amber grisが放つ、V-ROCKへの真摯なアティチュード
◆amber grisライブ画像
ステージ中央に置かれた楽器を一人ずつ手に取り、徐々に演奏が加わってゆくセッション風の荘重なオープニングを経て、「element of soul」で、ライブは重々しくダークな序章となった。水を打ったような緊張感が張り巡らされ、オーディエンスの集中力を一瞬でステージに引き込む。彼らのライブはまるでオーケストラやオペラといったクラシック音楽のコンサートのようだ。各曲間は楽章であり、拍手や喝采はマナー違反とばかりに、それぞれが余韻に浸り、静かに次の楽章を待つ。曲のテンションにかかわらず耳目を釘付けにされ、ステージの激しいアクションに対しレスポンスを返そうにも、つい見とれて“ノる”ことをためらうほどではないだろうか。どちらが意図するわけでもなく、ライブは鑑賞型のものとして自然と形成されてゆくようだ。
その理由の最たるは、手鞠の儚げで危うい美しさにある。彼の“主”に対してであろうか、時折宙を仰ぎ、語り、祈り、救いを求めるかのような仕草は魅了の一言に尽きる。シアトリカルに、楽曲の緩急、歌詞そのものを表現する姿は、バンドの精神性の主体たるフロントマンとして見事なまでであった。反面、あの華奢な肢体からは想像もつかない声量は、ライブを観て改めて驚嘆する。オフ・マイクでの慟哭には身震いを禁じえない。他のメンバーも持ち前のプレイアビリティを惜しみなく発揮し、ポテンシャルの高さをまざまざと魅せつける。特に印象的だったのは、wayne(G)のコーラスワークだ。核となるメロディを際立たせた存在感は圧倒的である。
全般的に、MCをほとんど挟まず曲間を空けないタフな構成であった。特に中盤の「amazing world」「hazy moon luv gaze.」「Awake or asleep」「H u m m i n g b a r d ' s」の間断無いアップテンポの応酬には、オーディエンスもようやく彼らの支配から“半分”解放され、ロックバンドのライブ然とした振る舞いを許された。それでもまだ、彼らが放つ香りのマジックに自由を奪われた者も少なくないが…。「Awake or asleep」では、突き上げられた拳と共に咆哮が芳香として押し寄せる。
2度のアンコールを受けラストを飾るのは、アルバムの1曲目「in sickness and in health…」であった。思い返せば、本日の一曲目はアルバムのラスト曲「element of soul」である。終わりとは何かの始まりであり、始まりは何かが終わる時でもある…。そんなメッセージも含まれていたのだろうか。セッション風のエンディングで、一人ずつ深々と一礼し去ってゆくメンバー。素敵な物語を綴ってくれた彼らへの暖かい拍手は鳴り止まない。芳しい残り香を惜しむように…。
結果として、これまでリリースされた楽曲をほぼ披露するという、今この時期にしかできない構成となっていた。おそらく今後ワンマンを行うにしても実現不可能なメニューである。2年間にわたる活動の集大成と言える貴重な日となった。
この日、フロアからは男性客の野太い声も飛び交い、およそロックキッズという風体ではない男性客も少数ながら見受けられた。このバンドが、特定のファン層以外にも影響を与えつつある証左だ。彼らamber grisの、音楽やヴィジュアル系そのものに対する真摯なアティチュードは、ある種の偏見(ヴィジュアル系に対する)を超えて波及する可能性を充分に秘めている。
写真:Reiko Arakawa(zoisite)
文:金本 英嗣
amber gris東名阪ワンマンツアー
<night walking toy soldiers.>
2011年9月30日(金)@渋谷O-WEST
1.element of soul
2.銀色のコフィン
3.Million Dead Baby Songs
4.Sinker.
-MC-
5.sunny day's seeker
6.海風と雨と最後の手紙
7.Room NO.13
8.浴室の人魚
9.悲しみ暮れる黄金丘陵
10.amazing world
11.hazy moon luv gaze.
12.Awake or asleep
13.H u m m i n g b a r d ' s
-MC-
14.snoozy and roll
15.ファラウェイ、ファラウェイ。
16.over flow girl's sick
17.Love in the first.
-MC-
18.feel me
-enc 1-
19.wishstar and sunlight and darkness.
20.lizard skin.
-enc 2-
21.in sickness and in health…
『CRUSH!2 -90's V-Rock best hit cover songs-』
11月23日発売
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