陰陽座が名作『鬼子母神』を引っ提げて故郷での“凱旋”公演を敢行
その山には、子を連れた鬼が出るという──。
2011年12月にリリースした荘厳なコンセプト・アルバム『鬼子母神』で、改めてバンドの稀有なポテンシャルを示した陰陽座。現在は同作を引っ提げた全国ホール・ツアー<絶界の鬼子母神>を敢行中だが、その前半戦の3月30日に、瞬火(B/Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の弦楽器隊3名の出身地である愛媛県八幡浜市にて、キャリア初となる故郷での“凱旋”公演を行った。
会場の八幡浜市文化会館<ゆめみかん>には地元のみならず、各地からもファンが集結。今回はすべての公演において、新作の“完全再現”が披露されることがオフィシャルに発表されていたが、もちろん、この日の<第一部>もその趣旨に則ったものだ。
定刻の19時に場内が暗転すると、SEの始まりと共にまずは演奏陣が登場して定位置につく。そして、『組曲「鬼子母神」~啾啾』のピアノが響く中で黒猫(Vo)がゆっくりとステージ中央へ。ついに記念すべき一夜が幕を開けた。
アルバムのレコーディングに先駆けて、リーダーの瞬火は脚本となる戯曲『絶界の鬼子母神』を書き下ろしたのは周知の通りで、精緻な構成と揺るぎないメッセージの込められた内容は、音源にも余すところなく反映されていた。その手腕にも驚かされたが、実際の舞台におけるパフォーマンスは、まさに“完全以上”の巧みな再現だったのだから凄まじい。
『鬼子母神』の曲順通りに進むセットながら、それが予定調和にならないのは、何よりもバンド側が醸し出す、説得力のある強烈な緊張感だ。登場人物の内面を壮絶に演じ切る絶唱と、“絶界”の地で巻き起こる様々な光景を的確に紡いでいく演奏。その高い表現力は圧巻としか言いようがないほどで、原作に描かれた物語が立体的なものとして伝わってくる。
繰り出される楽曲に対し、時には歓喜の声をあげ、時には固唾を呑んで見守るオーディエンス。確立された世界観を一体となって作り上げようとする熱き思いも、それぞれの心の奥底にはあったのかもしれない。特に『組曲「鬼子母神」~鬼哭』でこの一大絵巻が締め括られた際、感涙にむせぶ人たちが多かったのも印象的だった。
なお、アンコールのときには「“凱旋”とは“勝って帰る”ことですが、(陰陽座は)何も勝ってない。故郷に錦を飾るなんて言いますが、何も飾ってない。“凱旋”ではなく、里帰り公演です」「八幡浜のみなさんに誇りを持ってもらえるようなバンドになりたい」(瞬火)といった、地元愛に溢れる数々のMCがあったことも付記しておきたい。彼らの真摯さが垣間見える言葉である。
現在もツアーは続いているため、全体の詳細についてはあえて触れずにおくが、断言したいのは、陰陽座に幾らかでも興味のある人は、この一連のライヴは絶対に見逃すべきではないということだ。無論、今の形態で『鬼子母神』をそのまま堪能できる機会は、少なくとも今後しばらくはないだろう。
知れば知るほど惹き付けられる深遠さ。歴代の名曲群がアトランダムに連射され、熱狂の空間を生み出す<第二部>も含め、結成から10年超の間、“上”ではなく“前”だけを見据えて着実に歩んできた彼らの集大成的な姿がここにはある。
文●土屋京輔
写真●菊地英二
<陰陽座 全国ツアー2012 『絶界の鬼子母神』>
3月20日(火・祝) 埼玉・戸田市文化会館
3月23日(金) 新潟・りゅーとぴあ劇場
3月25日(日) 宮城・仙台市青年文化センター
3月30日(金) 愛媛・八幡浜市文化会館「ゆめみかん」
4月1日(日) 愛知・中京大学文化市民会館プルニエホール
4月7日(土) 北海道・道新ホール
4月13日(金) 広島・アステールプラザ
4月15日(日) 福岡・アクロスイベントホール
4月20日(金) 大阪・NHKホール
4月22日(日) 東京・NHKホール
◆陰陽座 オフィシャルサイト
2011年12月にリリースした荘厳なコンセプト・アルバム『鬼子母神』で、改めてバンドの稀有なポテンシャルを示した陰陽座。現在は同作を引っ提げた全国ホール・ツアー<絶界の鬼子母神>を敢行中だが、その前半戦の3月30日に、瞬火(B/Vo)、招鬼(G)、狩姦(G)の弦楽器隊3名の出身地である愛媛県八幡浜市にて、キャリア初となる故郷での“凱旋”公演を行った。
会場の八幡浜市文化会館<ゆめみかん>には地元のみならず、各地からもファンが集結。今回はすべての公演において、新作の“完全再現”が披露されることがオフィシャルに発表されていたが、もちろん、この日の<第一部>もその趣旨に則ったものだ。
定刻の19時に場内が暗転すると、SEの始まりと共にまずは演奏陣が登場して定位置につく。そして、『組曲「鬼子母神」~啾啾』のピアノが響く中で黒猫(Vo)がゆっくりとステージ中央へ。ついに記念すべき一夜が幕を開けた。
アルバムのレコーディングに先駆けて、リーダーの瞬火は脚本となる戯曲『絶界の鬼子母神』を書き下ろしたのは周知の通りで、精緻な構成と揺るぎないメッセージの込められた内容は、音源にも余すところなく反映されていた。その手腕にも驚かされたが、実際の舞台におけるパフォーマンスは、まさに“完全以上”の巧みな再現だったのだから凄まじい。
『鬼子母神』の曲順通りに進むセットながら、それが予定調和にならないのは、何よりもバンド側が醸し出す、説得力のある強烈な緊張感だ。登場人物の内面を壮絶に演じ切る絶唱と、“絶界”の地で巻き起こる様々な光景を的確に紡いでいく演奏。その高い表現力は圧巻としか言いようがないほどで、原作に描かれた物語が立体的なものとして伝わってくる。
繰り出される楽曲に対し、時には歓喜の声をあげ、時には固唾を呑んで見守るオーディエンス。確立された世界観を一体となって作り上げようとする熱き思いも、それぞれの心の奥底にはあったのかもしれない。特に『組曲「鬼子母神」~鬼哭』でこの一大絵巻が締め括られた際、感涙にむせぶ人たちが多かったのも印象的だった。
なお、アンコールのときには「“凱旋”とは“勝って帰る”ことですが、(陰陽座は)何も勝ってない。故郷に錦を飾るなんて言いますが、何も飾ってない。“凱旋”ではなく、里帰り公演です」「八幡浜のみなさんに誇りを持ってもらえるようなバンドになりたい」(瞬火)といった、地元愛に溢れる数々のMCがあったことも付記しておきたい。彼らの真摯さが垣間見える言葉である。
現在もツアーは続いているため、全体の詳細についてはあえて触れずにおくが、断言したいのは、陰陽座に幾らかでも興味のある人は、この一連のライヴは絶対に見逃すべきではないということだ。無論、今の形態で『鬼子母神』をそのまま堪能できる機会は、少なくとも今後しばらくはないだろう。
知れば知るほど惹き付けられる深遠さ。歴代の名曲群がアトランダムに連射され、熱狂の空間を生み出す<第二部>も含め、結成から10年超の間、“上”ではなく“前”だけを見据えて着実に歩んできた彼らの集大成的な姿がここにはある。
文●土屋京輔
写真●菊地英二
<陰陽座 全国ツアー2012 『絶界の鬼子母神』>
3月20日(火・祝) 埼玉・戸田市文化会館
3月23日(金) 新潟・りゅーとぴあ劇場
3月25日(日) 宮城・仙台市青年文化センター
3月30日(金) 愛媛・八幡浜市文化会館「ゆめみかん」
4月1日(日) 愛知・中京大学文化市民会館プルニエホール
4月7日(土) 北海道・道新ホール
4月13日(金) 広島・アステールプラザ
4月15日(日) 福岡・アクロスイベントホール
4月20日(金) 大阪・NHKホール
4月22日(日) 東京・NHKホール
◆陰陽座 オフィシャルサイト