「M-SPOT」Vol.064「ボーカリストにこだわらない令和の音楽主義とクレジットの重要性」

2026.08.25 20:00

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今回紹介するアーティストは、のあのけというボカロP/ギタリスト。高品質でレベルの高い音楽をクリエイトしているアーティストだが、のあのけが発表したシングルには、同じ曲でボーカル違いの2バージョンが収録されている。

思いを馳せれば、ここからいろんなことが考えられる。50年ほど時代を横断し、音楽をクリエイトする価値観やこだわりの変化を見てみよう。コメンテーターはTuneCore Japanの野邊拓実、そして進行役はいつもの烏丸哲也(BARKS)である。

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──のあのけというボカロP/ギタリストがいまして、その作品を聴きながら思った事があるんですが、バンドマン体質というか、バンドに対する価値観や当たり前の感覚が世代によってずいぶん変わったんだなと思いました。それこそ1960~1970年代のロックシーンは全て人力だったので、アイデンティティはメンバーそのもので、自分たちだけで全ての音楽を作り上げるのが当然のことだったんですね。シンセが登場しようとも、クイーン『オペラ座の夜』のアルバムの帯やクレジットに「ノー・シンセサイザー」と書かれていたくらい。耳馴染みのないプログレッシブな音も入っているけど、全てメンバー4人の演奏によるものですよ、とプレイに対するこだわりと自負心が非常に強かった。流行ってきたムーブメントへのカウンターカルチャーのようなスピリットもあったわけです。

野邊拓実(TuneCore Japan):「自前のものですよ」という主張ですね。

──そうです。バンドの価値=メンバーですから、メンバーチェンジなんて大事件。楽器隊はもちろん、ボーカリストが変わるなんて別のバンドになると同義でした。あれから50年も経つと、機材の進化とAIに登場によって音源制作においては人力であることへの意味が希薄になった。そもそもバンドを組む必要もなければ制約を受ける必要もない時代ですよね。音色も演奏も自由度全開で、ボーカリストでさえ固定される必要がないというわけです。

野邊拓実(TuneCore Japan):バンドにとっては「ボーカルって替えが効くかないもの」という側面はあると思いますよね。

──そんな中で、のあのけ「猫だから五度寝」というシングル作品があるんですが、「猫だから五度寝(feat.たねまき)」「猫だから五度寝(feat.可不)」「猫だから五度寝(Instrumental)」という3曲が収録されていまして…。

野邊拓実(TuneCore Japan):曲名、いいですね(笑)。

──3曲目はマイナスワンのカラオケなんですが、1曲目はたねまきという歌い手でこちらは人間、2曲目が音声合成という、オケもそのままにボーカル違いが収録されているんです。


野邊拓実(TuneCore Japan):結構印象が違いますね。

──ごく自然にボーカルを替えていますよね。バンドマンであれば、決まったメンバーで最高地点の完成度を求めてチャレンジを繰り返すだけなので、この発想はないですよね。ここに見られるのは、ボーカルすらもひとつの表現ツールにすぎないというか、ボーカルを差し替えて発表するっていうスタイルで、ツールが発展したゆえの令和時代の価値観なんだなと思ったわけです。

野邊拓実(TuneCore Japan):これ、ちょっと面白いですね。要は、ボーカル版/ボーカロイド版/インストルメンタルの3種類を入れているわけじゃないですか。これってもしかしたら、僕の感覚では、本ちゃん/デモ版/オケを1枚に入れる、みたいな感覚なのかもと思いました。

──あー、なるほどなるほど。

野邊拓実(TuneCore Japan):楽曲制作最中はボーカロイドで作っているから、仮のデモはこれ。それをボーカリストさんに送って「これ歌ってください」と依頼をして無事完成されたちゃんとした音源が、feat.たねまきバージョンという。

──確かにそれはある。

野邊拓実(TuneCore Japan):僕もデモも作り込むタイプなんです。フルコーラスを入れて、なんならミックス~マスタリングも完璧にやったものをデモとしてメンバーに出すので、デモの完成度がめっちゃ高いのに「これ公開しないんだ…」みたいな気持ちはあるんですよ。

──わかります。本ちゃんよりデモの時のほうが良かった…なんてバンドあるあるですもんね。

野邊拓実(TuneCore Japan):なので、サウンドクラウドにデモを上げたりします。デモだけを公開して再生数がどれぐらい回るかで、その楽曲の強さを見るというマーケティングに使えないかと思っているんですけど、それ以前に「デモめっちゃいいんだけどな」「これ公開したいな」みたいな気持ちが結構あったりもするんですよね。

──いくらデモとは言え、心血注いでフィニッシュさせた音源ですもんね。

野邊拓実(TuneCore Japan):なので、「猫だから五度寝」もボーカリストが歌うと、ちょっといわゆるアニソンっぽい印象を受けたんですけど、一方で可不バージョンはボカロっぽい印象をしっかり受けて、もうちょっとインターネット寄りの印象になりますよね。それぞれ印象が違うので、コンポーザーの立場からすると「この可不バージョンも聴かせたいな」「これはこれでいいんだよ」って思った可能性もある。

──確かに、そういった思いや意味があるからこそ発表するんですもんね。同時にインストも公開しているのは、「歌ってみた」用でしょうね。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。「歌ってみた」をやられる方に向けて用意するようなカルチャーもありますから。

──結果、ボーカルを差し替えてもOKという楽曲文化も普通に拡散されるわけだ。

野邊拓実(TuneCore Japan):面白いですね。ボーカリストと可不という違うバージョンを出すのは、プラグインを差し替えるみたいな感覚なのかな。

──どうなんでしょう。興味ありますね。

野邊拓実(TuneCore Japan):でも少なくとも、そのアイデンティティは作曲にあるんでしょうね。出来上がった原盤というよりは、著作の方に重きが置かれているというか、自分のアイデンティティの中心に置かれているということが、2つの形態でリリースするところから見て取れる。実際、納得感のある楽曲クオリティというか、付け焼刃じゃないもう完全にわかってる人のオシャレコードとかアレンジですから。こなれ感もあるし、作曲・編曲への造詣が深い方なんだなって思います。

──こういう方がバンドを演ったらどうなるのかな。

野邊拓実(TuneCore Japan):最近は特に、どんな人なのか全然わからないですよね。顔を出さない方も増えているので、年齢やキャリアも謎ですよね。結構ベテランだったりすることもあるし、逆にすっごく若かったりすることもある。

──女子高生でした、みたいな。

野邊拓実(TuneCore Japan):そうそう、びっくりみたいな。

──逆に、AIが一般庶民にまで進出している時代であればこそ、のあのけさんのように「feat.◯◯◯」としっかりクレジットすることの重要性も感じたんですよ。

のあのけ

野邊拓実(TuneCore Japan):そうだと思います。昔はジャケット裏とかにクレジットが書かれていたと思うんですけど、デジタルに切り替わったことで、見られなくなりましたよね。でも音楽もいろんな関わり方が発達してきて、例えば映像演出の方がバンドのメンバーにいるとか、VJもメンバーとして扱われていたり、音響エンジニアがメンバーとしてクレジットされていることもありますよね。

──あと、ダンサーとかね。

野邊拓実(TuneCore Japan):昔はスペシャルサンクスでまとめられてたものが、最近は細かく表記する必要があることも多いですね。ひとりでできることが増えてきたこともあって、フットワークが軽くなるとコラボやコライトも増えてきます。ヒップホップのフィーチャリング・カルチャーとかもありますし、いろんな形が生まれていることを考えると、クレジットってすごく重要だと思います。

──事実を記する目的もありますけど、参加してもらった人に対するリスペクトの意もありますからね。いずれにしろ、どんな人が何に携わったかを明確にアナウンスしクレジットを入れるのは、AI丸投げの生成音楽に邪推されることへの有効な措置にもなりますから、そういう点でもクレジットは欠かせない重要ポイントと思います。

野邊拓実(TuneCore Japan):いやー、この時代は重要になってきますよ。クイーンの「ノー・シンセサイザー」じゃないけど、「ノーAI」を示す鍵として、クレジットという文化は大事になってくると思いますね。

のあのけ

日常的なテーマでハイクオリティな演奏をお届けします。
https://www.tunecore.co.jp/artists/NoaNoke

協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.

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