MUSIC LIFE+ Vol.9 THE WHO特集「コラム『さらば青春の光』」

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モッズ映画であり、それだけではない
かつて若者だった大人が、屈折した苦い心を見つめ直す映画

『さらば青春の光』
1979年発表
販売:ジェネオン・ユニバーサル
監督:フランク・ロダム
出演:フィル・ダニエルス、レスリー・アッシュ、スティング

1973年のザ・フーのアルバム『四重人格』をモチーフに映画化した同名作品だが、邦題は『さらば青春の光』。公開当時は、リーバイスを穿いたままシャワーで濡らして自分の足にフィットさせるとか、三つボタンのオーダー・メイド・スーツとか、モッズのファッション性ばかりが注目されていた感があるが、実はこの陳腐とも思えた邦題が、この映画の主題をいちばん端的に捉えていたのだった。モッズに属する主人公ジミーが、格好悪くもがく姿は、まさに美化されて「青春」と呼ばれる最低な時期をリアリスティックに描き出している。

主人公は、ロッカーズの幼馴染みが自分の仲間に袋だたきにされる姿を見て逃げ出し、メール・ボーイの仕事を馬鹿にしながらもそこで金を得、女の子を追いかけて結局裏切られ、親に反発しながらも家族と暮らし、憧れていたモッズ仲間がチップを受け取ってへつらうベル・ボーイだったことに失望する。つかのまの快楽を追い求めて、結局はすべてが台無しに。しかも主人公は、アメリカあたりの青春映画のヒーローのようにかっこよく死にもしない。あくまでもリアルな現実で生きていく。
そう、「青春」は、こんな風にドロドロしていて不器用で惨めなものだったんだ、ということを、大人になったかつての若者の心に苦い気持ちで思い起こさせるのが、アルバム『四重人格』の真髄なのだ。

ピート・タウンゼントは、当初セックス・ピストルズのジョン・ライドンに主役ジミーを考えており、フィルムテストまで行っていたが、その案は配給側によって却下され、当時無名だったフィル・ダニエルスがジミー役となった。1997年に行われたザ・フーのUS ツアー「四重人格ライブ」でエース・フェイス&ベル・ボーイ役を演じたビリー・アイドルいわく、パンクは、いわばモッズとロッカーズが融和したその後の姿のようなもの。ジョン・ライドンのモッズ姿、不器用で最低なジミー像もさぞ魅力的だったことだろう。

映画公開の前年9月には、キース・ムーンが死亡。映画制作自体を取りやめるという話も持ち上がっていた。しかしこの映画が公開されたことによって、映画『さらば青春の光』はカルト的な青春映画の金字塔になり、ザ・フーのアルバム『四重人格』もさらに再評価された。

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