【連載コラム】a flood of circle『THE WILD BUNNY DIARIES』25本目=佐々木亮介、「ツアー中に買った本」

▶<Tour WILD BUNNY BLUES> 25本目
▶2025年5月9日(金) 仙台MACANA
▶書き手:佐々木亮介 (Vo, G)
◆ ◆ ◆
仙台でのライブはすごく楽しかったです。
一生懸命やりました。
最近、新しい曲を作った。
今回は山じゃなくて、普通のレコーディングスタジオで作っている。
山で録音した前作『WILD BUNNY BLUES / 野うさぎのブルース』の次を探して。
3月26日にレコーディング。歌まで出来なかった。
4月30日に歌を録音するためにスタジオに入ったけど、完成しなかった。
あ、これ、メンバーの演奏は良いのに、本当は曲の根幹の部分がつまんないって自分で感じてたのかも、自分で作ったくせに、と思った。
それで、録音した曲を破壊した。
破壊はいつも創造主。
メンバーをびっくりさせてしまったけど、新しい曲の形を受け入れてくれた。
5月7日に改めて完成した。
みんなが好きかは分からないけれど、自分の創作の中で、聴き手として今までで一番好きな曲かも知れない。
自分の中で無意識にかけていたブレーキがあることに気がついて、それを外すように努めなければならなかった。
ブレーキを強く踏み続け過ぎていつしか筋肉が硬直し思うように動かせなくなった自分の重たい足を、自分の手で力づくで持ち上げてどうにかアクセルに置き直す、みたいな作業。
そのことの重要性に、手まで硬直してしまう前に気づき続けなければならない。
全身が固まってしまったらそれ以降、まあこんなもんか、でしかドライヴできない。
固まる、ってむしろスタイルが決まってるとか迷いがないとも言えてプロっぽい感じはするんだけど…自分の憧れってプロっぽさと縁遠いものかも知れない。
例えでカッコつけ過ぎて何言ってるか分からなくなってきた。
そういう訳で9日の演奏は開放感があったのかも知れない。

◆ ◆ ◆
ツアー中に買った本をいくつか書き連ねる、という形式でいきます。
—–
【『入門山頭火』- 町田康】
高知で買った。
有名な“分け入っても分入っても青い山” の句しか知らなかった。
むっちゃくちゃ面白かった。
山頭火という人の句がむっちゃくちゃ面白いし、町田さんの文章もむっちゃくちゃ面白いし、句に対する“読み” もむっちゃくちゃ面白い。
当然のことながら全体を通じてむっちゃくちゃ徹底的に町田さんの文体で語られるため、酒を煽っていても手足を投げ出していても市電の前で立ち尽くしていても、どんな山頭火であっても町田さんの顔でイメージしてしまった。
—–
【『リック・ルービンの創作術』- リック・ルービン】
高知で買った。
正直、買うのが恥ずかしいタイトルではある。
高知の本屋のレジ担当者だって思ったであろう。
“あ、こいつ、この本を買おうとしているということは、創作に興味があるのだな、もしくは創作をやっているのだな、創作って「創る」に「作る」を重ねるほどしつこいものなのだろう、贋作や盗作とは違うから創作というのだろう、にも関わらずこんなタイトルの本を手に取るということは、創作に迷いついつい贋作や盗作の道へ入りかけてしまい、しかし良心の呵責が生じて踏み止まり、それはつまり良心の呵責が芽生える程度のイカれてなさ故に迷うのであって、だからウチの書架にこの本のタイトルを見つけて藁にもリックにもすがる気持ちとなり、すぐさま背表紙を摘み出しレジへ持ってきたのであろう、うむ、さもありなん、こいつ、イカれてはいないくせに月曜から金曜まで働いてもいない人相をしているじゃないか。
3200円です、袋いりますか”
さて内容はリックさんのイメージ通り、スピリチュアルなニュアンスも多分に含まれていて興味深いものだった。
ただ一つ、自分にとって具体的だと感じられる創作術が載っており、それは枕をぶん殴りまくって自分を解放するみたいな原始的な手段で、ほえーと思って実践したら、確かに歌詞が出来たのであった。
本の代金でプロデュースしてもらったという考え方もできなくはない、と思っているケチな自分はもっと恥ずかしい。
ちなみに自分がリック・ルービンという人について一番しっくりきたのは、彼がブラック・サバスの作品に関わった時の動画がYouTubeにあるんだけど、それすね。
彼はまるでバカンス先で小さな虫の声に耳を澄ませているみたいに目を閉じて寝そべり、その状態でサバスの演奏を聴き、その都度思ったあれこれを寝たままでメンバーに注文していた。
不思議と偉そうっていうのとも違っていて、一般的礼節とかけ離れた態度だからこそ自分には”やっぱそうでなきゃっすよね”という感じがして嬉しい気持ちになったし、まあ自分は所詮礼節側であるなと思ったのだった。
—–
【『誰も語らなかったジブリを語ろう』- 押井守 / 『風の帰る場所』- 宮崎駿】
下北沢のヴィレッジ・ヴァンガードで買った。
様々の角度から語られるジブリ映画。
“これがやりたい”というエネルギーが最も肝心で、それは作品全体を通じて表す社会へのメッセージに宿るのではなくて、断片的で小さなアイデアにこそ一番強く宿っている、というようなことが印象深く感じられた。
自分もそう思ってるからだろうな。
他人の話を聞いて良いなと思ったりくだらねえなと思ったりする箇所って、大体鏡合わせだと思う。
自分に関係ないと感じる箇所は、みんな無意識の方へ流れていってしまう、もしそれが他人にとっての名言であっても。
あ、作品全体を通じて表す社会へのメッセージがないとダメだったら、ダメだわ俺。
断片的で小さなものから始めよう。
—–
【『田名網敬一 記憶の冒険』】
奈良で買った。
展覧会の図録。
展覧会には行ってない。
自分が最初に田名網さんの絵を認識したのは、スーパーカーの「Answer」っていうアルバムのジャケットすね。
淳治さん元気かな。
—–
【『近現代詩歌 / 日本文学全集29』】
奈良で買った。
そもそも以前に、“町田康さんが宇治拾遺物語に収められているこぶとりじいさんの物語を現代語訳した文章を音読したラジオ番組のアーカイヴ”をSpotifyのアルゴリズムによってレコメンドされたことがあり、ちなみにそれは宇多丸さんの番組だったんですけど、聴いてみたら夜道を歩きながら一人ニッコリどころかニッコリニッコリニッコリくらいしてしまった、という経験がある。
その時自分は通りすがる方々にとって気持ち悪い顔をしていたと思う、というのは自意識過剰のために今うっかり書いてしまった文章であって、本当は特に誰も気にしてはいなかったと思うけど、つまり耐えきれずニッコリしてしまうほど面白くて、額から陰茎が6本生えた鬼、みたいなもはや訳ではない部分も大変印象深く、そんな訳で町田さん訳の『宇治拾遺物語』の単行本を買ったこともある、額から陰茎が6本生えた鬼に文章で会いたくて。
で、その『宇治拾遺物語』の町田訳というのがそもそも池澤夏樹という人がボスとなって編んでいるらしい『日本文学全集』の一部であったそうな。みたいな説明文をどこかで見かけて以来、その『日本文学全集』ってきっとカッコいい全集なんだろうな、と思っていた。
いやずっとそう思って生きてきた訳ではない、心の隅に置いて生きてきた、いや隅というほどくっきりした場所でもない、もっと半端な場所に置いて生きてきた、とは言える。
これをたまたま本屋で見かけたので、あ、あのカッコよさそうなやつじゃん、が押し寄せてきて、例えばなんとなく”70’s FUNK”ってタイトルのプレイリストを再生してファンクの歴史を俯瞰して楽しもうとするみたいに、詩 / 短歌 / 俳句をテーマにしたこの全集を読んでみようと思った。
そうしたら、中城ふみ子という歌人を知った。
載っている5つの短歌が面白くて、しかも寺山修司という有名人が中城さんについて語った言葉も載っているんだけどそれもまた、かっけ〜、のやつであり、自分は寺山さんについてほとんど知らないのに有名人がそこまでぶっちぎりカッケーコメントを残しているという事実にブランド力のようなものさえ感じたのだと思う、うーんブランドに弱い人間ではある、中城ふみ子という人を知るためにこの『日本文学全集』を買ったのかも知れない、と思った。
—–
【『中城ふみ子歌集』】
福山にいる時にオンラインで注文した。
『近現代詩歌 / 日本文学全集29』を福山のベンチで読んでいたら“冬の皺〜”という短歌が怒髪天のロックのように身に染みてくる瞬間があり、恨み節の演歌とか任侠映画とかのむっちゃ大袈裟ともビンと張り詰めているとも言える強烈なテンションも感じて、カッケ〜となってしまい、注文した。
切り立つ崖の淵に立ち東映のオープニングみたいな冷たい波を感じられる、それが伊勢崎でも千日前でも、読めば。もっといろんな表情の歌もあるけど、スタイルを背負ってる感じは明確にある。
水戸のライブハウスLIGHT HOUSEの楽屋に置いておいたら店長の稲葉さんもちょっと読んでた。
稲葉さんも「かっけえな」と言っていた。
—–
【『セロニアス・モンクのいた風景』- 村上春樹】
どこで買ったか忘れた。
a flood of circleのツアーの合間にTHE KEBABSのツアー(と言っても4ヵ所だけど)があり、その時に読んでいた。
どこで買ったか忘れたのに読んだ場所を覚えているのは、名古屋clubQUATTROの楽屋に置いておいたこの本をTHE KEBABSの新井さんが気にしていたからである。
特に話題のエサとか罠のような気持ちで楽屋に本を置いている訳ではないが、こう書いていくと俺読んでるぜというアピールのような意識が自分にあるのかも知れないと思える。
内容は、以前このブログの中で自分なんかがセロニアス・モンクについて書いたことを後悔するような充実したものだった。
村上春樹さんによるモンクのレヴューと、アメリカの雑誌記事などの翻訳集。
モンクはモンクさんって感じがしない、モンクと言いたい。
ライブ映像でピアノから立ち上がって踊り出す様なんて、少し、なぜか、部分的に、友達のようにさえ感じられる。
—–
【『水道水の味を説明する』- 鈴木ジェロニモ】
紀伊國屋で買った。
紀伊國屋つったらもちろん新宿の。
“最も速い夜”っていうページでゾッとした。
—–
【『カフカ俳句』- 頭木弘樹】
紀伊國屋で買った。
不思議な形式の本。
水戸のライブでカフカのことを言ってしまった。
—–
【『焼死体たちの革命の夜』- 中原昌也】
紀伊國屋で買った。
まだ読んでない。
これから。
—–
【『響』- 柳本光晴】
漫画。
THE KEBABSのライブの時、田淵さんに薦めてもらった。
—–
【『ザ・キンクス』- 榎本俊二】
漫画。
アメリカからやってきたILAという友人と、同じ作者による『斬り介とジョニー499人斬り』について話したんだけど、『ザ・キンクス』は日本語が分かったほうが決定的に面白い場面があるため彼に勧めにくくはある。
ILAはアーティストで、今とんでもないものを作っている。
完成したらぜひ紹介したい。
—–
──佐々木亮介
◆ ◆ ◆
■<a flood of circle Tour 2024-2025>
▼2024年
11月28日(木) 千葉LOOK
11月29日(金) 千葉LOOK
12月06日(金) 堺FANDANGO
12月07日(土) 堺FANDANGO
w/ THE CHINA WIFE MOTORS
▼2025年
01月23日(木) 名古屋CLUB UPSET
02月09日(日) 京都磔磔
02月11日(火祝) 広島SECOND CRUTCH
02月13日(木) 松山Double-u Studio
02月15日(土) 高知X-pt.
02月16日(日) 高松DIME
02月18日(火) 静岡UMBER
03月06日(木) 神戸太陽と虎
03月08日(土) 鹿児島SR HALL
03月09日(日) 大分club SPOT
03月11日(火) 岐阜ants
03月16日(日) 横浜F.A.D
03月20日(木祝) 新潟CLUB RIVERST
03月22日(土) 郡山HIPSHOT JAPAN
03月23日(日) 盛岡CLUB CHANGE WAVE
04月05日(土) 長野J
04月06日(日) 金沢vanvanV4
04月10日(木) 奈良NEVER LAND
04月12日(土) 出雲APOLLO
04月13日(日) 福山Cable
05月09日(金) 仙台MACANA
05月10日(土) 水戸LIGHT HOUSE
05月15日(木) 八戸ROXX
05月16日(金) 八戸ROXX
05月18日(日) 山形ミュージック昭和SESSION
05月23日(金) 岡山PEPPERLAND
05月25日(日) 福岡CB
05月30日(金) 札幌cube garden
05月31日(土) 旭川CASINO DRIVE
06月05日(木) 名古屋CLUB QUATTRO
06月06日(金) 梅田CLUB QUATTRO
06月13日(金) Zepp DiverCity TOKYO
06月21日(土) 沖縄output

関連リンク
◆<Tour WILD BUNNY BLUES>特設ページ
◆a flood of circle オフィシャルサイト
◆a flood of circle オフィシャルX
◆a flood of circle オフィシャルInstagram
◆a flood of circle オフィシャルFacebook
◆a flood of circle オフィシャルYouTubeチャンネル
◆【連載】a flood of circle「THE WILD BUNNY DIARIES」