増田勇一のライヴ日記【5】2007年5月31日(木)クイーンズライク@東京厚生年金会館

ポスト
ライヴとかギグではなくコンサート。「楽しむ」のではなく「堪能する」。クイーンズライクのジャパン・ツアー初日公演は、まさにそんな重みを感じさせてくれるものだった。

このバンドの代表作といえば、チャート実績的には『エンパイア』や『約束の地~プロミスト・ランド』(ともに全米アルバム・チャートでトップ10入りを果たしている)ということになるが、やはり1988年発表のコンセプト・アルバム、『オペレーション:マインドクライム』(最高ランクこそ50位止まりだったものの、チャートに50週以上にわたってランクされ続けた実績を持つ)こそ、クイーンズライクをクイーンズライクたらしめた作品といえるはず。そんな伝説的作品から18年を経て昨年発表された文字通りの“続編”、『オペレーション:マインドクライムⅡ』の充実ぶりは、結果、さらに同作品の重要性を再認識させ、バンド自体に対する再評価熱を高めることにもなった。

まだまだ公演が残されているので、いわゆる“ネタバレ”を避けるためにも演奏内容についてはあまり具体的にお伝えせずにおきたいのだが、フライヤーにも明記されていた“performing the hits plus OPERAION:MINDCRIME Ⅰ&Ⅱ highlights”という言葉通り、2枚のコンセプト・アルバムにまたがりながら構築されてきた物語をあくまで軸としつつも、同2作以外からの代表曲をも網羅した、非常に密度濃い構成になっていた。

これから会場に向かう人たちに言っておきたいのは、とにかく開演に遅れるなということ。暗転した瞬間に場内は『オペレーション:マインドクライム』の舞台となる。ドラマが始まってしまってから席を探して右往左往することだけは絶対に避けたいところだ。

完璧なヴォーカル・パフォーマンスとともに物語の主人公の苦悩と葛藤とを見事に演じてみせたジェフ・テイトを中心としながら展開されるロック・オペラ的ステージは、即効性の高い興奮を提供する一体感追求型のライヴとは一線を画するもの。むしろ拍手をするのも忘れるほどの緊張感と、無闇に声を発するのもはばかられるような威圧感を伴っている。

しかし同時に、彼らの構築する物語は、時間が経つのも忘れてしまうほどに観る者を引きずり込んでしまう。だから約2時間のステージが終わった瞬間、僕にはそれが本当にあっという間の出来事だったかのように感じられたし、同時に、思いがけないほどの疲労感をおぼえた。いかに彼らの音楽世界に集中させられていたか、ということだろう。

他にも特筆すべき点は多々ある。オリジナル・メンバーのクリス・デガーモ(g)の姿がない事実には若干の寂しさもあるが、現メンバーであるマイク・ストーンは見事に役割をまっとうしていたし、各メンバーの高い演奏技術が“見せつけるため”ではなく、あくまで“特定の世界観を構築するため”の道具として用いられている点にも、改めてこのバンドの表現姿勢のストイックさを痛感させられた。もちろん、作品にも参加していた女性ヴォーカリスト、パメラ・ムーアの活躍が、物語をさらに起伏と表情のあるものにしていたことも言うまでもない。

いわゆるヘヴィ・メタル・ファンのなかにさえ、彼らのことを“こむずかしそうなバンド”と見ている人は少なくないだろう。が、そんな人たちにこそ是非、彼らのコンサートでしか味わうことのできない緊張感とスリル、静かな感動を一度は堪能して欲しいものである。と、文章を締めくくりつつ、彼らのようなバンドについて書いていると文章そのものがカタくなる自分のカメレオン的体質に気付かされる筆者であった。

文●増田勇一
この記事をポスト

この記事の関連情報