HYが乗り込んだRelation Ship、武道館から出航

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3月7日(水)にリリースされた7thアルバム『PARADE』を引っ提げ、自身4年ぶりとなるアリーナツアー<HY TI-CHI TA-CHI MI-CHI PARADE TOUR 2012>を開催中のHY。皮切りの日本武道館公演が、3月30日(金)・31日(土)、大成功裡に終わった。本ツアーでは、「まだ見ぬ宝物を探しに行こう」というアルバム・コンセプトを具現化。“Relation Ship”という名の船をイメージしたセットがアリーナ中央(センターステージはHY史上初!)に設営され、メンバーたちはなんと、客席から登場。大歓声の中ステージへと練り歩き、武道館はのっけから祝祭感に満たされた。「Relation Ship号へようこそ!皆の大切な夢を乗せてこの船は出発するよ!」という新里英之(Vo、G)の掛け声を合図に、一同は2時間半の航海へと“出航”した。

◆HY画像

待ち兼ねた観客の想いに応えるように、冒頭からアップチューンを畳み掛けて盛り上げてゆく。スクリーンに映し出されるお客さんは、小さな子どもから大人まで、男性も女性も皆、笑顔、笑顔、笑顔。感情を思い切り解放させているのが見てとれる。コール&レスポンスや呼吸を合わせたジャンプを繰り返すことで、ステージと観客席との一体感はみるみるうちに高まって行った。力強い歌、各メンバーのプレイヤーとしての成長の跡が刻まれたソロパート、5人の呼吸がピッタリと合っていることがわかる痛快なキメ。昨年、全都道府県162本にのぼるライヴハウスツアーを経験したことで、メンバー一人一人が成長を遂げると同時にHYとしての結束も増していることがわかる、豊かなバンドアンサンブルを響かせていた。

見せ方においてのインパクトも充分。しかし、ステージが回転したり、曲を賑やかに盛り上げる大勢のダンサーや合唱隊が登場したり、といった演出はただスケールアップする効果だけを狙ったものではない。“出演者”対“観客”という図式ではなく、あくまで一人の人間としてお客さん一人一人に話し掛けるような温かいMC同様、たとえ会場は広くても“遠い”とは感じさせない彼ららしい工夫の表れなのである。熱狂させるだけでなくキッチリと聴かせることができるのもHYの凄さで、あの名バラード「366日」では仲宗根泉(Vo・Key)が圧倒的な歌力を発揮、空気の色を瞬く間に染め変えてしまう。暗く落とされた照明の中、ファンが灯す色とりどりのサイリウムの輝きも美しく、終演後も永く残像として心に刻まれる情景となった。また、恒例の仲宗根泉が監修する企画“イーズーコーナー”では凝りに凝ったドラマ仕立てのラブストーリーを展開。衝撃の結末には、大歓声と爆笑が湧き起った。メンバーのキャラクターを存分に味わうことができる人間味に溢れた企画で、彼らのライヴの醍醐味の一つでもある。

ストレートなバンドサウンドだけに固執することなく、打ち込みに初挑戦した4つ打ちのダンスナンバー「ガジュマルビート」(『PARADE』のリード曲)も、HYワールドにしっかりと溶け込んでいたのが印象的だった。歌詞の通りミラーボールが光を反射する中、花道を歩いて観客へ近寄っていくメンバーたち。サウンドそのものは斬新なのだが、大地にしっかりと根を張り天に駆け上がるタフな生命力とダイナミズムを感じさせるという点では、ある意味、この曲もHYの王道だったのかもしれない。自分たちを閉じ込めるような枠を設定せず果敢に挑戦を繰り返し、HYというバンドの幹はこうしてどんどん太く強くなってゆくのだろう。

ライヴ終盤、「皆で一つになった瞬間、これだけのパワーが生まれることを忘れないでください。いつも支えてくれている皆さんはHYの宝物です」と、“6人目のメンバー”と呼ぶ大切なファンへ向けた想いを語る新里。会場を訪れた観客がメッセージを書き込んだフラッグをステージに掲げ、“繋がり”“連帯感”を表現していたのも彼ららしかった。一人だけでは実現が難しいことでも、仲間と力を合わせれば可能だということ。夢はただ見るものではなく、叶えるものだということ――ライヴを通じて彼らが訴えかけたシンプルで力強いメッセージの数々は、HYというバンドの存在自体が、その正しさの証明にもなっている。だからこそのリアリティ、説得力があるライヴだった。この後ツアーは、4月7日(土)・4月8日(日)の大阪城ホールをはじめ、21日(土)は日本ガイシホール、28日(土)はマリンメッセ福岡、5月13日(日)の沖縄コンベンションセンターでのファイナル公演まで4都市5公演を残している。観客の誰一人欠けても辿りつけない新しい景色を求めて、HYのパレードは続いてゆく。

ライター:大前多恵
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