ミュージシャンに求められるのは、自己プロデュース能力

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1998年以降、CD売上の低下にあえぐ音楽業界は、デジタルにシフトする者、インフラ整備に奔走する者、自社にユーザを囲い込む者、あるいは力尽きる者等、混迷を極め、未だにその出口が見い出せないでいる。しかしこれはビジネスベースから見た音楽業界であって、当然昔からライブを中心に音楽活動を続ける現場は存在する。今までの音楽業界の長所、短所を踏まえ、自分たちのやり方で音楽を発信しようとしている春風堂は、CD売上がピークを迎えた1998年に結成された。

春風堂は、2010年6月17日21時~22時、「春風堂のたまじゃぬはTV」としてUstreamプロモーションを行なった。現在、右肩上がりのライブ動員数(平成20年2,200万人 ACPC調べ)や、SNS及び動画共有サービスの浸透等、手近なツールにユーザの情報源が寄ってきていることからも、多くのミュージシャンが積極的にUstreamを活用している。

彼らはUstreamで、5月にリリースとなった新譜「春風堂のきもち」を中心とした生ライブ、メンバーのトーク、最後には、収録楽曲「シトラス南武線」のプロモーションビデオをオンエアした。このプロモーションビデオは、南武線沿線に馴染みのあるメンバーが、南武線モチーフに心情を重ねた、どこか懐かしさを感じさせる楽曲で、多摩川~南武線ロケを敢行したほのぼのした作品である。

今回のUstream配信においては、初の試みというところで時折回線が滞ったり視聴者数も2桁に留まるなど課題も残したが、メンバーは手応えを感じているという。

「自分たちがエンジョイしつつ、これからも新しい試みをどんどん行なっていきたい」──松本健太郎/ギター、ヴォーカル)

音楽制作やセルフプロモーション環境において、いまやメジャーからインディまで、あらゆるアーティストが様々な武器を手に入れた。それをどのように利用し、オーディエンスに何を訴えかけていくのか…。音楽だけを純粋に作ってプレイしていれば良かった時代から、ミュージシャンは自己プロデュース能力を問われる時代に突入している。

「マスコミからコンシューマーに流れ込んでくる作られたムーブメントなんてもう要らない」…多くのオーディエンスがそう思っている現代だからこそ、オーディエンスとともに自己をさらけ出すUstreamの即効力は、今の時代に最も熱い訴求力と説得力を持つ。とはいえ、駄々漏れすること自体の面白さこそ、既に急速下降傾向。「何を駄々漏れしてくれるのか」皆が見たいと思う求心力をブランドに頼らない施策こそ、アーティストのアーティストたる感性の最も得意とすることのはずだ。

どうやらITは、アーティストをどんどん裸にしていくようだ。そしてそこにはコンシューマーの厳しい審美眼が光っている。行き着く先に残っているのは、求心力を持つアーティストの魂/ソウルだけなのかもしれない。焼畑農業のように、手垢にまみれた業界が一掃され、そこから新たな芽を吹くピュア・ソウルこそが、次代の音楽シーンを牽引していくのだろう。

「春風堂のきもち」
2010年5月8日発売
KDH-47 800円(税込)
1.アナナの気持ち
2.シトラス南武線(※PVあり)
3.□△○
4.スニーカーズ
(C)たまじゃぬはREC
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