村田和人、約30年のときを経て明かされる珠玉の未発表曲集『NOW RECORDING+』リリース大特集

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――このアルバムの曲を作った頃、30年くらい前と比べて、もっとも変わったと思うのはどんなところですか?

村田:やはりリズムですね。講師をしていて生徒たちに、“今日は「ロングトレイン・ランニング」弾くぞ”って、あのカッティングを6時間とか弾くんですよ。一日中あの16ビートを弾いていると、ギターがすごくうまくなるんですよ。昔はリズムは甘かったですからね。今回のボーナストラックのデモバージョンを聴けばわかりますけど、もう無茶苦茶なリズムでよくこれで4つ重ねて作ったなあ、と。勘で合わせてるって感じ。今はリズムも良くなってるので、アルバムのときとか、アンプラグドライヴとかで、ビートがよく出せるようになったんだと思いますね。

――曲作りに関してはどうですか?

村田:曲の組み立て方、アレンジの組み方は、デビューしたときから達郎さんのようなやり方、まあまったく同じではないですけど、アレンジの核になるものをひとつだけ持ってくるというやり方ですね。今回のアルバムでいえば、土着的なリズムとアコースティックギターの組み合わせがピタッとハマれば、そこからバリエーションが生まれるだろうと考えてました。まああまりごちゃごちゃ入れないようになったのは昔と違うところですね。この曲はストリングスがバーッと入ってて、こっちはギターがからんでて、とかじゃなくて、核になるものはひとつでいい。色々入れると全部同じになっちゃうし。アマチュア時代なんかはやみくもにギター弾いてたけど、ここはこれだけ、ここは弾かない、とか今はそういうことができるようになってる。

――では逆に変わらないと思うところは?

村田:詰めが甘いってとこですかね。ここまでいったらいいや、これでOKって、詰めない(笑)。それはそれで嫌いじゃないんですけどね。そこを詰めていくと楽しくなくなっちゃう気がして。だからスタジオに詰めて作業するのが嫌いなんですよ。もっと楽しくできないかなっていつも考えるんです。今回初めて自宅でレコーディングしたら、これはとても楽しい作業でしたね。ちょっと詰まったら正月のTVお笑い番組見て、またちょっとしたら戻って、というのは新鮮だったし、プレッシャーもないですしね。詰まったら数日たってまたやったっていい。そうやるとアイデアも出るし、アイデアがちょうどいいポイントにハマったりするんですよね。


――今回の10曲の中で、とくに思い入れのある曲は?

村田:まず1曲目の「Almond Paradise」は、アマチュア時代にやっていたアーモンドロッカというバンドのオープニング曲ということで作った曲なんです。アーモンドロッカっていうお菓子をベースの奴のところで食べてて、“これすごいおいしくて止まらない”とか言ってるうちに、バンド名これでいいんじゃない、なんて決まったんですけど。この曲はボーナストラックにも入ってますけど、ライヴバージョンはとっても長いんです。ソロも長くて2/3は演奏、みたいな。それがアマチュア時代の僕らのライヴのスタイルだったんです。曲数も少なかったんで、どうやったら曲を長くできるかって(笑)。途中でアレンジ変えたり、もう一人のギタリストにまたソロ弾かせたり。一人がローウェル・ジョージ、君はサンタナだ、なんて言って、途中からサンタナが出てくるアレンジにしちゃったり(笑)。

――以前ライヴでやっていた曲も多いんですね?

村田:「Happy Honeymoon」も、デビュー当時ライヴでやってましたね。最初からのファンの方は知ってる曲だと思います。「Tropical Party」もアマチュアのときにライヴだと20~30分くらいやってた。これは演奏も長いけど、客に歌わせようっていうコンセプトで。メンバーみんなで空き缶に米とかを詰めたシェイカーを何十個も作ってライヴハウスで配って、お客さんとみんなでシャカシャカやりながら歌うっていう。ちなみに、ボーナストラックの5曲は、「I Love You」がプロになって数年目のライヴですけど、それ以外はデモもライヴもみんなアマチュア時代のものです。

――このアルバムを作ることで、村田さん自身の30年を振り返ることにもなったと思いますが、改めて“村田和人サウンド”とはどんなものだと思いますか?

村田:“風”ですかね。この曲を作ってたアマチュア時代は、自分の音楽とか自分のヴォーカルは“風”だと思ってたんです。さわっと抜けていく風、車の窓を開けたみたいにブワッと来る風、生暖かい風、色いろあると思いますけど、自分の声の質は風だな、みんな涼しく感じるんじゃないかなと思ってましたね。プロになってもそのままそう思ってました。とくにこの数年はたばこをやめたせいで、声の高さとかトーンがアマチュア時代に戻ってきた。昔はライヴで自分の声を味わいながら聴くっていうことはなかったんですけど、今は自分の声が気持ちいいって感じながら歌える。それはより“風”に近いものを出せるようになったということだと思うんです。

――13年ぶりのアルバムということで、もう次作を期待するファンも多いと思いますが、その構想はできあがってますか?

村田:もともと今回は1枚のアルバムになるはずだったものの半分が完成したんで、まだ数曲残ってますから。でもそれが次ではないんです。実は三部作で考えていて、次は来年の夏に、また昔の村田っぽい、夏ド真ん中のアルバムを作ろうと思ってます。40代、50代の方たちが、思い出す夏、よみがえる夏、今過ごしている夏、そういうことがテーマですね。そしてその次が、アメリカンロックとかブリティッシュ・ブルースとか、村田の持っているロックを詰め込んだアルバム、という順になると思います。期待していてください。

取材・文●田澤 仁

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