ。だってこれがありのままの僕だから。今、この瞬間、胸に針金の束を突き刺して存在している僕という存在こそが僕の、僕だけの宇宙。たまに友だちからも、お前は宇宙人みたいなヤツだな、と言われる始末 f^_^;)
でもだからスペシャルな存在であり続けてるっていうか。つか、みんな本当はスペシャルな存在であれるのに。僕はそこに気づいたっていうか。これが涅槃、ってやつ?とにかく僕はここで飄然として存在している僕が愛おしい。うふふ、みんなこんなにも飄然としている仏な僕を羨望の眼差しで見てる。感じてる。僕のいい感じを感じてる。僕がみんなに影響を与えてる。それが手にとるように、わかるんだ!
みんな、ボクにつづけ!


みたいな猪口才なことを考えてる感じを俺のソウルは感じた。

俺の周囲にいる乗客のソウルも、同じ感じを感じたであろう。



そして、途方もない怒りが己の睾丸のあたりから湧き上がってくる感じを、


俺は感じた。




続く

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