【インタビュー】FLYING KIDS浜崎貴司、“夢を提供する音楽家”としての矜持と還暦前の決意

FLYING KIDSが35周年を飾る最新アルバム『希望のシッポ』を完成させた。彼らの根底にあるファンクネスを継承しつつ豊かな発想力やキャッチーなメロディー、緻密なアレンジ、内面のリアルを綴った歌詞などを用いて独自の魅力を生み手腕はさすがの一言だし、メンバー全員が織りなす上質なプレイも実に見事。
トータス松本、スガ シカオ、PES(RIP SLYME)をゲストに迎えたナンバー3曲が収録されていることも含めて、『希望のシッポ』はアニバーサリー・アルバムにふさわしい華やかさを纏った佳作に仕上がっている。FLYING KIDSのボーカルを務める浜崎貴司をキャッチして、『希望のシッポ』についてじっくりと話を聞いた。

──『希望のシッポ』を作るにあたって、構想やテーマなどはありましたか?
浜崎貴司:2007年に再結成してから何枚かアルバムが出ているんですけど、30周年の時に出した『みんなあれについて考えてる』(2018年2月)という作品と、その後に出した『そしてボクら、ファンキーになった』(2020年8月)というのがあって、その2枚は今の9人体制で作ったアルバムなんですね。再結成後にいろいろ曲を作っていく中で、オリジナル・メンバーの丸山(史郎/G)に「シングル曲を作っていかないとね」と言ったら、それは嫌だな…みたいな会話があったのです。大変だったんですよ、1990年代にシングルを作っていくのが。そのことを鮮明に覚えているし、そのためにがんばり過ぎたことが1度解散することにつながった部分もあるから、シングルを作るということに前向きな気持ちにはなれなかったんですね。そういう中で、9人体制になって作った2枚は日本語のファンク・ミュージックみたいなものを新しい形で生み出していこうという流れだったんですけど、その2枚を出した後に「そろそろギアを入れ替えてシングルみたいなものを作っていきたいな」という思いが僕の中に芽生えたんです。それが今回のアルバムの基本的なテーマみたいな部分になっていると思いますね。
──2021年から2024年にかけてリリースされたシングル曲達は『希望のシッポ』に収録されていますが、“ファンクやブラック・ミュージックが香る独自のスタイリッシュな音楽”という印象です。
浜崎貴司:そう感じていただけたなら良かったです。さっき言った“ファンク・ミュージックの日本版”みたいなものを生み出した後から、そういうことだけじゃないんだよね…という思いが強くあったんです。簡単に言うと、オリジナリティーみたいなものをどうやって極めていくのかということですよね。だから、前作以降に出したシングルはファンクというジャンルで楽しむ音楽ではなくて、もっといろんな人がそこにたどり着ける興奮みたいなものが得られるようなところを目指したものです。それが今回のアルバムにもつながっていったし、35周年というストーリーを前面に出していこうという中でコラボレーションという企画が出てきてたことが、それを進めてくれる大きな力になっていった気がしますね。

──今なお音楽作りに対する情熱に溢れていることが伝わってきて、気持ちが高まります。では、ここまでの話を踏まえて『希望のシッポ』の楽曲について話しましょう。コラボレーションの話が出ましたので、そこからいきますが、まずリード曲の「希望のシッポ feat.スガ シカオ」はスガ シカオさんとのコラボ曲です。
浜崎貴司:コラボレーションということを言い出したのはビクターのディレクターなんですよ。35周年を迎えるにあたってアルバムを作っていきたいという大きな流れは2年前くらいから進めていて、いよいよ35周年が近づいてきて具体的にどういう内容にするのかということを僕らとディレクターで提案し合ったんですね。その中にコラボという案があって、最初は「すぐにコラボって言うんだよな」みたいな(笑)、「周年だからコラボというのは安易じゃないかな」と思ったんです。コラボレーションは大変なので、自分のめんどクサがりみたいな部分がちょっと出始めたというのもあったし。でも、話は聞いておこうと思ったんですね。自分も60才にもなるんだし(笑)、コラボレーションすることで逆に自分の壁を越えていけることもあるかもしれないし。それで、話を聞いたら第1弾がトータス松本(ウルフルズ)さんで、第2弾がPES(RIP SLYME)さんで、第3弾がスガ シカオさんだったんです。それで「良いよ」と言いました。
──コラボレーションする相手を聞いて、納得されたんですね?
浜崎貴司:そう。まず、スガさんはFLYING KIDSのアマチュア時代…1989年ですね。当時、原宿のクロコダイルでやったライブがあって、彼はそれをわざわざ観に来てくれた人で、ずっとFLYING KIDSのウォッチャーなんです。そういう人なので、コラボレーションを頼まないわけにはいかないけど、頼むということはプレッシャーが凄いわけですよ。僕らを見続けていて「過去のほうが良かったな」とか思われる可能性もあるじゃないですか。「良いですね」と言いながらも心の中ではそう思うかもしれない。そんなふうに思われず、彼に納得してもらえて、お客さんにも良いじゃん!と思ってもらえるものを作らないといけないというプレッシャーがキツかったですね。「希望のシッポ feat.スガ シカオ」は、作るのに非常に時間がかかりました。でき上がるまでは大変な試行錯誤がありましたけど、最終的にはみんなで力を出し合ってひとつの塊みたいなものができたなという気がしていますね。本当にちょっとしたことがどんどん積み上がっていって、素晴らしい曲になったなと思います。

──同曲は煌びやかな世界観や浜崎さんとスガさんの華やかなツイン・ボーカル、楽器陣の洗練された演奏などが相まって、非常に上質な1曲に仕上がっています。そして、“力強く生きろ”ということをテーマとしつつ現代社会への批判を織り交ぜた歌詞も注目です。
浜崎貴司:僕は、スガ シカオさんが持っている世界観には“清濁併せ呑む”という部分があると勝手に解釈していて、それを歌にしたいなというのがあって。それで、“清濁併せ呑む夜の”いう言葉がいきなり出てくるんですけど、その“清”と“濁”ですよね。清らかなものと濁っているものが共存しているような世界観を作りたかった。でも、最終的にはオジサン2人が熱唱するわけですから、そこはやっぱり楽しくなるようなものじゃないと…というのがあって(笑)。若者が苦悩を訴えるんだったら、それは絵になるし音にもなるし歌になる。でも、オジサン2人で苦悩をさらけ出しても、なんの面白みもないというか、逆に悲しくなっちゃいますよね(笑)。
──そんなことはないと思います(笑)。
浜崎貴司:いや、聴いてくれた人は「人生ってツラいんだな」と思いますよ(笑)。「人生って楽しいんだな」と思ってもらえるようなものにしたいというところで、ポジティブな方向に持っていきました。自分自身がそういうものを歌いたいという気持ちもあったし。僕は今度還暦になるんですけれども、そういう状況の中で音楽家としてやるべきことは、世の中に夢みたいなものを提供することだと思うんです。音楽を聴く人が「この世界というのは良いところなんだ」と思ってもらえるようなものを発信する一翼を担うというのが自分の仕事だと。いろんな音楽があって、悲しみを表現することで人が癒されることもあるけど、結果として、この世界は悪くないと思ってもらえるのが芸術でありエンターテイメントですよね。その観点が今回のアルバムのある種のポジティブさみたいなものを支えているんじゃないかなと思います。
──ノー天気に“楽しくやろう!”というのではなく、裏側に深い思慮があることで説得力が増していることは間違いないです。
浜崎貴司:ただただ明るいとか、ただただポジティブというほど僕はハッピーな人間ではないので(笑)、さっき話したような“濁っている部分”もきちんと表現していきつつ、それでも「がんばっていこうよ」という感じになったら良いかなというところですよね。

──ドロッとした部分やウェットさなどは日本人の感性にフィットするような気がしますので、良いアプローチだと思います。では、続いて「BUZZER BEATER feat.トータス松本」にいきましょう。
浜崎貴司:トータス松本…ウルフルズは最初に会ったのはアマチュア時代で、1989年の12月に大阪で「東京のアマチュア・バンド代表=FLYING KIDS」「大阪のアマチュア・バンド代表=ウルフルズ」、それにすかんちという顔ぶれのイベント・ライブがあったんです。ウルフルズは、ある種のブラック・ミュージックみたいなものを解釈しているバンドということでずっと気になっていて、今回トータス松本さんにFLYING KIDSに入ってもらうというのは歴史的な背景も含めて非常に喜ばしいことでした。こんなに長い間お互いに活動していて、ずっとブラック・ミュージックが好きで、でもそれぞれ違う解釈なんですよね。そこの間を埋めていくような曲ができやしないかなというのが今回の意図でした。それを僕が作るとちょっと違うなと思ったので、メンバーに楽曲を募集したんです。そうしたら、リーダーの伏島(和雄/B)さんが1970年代くらいのソウル/ファンク・ミュージックみたいなもののモチーフを上手く楽曲に仕立ててくれて、「これだったらちょうどFLYING KIDSとウルフルズの間くらいでハマるかも」と思ったんです。そういう意味ではコラボレーションの中で、また新しいFLYING KIDSの一歩を踏み出せたかなという気がしますね。
──「ウルフルズとFLYING KIDSの間を埋めるような曲を作りたい」ということは、あらかじめトータス松本さんに伝えたのでしょうか?
浜崎貴司:いえ、全然。打ち合わせをするとつまらなくなってしまうので。なので、こっちで完全に用意して、これを歌ってくださいというところまで追い込んでいこうという感じでした。この世界観だったら多分大丈夫だろうというデモテープを作って、送ったらOKをもらえましたが、キーとテンポを変えてほしいという要望があったんです。「これ、もう少しテンポを落としたほうがカッコ良くなるよ」と言われまして。それでテンポを落としてみたら、見事にそのとおり。さすがですよね。そういうことはスガくんの時もあって、彼はレコーディングのマイクをSHURE SM58にしたいと言うんです。
──えっ、本当ですか?(編集部註:ボーカルマイク。酷使される現場で高い信頼性と高品質を誇るモデルで、もっぱらライブ用の定番マイクとして愛用されており、レコーディングで使用されることは極めて稀)
浜崎貴司:うん。「えっ? それは、ライブで使うマイクじゃん」と思ったし、エンジニアも困るわけですよ。あり得ないだろうと思って、一応58も含めていろいろなマイクを用意して歌ってみてもらったんですね。そうしたら、SM58が1番良かった。スガくんは「浜崎さんとのかけ合いになった時に自分の声だとパンチが足りなくなるから、SM58で録るとちょうどバランスが良くなるんじゃないか」と言っていて、まさにそのとおりでした。皆さん、それぞれ優秀なプロデューサーですからね。そこら辺がやっぱり凄いなと思いました。

──それぞれが持っているノウハウを活かして、みんなで楽しみながら音楽を作られたというのは良いですね。
浜崎貴司:僕の場合、ライブに於いてはいろいろな人とコラボする企画が結構多かったりするというのがあって、一緒に音楽を作っていくうえでは相手の力を活かすということが醍醐味になってくるんですよね。その結果自分の力も活きてくるという状態を、ライブでかなり修行したようなところがあって、それが活かされた感覚はあります。
──ライブの豊富な経験に加えて、現在のFLYING KIDSは浜崎さんとElliさんのツイン・ボーカル・スタイルということも、今回のコラボレーションでは有利に働いたかと思います。
浜崎貴司:そこはね、いろんなユニットもやったり、女性とのコラボレーション・ライブみたいなものもやって、自分は案外低い音域もいけるんだなということが分かったというのがあって。それに、FLYING KIDSの曲に関してはメンバーの個性をどうやって発揮していくかということを、作曲する時点で常に意識しているんです。その一環としてElliという女性ボーカルの声の域に対して僕の声はどの辺に設定するかということはしっかり考えるし、この音域だと低過ぎて難しいだろうから、これは根本的に練り直そうみたいなこともしていく。そういうことが染みついているというのは、ありますね。
──それが、今回も十分に発揮されたんですね。「メンバーの個性を活かす」という言葉が出ましたが、FLYING KIDSは大所帯のバンドで音数が多いにも関わらず、音像がゴチャゴチャしていることがなく、どの曲も各楽器の配置やバランス、抜き差しなどが絶妙です。
浜崎貴司:まあ、気を遣っているんですよね、僕も(笑)。ライブでもメンバーそれぞれにスポットがあたるようにすることを考えていて、リード・ボーカルがいろんな形で変わったりとか、ソロまわしをしたりとか、いろいろやっています。それに、FLYING KIDSのメンバーはソロ活動もあるので、それぞれがソロで感じたバンドの良さみたいなものを上手く落とし込めているのかもしれない。
──そういう気はします。『希望のシッポ』もドラムよりもパーカッションが主体になっている曲などがあって、良いコンビネーションのリズム隊といえますし。
浜崎貴司:その辺はね、ドラムやパーカッションの人達は無邪気に叩いていますよ。で、トラックダウンの時に、僕がバランスを下げる時がありますね。それで、ドラムよりパーカッションのほうが大きくなっていたりもする。パーカッションのほうが大きくてそれが心地よさにつながっているというのは、昔のソウル・ミュージックにもあったりするんです。温故知新じゃないけど、自分達も曲によってはそういうふうにして雰囲気を作ったりすることはありますね。



──我の強いドラマーですと「ふざけるな」という感じになったりしますが、そうならないというのは良いですね。ギターも楽曲に溶け込んでいながらフックを効かせたバッキング・ワークが光っていますし、逆にギター・ソロは存在感に溢れているというのも魅力的です。
浜崎貴司:ギターの2人はいつもギターの話ばかりしています(笑)。それぞれのプレイの立ち位置は曲によって変わっていて、アイディアのあるほうが主導しながらツインギターの在りようみたいなものを細かくやっていますね。「ギターはもうちょっとガッツリやっちゃって良いんじゃないの?」と思って言ったりすることもありますが、彼らは「まあまあまあ…」とかいって前に出ようとはしない。でも、うちは大人数のバンドなので、それでちょうど良いアンサンブルになっているところはありますね。ギター・ソロは、もう本当に「がんばって」と言って弾いてもらう時もあります(笑)。
──メンバー全員が“フォア・ザ・バンド”という意識を持っているのは、理想的なバンドの在り方といえますね。話を「BUZZER BEATER feat.トータス松本」に戻しますが、この曲の歌詞は“子供の頃に憧れたマンガやアニメのヒーローのように生きたい”ということが歌われています。
浜崎貴司:あれだけマンガ大国と言われて、『ワンピース』だなんだ、みんな読んでいて正義について学んできたはずなのに、なんで今の日本はこんなに変な犯罪が多いんだろうと思うんですよ。ましてや世の中自体、正義というものが疑わしく思えることが増えましたよね。たとえば、ロシアとウクライナの戦争も“まあまあ、いろいろあるでしょう”みたいな感じで、落としどころを今探そうとしていたりするじゃないですか。“こっちが正義で、こっちが悪だろう”みたいな単純な話では片づかない話になっている。僕らが子供の頃に読んでいたマンガは“やっぱり正義は勝つよね”という単純なメッセージが多かったのにな…という思いから、この曲の歌詞は作りました。

──後ろにしっかりとした思想があることで、より響く歌詞になっています。と同時に、子供の頃の気持ちを忘れずに生きている人は素敵だな、そういう人生は良いなと思わせてくれる曲ともいえます。
浜崎貴司:それは、やっぱり音楽をやれているというか、やらせてもらっているというか、音楽をずっとやってきて、バンドも続いているからかな。ギターの加藤(英彦)は高校の同級生だし、他のメンバーも大学時代からつき合っているわけですから、青春みたいなものがずっと続いているような感覚というのはある。音楽をやれているお陰で純粋でいられるような部分がまだある、というのかな。夢見ていられるというか。だからこそ、聴いてくれる人達にも「夢みたいなものを感じてもらえる音楽を作らないといかんな」と思っています。
──夢を与え続けるという意味では、FLYING KIDSもヒーローといえますね。続いて、3曲目のコラボレーション曲「ハナフブキ~宴もたけなわ~ feat.PES(RIP SLYME)」は、柔らかみのあるアッパーさを纏ったナンバー。
浜崎貴司:PESくんはプライベートで、よくご飯にいったり酒を飲んだりしていたんです。今回のコラボレーション企画の時にディレクターから「どんな感じの皆さんと交流があるんですか?」と聞かれて「PESくんとか、スガくんとか」という話になって「PESさん、良いですね」「ああ、良いよね、たしかに」という(笑)。あまりに近過ぎて自分でいきなりそこにいくという感じではなかったけど、よくよく考えたらすごく良いかもなと思いました。彼は、才能がとにかく凄いんですよ。ボーカリストでもあるしラッパーでもあるしメロディーメイカーでもあるしトラックメイカーでもあるし。RIP SLYMEの人達はみんなやる気が無さそうな風情でいますけど、凄い才能の持ち主ですよね。
──トータス松本さん、スガ シカオさんと同じく、PESさんもリスペクトし合っている良い関係性なんですね。「ハナフブキ~宴もたけなわ~ feat.PES(RIP SLYME)」はPESさんのボーカルをリズム楽器的に活かしたボーカリゼーションが魅力的ですし、Aメロのアーバンなサウンドとレゲェ感のあるメロディーのマッチングなどもすごくセンスが良いなと思います。
浜崎貴司:この曲は、めちゃくちゃ時間がかかりました。いろんなパーツを少しずつ組み立てながらできあがっていったんです。この曲のテンポはBPM=84くらいだと思いますが、トラックを作る時は43で作っているんです。それくらいのテンポのシーケンスで作っているから頭の中で鳴っている32分音符とかを、その場で打ち込んでいけるという。あとは、バックのリフはずっと同じ動きだけどコード・チェンジは変わっていくという構造も狙ったところですね。ルートが変わっていくのと上の動きの2音だけでコード進行が感じられる…当然補強していくんですけども、コードを“バシーン!”とちゃんと鳴らさないで進行していくようなものも土台として作っていきました。
──すごく緻密に作っていかれたんですね。
浜崎貴司:ただ、土台になる部分は細かく作っていきましたが、それに乗っかっているメロディーとかはわりと感覚的にバァーッとできちゃいました。ちょっとだけ構造的に意識した部分はありましたけどね。1番のAメロとかはバックはメジャー・コードだけど、マイナー3度のメロから入るという。要するに、ブルースっぽい感じでいきなり入るとか、「全てが良かったわけじゃない ビッグサイズズリュックは耐え難い 一度はbuddy」と歌っていて、その合間にラップを重ねていくんですけど、それをハモッていくというチャレンジとかは細かくやっていたりします。
──元々はレゲェ・チューンだったものを、今の形にアレンジしたのかなと思いました。
浜崎貴司:全く違います。
──うーん、凄い…。そういう音楽の作り方ができるのであれば、独自のファンク・ミュージックを作ることもできますよね…と思います。
浜崎貴司:この曲は、1番独自のものにしたいという気持ちが強かったんです。35年も活動してきて、なにかのオマージュみたいなものではつまらないなと思って。自分達なりの完成形みたいなものが作れないかなという思いがあったのは確かですね。
──オリジナリティーと上質さを併せ持った音楽を形にされたのはさすがです。「ハナフブキ~宴もたけなわ~ feat.PES(RIP SLYME)」の歌詞は「まだまだ宴を続けていくぜ」ということを歌っていて、ライブ映えすること間違いなしといえますね。
浜崎貴司:実際、ライブでもすごく盛り上がります。
──こういうスロー・テンポのウォームな曲で盛り上がるというのは良いですね。
浜崎貴司:そう。嬉しいですよね、こういう曲ができたというのは。
──その気持ちはよく分かります。続いて、『希望のシッポ』に収録されている新曲のお話もうかがいたいです。まず、「パンとバラ」は中南米に通じる翳りが魅力的なミディアム・チューン。
浜崎貴司:「パンとバラ」は、元々SWING-O(Key)が作ってきたトラックはカントリーっぽい感じだったんです。カントリー・ミュージックをモチーフにしたダンス・ミュージックみたいな匂いがあった。それを発展させて作った曲です。で、パンというのは人生に必要な食糧とか、最低限必要なインフラみたいなもので、バラはさっきからずっと言っている人生を豊かにしてくれるもの。バラは別に食べられないし、見ているだけなのに人の気持ちが上がるという存在じゃないですか。それを、めんどクサさを厭わずに、大事にみんなが育てるというのは、やっぱり社会に必要なものなんですよね。だけど、今の日本はたとえば大学の研究費はもう国から出なかったりするし、芸術なんかはより一層厳しい状況になってきてしまっている。要するに、これじゃあビジネスにならないでしょう?みたいな。ビジネスになるなら芸術にも金出すけど…というような時代になってきていますよね。
──そのとおりで、うすら寒さを感じます。
浜崎貴司:ですよね。だけど、本当の芸術というのはもっとピュアなものだったりするから、結果が出れば良いというだけじゃないところから生まれたものが、いろんな形で遠い将来に良い影響を及ぼすかもしれない。まあ、無いかもしれないけど。芸術とは、そういうものだと思うんですよ。なので、食えればいいんじゃない?みたいな話になりつつある今の時代に対する思いがあって、それをちょっとマカロニウエスタンみたいな雰囲気で歌ったら面白いものになるんじゃないかなと思ったんです。
──個人的にはラテンっぽさを感じましたし、出だしのヒロリロリー♪というリコーダーはペルーなどをイメージしましたが、マカロニウエスタンなんですね。
浜崎貴司:そうそう。インチキ西部劇みたいなね(笑)。
──インチキっぽさは無くて、この曲の異国情緒は本当に魅力的です。そして、もう1曲の「ステッパーズ」はElliさんのボーカルをフィーチュアしたエモーショナルなラブソング。
浜崎貴司:Elliのリード・ボーカル曲というのは前作のアルバムにも「抱きしめたい」という曲が入っていて、今回は2曲目です。みんながElliに曲を書いてもくれたんですけど、なかなか歌うテーマを僕が書けなくて。そういう中で、自分で歌うつもりで書いた「ステッパーズ」をElliが歌ったら良いんじゃないかなと思ったんです。それで、彼女に歌ってもらったら、自分が歌うよりも断然良かった。これが完成形なのかなと思ってElliのリード・ボーカルでいくことにして、僕と加藤がコーラスをするという形にしました。単純にElliのソロというのも面白くないから、僕が裏方にまわっているシーンみたいな部分も共存しているような曲にしたかったんです。それは、また新しいFLYING KIDSの感じになるかなというのがあったから。

──裏方にまわられてはいますが存在感があって、皆さんが生み出す良質なケミストリーを味わえます。さて、『希望のシッポ』は良い曲の宝庫といえる仕上がりですし、ここ数年のFLYING KIDSの歩みを味わえることも含めて、35周年を飾るにふさわしいアルバムになりましたね。
浜崎貴司:アルバムを作るとなるとアルバムの器みたいなものを想定して、メイン曲が2曲くらいあって、今の自分達のメインストリームの曲があって、余ったスペースにこういう感じの曲を入れて…みたいな発想になるわけですけど、今回はそういうことを全くしなかったんです。1曲1曲、丁寧に少しずつ作っていきました。あと、僕の中で大きく変わったのは、聴いてくれた人がより楽しめるものを作るという思いが強くありましたね。みんな、より楽しめるものを作ろうとしていて、若い世代のバンドがドッカン・ドッカン来ているじゃないですか。そこと、ちゃんと向き合おうと思ったんです。今までは自分達の村的な部分とか、自分達のジャンルみたいな部分で理解してくれる人がいればいいかな…というような甘えがどこかにあった気がするんですよ。そうじゃないものにしようという思いが僕の中にあったのは事実です。
──時代感を採り入れつつFLYING KIDSらしさは貫いているという在り方が本当に魅力的です。そして、アルバムのリリースに加えて、浜崎さんの還暦を祝って6月14日・15日にEX THEATER ROPPONGIで開催されるスペシャル・ライブも注目です。
浜崎貴司:このライブは大勢の素晴らしいゲストの方が参加してくださって、ありがたいの一言に尽きます。ただ、ありがたいんですけど、やることがものすごくテンコ盛りで(笑)。自分の音楽人生の中で、1番の大仕事なんじゃないかなという気がしていますね。祝ってもらうつもりの還暦に自らめっちゃ働くという謎の展開を見せているところに、ちょっとビックリしています(笑)。でも、いろんな人といろんな打ち合わせをしていて、これから毎日のようにリハをするんですけど、それができる喜びがすごくある。本当に最高のエンターテイメント・ショーにしたいと思っているので、楽しみにしていていただければと思います。

取材・文◎村上孝之
撮影◎大橋祐希
FLYING KIDS 35 周年記念アルバム『希望のシッポ』
2025年6月11日発売
VICL-66073 ¥3,740(税込)
1.REFLEX ACTION
2.希望のシッポ feat.スガ シカオ
3.ガッチャンコ!
4.パンとバラ
5.ウブゴエ・デスフィーレ
6.BUZZER BEATER feat.トータス松本
7.じゃーね
8.DON’T TOUCH ME BUT CATCH ME
9.ステッパーズ
10.ハナフブキ~宴もたけなわ~ feat.PES(RIP SLYME)

<浜崎貴司 還暦GACHIスペシャル60祭 2days~Road to 100~>
2025年6月14日(土)
@EX THEATER ROPPONGI
開場17:00 開演18:00
出演:おおはた雄一/佐藤タイジ/小泉今日子/高野寛/藤巻亮太/藤原さくら/矢井田 瞳/山内総一郎/PES/FLYING KIDS
2025年6月15日(日)
@EX THEATER ROPPONGI
開場17:00 開演18:00
出演:奥田民生/斉藤和義/寺岡呼人/トータス松本/YO-KING/桜井秀俊/スガ シカオ/吉井和哉/FLYING KIDS
チケット一般発売:https://ticket.tv-asahi.co.jp/ex/project/hamazakitakashi60
[問]HOT STUFF PROMOTION TEL 050-5211-6077 http://www.red-hot.ne.jp/

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