【インタビュー】WANDSの柴崎浩、ツアー<TIME STEW>初お披露目のニューギターを語る「長い時間をかけて開発した」

WANDSが5月30日、東京ガーデンシアターにて全国ツアー<WANDS Live Tour 2025 ~TIME STEW~>のファイナル公演を開催した。その模様はライブレポートでお伝えしたとおり、歴代最長活動期間丸5年を経たWANDS第5期が、過去も今も溶け合わせた現在進行形にして最高のサウンドを響かせた。
変わらぬ本質と新たな挑戦を浮き彫りにしたWANDS史上最大規模の全9ヵ所ツアーには、ギタリスト柴崎浩のサウンドシステムの進化があった。WANDSサウンドの王道を極めながら、未来へ更新していくサウンドシステムについて訊いたロンクインタビューをお届けしたい。
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■Spiraという新しいモデルを
■イチから作ったんです
──アルバム『TIME STEW』のインタビュー取材時に、Nishgaki Guitarsの新たなギターが完成したことを話していただきましたが、それが今回のツアーでも使用されたNishgaki Guitars Spiraですね。
柴崎:今まで使っていたNishgaki Guitars Amnis Novusの別バージョンというか、Amnis Novusをもとにしつつ、Spiraという新しいモデルをイチから作ったんですね。Amnis Novusの進化版というか、もっとこうしたかったなというところを反映させた仕様になっています。Spiraの仕様はAmnis Novusといろいろ異なるところがありつつ、ピックアップは同じくハムバッカー×2なんですよ。なので、ライブで使用する5〜6本のギター中での位置づけとしては、Amnis Novusと同じような感じです。

Nishgaki Guitarsは兵庫県三木市に拠点を置き、ハンドメイドギターを製作しているクラフトマン西垣祐希のブランドだ。2018年頃、柴崎のためにAmnis Novusを製作したことをきっかけに、両者のコラボレーションが始まった。柴崎のシグネチャーモデル第2弾となるSpiraは、Amnis Novusの長所を引き継ぎつつもデザインや使用マテリアルなどが大幅に変更されて、Amnis Novusとはまた異なる魅力を纏ったモデルに仕上がった。
スペックは、ボディー材がフィギュアド メイプル トップ/マホガニー バック。ネック材はメイプル ネック、ローズウッド指板。ピックアップはフロントおよびリア共にSuhr Thornbuckerを搭載している。トーンやプレイアビリティもハイクオリティーで、柴崎が最近入手したギターながら今回のツアーでは「honey」「WONDER STORY」「リフレイン」「真っ赤なLip」「世界中の誰よりきっと [WANDS第5期ver.]」「メドレー:もっと強く抱きしめたなら〜時の扉〜愛を語るより口づけをかわそう[WANDS第5期ver.]」を含む6曲で使用された。
──Spiraのトーンキャラクターは?
柴崎:まず、ボディー構造がメイプルトップ/マホガニーバックで、ボディーの厚みは普通だけど、面積自体が結構大きいんです。つまり重量がある。その構造とか重量もあってか、ストラトよりレスポールの方向に少し寄った音がします。レスポールはハイポジションを弾いた時に、カンカン鳴るイメージがあるけど、Spiraにもそういうニュアンスが少しあるんです。そういう意味では僕が使っている他のギターに比べると若干トレブリーかもしれない。もちろんまだ完成したばかりのギターなので、これから弾き込んでいくうちに変化していくでしょうね。Spiraを使う時はもう少し音作りを詰める必要があるのかなとも思うけど、今のところすごくいい感じです。
──バインディング風の塗装や、ブリッジ、ペグやその配列など、Amnis Novusとは異なる仕様も特徴的です。Nishgaki GuitarsのSNSには「アグレッシブかつ繊細な柴崎さんの奏でるサウンドを余す事なく表現できるギアとして長い開発期間を経て、ようやくお披露目となります」というコメントも公開されています。
柴崎:そうですね。Nishgaki Guitarsと長い時間をかけて開発したモデルなんです。

一見するとバインディングが施されているようだが、縁飾りや楽器の角を衝撃から保護する役割としてのセルロイドなどが貼られているのではなく、白く塗装されているのがポイント。元々はメイプルのナチュラルカラーがバインディング的に活かされたデザインだったが、柴崎のリクエストによりホワイトの塗装が施された。同時に、ナチュラルのマホガニーカラーだったボディーバックもブラックに変更。柴崎によると、「カラーリングの変更はすごく面倒くさかったと思うんですよ。一回塗装を剥がして塗り直すわけですから。だけど、西垣くんは全て要望に応えてくれました」とのこと。

2点支持のトレモロユニットを搭載。当初はトレモロプレートのスタッドに接する部分が半円形に削られた一般的なものが搭載されていたが、アーミングした際のチューニングをより安定させるべく6弦側がフラットなタイプに交換された。本ユニットは、スマートなデザインやブラスサドルが採用されていることもポイント。

ロック式ペグ。弦をペグポストに通した後、ヘッド裏側のボルトを締めることで弦がロックされる。ロック式ペグはチューニングの安定に加えて、弦交換を素早く行えることも利点。また、Amnis Novusはペグ配列が4:2だったが、Spiraでは3:3に変更されている。
──また新たな相棒がやってきましたね。Spira以外の使用ギターについてもお聞きしたいのですが、その前に柴崎さんは“レコーディングで使ったギターをライブでも使用したい派”でしょうか? それとも音源とライブは別と考えているのでしょうか?
柴崎:ざっくり言うと、レコーディングとライブは別と捉えています。ただ、録った時と似たような音を出そうとは思っているので、ライブでも支障をきたさない範囲で、必要に応じてギターを持ち替えたりします。たとえば、この曲はどうしてもシングルコイルの音が必要だという時には、そういうギターを選んだり。でも、実際のライブでは構成上、間を空けずに次の曲にいきたいとかの理由で、ギターの持ち替えをしたくない時もあるんですよ。なので、たとえばリアのハムバッカーピックアップしか使わない曲であれば、リアにハムバッカーを搭載したギターの中から柔軟にセレクトする、みたいな感じです。
──ライブの流れを無視して各楽曲に合わせたギターに持ち替えるでもなく、ライブを通してこれ1本ということでもなく、状況に応じてフレキシブルに対応されているんですね。
柴崎:そうですね。そのほうがいいライブになると思うので。
──では、今ツアーで使用した各ギターの特色などを改めて教えていただきたいです。まず、Suhrの2020 Limited Classic S Metallicから。
柴崎:これはピックアップ配列にシングル+シングル+ハムバッカーのストラトがほしいと思って入手したギターです。フェンダーとは違ってシングルコイルのノイズキャンセルシステムが搭載されていたり、指板のRが10インチ〜14インチのコンパウンドラディアス仕様なんです。もしフェンダーのストラトを入手したら改造するであろうカスタマイズが、最初から施してあるモデルですね。
──理想的な1本といえますね。トーン面ではリッチなドライヴトーンから繊細なクリーントーンまで幅広く引き出せることがポイントでしょうか?
柴崎:リアピックアップのハムバッカーのディストーションサウンドは、すごく好きですね。これはThornbucker IIです。シングルコイルの音も硬過ぎず、ちょうどいいトレブル具合なんです。
──ロック式ではないトレモロユニットが搭載されていますが、アーミングしてもチューニングは安定しているのでしょうか?
柴崎:チューニングはある程度狂うんですけど、限りなく気にならない程度ですね。まともに弾けない状態になることはありませんから。

シングル+シングル+ハムバッカーのピックアップレイアウトならではの幅広いトーンバリエーションが得られる1本。一見トラディショナルなストラトタイプのようでいながら、ネックとボディーのジョイント部に大胆なカットが施されていて、プレイアビリティーが高められているなど、“Classic”という名前とは裏腹に、汎用性の高さを備えていることが印象的だ。
スペックの特徴は、ボディー材に2ピースアルダー。ネック材はベイクドメイプルネック、インディアンローズウッド指板、10″〜14″仕様の指板R。Suhr製ロック式ペグなど。今回のツアーでは「官能SADISTICに濡れて」「アイリメンバーU」「世界が終るまでは… [WANDS 第5期ver.]」「大胆」「WE ALL NEED LOVE」で使用されるなど、Nishgaki Guitars Spiraと共にダブルメインという立ち位置を担った。

ライブのオープニングを飾った「天使になんてなれなかった [WANDS第5期ver.]」をはじめ、「RAISE INSIGHT」「恋せよ乙女」「FLOWER [WANDS第5期ver.]」「We Will Never Give Up」で使用された同機種は、エディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデル。軽量にしてコンパクトなボディーやハイポジションの操作性を高めるボディーカット、Dチューナー(瞬間的に6弦のピッチを1音下げられる機能)付きフロイドローズトレモロユニット、ローフリクションボリュームポッドなど、エディのこだわりが随所に反映された。
また、ボディ材のメイプルonバスウッドやベイクドメイプルネック&指板といったウッドマテリアルとEVH Wolfgang Humbuckingピックアップにより、“ブラウンサウンド”と称される極上のトーンを生み出すことが可能。
──精度の高い1本といえますね。続いて、EVHのWolfgang Special QM。
柴崎:フロイドローズ(ロック式トレモロユニット)搭載ギターが必要で入手したモデルです。トーンは晩年のエディ・ヴァン・ヘイレンを彷彿とさせる感じですね。ピックアップに少しクセがあって、高域が若干抑えられたような感じなんです。晩年のエディはわりとクゥークゥーって音を鳴らしていたので、“こういうことだったのか!”と思いましたね。これはこれで好きな音です。
──柴崎さんは使用ギターのピックアップをSuhrのThornbuckerに交換されることが多いですが、Wolfgangはそのまま使われているんですよね? そういう部分にもエディ・ヴァン・ヘイレンへの深いリスペクトを感じます。
柴崎: Wolfgangはもう1本持ってるので、このギターはこのまま使ってこのギターのコンセプトを味わってみようと思ってます。ただ、最初はチューニングがあまり安定しなかったので、怪しい箇所を直すと同時に、試しにトレモロユニットをGOTOH製のものに載せ換えたんです。結果、チューニング以外もいろいろ良くなったかもしれない。