凛として時雨、尽きることなく進化を続ける最新アルバム『still a Sigure virgin ?』特集

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凛として時雨

4thフルアルバム『still a Sigure virgin ?』2010.09.22リリース

冷静でありながらアグレッシヴ
初期衝動と計算しつくされた音塊
尽きることなく進化を続ける時雨の
最新アルバムが登場

INTERVIEW

──5月にイギリスで行われた凛として時雨(以下、時雨)にとっての初の海外公演ですが、渡英前と渡英後の印象はどのようなものだったのでしょう?

TK:イギリスのライブに関しては、僕の中では珍しく「ずっとやりたい」というのが明確にあったんですよ。元々僕はイギリスが凄く好きで、「いつかそういうところで音が鳴らせたら」という願いを持っていたんですけど、それが何年か経ち、準備が整って、やっと行けたのがこの5月でした。ただ「やってみたい」とは言いつつも、結構ひとりでイギリスへ写真を撮りに行っていたせいもあって、(メンバーの)皆でイギリスにいる状況が想像つかなかったんですよ。で、実際に行ってみたら、意外にも自然で(笑)……その予想外なところも含めて思っていた感じになりましたね。溶け込めている感じがあったので。あとは「ここでどう鳴らしたら広まるんだろう」という部分に意識が行ったので、それだけでも得たものは大きかったと思いますね。

──イギリスでの経験から得たものや、見ていた景色が、後の創作にフィードバックしたところはあったのでしょうか。

TK:プライベートで行く時って、まずギターを持っていかないじゃないですか。今回はもちろん機材があったので、ホテルにギターを持ち込んで、歌詞を書く作業とかしていたんですけど、それが割と今回のアルバムの曲達のワード、ワードで散りばめられています。曲を丸ごと作ったというのはなかったんですけど、出来てくるものが違うというのはありました。海外へ行くと皆そうだと思うんですけど、狭い世界から抜け出した感覚があるんですよね。そこが(イギリスの場合)薄暗かったりするんですけど、その感覚がまた気持ちよくて(笑)、別に何かから解き放たれたわけでもなく、異次元な感覚のところに存在している感じがしていました。「そういう感覚を言葉に書き留めておこう」と思っていて、今回は久々にイギリスで歌詞を書くことができました。

──イギリスで生まれた歌詞の成り立ちもそうですが、時雨の音源制作には、いい意味での、行き当たりばったり感が欠かせないような気がします。

TK:結構行き当たりばったりの究極かもしれませんね、ウチの音源制作に関しては(笑)。行き当たりばったりなんですけど、「違うな」というものに対しては異常に反応するので自ずと自分が求めてる音に向かっていけるんだと思います。取りあえず手にとったものがOKだったらそのまま進むので、たまたま録った楽器が曲の主軸になることはよくあったりします(笑)。そのたまたま手にとった楽器の音やプレイひとつが曲全体を構築しているので、後でデモから本チャンに変換していくときにまったく違うものになっちゃうことがかなり多いんですよ。今回は「12弦(ギター)を6弦に差し替えようかな?」というパートがあったんですけど、そうするとまったくニュアンスが変わって曲まで変わって聞こえてしまうんです。自分の弾いたものに導かれ、さらにその音に導かれながら音を重ねていくので、どれかひとつでも変わると、すべてが変わって聴こえてしまうんです。それがいい方向に行くこともあるんですけど、今回は割とそこに苦労しましたね。デモの段階で完成しているものが時雨の場合は多いので、「音色ひとつで曲が変わってしまうんだな」というのは今回も痛いほど感じました。

──特に苦労した場面は?

TK:「this is is this?」と「シャンディ」ですね。「シャンディ」は結果的に別のベクトルに変化していったわけですが、両方ともデモが凄くよかったんですよ。「this is is this?」に関しては、最終的にデモを完全に再現するところへと至ったんですけど、途中、3人でアレンジしながらより生っぽくしたりもしました。でもうまくハマらなくて……。僕は、フレーズ、パターン、歌詞、歌メロの考えられるものは全部試すんですけど、試した結果、最初のが一番良くて。で、今度は打ち込みだったりとか、自分が弾いたデモのベースとかを、もう1回本チャンにするために収録し直すわけですが、その作業が結構大変でしたね。

──「this is is this?」と「シャンディ」を初めて聴いた時、まだ見ぬ時雨と出会った印象を持ちました。その2曲と「I was music」を元にアルバムは世界を広げていったとのことですが、音楽の色がハッキリとしているぶん、それらにはデモのシナリオどおりのものが収められているのですか?

TK:「シャンディ」だけはブラッシュアップを続けていたんですけど、他の2曲についてはデモそのまんまという感じですね。色々とトライしてみたんですけど、最終的には最初の段階に戻って収録しました。「シャンディ」は180度変わった気がしますね。元々時雨でやると思っていなかった曲だったんですけど、何かの瞬間で「これを時雨のフォーマットにしてみたら面白いかも?」と思って試したらすごく良くなりそうだったのでそこからアレンジを進めていきました。。去年の3月頃ぐらいにはデモとして出来上がっていた曲なんですけど、時間を追うごとに色んなバージョンが生まれて、またどのバージョンもいいんですよ。だいたいの曲は最初か最後の段階が良かったりするんですけど、この曲に関してはどのバージョンにもよさがあるので、「いつかその曲だけのアルバムを出したいな」とさえ思っています(笑)。

──アートワーク中の「eF」はTKさんが過去に撮影された写真をそのまま使用しているとのことですが、昔の写真へ出会いに行きながら、今を封じ込めた音源に対して、どのような関係性を見ていたのですか。

TK:あの曲をイメージして撮影したものではないんです。そうすると何かを意図的に撮ろうとしてしまう感じがしたので…。どこかで雨が降っていたところを撮った昔の写真なんですけど、見えているようで見えていない感覚が曲のイメージと意図しないところで繋がってる様に感じて……選びました。

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