LOST IN TIME、「明るくても後ろ向きなら、暗くても前を向いていたい」

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「エモーショナル」という言葉を、そのまんまメロディと人間の声に置き換えたような、すさまじい表現力を持つ海北大輔の歌。「ひとことたりとも言い残すまい」みたいに、そのメロディをびっしりと覆っていく過剰な歌詞。そして、それらを支え、ドライヴさせる、シンプルだけど「足りないところがない」ギターとベースとドラムと、少々のピアノ。

◆LOST IN TIMEメッセージ映像
◆LOST IN TIME画像

LOST IN TIMEのニュー・アルバム『ロスト アンド ファウンド』は、そんなふうに、このバンドの「強み」だけでできているような、そんなすばらしい作品になった。このバンドのキャリア上、あらゆる意味で、これまでで最も広く深く聴き手に届くのは、このアルバムなんじゃないかと思う。海北大輔にきいた。

――まず、この『ロスト アンド ファウンド』を作り始める前、どういうものをイメージしていたのかから、教えていただけますか。

海北大輔:前作の『明日が聞こえる』(2009年3月4日リリース)を、録り終えるか終えないかぐらいのタイミングで、『明日が聞こえる』が、すごく手触りのやわらかい、開けた感じの作品にできたから、次は、優しくてきれいな肌触りのものだけがLOST IN TIMEじゃないよね、って。すごくインナーな、ざらっとした、ダークサイドな部分に向き合ったものにしたいなっていう話をしたのが、最初で。そこから、僕自身も少し暗いアルバムにしたい、っていうのがあって。暗いっていう言い方もヘンですけど、あの、無理に明るくしないアルバムにしたい、って。だから、曲で言っていることも、あんまり…11曲入ってるけれど、最後の「陽だまり」っていう曲を除いては、大きな意味では、ひとつのことしか歌っていないっていうか。そういうアルバムにはなりました。

――「暗いアルバム」っていうのは?

海北:なんていうんすかね…「暗くても前向き」っていうのが、テーマなんですよ。明るくて後ろ向きになるくらいだったら、暗くても前を向いていたい、っていう。自分に目が付いていて、自分の身体が正対していて、自分の心がそっちに向いているんだったら、それがいくらほかの人と違う向きだったとしても、それが自分にとって前なんだろうな、っていうか。ここ1~2年の歌いたいテーマが、そんな感じだったんです。

――『ロスト・アンド・ファウンド』ってアルバム・タイトルですが、「まさに!」っていう曲が並んでいますよね。

海北:ええ。このアルバム、全曲「ロスト」している瞬間があると思ってて。で、全曲「ファウンド」している瞬間がある気もするんですよ。あの、曲が出揃ったタイミングで…前のアルバムに「わすれもの」って曲があって、“忘れ物”っていう単語について、ずっと考えてたんですよね。で、その時に、忘れ物って、「あ、あれ忘れた!」とか、「これ、忘れ物だよ」って、誰かが気づいたり見つけたりして、初めて忘れ物になるのかな、って思ったんです。誰もが思い出さなかったら、忘れ物にすらなれていない、ただの「忘れ去られ物」じゃん、っていうことを、twitterでつぶやいたんですね。そしたら、そこでリプライをくれた人が、「だから英語圏では、忘れ物のことを“LOST AND FOUND”っていうんでしょうね」って。誰かが見つけないと、忘れ物ですらない、っていう。それ、すげえいい言葉だな、と思って。「決めた、これアルバムのタイトルにする」って、ひとりで盛り上がってたら、源ちゃん(大岡源一郎/ドラム)が「英語かぁ」って。僕ら、ずっと日本語のタイトルだったんですよ、アルバム。で、源ちゃんが「カタカナならありかな」って言ったから、カタカナにしたっていう(笑)。

――聴き心地としては、どちらかというと、「ファウンド」よりも「ロスト」の方が、よりリアルに伝わってくる気がするんだけど、ただ、「ああ、なくしたぁ」で止まっている歌じゃないんですよね、どれも。「なくすということは一体何か」という歌だったり、あるいは「なくすことを恐れすぎるともっと重要なことを間違えるんじゃないか」っていうようなところまで、踏み込んでいる歌だったり。

海北:あの、地球って、大きな円グラフっていう話を、どこかできいたことがあって。だから、それこそ、たとえば森がどんどん減っている、ってなっても、その分、その円グラフとして、地球が欠けていっているわけじゃなくて。結局、常に1でしかないというか、地球の重さは変わらないじゃないですか。だから、なくなった森の代わりに、何かがあるわけで。で、心の中も、きっとそうなんだろうなっていうのに、ちょっと気がついて。今までって、ボコンと何かがなくなった時に、バームクーヘンが切り取られたみたいに、ぽっかり穴が空いちゃったような気分になって。それを一所懸命埋めようとして、もがいていたことがすごく多くて。でも、心の円グラフも、結局円でしかないってことに気がついて。何かをなくして、一部分がボコンとへこんだ時に、そのへこんだ周りの部分は、むしろ増えているっていうことに気づいたというか。それは結構大きいですね。バッコシ何かがへこんだ時に、「埋めなきゃ」って必死にならなくても…なくなったっていうことに対して、今までで一番、未練がましさがないアルバムかもしれないです。ただ、その「なくなった」っていうことを、ほっとくっていうアルバムではないですけど。「なくしちゃった」ということに、ちゃんと目を向けなきゃいけないし。それを見つめて理解しないと、そのなくなった代わりに、何が入ってきているのかもわからないし。そんな感じですね。

――聴き手のことは、どういうふうに考えていますか。ファンはもちろんだけど、元ファンだった人や、まだ自分達の音楽を聴いたことがない人にどう届くのか、とか。

海北:まだ聴いたことがない人に対してのアプローチっていうのは、どこまでできるのかは正直わかんないけれど、まずは、今まで聴いてくれてた人だったり、前は聴いてたけど、僕らの最近のライヴとかから遠ざかってる人だったり、僕らと今まで何かしら接点を持っていた人達に、まずは届けていきたい。まずはそこからだろう、そこを飛び越えるっていうのは違う、っていうのはあります。
一段飛ばし、二段飛ばしっていうのが、ここまではまんないバンドだったんだな、っていう自覚も、ようやくついてきたから。まず内側から、より強固にしていく。で、それがふくらんでいく、っていうことが、一番の今のテーマだし。だから、「はじめまして」っていうよりも、まずは「ただいま」って言った時に「おかえり」って言ってくれる人のために歌を歌う、っていう心づもりです。それをやってから、次に行きたいです。

――ただ、このアルバムの曲達は、そんなに足元からじゃなくても、もっと遠くまで届くと思いますけどね。そういう、強い曲が集まっていると思いますけど。

海北:はい、ありがとうございます。

――あの、LOST IN TIMEって、デビューからもう8年経ちますけど、まだ一回も、自分達の持っている才能のスケールに、人気とかの状況のスケールが追いついたことがないと思うんですよね。すごくすばらしい歌だし、すごく濃いし、すごくリアルだけど、コアだから聴き手を選ぶ、っていう音楽じゃないと思うんです。特にこのアルバムを聴いて、「これ、もっと全然広がらないとおかしい音楽だよなあ」って、改めて感じたんですよね。

海北:まあ、それは、スケールを大きくしたい、っていうのも、もちろん考えてますよ。そういうタイミングが、どこかにあったらおもしろい、っていうのは考えてますけど。ただ、それを…今の僕らのテーマは、「フツフツ」なんですよ。「フツフツ」を、最終的に「コトコト」に持っていきたいんですよ。「フツフツ」が「グラグラ」になって、「グラグラ」が「グツグツ」になって、で、「グツグツ」がだんだん落ち着いて、「コトコト」になるっていう。だから、ちょっと火加減を間違えたら、爆発して、中のものが飛び散っちゃうんですよね。だから、それはもうやりたくないんですよ。飛び散るような爆発で、なんとかこう、打開していくんだ、っていうチャレンジを、前に何度かしようとして。でも、やっぱりどっかに無理があって、僕自身、そういうチャレンジをしたことによって、どうすればいいのかわかんなくなったり、曲を書けなくなったりした時期もあって。それは経験したからわかったんですけど、ほんと、はまんなかったんですよ、そのやり方。でも今は、自分たちのペースを、これまでで一番しっかり持てて活動できているんで。ただ、もちろん、そういうところを目指していないわけじゃないし。そういう場所、そういうフィールドもちゃんと見ていますよ。だから、バンドが、自分たちの理想とするところに行くために、一番譲っちゃいけない部分を、今までちょっと譲ってたのかな、っていうのに、ようやく気づけたって感じがしますね。それが何かっていうと…1stアルバムの時のインパクトって、結局、自分の中から出てきてるものを、すべてぶつけられたからだと思うんですよ。でも、続けているうちに、どっかで迷って、まわりの意見をききすぎたんですよ。でも今は一番…1stアルバムを作ってた時よりも、すごくわがままにやってます。それが、ようやく形になってきているっていう実感を、このアルバムが最初にくれた気がするんです。だから、これからは、自分が歌いたいことだったり、自分が歌いたいメロディーだったりっていうものに対して、もっともっとわがままになりますので、みなさんよろしく。

取材・文●北野 慎
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