【インタビュー】「祝福」を循環させる、BLONIAが切り拓く「祝い花」文化のアップデート

2026.07.08 13:00

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花は、人の祝福の気持ちを象徴する存在だ。とは言え、その一方でライブや舞台、公演のたびに会場へ届けられる「お祝いの気持ちを花に託す」祝い花の多くは、役目を終えた後に短い期間で廃棄されてしまうという現実もある。近年はサステナビリティへの関心が高まるなか、こうした慣習に対して疑問を抱く声も少しずつ増えてきた。

そんな課題に向き合うべく「花に代わるスタンドが選択肢として存在しても良いのではないか」と音楽業界から生まれたのが、祝い花を新たなかたちで再定義するプロジェクト「BLONIA(ブロニア)」だ。テキスタイルデザインの知見と、音楽業界が抱える課題意識を掛け合わせることから開発が始まったBLONIAは、布を用いて制作されたリユース型祝い花サービスとして2025年5月に登場し、2026年6月には新たに胡蝶蘭モデルも発表され、現代社会に広く貢献できるようなバリエーションの拡充を見せている。

祝福の気持ちを損なうことなく、繰り返し利用することで廃棄を減らし高い持続可能性を実現させる祝い花「BLONIA」は、そのアート性の高さから高い注目を集めている状況だ。

BLONIAを手がけるのは著作権管理会社NexToneである。なぜ著作権管理団体が祝い花の課題に向き合うことになったのか。アップサイクルやサステナビリティという言葉だけでは終わらない、実践的な課題解決としての取り組みはどのように生まれたのか。そして、アートとビジネス、理想と現実の間で試行錯誤を重ねながら形になったプロダクトには、どのような思いが込められているのか。

異業種の協業から生まれた新たな祝いの文化について、NexToneの米山奈穂子氏と、デザイナーでありクリエイティブ・ディレクターの梶原加奈子氏に話を伺った。

──NexToneでBLONIAプロジェクトが生まれた背景というのはどういうものだったんですか?

米山奈穂子(NexTone):そもそも生花じゃなくてどういった形のものにしていくのかというところから始めたんですけれど、チームメンバーで話していく中で、テキスタイルという布の世界でも「もったいない」という課題があることを知ったんです。そういった課題にも向き合っていらっしゃるデザイナーさんとして梶原さんとの出会いがありまして、BLONIAのテーマ性にも賛同いただいてデザインをお引き受けいただいた形です。

──テキスタイル界隈での「もったいない」というのは?

米山奈穂子(NexTone):布地や織物で端材が出たり、端切れが出たり、サンプルとして商品にならずに捨てられてしまうものがあったり、様々なところで課題を感じていると伺っています。

──梶原さんは、BLONIAのお話を聞いてどのように感じましたか?

梶原加奈子(デザイナー):ファッション業界では、アップサイクルとかサステナブルな取り組みは割と先行して進んでいたんですけど、異業種の方からお問い合わせをいただいたことで、そういう思想が社会に広がっていることが実感できて嬉しかったですね。

──NexToneは音楽業界ですもんね。

梶原加奈子(デザイナー):私たちもお祝いする時にはお花を出しますし、いただくこともありますけど、結局は廃棄しなければいけないものですよね。お祝い品ですから、本当に取り扱いが難しいなとは思っていたんです。

──確かに。気持ちのこもった頂き物ですから。

梶原加奈子(デザイナー):そうなんです。でもいつまでもとどめておくわけにもいかなくて、ここには問題を抱えていることに気が付きました。廃棄に対しての対応策として、BLONIAのプロジェクトが軌道に乗っていけば問題解決に繋がっていくのかな、可能性が非常にあるなと感じましたね。

米山奈穂子(NexTone):音楽業界でも、どこか心の底で「もったいないな」っていう意識はそれぞれ持っていたとは思うんですけど、声に出している人はあまりいなかった。ここ1~2年ですよね、ちょっとずつ声に出す方が増えてきて、自分が思っていた「もったいない」という気持ちって「自分だけじゃなかったんだな」「マジョリティになってきているのかもしれないな」みたいなところはありました。

──機が熟してきたということですね。

梶原加奈子(デザイナー):ファッション業界が2015年あたりからこの問題に注目していたので、それから10年経って一般の社会…違う分野にまで自然と広がってきたんでしょうね。「サステナブル」という言葉と概念だけでやった気になって終わっちゃうことも多いんですけど、でもこの祝い花の廃棄問題は本当に問題があると思いましたし、問題解決に賛同する人も多いだろうと思ったので、サステナブルというよりも課題解決として実態があると思いました。やりやりがいもありますし。

左:米山奈穂子(NexTone)、右:梶原加奈子(デザイナー)

──ということで、BLONIAのプロジェクトはスムーズにスタートを切ったんですね。

梶原加奈子(デザイナー):…いや、簡単には進まなかったです。かなり話し合いも多かったから。

米山奈穂子(NexTone):時間はかかりました。当たり前なんですけど、実際の生花の奥行きや瑞々しさ、鮮やかさに対して、隣に並んだ時に見劣りするようではBLONIAは選ばれないですよね。立体感を布でどのように出すのかだったり、配色も何度も何度もトライをしてここまで来た感じです。

梶原加奈子(デザイナー):コンサート会場などで見るお花って、今の日本ではすごく華やかになっているんです。推し活ブームもあって、自分の心を表現するものとしてすごく意思の強いものを送るというか、どんどん華やかになっている。ものすごく大きいものがあったり、風船が入っていたり、自己表現が華やかになっているので、その存在感に負けない強いものを作るというのが最初の課題でした。

──敵は手ごわいですね。

梶原加奈子(デザイナー):そうなんです。お客様が満足感を持って使い続けてくださることが重要で、派手な祝い花を送る方も、それが一瞬で捨てられるというのは寂しいことと思うので、BLONIAのレンタルというシステムは素晴らしいと思います。発送業者との関わりも含めて現実的なプラットフォームを作ることは大変だったと思いますよ。構想と現実が両方走っていく感じでしたね。

米山奈穂子(NexTone):でき上がった筒型スタンドという初期モデルは、誰も思い描かなかったような、なかなか発想できないものになったので、すごくありがたかったです。

──続いて大型ではないモデルとして、胡蝶蘭タイプが新たに発表されましたね。

米山奈穂子(NexTone):一般企業でも多く使われるものとして、胡蝶蘭を彷彿させるイメージのものを開発したいと思っていたんです。けど、ただ胡蝶蘭そっくりに作るのなら「造花でいい」となってしまいますよね。造花ではなく、ただ似せるだけでもなく、布でできる表現でどんなものが作れるのかに着手したんですが、初期段階でほぼほぼこれに近いものを仕上げていただいていて、すごく感動しました。ぱっと見で「胡蝶蘭だ」っていうイメージ。

──造花じゃなくて胡蝶蘭を思わせるもの…なかなか無茶なオーダーですね(笑)。

梶原加奈子(デザイナー):世の中には造花もファブリック造花もありますので、それと似ていないでどう存在させるかということと、胡蝶蘭と並んだときに価値を落とさずに存在できるかどうか。その価値を私はアートっていう言葉に置き換えて、胡蝶蘭を模倣するのではなく、胡蝶蘭をテーマにしながらアートとして成り立たせるという考え方にしたんです。

──その発想こそが、今回のプロジェクトの重要なキーポイントなんですね。

梶原加奈子(デザイナー):じゃないと造花に負けてしまうし偽物になっちゃう。本物というのは、そこに意志がしっかりと入っているアート性なので、ひとつひとつの生地にこだわりをもって、それをどう組み合わせるのか、実際に作りながらオリジナリティを追求したというものです。一見胡蝶蘭なんですけど、全てがオリジナルで。

──この完成度に至るまで、どういう過程があったんでしょうか。

梶原加奈子(デザイナー):最初はどういう表現の仕方がいいのかをリサーチをするために、あらゆる造花やファブリックフラワーを研究して、それと似ているけど違う表現方法がどういうものか、どうしたらそれが成り立つのか、実際にプロットタイプをたくさん作っていきました。それでこの形に至ったんですが、5種類の生地を折り畳んで構成しておりまして、そこに茎となる芯を入れていくことで、こういうものができるんですよね。

──素材の選定や生地の重ね方やずらし方に、試行錯誤の跡が見えるようです。

梶原加奈子(デザイナー):どんな生地を選ぶのかもこだわり抜いていまして、張り感とか艶が違うものを選びながら、どういうデザイン性を入れるのか、糸にもこだわったオリジナルの生地を制作しています。

米山奈穂子(NexTone):幅や太さなど、本当に細かく細かく試行しましたよね。

梶原加奈子(デザイナー):プロットをひとつひとつお見せして、打ち合わせ時間を本当に多く取ってくださって、細かく話をしましたね。

──大胆ながら非常にデリケートなクリエイティブですね。

米山奈穂子(NexTone):コンサート会場で見ているお花のイメージがあるので、それを頭の中で置き換えた時に、きちんと受け入れられるものに仕上げたいと思いましたから。

──製品設計というより、むしろアート作品作りですね。アーティストとしての作品への追求という側面と、クライアントのリクエストに応えるというビジネス面は、どう折り合いを付けたんですか?

梶原加奈子(デザイナー):難しくもありますけど、日頃からいろんな皆様と共有していますので、それは自然にできる状況ではあります。なので、話をして意見を言ってもらえるというのは、むしろありがたいことなんです。広げたアイディアをだんだんフォーカスさせて、そこから削ぎ落としていくことが大事になるので、スケジュールという限られた時間の中で、いかにゴールに向かうかには「アーティスト面の気持ち」と「デザイナーとしての計画性の気持ち」がありますけど、両方をバランスよく進めるのは慣れているんです。

──「アーティスト」と「デザイナー」は違うものなんですね。

梶原加奈子(デザイナー):デザイナーは課題を見つけアイデアによって解決策を形にする仕事です。コンセプトを立案し、計画したものを表現するために論理的に進めて結果を導く業務です。ひとつひとつの生地のこだわりとか全体への世界観ではアーティストの視点が重要になりますけど、その表現を形にしていくところはデザイナーとしての気質に繋がるところなのかな。

──なるほど、レコーディングが永遠に終わらないミュージシャンもいますけど、それはアーティストとしての性分が前面に出ちゃっているのか。

梶原加奈子(デザイナー):そうですね(笑)。そういう意味では、アーティストとして開放する部分と、デザイナーとしてまとめていく部分、かつディレクターとして全体の方向性を導き決断していく仕事という3つの視点があるかもしれないですね。

──いい仕事をきっちりこなす為に必要な要素かもしれない。でも製作するたびにいろんな案や欲も出てくるという悩ましさもありそうですね。

梶原加奈子(デザイナー):ありますよ(笑)。ひとつひとつ問題を解決しながら形にしたので、妥協はしていないんですが、ここまではかなり悩みながら進んできたので、問題にけりをつけるために視点を変えてみたり、生地の絞り込みに関しても多様なアイデアがあるので非常に悩ましくて難しいんですよね。

──A案B案どちらもいい、みたいな。

梶原加奈子(デザイナー):そうです。やはり私たちらしさという基盤にあるもの…過去にいろんな作品を作ってきた中での共通性というものが自分たちの軸としてありますので、やってきたことの積み重ねの延長上にあるかないかを見つめましたし、その個性に賛同していただけた部分もあります。

──実際の運用までを考えた場合、堅牢性とか可搬性など隠れた苦労もたくさんありそうですね。

梶原加奈子(デザイナー):コストの問題もありますよね。最後で難しかったのは、発送できるような形にするところです。組み立てた時に花びらが動かないように仕掛けを考える必要があるので、制作チームに建築家の人も入っていただいて1から構造を突き詰めました。

──それはすごい。

梶原加奈子(デザイナー):あとは前から見ても横から見ても美しいように、土台の色合いや赤いプリーツの角度なども最後まで工夫しましたよね。

米山奈穂子(NexTone):実際の胡蝶蘭と並んだ時に負けないような華やかさを実現するため、フェルトにプリーツをかけるという新しい発想によって、すごく満足のものになりました。

梶原加奈子(デザイナー):布好きの方でしたら、至近距離で見るだろうなと思います。土台の部分にはアップサイクルの合成皮革も使っていまして、これが実は世界的に高い評価を受けている日本製の素材なんですよ。飛行機のファーストクラスのシートとか宇宙船のシート、高級車のシートなどにも使われています。でも日本ではあまり出回っていないもので。

──日本製なのに出回っていないんですか?

梶原加奈子(デザイナー):埼玉で生産されていますが、世界市場から買われているので供給が足りていない状態です。価格の高さもあって日本では使われる機会が少ないのだろうと思います。ただ最高級がゆえに、ちょっとでも色が合わないとお客様が受け取らず廃棄対象になってしまうんですね。そこでこのメーカーさんは廃棄ロスを防ぐため、アップサイクルプロジェクトとコラボしていくことに注力されていて、時には病院の椅子になったり、時にはバックになったり服になったり、いろんな企業さんがこの合成皮革をサステナブル素材として使い始めているんです。今回はそれを活用しました。

米山奈穂子(NexTone):スタンドモデルではできなかったアップサイクルという取り組みが、胡蝶蘭モデルで叶ったんですよ。

──まだまだ夢は広がりそうですね。

米山奈穂子(NexTone):今、次に思い描いているのが、スタンドモデルのカラーバリエーションですね。今は2色しかないんです。現状でも企業さんはよく使っていただけるんですけど、ファンの方にとっては推し活ブームの中で、推しのカラーのスタンドを使いたいというお声もあるので、ある程度のカラーバリエーションは用意したいというのが次のステップ。

梶原加奈子(デザイナー):そしてさらに華やかなものもね。

米山奈穂子(NexTone):もうちょっと立体感のあるものもオプションとして追加していきたいなと思っているんです。

梶原加奈子(デザイナー):実は、私としてはもう少し小さいタイプのものも用意して、いろんなお祝いの選択肢を増やしたいと思っています。それこそ卓上だったり。このBLONIAシステムがいろんな人に行き渡ってほしいと思っているので、皆さんのニーズに対するバリエーションが増えていくといいなと思いますね。

──胡蝶蘭モデルは白ですが、カラバリは考えているんですか?

米山奈穂子(NexTone):初期の段階で、白がいいのか色がついたものがいいのかは検討していて、ピンクっぽいものもやっぱり綺麗だったので、いつかは作りたいですね。先々は花びらのカラー展開も増やしていきたいし、布だからこそできる配色というものもあると思いますから。

──梶原さんは、これまでもいろんな案件を手掛けてきたと思いますが、今回のBLONIAプロジェクトの難易度はどんなレベルでしたか?

梶原加奈子(デザイナー):難易度は…かなり高いです(笑)。時間をかけながら作ってきたというのは実はすごく贅沢なことでして、時間を使えた点がこのプロジェクトの特徴ですね。その上で、ご担当の米山さんもすごくこだわりポイントを持っていて、そういう目線の一致感を感じることができたので、一緒にこだわってきた感覚があるんです。それって実は珍しいプロジェクトで、なかなかない事なんですよ。私たちのこだわりをご理解いただけないことも多いですし、時間はとても大事なのでここまで粘れないというか、完成度を高めることよりも収めるところに着地させることが重要にもなるんです。

──わかります。

梶原加奈子(デザイナー):そういった面では、米山さんをはじめとしたNexToneチーム全員がこだわりの方に向かっていただけるので、足並みを揃えて一緒にやれた。難しいけれどもやりがいがあるプロジェクトなんです。

──難易度高いけど、ストレスフルではない。

梶原加奈子(デザイナー):非常に面白いプロジェクトですね。デザイン事務所として私達もとことんやらせていただいてるという印象があります。

──今後の発展も楽しみです。

米山奈穂子(NexTone):私自身、生花は大好きなんです。生け花を習っていたりもしますし。なのでBLONIAは、生花から置き換えたいというものではなくて、色んなところで目にした時に、こういう選択肢もあるんだなって気付いてくださる方がどんどん増えていただけたらいいということなんです。「こういう場面には生花じゃなくて、こういうものが合うかもしれないな」っていう場面で選択してくれる人が増えていけるように、卓上のバージョンを増やしたり、選択するきっかけが増えるような商品をこの後も追加していきたいなと思っています。

──サステナブルやアップサイクルという社会貢献にもつながる仕組みは、これからより一層注目されるものですね。

米山奈穂子(NexTone):ありがとうございます。新規事業の発令から、たまたま私のアイディアが採用されて事業化されたわけですけど、「音楽業界/アーティストのために新しいサービスを考えていきましょう」というテーマが、「音楽業界の役に立ちたいな」と思っている自分にマッチしたところもありますし、お花が好きっていうところにもマッチしましたし。出会えたチームメンバーとか梶原さんたちデザイナーチーム、運送の方々もいい人たちに出会えたっていう部分が、私にとって大きかったです。運が良かった。出会えた人に感謝です。

梶原加奈子(デザイナー):今回の作品においては、全てメイドインジャパンの素材を使っているんです。そういった面では、このプロジェクトには日本のテキスタイル業界のひとつの新しい道ができたという大きな視点も入っているんですよ。

──海外の人の目にはどう映るんでしょうね。

梶原加奈子(デザイナー):すごく日本らしいものだと感じると思います。海外でもお花を贈る文化やフラワーアレンジメントは盛んですけど、お祝いする気持ちを祝い花の形に置き換えて設置するというのが日本的ですよね。

──こういう文化が世界に広がっていったら面白いですね。

米山奈穂子(NexTone):BLONIAは祝い花に置き換わるアート作品にさせていただきましたけど、「生花じゃなくていい部分があるのかもな」っていう考えを持つ人が増えるといいなと思っています。意志を持って「この方にはこの色のこういうお花を、この思いを込めて送りたい」という行為は、これからもどんどん続いていくべきだと思いますけど、贈ることに意味があるのであれば、こういうのを使ってみるとチャリティー活動に繋がったりもしますので、お祝いの気持ちがより意味のあるものになるのかなと思います。

──今後のBLONIAプロッジェクトの進化も楽しみにしています。ありがとうございました。

取材・文◎烏丸哲也(BARKS)

◆「胡蝶蘭モデル」note
◆BLONIAオフィシャルサイト

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