-異種格闘技対談-Ring【round2】第15回/真鍋昌平(漫画家)
-異種格闘対談-Ring【round2】第15回
真鍋昌平(漫画家) / 逹瑯(Vo) ムック
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真鍋:借金を課せられた人たちって、常に取り立ての恐怖に怯えながら追いつめられる生活の中で、本音をさらさなくなる。その心理を描くのはすごく面白いんじゃないかなと思ったんです。
真鍋:よろしくお願いします。あの、これよかったらどうぞ。(ご自身の作品をいくつかお土産で逹瑯に渡す)
逹瑯:え!? いいんですか!? すごく嬉しいんですけど!!!
逹瑯:お母さんかっ(笑)!
逹瑯:たしかに(笑)。でも、もしよかったら頂けたら嬉しいです!
真鍋:はい。全然いくらでも(笑)。
逹瑯:マジですか! ありがとうございます! めちゃめちゃ嬉しいんですけど!
真鍋:そう言ってもらえると嬉しいです。僕もムックの音源たくさん聴かせてもらったんです。『朽木の灯』がすごく好きでした。いいですね、ホントに。
逹瑯:ありがとうございます。嬉しいです。俺、真鍋さんの漫画大好きでよく読ませてもらってるんですけど、お顔を出されていらっしゃらないので、ずっとどんな人なんだろう? って自分の中でいろいろと妄想してたんですよ。
真鍋:で、どうでした(笑)?
逹瑯:ちょっとイメージと違いました(笑)。もっと怖い感じの人かと思ってましたもん。漫画が結構ハードめだったりするから、きっと真鍋さん自身も激しい感じの人なんだろうなって。
真鍋:そこなんですよ(笑)! 顔を表に出していないのは、作品のイメージを壊してしまうんじゃないかっていう思いがあるからなんです。
逹瑯:そういう理由なんですね。すごい。徹底してますね。
真鍋:いやいや(笑)。なんの先入観もなく入ってもらった方がいいかなと。僕、今回対談することになって、いろいろと逹瑯さんのことを調べさせてもらったんです。この連載も全部読んで来たんです。
逹瑯:すごい! ありがとうございます!
真鍋:漫画、お好きなんですね。
逹瑯:大好きなんですよ。
真鍋:前に若杉公徳さん(漫画家/『デトロイト・メタル・シティ』など)とも対談していらっしゃいましたもんね。読ませて頂きました。すごくお好きなんだなって伝わってきました。
真鍋:あははは。“この思わせぶりな終わり方は、次号休載だな”って思うって言ってましたもんね(笑)。たしかにそのとおりって感じですからね。鋭いです(笑)。
逹瑯:真鍋さんの漫画の面白いところは、とにかく設定が細かいとこ。すっごいですよね。俺、『闇金ウシジマくん』大好きなんですけど、あの作品もキャラ設定とかすごく細かい。ちょろっと出てくるおばちゃんの設定までかなり細かいから、読んでてびっくりしますもん。
真鍋:そうですね。一応、登場人物すべてに細かい設定を持たせているんです。どういう人で、何処で服を買ってて、何が好きで、普段何食ってるかとか。そういう細かい設定まで自分の中で決めるんですよ。『闇金ウシジマくん』の中で「楽園くん」っていうシリーズを描いたときなんかもすごくリサーチしました。原宿で流行ってる服のメーカーなんてまったく知らないから、まずみんなに原宿で服を買うなら何処だっていうのを聞いて、実際にいろんな店を1軒1軒まわって雰囲気を掴んで描いていったんです。
逹瑯:へぇ〜。すっごいですね。そういえば、知り合いのミュージシャンが、「楽園くん」に出てくるG10くんのモデルになった人が知り合いの美容師さんらしいとか言ってた気がするんですよね。実際にモデルになった人っていたんですか?
真鍋:“この人がモデル”っていう人は特にいなかったんですけど、当時有名なスタイリストさんがやっていた格好がすごく流行っていたんですよね。そこに通っている生徒達が独特のファッションで。長髪にサングラスに帽子っていう、旅人のような、女性のような、不思議なスタイルだったんで、面白そうだなと思ってモデルにしたというか。
逹瑯:なるほど。俺が髪下ろして帽子被ってサングラスしてると、いまだにTwitterとかで“G10くんG10くん”って言いますからね(笑)。
真鍋:逹瑯さんにはスタイリストさんがいらっしゃるんですか? その方がいつもスタイリングしていらっしゃるんですか?
逹瑯:ジャケット撮影とか雑誌の撮影とかになるとスタイリストさんにお願いすることが多いんですけど、今日みたいなラフな撮影はほぼ私服です。
真鍋:へぇ〜、そうなんですね。
逹瑯:真鍋さんとはたまにTwitterで絡ませてもらってて、真鍋さんのつぶやきも読ませてもらってるんですけど、よく取材されてますよね。
真鍋:そうですね。僕の場合、まずはそこからなんで。
逹瑯:“今から取材に行って来ます”ってつぶやいてた2時間くらい後に、“いや、世の中怖いことたくさんあるな……”ってつぶやいてるの見ると、この2時間でどんな怖い話聞いてきちゃったんだろ!?って思っちゃうんですよね(笑)。
真鍋:例えば、(『闇金ウシジマくん』の)「ギャル男」編って覚えてます?
逹瑯:はい。もちろん、覚えてます。
真鍋:あれで、ギャル男が樹海で縛られて虫だらけになるシーンあったじゃないですか。あれって、実際にあった話を聞いて描いてるんですよ。
逹瑯:あららら。
真鍋:殺してしまうのはアレなんで、ギリギリまで追いつめるというか。
逹瑯:おぉぉおおおおお……。じゃぁ、フィクションでありながらも、ノンフィクションに近いとこで描いてることもあるんですね。
真鍋:ありますね。
逹瑯:俺ね、新宿の裏の方のコインパーキングにハマーH2が停まってると、本当にウシジマくんがいるんじゃねぇか!?って、ちょっと怖くなりますからね(笑)。あたりキョロキョロしちゃったりなんかして。
真鍋:あははは。たしかに、新宿の裏の方って雰囲気怖いですからね。でも、実際に闇金の人たちから話を聞いてると、いろんなことを知ってるから話としてすごく面白いんですよ。
逹瑯:あぁ、それ解ります。そういうギリギリのところで生きてる人の話ってすごく深いっていうか、面白いですよね。俺も、地元に中学校の頃めちゃめちゃ喧嘩強くでヤンキーだった同級生がいるんですけど、昔からソイツが喧嘩で負けた話なんて聞いたことなかったんです。で、あるとき、喧嘩負けたことなんじゃない?って聞いたら、1回だけあるって言うんですよ。そしたら、隣町の暴走族の頭のヤツに負けたことがあったらしく、リベンジするために、ずっと毎日ソイツの学校で帰りに待ち伏せしてたって。
真鍋:そういう話も聞きますよね。喧嘩が強い人って負けを認めないらしく、勝つまで狙い続けるらしいんですよ。最初に音をあげた方が負けっていうルールというか。その執着心たるやものすごいらしいですからね。
逹瑯:怖いですよね(苦笑)。しかし、ウシジマくんの漫画は何がきっかけで生まれたんですか?
真鍋:前にやってた連載が終わって、いろいろと次の題材を考えてた中で、人間が極端に感情を吐き出せるモノを描きたいなと思ったんです。そのときに、編集の方から原作付きで監獄モノの作品をやってみないかって言われたんです。でも、それを描くには犯罪者の心理を描く必要があると思ったので、そこをリアルに描くことができないと思ったんですよ。
逹瑯:なるほど。そこまでリサーチできないですもんね。ちゃんと細かくリサーチして描く真鍋さんとしては、最初の段階での地固めができないと。
真鍋:そうなんです。そこでいろいろと話をした中で、『(ビッグコミック)スピリッツ』(小学館)の編集の方がやりたいという方向性と自分の描きたい方向性が近いと感じたのが、ウシジマくんで。
逹瑯:へぇ〜。ウシジマくんにはモデルがいるんですか?
真鍋:これも“この人”っていうモデルはいないんですけど、なんか、昆虫っぽい感じにしたかったんです。
逹瑯:あぁ〜あ。あんまり感情が見えない感じってことですね! すごく解る!
真鍋:それは良かった(笑)! ウシジマくんを始めたのが2003年くらいなんですけど、その頃は格差社会と言われるちょっと前くらいで、日本がちょっとヤバくなるんじゃないかって頃だったんですよね。ちょっと話それちゃいますけど、ムックのアルバムの『是空』とか『朽木の灯』あたりも、死に関することが、何かが確定した中でどうもがいて生きていこうかっていう歌詞の内容が多いように思えたんで、すごく惹かれたんです。高ぶった感情というか、吐き出される感情をすごく感じて。ウシジマくんも同じで、そこがテーマでもあったのですごく惹かれたんです。それなりに生きていこうとする人と、自分の持ってるモノすべてを吐き出して全力で生きていこうとする人と、いろいろとタイプがあると思うんですけど、みんなどう生きていっていいのか解らない人が多いと思うんですよ。そんな中で普通の人たちの生き方も描いていきたいなと思ったんです。借金を課せられた人たちって、常に取り立ての恐怖に怯えながら追いつめられる生活の中で、本音をさらさなくなるっていうその心理を描くのはすごく面白いんじゃないかなと思ったんです。同じ人間としてその心理はすごく理解できると思ったので。
逹瑯:なるほど(感心)。昆虫のような、感情が表に出ないウシジマくんの人間性の中で、一瞬見える人間っぽさがすごく好きなんですよね。「タクシードライバーくん」のお話のときの最後。タクシードライバーが手にした300万円の意味をウシジマくんが知って、その意味をタクシードライバーに知らせるところ。そのお金を自分のモノにしようとせず、相手に人間的な判断をしろと言わんばかりに敢えて突き放した言い方するとことか、すげぇ好きだったんですよね。コイツ、根はいいヤツなんだなって。根本的に優しいとこ持ってるヤツなんだろうなって。そういうとこすげぇ好きで惹かれるんですよね。
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