grram、悩んでいる人や夢を追っている人に優しく伝わるミニアルバム『まぼろしのカタチ』大特集
聴いてくれている人の顔が見えたことで
支えられているという気持ちを持てた
久川実津紀(以下、久川):何が一番変わったかって言うと、“支えられている”っていう気持ちを持ったということですね。デビュー前ってまだライヴもしてませんし、YouTubeには音源が上がってましたけど、どんな人が聴いてくれているのか、顔がまったく見えていない状態ですから。でも、今はブログにコメントをくれたり、ライヴもやっているので、実際に私たちの音楽を聴いてくれている人の顔が目の前に見えるようなことが多いんですね。皆さんの顔を見たり、ブログのコメントを読んだりすると、“この人たちに支えられている”って実感が湧きます。
久川:はい。最近は、リリースイベントも含め、ライヴにも何度も来てくださって、顔を覚えてしまうくらいの方も増えてきたんです。デビュー前は辛いことがあっても、“誰にもわかってもらえない”とか、自分一人で抱えている気持ちが多かったんですけど、今は色んな人に支えられていることを思うことができるようになりました。
久川:だいぶ濃かったですね。「心の指すほうへ」を出したあとに全国10ヶ所でリリースイベントをやったんですよ。握手会もして、聴いてくださった方から直接、コメントを聴いたりもして。そういうのもすごく貴重な初めての経験でした。で、2作目は全国を回っているうちに書き溜めたものや、新たに感じた感情を歌詞に反映させて作りたいなと思ったんですよ。5月からレコーディングがスタートしたんですけど、それもまた濃い作業でしたね。
久川:自分も歌詞を書くようになって、デビューした後、特に“もっとこうしたい”“こういうことを伝えたい”という想いが強くなったんですよ。日常の景色を当たり前として見過ごすのではなく、通りすぎる人、落ちているゴミまでも、敏感に見るようになったんです。
久川:1stということもあって、前作は自己紹介のような部分も含めていたと思うんです。社会とか、周りのことを主観的に書いてるものが多かったんですよね。でも、今作は主観的というよりも、社会とか世界に感じて思ったことをもう少し客観的に描きたいなと全曲を通して思ったんです。そこは決定的に違いますね。
久川:“伝えよう”という気持ちで音楽を始めたんですけど、実際にライヴとかリリースイベントを経験して、伝える相手の姿が見えるようになったら、もっと伝えたいという気持ちが強まったんですよ。
久川:それも実際ありますね。顔が見えることによって。聴いてくださる方の顔が見えて一番感じたことは、自分が“私は思ってます”って書いたことを、みんなも“私も同じことを思ってます”って共感してくれているんだなぁということなんです。だったら今回はもっとピンポイントで、深くまでを表現したいと思いました。だから、視野は広くなっているんですけど、描いているのは日常の1シーンなんですよね。そういう日常を切り取った形で書くようにしました。描く範囲を広くしちゃうと、深くはならないから、そこはあえて。
久川:そうかもしれないですね。
伝えるっていうことを重心として考えている
誰もが感じたことのある感情を切り取ることで
久川:そうなんですよ。デモを聴いた時からハッとしたんですよ。自分の中での裏設定として、「あなたがいない」のその後。別れた彼の写真とか捨てたりするんですけど、まだ引きずってしまって。でも、前に進めない自分も嫌なんですよ。最後は、その人と出会えて感謝するまでにいたるんですけど。時間の経過を書きたくて。失恋した気持ちを解決できるのは時間の経過だと思うので。その経過を経て、最後に感謝。大サビの部分でガラッと雰囲気が変わるから、時間を進めることができたんですね。メロディとリンクしているんです。
久川:「旅立ちの朝に」も前作からつながっているところもあるんです。前作の「心の指すほうへ」は、デビュー前の夢を追いかける気持ち、あきらめない気持ちを描いてました。「旅立ちの朝に」は、デビューして、新しい世界へ踏み出した、grramの2歩目というか。そういうところから、この『まぼろしのカタチ』は始まるから、つながっているなぁって感じますね。
久川:そうですね(笑)。grramの意識の中で、伝えるっていうことを重心として考えているんですよ。すべてが嘘だと唄っている自分も伝え切れないし、誰もが感じたことのある感情、自分も感じたことのある感情を切り取ることで、伝えるっていう作業ができるかなって。レコーディングだけじゃなく、ライヴでも。
久川:これはライヴでぜひ盛り上がりたい一曲ですね。今回のアルバムで、この曲は、歌の部分で一番試行錯誤したレコーディングだったんですよ。
久川:どうしたらこのアップテンポな楽曲の中でリズム感のある唄い方ができるんだろうって。この曲って、メロディ自体、音程の高低差があまりないんです。そのなかで、どういう風にこのアップテンポな感じを歌で出して行くのか、いろいろ考えました。歌でリズムを作るには、作詞作業で工夫しないといけないなと思って、2番のサビの“♪好きって、悔しい。辛い。不安定。”とか。単語を並べることで、リズムも出て、楽しく唄えるんですよね。この1曲を作詞して唄えたことは、自分の中でも成長につながったかなぁと思います。
聴いてくれる方にも寄り添えるように前へ進もう
そういう風に思ってほしいし自分だってそう思いたい
久川:「世界の片隅で」は初めて詞から先に作ったんですよ。中学二年生のときから、自分の気持ちを書き溜めたノートがあって、この歌詞は、その中の一つなんです。今、このメッセージを唄いたいと思って、これに合わせて曲をつけてもらったんです。同じ歌詞に3パターンのメロディを作ってもらって、今、作品になったものがピッタリの世界観だったので、これを選んだんですけど。もう最初からこのメロディがつくのが決まってたみたいに、“私はこのメロディに乗せて、この曲を唄いたかった!”って思ったくらいだったんですよ。運命的なものを感じました。
久川:高校に入ってすぐくらいですね。
久川:はい。当時、私はすごく悩みが多かったんですね。ある明るい晴れた日に、街を歩いていたんです。すれ違う人がみんな笑顔に見えて。同じ、晴れた空の下にいるのに、自分だけ暗くて、太陽って自分のことは照らしてくれないんだなって思ったんです。“何も持たずに生まれてきて、何か背負う”というフレーズもあるんですけど、私は、これが人間の生き方なんだろうなと思ってるんです。
久川:人間って、結局、こういう生き方なんだろうなと思うんです。何かとみんな背負う。背負うものは人それぞれ違うんですけど。生まれて来たときは何も考えてなく、何も持っていないのに。どうして自分は悲しみや辛さを背負ってるんだろうって。ニュースを見てても思いますよね。
久川:そうですね。つまずいても、前へ進もうって、聴いてくれる方にも寄り添えるように。そういう風に思ってほしいし、自分だってそう思いたいし。
久川:はい。高校のときに書いたものとかは、今だからこそ唄えますね。その時は感情がリアルすぎて唄えなかったと思うんです。今だから、最後の3行の言葉も出て来るし、前向きなメッセージを伝えられる。全部を通して、この歌詞の内容は、今でも思っていますけど。悩みって繰り返すじゃないですか。悩むけど、また前を向けるし、でもまた悩む(笑)。だけど、新しい一歩を踏み出せる気持ちになってくれたらいいですね。
久川:サビの部分が広がって、壮大になっていくようなイメージが湧いたんですよ。空とか広いものを思い浮かべたんですよ。自分は自然が好きで、空っていうのは、雨の日も、晴れの日も、曇りもある。人の持つ、喜怒哀楽の感情をそのまま映しているような存在だなって思ってて。それは大切な人と過ごす日々もそうじゃないですか。それを空に重ねて書きはじめたんです。2番で自分が海になるんですけど、海って、水面に空を映しますよね。海を見れば、空が見えるというのは印象的な形式で。海と空はそういう関係なんだなって。自分は海で、大切な人は空で……そういうイメージで書き進めたんです。恋人とか、恋愛ソングに縛らず、大切な人をテーマにしているので、近くにいてくれる大切な人……家族や友達にも言えます。もっと大きな意味での人間愛ですね。
久川:そうです。自分のなりたい像ってきっと誰もが明確に持っているのに、それが実現されない限りは、自分の中ではまぼろしでしかない。でも、「旅立ちの朝に」の最後にあるんですけど、“道は無くても進んでいけば 道ができるはず”って。私たち自身も今、まさにそう思って活動をしているんです。今から進んで、新しい世界に入って、まだ目の前は煙のような状態で、先が明確に見えているわけじゃない。でも進んで行けば、道はできるはずと信じているんです。自分たちの思い描く姿……それがまぼろしのカタチなんですけど、それを自分達も見つけたいんですよ。聴いてくださる方々も、このアルバムを通して聴いて、自分の中で思い描く何か、自分の中にある“まぼろしのカタチ”ってなんだろうっていうのを見つけてもらえたら嬉しいですね。