THE YOUTH vs LOST IN TIME スペシャル対談
地元の仙台限定で、昨年9月にリリースしたシングル「Birthday Song」がFM局を中心に大ヒット。今年1月には全国発売となり、東名阪を巡る「Birthday Song」リリース記念ツアーが決定したTHE YOUTH。
ボーカルの中村維俊(まさとし)に、2月26日(火)の東京ツアーファイナルで共演するLOST IN TIMEの海北大輔、そしてTHE YOUTHのギタリストであり、現在LOST IN TIMEのサポートギタリストでもある三井律郎(りつお)を迎えての対談。
両ボーカリストによる“歌い上げ選手権”の軍配はいかに? それぞれのバンドの胸の内を、熱く語り尽くしてもらった。
◆とにかく中村くんの白シャツがまぶしい!
──お互いのバンドが知り合ったいきさつは、どんな感じだったんですか?
海北:うちらの前のギタリスト(榎本聖貴)と三井くんが同級生なんですよ。
三井:専門学校が一緒だったから、それぞれのバンドに入る前から知り合いで。お互いにライブを観に行ったりしているうちに、榎本がLOST IN TIMEに入って、俺がTHE YOUTHに入って、またメンバー間も交流が深まっていったって感じですね。
海北:LOST IN TIMEが東北にツアーして二回目ぐらいの、まだ東北に馴染みがないタイミングの頃からだよね。でも対バンはけっこう後なんだよね。
三井:俺がLOST IN TIMEのライブを観たのは、新宿ロフトが最初ですね。中村はCDを持ってたんだよね?
中村:俺、CD買ってましたからね。たまたま試聴して「わー、すげー良いバンドだ」と思って買って。そうしたら、いつの間にか出会ってました(笑)。
海北:俺は最初にTHE YOUTHのライブを観たの、いつだったかな。渋谷O-WESTは、すごく覚えてるんだよね。とにかく、中村くんの白シャツがまぶしい!って。
一同:爆笑
海北:なんでこんなキラッキラしてるんだろう?って。最近、ギラッギラになってきたけど(笑)。
中村:ギラギラ(笑)。俺はね、海北くんのライブを初めて観た時は、自分から生み出した曲を人に届けることにおいて、リスペクトしたいと思うぐらい「うわー、良いなぁ」って思いましたね。俺も本当は、ちゃんとこうやって大事に届けたいのに、って。
海北:俺、いちいちMCしてたもんね。一曲一曲ね。
中村:でもね、すげー俺の中でグッときちゃって。
──それを観て、何か影響を受けました?
三井:MCは、変わんねぇなー?(笑)
中村:MCは変わらないですけど(笑)。でも一曲に込める気持ちは随分、変わりましたね。対バンで一緒にまわらせてもらったツアーの時も、バンドのモチベーションを相当あげてくれたよね。
──2005年のLOST IN TIMEの「時計」ツアーの時ですね。
三井:2つのバンドでまわったんで、絆も深まって。
中村:打ち上げが盛り上がってね。
海北:秋田、ひどかったもんなー。
三井:そう、伝説の夜(笑)。めちゃめちゃ面白かったですよ。今までの打ち上げの中で、ダントツ1位ですよ。
海北:俺もいまだに指折りの打ち上げだよ。ちょっとしたバーで、ミニライブをやるようなステージがあったんですよ。
三井:ドラムセットとギターが2本あって。みんな酔っ払ってるんで、中村が「秋田の歌を作ろう!」って秋田にまつわるキーワードで歌い出して。源ちゃん(大岡源一郎)はドラム叩きながらラップし始めるし。
海北:そうそう(笑)。大セッション大会。みんな入れ替わり立ち替わりで。
中村:あれ面白かったね。
三井:あれで仲良くなったかな。
◆“歌い上げ選手権”の2トップとギターヒーロー
中村:律郎が今、LOST IN TIMEでギターをやってて、そこでまた近くなったのはあるよね。あと、今のこの時代に、ここまで歌い上げるか?っていうボーカリスト同士(笑)。
海北:その辺の自覚は、お互いありますよ(笑)。
三井:“歌い上げ選手権”があったら、かなりの2トップですよ(笑)。
──どちらも熱いボーカルですよね。
海北:やっぱね、歌に込める情念じゃないですけど、それがものすごくサラサラしてる時代に、こんだけアクが強い歌を歌う人は、俺にとっても衝撃ではありましたよ。中村くんは本当に歌い上げるからなぁ。
三井:歌い上げ過ぎじゃねぇかなって思う。
海北:いや、でもそれが良いんだよ。
中村:そういうボーカリスト然としたボーカリストが、今、目立たない時だから。
海北:なんていうんだろ…バンドに夢は見たいですよね、やってる側も。で、観てくれてる人にも夢を持って帰ってもらえたら、それが一番良いと思う。その辺のテーマとして、この2バンドは近いものを持ってると思うんですよ。
中村:そうだね。夢を持って帰ってもらいたいっていう気持ちは、たぶんお互いのバンドに通じて持ってるものだと思う。
海北:だから三井くんにLOST IN TIMEをやってもらえてるんだと思う。
三井:俺、ぜんぜん違和感なかったからね。
海北:ね。最初に音合わせた時に、びっくりして。なんだこれは?すごいぞ!っていうぐらい。やっぱ波長っていうんですかね。ものすごく気持ち良かったんですよ。
──LOST IN TIME用のギターを弾こう、とかってあるんですか?
三井:自分の中でもよく考えたりするんですけどね。LOST IN TIMEに入る時に、横内武将くん、榎本、弥吉淳二さん、それから海北くんを入れたら、俺は5人目のギタリストなわけですよ。そういう時に、自分なりに弾くのは簡単だけど、前任のギタリスト達がどういう風に解釈して弾いているのかっていうのを、CDから全部ちゃんと音を聴きとって、一個一個、俺なりに整理していったんですね。お客さんはそのCDを聴いてライブに来るわけだから。周りはね「そんなの好きにやれば良いんだよ、オマエはオマエだし」ってなるんだけど、一回それは置いといて、去年はそういう風にやってましたね。今年からは徐々に自分の色に染めていければ良いなって思います。
海北:だから三井くんはLOST IN TIMEに来ても、ファンのみんなだったり、周りの身近なバンドマンだったりの評価がすごく高くて。それって三井律郎っていうギタリストとしての懐の広さだと思うんですよ。
中村:フフッ(笑)。
三井:ごめんね、俺ら誉められるの慣れてないから(笑)。今、横を見たら中村がすっげー笑ってたから。狭い狭いって、THE YOUTHの中では言われてるのに。
中村:いやいや、そんなことない(笑)。
三井:でもそういう風にするのは、たぶんLOST IN TIMEだからだと思う。自分でCDも持ってて聴いてるし、愛もあるし。
中村:やっぱ愛だよね。
海北:愛ですね。俺でも本当に、時代を担うギターヒーローだと思うんですよ、みっちゃんは!
三井:俺ダメだ、こういうの。やめて(笑)。
海北:いや、そのぐらいみんなが応援したくなるギターを弾くプレイヤーだから。もっとたくさんの人に出会ってもらいたいなぁっていう気はしますよ。
──ギターヒーローというと例えば?
海北:ハイスタ(Hi-STANDARD)の健さん(横山健)以降、ギターヒーローって出てないですからね。10代の子供達が「やべー!」って目をキラッキラさせて、一生懸命マネをするタイプのギターの人って。布袋さん(布袋寅泰)を誰しもがマネしてて、BOOWYのフレーズを弾けないギタリストって、ほとんどいないと思うんですよ。世代を越えても、みんながすげーっていうそのすごさ。カッコイイなって思う。
三井:たぶん俺も、そういう人がいてほしいんだよ(笑)。自分がなりたいっていうより、やっぱいるべきだと思うしね、そういう人が。俺はそういう人にあこがれてきたから。
海北:身近なところにその可能性がある彼がいるから、すげーうれしい。THE YOUTHとLOST IN TIMEっていうのは、バンドの育った環境も通ってきた道もまったく違うかもしれないけど、ここへきて、兄弟ですよね。五分の盃を交わした仲ですよ。
◆バンドマンはずーっと文化祭気質かもしれない
三井:ここへきて、っていう感じするよね。LOST IN TIMEと一緒にライブをやったぐらいから。音楽のやり方も、ライブの仕方も変わったし。たぶん良い意味で変わったと思う。
──どんな部分の変化が大きかったですか?
三井:やっぱりメンタル部分が大きいかな。なんでバンドをやってるんだろう?って感じにみんながなっちゃって、バンドを続けていくことが難しくなった時期があって。誰しもぶち当たると思うんですよね。バンドを維持していくのは、すごくエネルギーがいることで。それが、より楽しんでみんながライブをできるようになったから。核となる部分は変わってないんですけど、昔のライブと比べるとメンバーの顔も違うだろうし。
──それはライブ盤『TO LIVE/TO LIFE』(2006年発売)を出して以降ですか?
中村:うん、そう。
三井:そうですね。それはデカかったなぁ。CDを出すなら、ここはもうライブ盤でしょう!って決めてから、うちらでエンジニアさんに頼みに行ったり、ミックスにも全部立ち会って「ここの音、もっとこうならないですかね」って言ったり。原点に戻ったような、高校生みたいに「バンドってやっぱ楽しいな」っていうところが、わかってきたような気はします。
──さすがに、音にすごく勢いがありますよね。
三井:ライブ盤ですからね(笑)。やっぱりうちらはライブが好きだし、武器だと思っているので。あと、最近なかなかライブ盤って無いなって。
海北:しかもCDだから、映像を観られるわけじゃないからね。やっぱ目で見る要素があると補完が利くでしょ。例えばどんなバンドでも良いのでライブ盤のDVDを、テレビを消して聴いてみてください。
三井:全然違うよね、音だけにすると。で、ライブ盤だから、今までうちら、こんなにリハーサルしたことなかったんじゃない?っていうぐらいリハーサルして(笑)。このライブを録りますって、お客さんも知ってて。
中村:すごい企画だったんだよ(笑)。
海北:バンドをやってる人間って、もしかしたらずーっと文化祭気質なのかもしれないよね。
三井:だってこのライブのタイトル“祭り”っていうんだよ(笑)。
海北:まんまじゃん(笑)。
三井:で、屋台とか入れたんだよね。かき氷屋さんと、チョコバナナ。それの手配も、うちのドラムの相澤くん(相澤大樹)がやってくれて。
海北:へえー(笑)。おもしれー。
三井:そう。お客さんが楽しくて、うちらも楽しめてってなると、どういうことがあるかなっていろいろ考えて。たこ焼きとかやったら良いんじゃねー?って言ったんだけど、ライブハウスのスタッフも「地下なので火は使えません」「やったことがないからわかりません」みたいな感じで(笑)。そこで、ひとつのことに向けてやっていく楽しさみたいなものが、明確になったと思います。
海北:自分達で作っていく、っていうことだよね。ライブハウスが当たり前のようにあって、自由は増えたけど、どんどん不自由になってる時代な気がするんですよ。もう自分が作らなくてもあるんだもん、そこに。なんでも。
◆遠くても僕らは繋がれる、でもあえて手紙を選ぶ
海北:今、作ってる曲のテーマなんだけど、繋がりたい繋がりたいって、よくみんなが口にしたりする。でもそう言いながら実は“繋がれてる”っていうことに、なんでみんな無頓着なんだろう?って。それを自覚した瞬間から、俺は繋がりたいって言えなくなって。しがらみっつーかさ。例えばケータイ電話もそうでしょ?それって繋がってるんじゃなくて、繋がれてるんだよ、って。その繋がれてる鎖みたいなものをほどきたいなぁって。ロックってそもそも、そうじゃねぇ?って思う。それを今年のテーマにして、LOST IN TIMEはやっていこうかなぁと思っているわけなんですけど。
三井:中村は、今年はどういう歌を書くの?
中村:俺ですか(笑)。でも俺はね、繋がりたいっていう話はよくわかる。その繋がり方なんじゃないかな。その方法。メール一本で、どんなに遠くても僕らは繋がれる。メールでやり取りすれば簡単な時代になっちゃってるんだけど、あえてそこで手紙を選ぶのがTHE YOUTHかなって思う。
海北:すげーわかる(笑)。下手すると直接会いに行っちゃうバンド。
中村:繋がりたい、の質が変わってきちゃったんだよね。軽々しくなってきちゃったけど、もっと大事なもの。会いに行くにはお金もかかるし、時間もかかる。だけどそれでも会いたいんだ、ってその繋がりがすごく大事なんじゃないかな。
海北:一回0.5円のメールとは、エライ違いなわけじゃんね。
中村:そうそう。やっぱりそういうところで、ちゃんと歌いたいなって思う。目を逸らさずに。
海北:そうね。その辺のテーマは本当に近いです、このふたつのバンドは。これからどんどん世の中の流れは速くなっていくばっかりだと思うけど、そこにどんどん逆行していくバンドになるんじゃないですかね。だってロックでしょう! ロックやってることがこれほど楽しい時代はないかもしれないですよ、そういう意味だと。ギターを鳴らして「ロックやってまーす」とか、けっしてサウンドメイクのところで使われる言葉じゃなくて。
三井:もともとそうだよね。
海北:もっと精神的な姿勢。THE YOUTH=若者達っていう看板をしょってるTHE YOUTHや、LOST IN TIMEが同じ世代として、まぁ言っちゃえば30才間近ですよ。でももっと若い人達がいっぱいいるところで、そういう人達よりも10代の衝動を感じながら、今バンドがやれている気はする。
三井:そうね。
◆バンドマンとしていろんな人とできる環境が幸せ
海北:LOST IN TIMEとして言わせてもらうと、もちろん俺とドラムの源ちゃんありきだったりはするけれど、そこに三井くんが入ってきてくれたのは、本当デカいですね。今ベースを弾いてくれているVOLA & THE ORIENTAL MACHINEっていうバンドの有江さん(有江嘉典)が、LOST IN TIMEの4人で飲んだ時に言ってたのは、それぞれのバンドっていうのは家でメンバーは家族だ、と。だからTHE YOUTHの中では中村くんがお父さん。LOST IN TIMEの中では俺がお父さん。で、他のメンバーは子ども。その子どもが他の家の家族になることも可能なんだよ。その家と家は廊下でつながってるんだ、って。それを言われた時に、俺はすごくグッときてね。だからこの2バンドの間には、東京と仙台に、すごく長い廊下が走ってるんですよね。東北道と国道4号線の間ぐらいにひっそり。
三井:途中、寒いよ(笑)。
海北:ぞうきんがけがすごく大変(笑)。
三井:俺はすごくその言葉に救われた感があって。有江さんはいろんなところで活躍している方だったので、そのヒントをくれたっていうのかな。もちろんタフでなきゃいけないし。有江さんを見てるとね、あれぐらいタフになりたいって思うぐらいパワフルで、いろんなところでできるのもうなずける。やっぱりバンドマンで楽器を弾く人は、できることならいろんな人とやってみたい、ってみんな思ってると思うので。それができる環境が幸せですね。
──実際に2つのバンドでギターを弾くのは大変ですか?
三井:楽しいっすよ。ごちゃごちゃにはならないですからね、不思議なもので。自分では同じ気持ちでやってるんですけど、やっぱ違うんだなって思う。例えばこの前もLOST IN TIMEがワンマンやって、その次の日にTHE YOUTHが2マンあって、その次の日にまたLOST IN TIMEがワンマン、みたいなことがあって。体力的にはさすがにちょっとしんどかったですけど、でもフレーズが飛んだとか、忘れちゃうってことはないよね。
中村:ないね。
◆長く続けないと、この先に良い時を迎えられない
海北:間違ってはいないと思うんですよね、こういうバンドが存在すること自体。必ず必要としてくれる人がいるし、いるって信じてるし。今こそ俺達は声を張り上げて歌わなきゃいけない時代だって、勝手に思い込んでるだけかもしれないですけど、それはすごく感じるんですよ。でも基本、2バンドとものんびり屋で“晴耕雨読”型バンドなんで。ね。
三井:ふたつのバンドとも、周りのスタッフに急かされるタイプ(笑)。
海北:でもそれぐらい、みんなが実はせかせか走ってるだけなのかもしれない。全力疾走を続けることのカッコ良さはもちろんあるし、やる以上は僕らも全力疾走ですけど。子供の運動会のお父さん的な?久しぶりに運動したら気持ちだけ先走って、転ぶ人続出っていう。それは微笑ましいことだけど、でもそれが毎日繰り広げられてる世の中な気がするんですよ。転んだ人がヨイショって立ち上がって、屈伸して、もう一回走ろうかっていう、その時間的猶予が無いように思い込まされちゃう。ゴールテープを誰が一番早く切ろうがどうでもよくて、そこに辿り着くことが目標なわけで。それなのに転んだ瞬間に「あ、もうダメだ」ってリタイヤしなきゃいけない気がしてしまう。勝ち組と負け組なんて、そんな一瞬の刹那を切り取ってどうするんだ? 20年後を見てみろよ、ってね。うさぎとカメですよ。
三井:バンドもそうだよ。長く続けないとね。一緒にやってたバンドも、いくつか解散してしまったバンドがあるんですけど。やっぱり切ないですよ。解散ライブに行って泣いちゃうけど、違うところで泣かしてよ、みたいな(笑)。
海北:解散ライブってなんであんなに良いんだろうね? それできるんだったら、解散しなくて良いじゃん!って。
中村:それは、すげーわかる(笑)。
三井:バンドが無くなる理由っていうのは、いろんな何かがあるんでしょうけど、多分。俺は経験したことないから、軽々しくは言えないですけど。ただ長い目で見れば、ダメな時もあるし良い時もあるし。長くやらないと、これから先、良い時を迎えられないですからね。
海北:「石の上にも三年」ってことわざがあるじゃないですか。あれって日本人独特らしいのね。例えばね、次の日に結果が出なかったらやめちゃうの?って。もしかしたら結果が出るのは死んだ後かもしれない。でもそれを想像できないくらい、みんな切羽詰まっちゃってるよね。時に、俺も見失いがちになるもんな。まぁお互いに事務所やレコード会社には、ものすごくイライラさせるバンドではあるかもしれないですけどね。
三井:そこの選手権も一位二位ぐらいかもしれない(笑)。
中村:相当そうでしょうね。
三井:誇れることじゃないけど。でも続けることが大変なのもわかったし。逆を返せば、長くできるバンドだなっていうことだと思います。
海北:そういう意味では、他のバンドではありえないようなストーリーの量はハンパじゃないと思いますよ。やっぱみんな浪花節が好きじゃないですか。CDが売れなくなったから無理やり浪花節的なストーリーをつけるようなことをしなくても、お互いにいろんな大変な思いはしてるし、ここから俺らがどうがんばっていくかが、非常にドラマチックだと思うんですよ。「あ、コイツら続いてるし、まだやろうと思ってるんだったら、俺も一回転んだぐらいでクヨクヨしてちゃいけねーな」って思ってもらえる存在になっていければ、それが一番良いことだと思う。かといって、失敗するのはいやですけどね。
三井:いやだよ、それは(笑)。
海北:もうギターが抜けるのも、これ以上いやです。はい。
一同:(笑)
◆同じ時期の「泥の道」と「花」
──お互いのバンドの好きな曲を一曲あげてもらえますか?
海北:俺は「恋をしていた」だな。あれは本当にやばい。俺、女だったらもうダダ濡れだね。
中村:はははは。
海北:やっぱ男目線だねって思うくだりがチラチラあるのが、男心にグッとくるんだよね。2番のサビの♪信じたかった…
中村:あぁ。♪許せなかった にじむ光に あなたを見失った 懐かしいとは言えなかった…
海北:そうそう。あそこで、やっぱ未練があるっていうのが男なんだよね。他にもあるんですけど。「泥の道」もやばいもんなぁ。アッパーな曲も好きなんですけど、中村くんがこれでもか!って歌い上げてる歌に、俺はひかれちゃうんだと思う。
三井・中村:(笑)
海北:♪うそ~つきだ~ ってところでね、ちょっと声がかすれる感じがね。やばいんですよ、本当に。
中村:ありがとうございます!(笑) 俺はいっぱいあるんだけど、やっぱりLOST IN TIMEのCDを買うきっかけになった曲は「花」だから。あれは今聴いても良いなぁ。
海北:♪季節を変える風が 心を貫いても もう二度とあの日と同じ花は咲かない。
中村:咲かない、っていうね。グッときますよね。
海北:要は、今日は今日でしかないっていうか。同じようなことは何回もくり返すけど…まぁいろんなものを当時から無くしてるんだな、俺は(笑)。
三井:ロストしてるんだな?
海北:いやぁ、名は体を表わすね。
一同:(笑)
中村:「花」は詞も良いし、俺は曲もすごく好きで。♪夢の~続きを~ の後の、♪笑ってたのは~もう昨日~のこと~ のところのカイちゃんの声がすげー良い!
海北:若いよね。ギラッギラしてるよ。
中村:そう、ギラギラしてる。
三井:いくつの時?
海北:ハタチとか21才だよね。2001年だから。
三井:THE YOUTHの「泥の道」と同じ時ぐらいだね。片や「泥の道」で、片や「花」だよ。タイトルからもう、歌い上げ選手権のタイトルだよね(笑)。
海北:本当だね。なんかあったんでしょうね。
──好きだった音楽は、お互いに近かったんですか?
海北:共通してルーツにあるのが、ブルーハーツとeasten youthなんですよ。
三井:途中まで一緒なんだよね。全然離れたところで育ってるのに。
中村:そうだね。どちらも熱い(笑)。
三井:そこから中村はシオンさんとか、もうちょっと渋い感じに。
海北:俺もブッチャーズ(bloodthirsty butchers)に行ったんですよ。
三井:掘っ下げていっちゃったんだよね、深いところへ。
中村:やっぱ、そこで光を放ってる人達の方が、より光って見える。
海北:お天道様の下よりね、洞窟の中の方が光るのは大変なんだ、って。今、THE YOUTHのヒロキくんがシオンさんの後ろでドラムを叩いているから、ライブを観に行って。「すげーな。これが新宿かー!」って、久しぶりに思うライブだった(笑)。
中村:そうだね、新宿だよね、やっぱり。
海北:そういう意味だと、うちらのライブを観た時に「これが下北か」とか、「これが熊谷か」とかって思ってもらえるような存在にならないといけないのかなとは思う。これだけバンドが増えた状況で続けていく以上は。だからTHE YOUTHは「これが仙台か」とかね。
三井:ははは。それは良いことだね。
中村:そうだね。
◆次代を担うギターヒーローの産声を
──今度、2月26日の“Birthday Song” TOURファイナルの渋谷O-Crestで、2マンでの競演が実現しますね。
海北:これは本当に、みっちゃんの、これからの次代を担うギタリストとしての、腕の見せ所だと思うので。
三井:ハードル上げたね、今(笑)。
海北:ぜひ観てほしいですね。新しいギターヒーローの産声が聞けると思います。
三井:やーめーてーよー。
一同:(笑)
三井:楽しんでやりたいなぁと思いまーす。
中村:いや、すげー楽しいライブになると思いますよ。
海北:俺もね、先にしっかり歌って、THE YOUTHで良い酒飲んで。お先に出来上がります、っていうのが目標かな。自分が良いライブをできないと、良い酒にならないですからね。
三井:そうだね。
──最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
海北:酸いも苦いも…甘いはあんまり経験したことないんで。いろいろ味わってきたヤツラがまだこうやってありがたいことに続いていて、しかもものすごく近い位置で2バンドともやれております。もしどっかでつまずいたり転んだりした人がいるなら、ぜひ観に来てほしいし、来られない人もそういうバンドがいるんだっていうことを、そういう人間がいるんだっていうことを、頭の片隅に置いといてください。
中村:この2バンドのライブから、何かすごく大事なもの…それは自分の価値観で良いんだけど、今まで考えもつかなかった新たな種が植えられて、そのうち芽が出たら、すごく幸せだなと思います。きっとそれがみつかるだろうしね。
海北・三井:うん。
中村:そういうライブにしたいと思うので、ぜひみなさん、観に来てください!
(Text 下村祥子)
<THE YOUTH“Birthday Song”TOUR with LOST IN TIME>
2008年2月26日(火) 東京・Shibuya O-Crest
ボーカルの中村維俊(まさとし)に、2月26日(火)の東京ツアーファイナルで共演するLOST IN TIMEの海北大輔、そしてTHE YOUTHのギタリストであり、現在LOST IN TIMEのサポートギタリストでもある三井律郎(りつお)を迎えての対談。
両ボーカリストによる“歌い上げ選手権”の軍配はいかに? それぞれのバンドの胸の内を、熱く語り尽くしてもらった。
▲THE YOUTH 中村維俊 |
──お互いのバンドが知り合ったいきさつは、どんな感じだったんですか?
海北:うちらの前のギタリスト(榎本聖貴)と三井くんが同級生なんですよ。
三井:専門学校が一緒だったから、それぞれのバンドに入る前から知り合いで。お互いにライブを観に行ったりしているうちに、榎本がLOST IN TIMEに入って、俺がTHE YOUTHに入って、またメンバー間も交流が深まっていったって感じですね。
海北:LOST IN TIMEが東北にツアーして二回目ぐらいの、まだ東北に馴染みがないタイミングの頃からだよね。でも対バンはけっこう後なんだよね。
三井:俺がLOST IN TIMEのライブを観たのは、新宿ロフトが最初ですね。中村はCDを持ってたんだよね?
中村:俺、CD買ってましたからね。たまたま試聴して「わー、すげー良いバンドだ」と思って買って。そうしたら、いつの間にか出会ってました(笑)。
海北:俺は最初にTHE YOUTHのライブを観たの、いつだったかな。渋谷O-WESTは、すごく覚えてるんだよね。とにかく、中村くんの白シャツがまぶしい!って。
一同:爆笑
▲LOST IN TIME 海北大輔 |
中村:ギラギラ(笑)。俺はね、海北くんのライブを初めて観た時は、自分から生み出した曲を人に届けることにおいて、リスペクトしたいと思うぐらい「うわー、良いなぁ」って思いましたね。俺も本当は、ちゃんとこうやって大事に届けたいのに、って。
海北:俺、いちいちMCしてたもんね。一曲一曲ね。
中村:でもね、すげー俺の中でグッときちゃって。
──それを観て、何か影響を受けました?
三井:MCは、変わんねぇなー?(笑)
中村:MCは変わらないですけど(笑)。でも一曲に込める気持ちは随分、変わりましたね。対バンで一緒にまわらせてもらったツアーの時も、バンドのモチベーションを相当あげてくれたよね。
──2005年のLOST IN TIMEの「時計」ツアーの時ですね。
三井:2つのバンドでまわったんで、絆も深まって。
中村:打ち上げが盛り上がってね。
海北:秋田、ひどかったもんなー。
▲THE YOUTH 三井律郎(LOST IN TIME サポートギタリスト) |
海北:俺もいまだに指折りの打ち上げだよ。ちょっとしたバーで、ミニライブをやるようなステージがあったんですよ。
三井:ドラムセットとギターが2本あって。みんな酔っ払ってるんで、中村が「秋田の歌を作ろう!」って秋田にまつわるキーワードで歌い出して。源ちゃん(大岡源一郎)はドラム叩きながらラップし始めるし。
海北:そうそう(笑)。大セッション大会。みんな入れ替わり立ち替わりで。
中村:あれ面白かったね。
三井:あれで仲良くなったかな。
◆“歌い上げ選手権”の2トップとギターヒーロー
中村:律郎が今、LOST IN TIMEでギターをやってて、そこでまた近くなったのはあるよね。あと、今のこの時代に、ここまで歌い上げるか?っていうボーカリスト同士(笑)。
海北:その辺の自覚は、お互いありますよ(笑)。
三井:“歌い上げ選手権”があったら、かなりの2トップですよ(笑)。
──どちらも熱いボーカルですよね。
▲LOST IN TIME |
三井:歌い上げ過ぎじゃねぇかなって思う。
海北:いや、でもそれが良いんだよ。
中村:そういうボーカリスト然としたボーカリストが、今、目立たない時だから。
海北:なんていうんだろ…バンドに夢は見たいですよね、やってる側も。で、観てくれてる人にも夢を持って帰ってもらえたら、それが一番良いと思う。その辺のテーマとして、この2バンドは近いものを持ってると思うんですよ。
中村:そうだね。夢を持って帰ってもらいたいっていう気持ちは、たぶんお互いのバンドに通じて持ってるものだと思う。
海北:だから三井くんにLOST IN TIMEをやってもらえてるんだと思う。
三井:俺、ぜんぜん違和感なかったからね。
海北:ね。最初に音合わせた時に、びっくりして。なんだこれは?すごいぞ!っていうぐらい。やっぱ波長っていうんですかね。ものすごく気持ち良かったんですよ。
──LOST IN TIME用のギターを弾こう、とかってあるんですか?
三井:自分の中でもよく考えたりするんですけどね。LOST IN TIMEに入る時に、横内武将くん、榎本、弥吉淳二さん、それから海北くんを入れたら、俺は5人目のギタリストなわけですよ。そういう時に、自分なりに弾くのは簡単だけど、前任のギタリスト達がどういう風に解釈して弾いているのかっていうのを、CDから全部ちゃんと音を聴きとって、一個一個、俺なりに整理していったんですね。お客さんはそのCDを聴いてライブに来るわけだから。周りはね「そんなの好きにやれば良いんだよ、オマエはオマエだし」ってなるんだけど、一回それは置いといて、去年はそういう風にやってましたね。今年からは徐々に自分の色に染めていければ良いなって思います。
海北:だから三井くんはLOST IN TIMEに来ても、ファンのみんなだったり、周りの身近なバンドマンだったりの評価がすごく高くて。それって三井律郎っていうギタリストとしての懐の広さだと思うんですよ。
中村:フフッ(笑)。
▲THE YOUTH |
中村:いやいや、そんなことない(笑)。
三井:でもそういう風にするのは、たぶんLOST IN TIMEだからだと思う。自分でCDも持ってて聴いてるし、愛もあるし。
中村:やっぱ愛だよね。
海北:愛ですね。俺でも本当に、時代を担うギターヒーローだと思うんですよ、みっちゃんは!
三井:俺ダメだ、こういうの。やめて(笑)。
海北:いや、そのぐらいみんなが応援したくなるギターを弾くプレイヤーだから。もっとたくさんの人に出会ってもらいたいなぁっていう気はしますよ。
──ギターヒーローというと例えば?
海北:ハイスタ(Hi-STANDARD)の健さん(横山健)以降、ギターヒーローって出てないですからね。10代の子供達が「やべー!」って目をキラッキラさせて、一生懸命マネをするタイプのギターの人って。布袋さん(布袋寅泰)を誰しもがマネしてて、BOOWYのフレーズを弾けないギタリストって、ほとんどいないと思うんですよ。世代を越えても、みんながすげーっていうそのすごさ。カッコイイなって思う。
三井:たぶん俺も、そういう人がいてほしいんだよ(笑)。自分がなりたいっていうより、やっぱいるべきだと思うしね、そういう人が。俺はそういう人にあこがれてきたから。
海北:身近なところにその可能性がある彼がいるから、すげーうれしい。THE YOUTHとLOST IN TIMEっていうのは、バンドの育った環境も通ってきた道もまったく違うかもしれないけど、ここへきて、兄弟ですよね。五分の盃を交わした仲ですよ。
◆バンドマンはずーっと文化祭気質かもしれない
三井:ここへきて、っていう感じするよね。LOST IN TIMEと一緒にライブをやったぐらいから。音楽のやり方も、ライブの仕方も変わったし。たぶん良い意味で変わったと思う。
──どんな部分の変化が大きかったですか?
三井:やっぱりメンタル部分が大きいかな。なんでバンドをやってるんだろう?って感じにみんながなっちゃって、バンドを続けていくことが難しくなった時期があって。誰しもぶち当たると思うんですよね。バンドを維持していくのは、すごくエネルギーがいることで。それが、より楽しんでみんながライブをできるようになったから。核となる部分は変わってないんですけど、昔のライブと比べるとメンバーの顔も違うだろうし。
──それはライブ盤『TO LIVE/TO LIFE』(2006年発売)を出して以降ですか?
中村:うん、そう。
三井:そうですね。それはデカかったなぁ。CDを出すなら、ここはもうライブ盤でしょう!って決めてから、うちらでエンジニアさんに頼みに行ったり、ミックスにも全部立ち会って「ここの音、もっとこうならないですかね」って言ったり。原点に戻ったような、高校生みたいに「バンドってやっぱ楽しいな」っていうところが、わかってきたような気はします。
──さすがに、音にすごく勢いがありますよね。
三井:ライブ盤ですからね(笑)。やっぱりうちらはライブが好きだし、武器だと思っているので。あと、最近なかなかライブ盤って無いなって。
海北:しかもCDだから、映像を観られるわけじゃないからね。やっぱ目で見る要素があると補完が利くでしょ。例えばどんなバンドでも良いのでライブ盤のDVDを、テレビを消して聴いてみてください。
三井:全然違うよね、音だけにすると。で、ライブ盤だから、今までうちら、こんなにリハーサルしたことなかったんじゃない?っていうぐらいリハーサルして(笑)。このライブを録りますって、お客さんも知ってて。
中村:すごい企画だったんだよ(笑)。
海北:バンドをやってる人間って、もしかしたらずーっと文化祭気質なのかもしれないよね。
三井:だってこのライブのタイトル“祭り”っていうんだよ(笑)。
海北:まんまじゃん(笑)。
三井:で、屋台とか入れたんだよね。かき氷屋さんと、チョコバナナ。それの手配も、うちのドラムの相澤くん(相澤大樹)がやってくれて。
海北:へえー(笑)。おもしれー。
三井:そう。お客さんが楽しくて、うちらも楽しめてってなると、どういうことがあるかなっていろいろ考えて。たこ焼きとかやったら良いんじゃねー?って言ったんだけど、ライブハウスのスタッフも「地下なので火は使えません」「やったことがないからわかりません」みたいな感じで(笑)。そこで、ひとつのことに向けてやっていく楽しさみたいなものが、明確になったと思います。
海北:自分達で作っていく、っていうことだよね。ライブハウスが当たり前のようにあって、自由は増えたけど、どんどん不自由になってる時代な気がするんですよ。もう自分が作らなくてもあるんだもん、そこに。なんでも。
◆遠くても僕らは繋がれる、でもあえて手紙を選ぶ
海北:今、作ってる曲のテーマなんだけど、繋がりたい繋がりたいって、よくみんなが口にしたりする。でもそう言いながら実は“繋がれてる”っていうことに、なんでみんな無頓着なんだろう?って。それを自覚した瞬間から、俺は繋がりたいって言えなくなって。しがらみっつーかさ。例えばケータイ電話もそうでしょ?それって繋がってるんじゃなくて、繋がれてるんだよ、って。その繋がれてる鎖みたいなものをほどきたいなぁって。ロックってそもそも、そうじゃねぇ?って思う。それを今年のテーマにして、LOST IN TIMEはやっていこうかなぁと思っているわけなんですけど。
三井:中村は、今年はどういう歌を書くの?
中村:俺ですか(笑)。でも俺はね、繋がりたいっていう話はよくわかる。その繋がり方なんじゃないかな。その方法。メール一本で、どんなに遠くても僕らは繋がれる。メールでやり取りすれば簡単な時代になっちゃってるんだけど、あえてそこで手紙を選ぶのがTHE YOUTHかなって思う。
海北:すげーわかる(笑)。下手すると直接会いに行っちゃうバンド。
中村:繋がりたい、の質が変わってきちゃったんだよね。軽々しくなってきちゃったけど、もっと大事なもの。会いに行くにはお金もかかるし、時間もかかる。だけどそれでも会いたいんだ、ってその繋がりがすごく大事なんじゃないかな。
海北:一回0.5円のメールとは、エライ違いなわけじゃんね。
中村:そうそう。やっぱりそういうところで、ちゃんと歌いたいなって思う。目を逸らさずに。
海北:そうね。その辺のテーマは本当に近いです、このふたつのバンドは。これからどんどん世の中の流れは速くなっていくばっかりだと思うけど、そこにどんどん逆行していくバンドになるんじゃないですかね。だってロックでしょう! ロックやってることがこれほど楽しい時代はないかもしれないですよ、そういう意味だと。ギターを鳴らして「ロックやってまーす」とか、けっしてサウンドメイクのところで使われる言葉じゃなくて。
三井:もともとそうだよね。
海北:もっと精神的な姿勢。THE YOUTH=若者達っていう看板をしょってるTHE YOUTHや、LOST IN TIMEが同じ世代として、まぁ言っちゃえば30才間近ですよ。でももっと若い人達がいっぱいいるところで、そういう人達よりも10代の衝動を感じながら、今バンドがやれている気はする。
三井:そうね。
◆バンドマンとしていろんな人とできる環境が幸せ
海北:LOST IN TIMEとして言わせてもらうと、もちろん俺とドラムの源ちゃんありきだったりはするけれど、そこに三井くんが入ってきてくれたのは、本当デカいですね。今ベースを弾いてくれているVOLA & THE ORIENTAL MACHINEっていうバンドの有江さん(有江嘉典)が、LOST IN TIMEの4人で飲んだ時に言ってたのは、それぞれのバンドっていうのは家でメンバーは家族だ、と。だからTHE YOUTHの中では中村くんがお父さん。LOST IN TIMEの中では俺がお父さん。で、他のメンバーは子ども。その子どもが他の家の家族になることも可能なんだよ。その家と家は廊下でつながってるんだ、って。それを言われた時に、俺はすごくグッときてね。だからこの2バンドの間には、東京と仙台に、すごく長い廊下が走ってるんですよね。東北道と国道4号線の間ぐらいにひっそり。
三井:途中、寒いよ(笑)。
海北:ぞうきんがけがすごく大変(笑)。
三井:俺はすごくその言葉に救われた感があって。有江さんはいろんなところで活躍している方だったので、そのヒントをくれたっていうのかな。もちろんタフでなきゃいけないし。有江さんを見てるとね、あれぐらいタフになりたいって思うぐらいパワフルで、いろんなところでできるのもうなずける。やっぱりバンドマンで楽器を弾く人は、できることならいろんな人とやってみたい、ってみんな思ってると思うので。それができる環境が幸せですね。
──実際に2つのバンドでギターを弾くのは大変ですか?
三井:楽しいっすよ。ごちゃごちゃにはならないですからね、不思議なもので。自分では同じ気持ちでやってるんですけど、やっぱ違うんだなって思う。例えばこの前もLOST IN TIMEがワンマンやって、その次の日にTHE YOUTHが2マンあって、その次の日にまたLOST IN TIMEがワンマン、みたいなことがあって。体力的にはさすがにちょっとしんどかったですけど、でもフレーズが飛んだとか、忘れちゃうってことはないよね。
中村:ないね。
◆長く続けないと、この先に良い時を迎えられない
海北:間違ってはいないと思うんですよね、こういうバンドが存在すること自体。必ず必要としてくれる人がいるし、いるって信じてるし。今こそ俺達は声を張り上げて歌わなきゃいけない時代だって、勝手に思い込んでるだけかもしれないですけど、それはすごく感じるんですよ。でも基本、2バンドとものんびり屋で“晴耕雨読”型バンドなんで。ね。
三井:ふたつのバンドとも、周りのスタッフに急かされるタイプ(笑)。
海北:でもそれぐらい、みんなが実はせかせか走ってるだけなのかもしれない。全力疾走を続けることのカッコ良さはもちろんあるし、やる以上は僕らも全力疾走ですけど。子供の運動会のお父さん的な?久しぶりに運動したら気持ちだけ先走って、転ぶ人続出っていう。それは微笑ましいことだけど、でもそれが毎日繰り広げられてる世の中な気がするんですよ。転んだ人がヨイショって立ち上がって、屈伸して、もう一回走ろうかっていう、その時間的猶予が無いように思い込まされちゃう。ゴールテープを誰が一番早く切ろうがどうでもよくて、そこに辿り着くことが目標なわけで。それなのに転んだ瞬間に「あ、もうダメだ」ってリタイヤしなきゃいけない気がしてしまう。勝ち組と負け組なんて、そんな一瞬の刹那を切り取ってどうするんだ? 20年後を見てみろよ、ってね。うさぎとカメですよ。
三井:バンドもそうだよ。長く続けないとね。一緒にやってたバンドも、いくつか解散してしまったバンドがあるんですけど。やっぱり切ないですよ。解散ライブに行って泣いちゃうけど、違うところで泣かしてよ、みたいな(笑)。
海北:解散ライブってなんであんなに良いんだろうね? それできるんだったら、解散しなくて良いじゃん!って。
中村:それは、すげーわかる(笑)。
三井:バンドが無くなる理由っていうのは、いろんな何かがあるんでしょうけど、多分。俺は経験したことないから、軽々しくは言えないですけど。ただ長い目で見れば、ダメな時もあるし良い時もあるし。長くやらないと、これから先、良い時を迎えられないですからね。
海北:「石の上にも三年」ってことわざがあるじゃないですか。あれって日本人独特らしいのね。例えばね、次の日に結果が出なかったらやめちゃうの?って。もしかしたら結果が出るのは死んだ後かもしれない。でもそれを想像できないくらい、みんな切羽詰まっちゃってるよね。時に、俺も見失いがちになるもんな。まぁお互いに事務所やレコード会社には、ものすごくイライラさせるバンドではあるかもしれないですけどね。
三井:そこの選手権も一位二位ぐらいかもしれない(笑)。
中村:相当そうでしょうね。
三井:誇れることじゃないけど。でも続けることが大変なのもわかったし。逆を返せば、長くできるバンドだなっていうことだと思います。
海北:そういう意味では、他のバンドではありえないようなストーリーの量はハンパじゃないと思いますよ。やっぱみんな浪花節が好きじゃないですか。CDが売れなくなったから無理やり浪花節的なストーリーをつけるようなことをしなくても、お互いにいろんな大変な思いはしてるし、ここから俺らがどうがんばっていくかが、非常にドラマチックだと思うんですよ。「あ、コイツら続いてるし、まだやろうと思ってるんだったら、俺も一回転んだぐらいでクヨクヨしてちゃいけねーな」って思ってもらえる存在になっていければ、それが一番良いことだと思う。かといって、失敗するのはいやですけどね。
三井:いやだよ、それは(笑)。
海北:もうギターが抜けるのも、これ以上いやです。はい。
一同:(笑)
◆同じ時期の「泥の道」と「花」
──お互いのバンドの好きな曲を一曲あげてもらえますか?
海北:俺は「恋をしていた」だな。あれは本当にやばい。俺、女だったらもうダダ濡れだね。
中村:はははは。
海北:やっぱ男目線だねって思うくだりがチラチラあるのが、男心にグッとくるんだよね。2番のサビの♪信じたかった…
中村:あぁ。♪許せなかった にじむ光に あなたを見失った 懐かしいとは言えなかった…
海北:そうそう。あそこで、やっぱ未練があるっていうのが男なんだよね。他にもあるんですけど。「泥の道」もやばいもんなぁ。アッパーな曲も好きなんですけど、中村くんがこれでもか!って歌い上げてる歌に、俺はひかれちゃうんだと思う。
三井・中村:(笑)
海北:♪うそ~つきだ~ ってところでね、ちょっと声がかすれる感じがね。やばいんですよ、本当に。
中村:ありがとうございます!(笑) 俺はいっぱいあるんだけど、やっぱりLOST IN TIMEのCDを買うきっかけになった曲は「花」だから。あれは今聴いても良いなぁ。
海北:♪季節を変える風が 心を貫いても もう二度とあの日と同じ花は咲かない。
中村:咲かない、っていうね。グッときますよね。
海北:要は、今日は今日でしかないっていうか。同じようなことは何回もくり返すけど…まぁいろんなものを当時から無くしてるんだな、俺は(笑)。
三井:ロストしてるんだな?
海北:いやぁ、名は体を表わすね。
一同:(笑)
中村:「花」は詞も良いし、俺は曲もすごく好きで。♪夢の~続きを~ の後の、♪笑ってたのは~もう昨日~のこと~ のところのカイちゃんの声がすげー良い!
海北:若いよね。ギラッギラしてるよ。
中村:そう、ギラギラしてる。
三井:いくつの時?
海北:ハタチとか21才だよね。2001年だから。
三井:THE YOUTHの「泥の道」と同じ時ぐらいだね。片や「泥の道」で、片や「花」だよ。タイトルからもう、歌い上げ選手権のタイトルだよね(笑)。
海北:本当だね。なんかあったんでしょうね。
──好きだった音楽は、お互いに近かったんですか?
海北:共通してルーツにあるのが、ブルーハーツとeasten youthなんですよ。
三井:途中まで一緒なんだよね。全然離れたところで育ってるのに。
中村:そうだね。どちらも熱い(笑)。
三井:そこから中村はシオンさんとか、もうちょっと渋い感じに。
海北:俺もブッチャーズ(bloodthirsty butchers)に行ったんですよ。
三井:掘っ下げていっちゃったんだよね、深いところへ。
中村:やっぱ、そこで光を放ってる人達の方が、より光って見える。
海北:お天道様の下よりね、洞窟の中の方が光るのは大変なんだ、って。今、THE YOUTHのヒロキくんがシオンさんの後ろでドラムを叩いているから、ライブを観に行って。「すげーな。これが新宿かー!」って、久しぶりに思うライブだった(笑)。
中村:そうだね、新宿だよね、やっぱり。
海北:そういう意味だと、うちらのライブを観た時に「これが下北か」とか、「これが熊谷か」とかって思ってもらえるような存在にならないといけないのかなとは思う。これだけバンドが増えた状況で続けていく以上は。だからTHE YOUTHは「これが仙台か」とかね。
三井:ははは。それは良いことだね。
中村:そうだね。
◆次代を担うギターヒーローの産声を
──今度、2月26日の“Birthday Song” TOURファイナルの渋谷O-Crestで、2マンでの競演が実現しますね。
海北:これは本当に、みっちゃんの、これからの次代を担うギタリストとしての、腕の見せ所だと思うので。
三井:ハードル上げたね、今(笑)。
海北:ぜひ観てほしいですね。新しいギターヒーローの産声が聞けると思います。
三井:やーめーてーよー。
一同:(笑)
三井:楽しんでやりたいなぁと思いまーす。
中村:いや、すげー楽しいライブになると思いますよ。
海北:俺もね、先にしっかり歌って、THE YOUTHで良い酒飲んで。お先に出来上がります、っていうのが目標かな。自分が良いライブをできないと、良い酒にならないですからね。
三井:そうだね。
──最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
海北:酸いも苦いも…甘いはあんまり経験したことないんで。いろいろ味わってきたヤツラがまだこうやってありがたいことに続いていて、しかもものすごく近い位置で2バンドともやれております。もしどっかでつまずいたり転んだりした人がいるなら、ぜひ観に来てほしいし、来られない人もそういうバンドがいるんだっていうことを、そういう人間がいるんだっていうことを、頭の片隅に置いといてください。
中村:この2バンドのライブから、何かすごく大事なもの…それは自分の価値観で良いんだけど、今まで考えもつかなかった新たな種が植えられて、そのうち芽が出たら、すごく幸せだなと思います。きっとそれがみつかるだろうしね。
海北・三井:うん。
中村:そういうライブにしたいと思うので、ぜひみなさん、観に来てください!
(Text 下村祥子)
<THE YOUTH“Birthday Song”TOUR with LOST IN TIME>
2008年2月26日(火) 東京・Shibuya O-Crest