【インタビュー】名渡山遼、メジャーデビュー10周年記念作リリース「またスタートラインに立てた」

2026.06.24 12:00

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虹の女神は、あなたのすぐそばにいる──。

ウクレレ界のトップ・プレイヤー、名渡山遼のメジャーデビュー10周年記念作『Beyond the Rainbow』は、CD2枚組で、全曲新録音のDisc1と、10年間にリリースした中から今届けたい曲を自選したDisc2をカップリング。名渡山遼の世界への入門編として最適の内容だが、それだけじゃない。そこには様々な迷いと葛藤を超えて、「本当に作りたい音楽」にたどり着くまでの、長い物語がある。聴けば誰もが、その強さと優しさ、純粋さに心動かされずにはいられない作品だ。

   ◆   ◆   ◆

──このCDジャケットで弾いているのは、新しいウクレレですか。

名渡山:そうです。2024年の11月に作ったもので、12作目になります。今はさらに2本、作っているところです。

──名渡山さんの自作ウクレレは、1本1本、響きが違うんですよね。どうですか、12作目の出来栄えは。

名渡山:この楽器を作れたのは、自分にとって大きいですね。今作の音は全部、これで録っているんですよ。それまでは、新しい楽器ができても、レコーディングでは9作目のウクレレを使うことが多かったんですね。すごくいい音なんですけど、結構弾き倒してきたので、「これがなくなったらやばい」と思っていたんですが、今回のウクレレはすごいです。9作目の、さらに雑味がなくなった音がしていて、空間も感じられて、温かさもあって。ラフミックスでもいい音ですけど、ミックスしたあとは、さらに音が良くなっています。

──まだラフミックスの音しか聴いていないので、それでも素晴らしいですけど、完成形が楽しみです。そして今回のアルバムは、メジャーデビュー10周年の記念作品で、新曲とカバーを含めた全曲新録音のDisc1と、過去の曲から選りすぐったDisc2の、CD2枚組。この形態にした理由は?

名渡山:メジャーでリリースしたオリジナルアルバムだけでも9枚目、インディーズも含めると21枚目になるんですが、「お薦めのアルバムは?」とよく聞かれるんですね。自分としては、毎回「これだ!」という1枚を作ってきたつもりなんですが、やっぱり全部聴いてほしいので、「全部買ってください」とか言っちゃうんですが(笑)。

──作り手としては、そうですよね。

名渡山:その気持ちは変わらないんですが、その中でも特に大事な過去の曲たちを入れつつ、新作もありつつ、自分のファンの方にも、初めて知ってくださる方にも楽しんでいただける、そういう作品を作りたいなと思っていた時に、「アルバムを出しましょう」というお話をいただいたので。

──渡りに船。選曲はご自身で?

名渡山:はい。すごく悩みました。泣く泣く、収録できなかった曲もあります。

──ウクレレのソロあり、バンドサウンドあり、ピアノや弦楽器とのコラボもあり。特にDisc2のコンピレーション盤は、カラフルなサウンドがいかにも名渡山遼らしさを表しているな、と思います。選曲の基準は?

名渡山:いろんな方に名渡山遼のサウンドを聴いてほしい、という理由もあるんですが、こうして曲順を見ていると、「自分のためでもあるな」と思うんですね。自分と、自分に一番近い人たちのための選曲でもあるな、というふうに思います。例えば、僕のファンの中でも、全国ツアーに全部来てくれるようなコアなファンの方たちは、Disc2の選曲を見たら、「1~4曲目は家族の曲だな」とわかるはずなんですよ。4人家族なので。……これは、あまり言うつもりはなかったんですけど。

──そのへんは、お話ししてもらっても、しなくても、どちらでもいいですよ。「選曲と曲順には、パーソナルな意味がある」ということだけ、リスナーに伝えられれば。

名渡山:自分としては、決意と感謝と、大事なものを忘れないように、という思いで選曲している部分もありますね。

──Disc1の新曲、新録音にも、そんな思いが込められていますか。

名渡山:はい。例えば、なんでここにイーグルスの「Desperado」が入っているんだろう?とか、思うじゃないですか。僕、ウクレレを始めてから、ずっとジェイク(・シマブクロ)の真似っこで、最初はやっていたんですけど、自分で初めてアレンジした曲が、「Desperado」なんです。父がイーグルスのファンで、「お前、これ弾いてくれ」みたいに言われたのがきっかけです。ちなみに、その時一緒にカバーした曲がもう1曲あって、今回は収録できていないんですけど、「世界に一つだけの花」なんですよ。母が、SMAPが好きだったので。

──素晴らしいです。ご両親に1曲ずつ。

名渡山:それが、初めて自分でアレンジした2曲です。だから、僕がウクレレを弾いていく上で、「Desperado」はとても大事な曲です。

──それを、当時のアレンジを思い出しながら、弾き直したわけですね。

名渡山:おっしゃる通りでございます。YouTubeとかに、昔に弾いたやつがまだ残っていて、「今だったらこう弾くけどな」とか思うんですが、それをやめて、当時のアレンジを踏襲している部分もあります。それがまた、結構良かったりするんですよね。

──ベット・ミドラー「The Rose」も、思い出の曲ですか。

名渡山:そういうわけでもなくて、「The Rose」は、ここ最近ずっとライブで、好きで弾いている曲ですね。

──坂本九「心の瞳」は? 合唱曲として、有名ですよね。

名渡山:「心の瞳」は、大好きな曲です。僕、中学時代の3年間は学級委員だったんですが、卒業式の時に、生徒たちだけで、「保護者の皆さんや来賓の方々、先生方にサプライズしたい」ということになって。式典が終わった後、そのまま退場せずに、みんなでステージに上がって歌う、ということをやったんです。その時に僕が、「心の瞳」を提案させてもらったんですね。学級委員の力を使って(笑)。それで同級生のみんなで放課後にこの曲を練習した、思い出の曲なんです。

──素敵なエピソードです。

名渡山:それと、この曲は妻が好きで、どうしても入れてほしいと言われた、という理由もあります。あとは、今回のアルバムのレコーディング・メンバーの、青木岳(たかし)さんというピアニストの方が、『リラクシング・ピアノ』というCDを出されていて、合唱コンクールの曲を弾いているんですが、その1曲目が「心の瞳」で、アレンジが素晴らしいんですよ。18歳の時からずっと一緒にやっているので、青木師匠と呼んでいるんですが、師匠のピアノで「心の瞳」をウクレレで歌いたいなと思って、シンプルに一音一音、丁寧に弾きました。

──全曲解説になりそうなので、このへんにしておきますが。ともかく、全曲にストーリーがあるということですね。

名渡山:新作のDisc1にも、コンピレーションのDisc2にも、曲順にも全部にストーリーがあるんですが、僕としては、自分の思いをあまり語らないほうがいいというか……語りすぎると、独りよがりの音楽になっちゃうというか。例えばですけど、僕がめちゃくちゃ苦しい時に作った曲が、誰かの楽しい思い出の曲になるかもしれないですよね。逆もまたしかり、で。

──そうですね。

名渡山:自分は心が動いた時に曲ができるわけですけど、「心が動いた時に何があったのか」は、皆さんの元に届ける時にはそんなに大事にはしていないんです。そうしないと僕のための曲になってしまうので。だから、タイトルにもめちゃくちゃ迷うんです。ファンの方に、「どういう時にどんなふうに作った曲なのか、もっと言ってほしい」と言われて、悩んで悩んで、そうした時期もあったんですけど、それは今もやっぱり、悩みながらやっています。

──そこは、答えを出さなくていいと思いますよ。

名渡山:だから、そういうことを知りたい方は、この曲順、このタイトルから、僕がどういうふうに作ったのか?を紐解いて、考察していってもらえたらいいのかな?と思います。そして、僕に質問してくれて、もし合っていたら「そうだよ」と言います(笑)。

──一つだけ、聞いていいですか。Disc1の1曲目が「Nemophila」(ネモフィラ)で、最後の曲が「Iris」(アイリス)。2曲の新曲の、どちらも花の名前になっている理由だけ、おしえてください。

名渡山:これも本当に、たまたま花で繋がった部分はあるんですけど……「Iris」は、実は「イリス」なんですよ。

──あ。すみません。そうでしたか。

名渡山:いや、でもね、違うんです。僕も本当に今の今まで、イリスでもアイリスでもどっちでもいいですよ、ぐらいな感じなんですよ。いちおう「イリス」にしようと思っているんですけど、本当にどっちでもよくて、なぜかというと、これはダブルミーニングなんですね。アイリスは菖蒲の花で、イリスはギリシャ神話の虹の女神の名前なんです。

──なるほど。そっちなんですね。

名渡山:そこに、菖蒲の花のイメージが重なっているんです。そして「Nemophila」は……えー……。

──本当に、どちらでもいいですよ。しゃべってもらっても、そのままにしておいても。

名渡山: 「Nemophila」には、いろんな意味を込めています。家の近所に、ネモフィラがきれいな公園があって、そこで家族みんなでピクニックしたりしているので、「そういう時間を大切に」という曲です。そんなふうに言うと、ただただ爽やかな聴こえると思うんですけど、実はこの曲、嗚咽しながら作ったんです。バンドメンバーと、初めて一緒に演奏した時に、もう弾けないぐらいになっちゃって。アレンジの打ち合わせには参加せずに、控室でずっと泣いていました。

──そんな曲には聴こえない……というと、語弊がありますが。

名渡山:そうですよね。でも、それでいいんです。

──それが、さっき言われた、「自分だけの曲にはしたくない」と。

名渡山:そうです。ただ、こういう言い方だとあまりにも漠然としていて、申し訳ないので……このアルバムを通して、特に新曲を通して何を伝えたいか?というところをお話しさせていただくと、僕は今までに「ありふれた日常が大事だよ」とか、よく言っていたんですが、それでも見失っちゃうことがあるんですね。メジャーデビュー10周年を迎えるにあたって、『Beyond the Rainbow』というタイトルを決めて、より立派な大きい虹を追い求めようとした時に……。僕はいつも、何かに感動した時に頭の中で音楽が流れるんですけど、その音楽が流れなくなっちゃったんですよね。この数か月。

──そんな時期があったんですか。

名渡山:そういう負のスパイラルに陥ると、何をするにも焦っちゃうんです。例えば、家の中で子供たちが喧嘩しているとか、それを叱る声が聞こえたりとか、そんなありふれた日常にストレスを感じるようになって、そういうことに耳を塞ぎながら曲を作っていたんですが、頭に曲が流れなくなってしまって、イギリスに行ったんですね。イギリスの湖水地方で湖を見ながら曲を書こうと思って、行って、そこで40曲ぐらい書いたんです。でもそれは、何かが足りなかったんです。そりゃそうですよね。一番大事なものを置いてきてしまったわけですから。

──うーん。なるほど。

名渡山:僕は今まで、「自分がいい音楽を作るために。いい音を出すために」というところで、独りよがりにやってきたんですけど、そうやって進んでいった時に、むちゃくちゃしんどくて、苦しくて、真っ暗闇のトンネルの中で、どこがゴールかわからない中でもがいてもがいて、という感じの制作期間だったんです。だから、出来上がった曲も、独りよがりな曲ばかりだったんですね。それをメンバーに助けてもらいながら、何曲かアレンジを進めていたんですけど、もう意固地になってしまって、「僕の気持ちなんて誰にもわからない」と思っていたんです。でも真暗闇から助け出してくれたのは、やっぱり家族だったんですね。

──はい。

名渡山:レコーディングの1週間前ぐらい前に、思い切って、イギリスで作った40曲を全部捨てました。ここに入っている3曲の新曲は、すべてその後に書いたもので、「Nemophila」は、プリプロでメンバーとスタジオに入る日の朝4時にできて、「Treasure」は、レコーディングの日の朝4時にできました。寝ないで、作りました。その1週間に何をしたか?というと、日中は作曲をやめて、子どもたちと遊んで、ヨモギを摘んで草餅を作ったり、たんぽぽを摘んでペットのリクガメにあげたり、息子が古紙で剣を作るのがすごく好きなので、一緒に作って遊んだりとか、そういうことをしていました。そして、いつもレコーディング期間には、ウクレレを弾く爪のコンディションを考えて、食器洗いもしなかったりするんですけど、そんなことも全部やめて、家中の水回りを全部掃除したりとか。とにかく、「音楽のために」という考え方をやめて、一日一日を丁寧に生きてみようと思って、やるべきことをやって、1週間過ごしたら、ふわっと3曲できました。

──それは……すごい話です。

名渡山:なんでイギリスまで行ったのかな?と思いましたけど(笑)。でも、行かないと、気づけなかったでしょうね。そうやってできた曲なので、聴く人にも、そういうところをメッセージとして伝えたいんです。僕は今まで、音に命を賭けるあまりに、日常的な生活をしないことを正当化していたんですね。でも今回は、レコーディングの前日まで、子どもたちととことん遊んで、家の掃除をして、爪の状態もボロボロなんですけど、「自分の探している音はこれだったかも」ということに、初めて気づけたんです。音にはちょっと雑味があるかもしれないですけど、そっちのほうが健全でピュアだなと思います。

──そうだと思います。

名渡山:つい先日、息子が玄関を開けて、外に出た時に、「パパ、虹!」って言うんです。僕が虹を好きなことを知っているので。こんなに晴れているのに、虹なんか出るわけないじゃんと思って、外に出たら、当たり前ですけど、ないんですよ。そしたら、駐輪場の床を指差して、「虹!」って言うんです。光の乱反射で、虹のような光が見えることって、あるじゃないですか。それだったんです。僕、記念に、写真を撮ったんですよ。これなんですけど(スマホで見せる)。

──あ! これは虹の色ですね。はっきり見える。

名渡山:この感性ですよね。僕は、立派な虹を探していて、本当に足元の虹に気づけなかった。だから、灯台下暗し、じゃないですけど、虹は身の回りにずっとあるものだし、足元にもあるんだということに、みんなにも気づいてほしいんですね。

──イリスはあなたのそばにいる。

名渡山:おっしゃる通りです。たぶん、一番近くにいますよ。探さなくても、イリスはもういるはずです。それが、このアルバムの最後のピースでした。

──タイトルが『Beyond the Rainbow』。前作の『Brand New Rainbow』から、一歩先へ進みました。

名渡山:僕は、虹の向こう側の景色を、みんなと見ていきたいんです。『Brand New Rainbow』は、新たな虹をかけようというコンセプトでしたけど、10周年は「Beyond=向こう側を」ということで、だから、最初はタイトルで気負ってしまったのか、「虹とは何か?」みたいな感じになってしまっていたんですよね。

──まさに、それを乗り越えて向こう側へ。

名渡山:そうなんです。今作は自分にとって転機となるアルバムで、「人生で自分が書きたい曲はこれだな」と、はっきりわかったので、またスタートラインに立てたかなと思います。

取材・文◎宮本英夫

『Beyond the Rainbow』
発売日:2026年6月24日
形態:CD2枚組
品番:KICS-4253~4
定価:¥5,500(税込)
CD購入:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4253/
ダウンロード・サブスクリプション:https://king-records.lnk.to/beyondtherainbow

【Disc.1】※全て新録
01.Nemophila (書き下ろし)
02.Pua Lililehua
03.Desperado
04.Treasure (書き下ろし)
05.Danny Boy
06.The Rose
07.Bloom in your Heart
08.Turkish March
09.Your Smile
10.心の瞳
11.Canon in D
12.Iris (書き下ろし)

【Disc.2】※これまでにリリースしたオリジナル曲のコンピレーション
01.Angel feat. 三浦拓也 (from DEPAPEPE)
02.Bloom in your Heart
03.Follow Your Heart
04.Way To Go!!
05.Dance with Me
06.Tune of Hope
07.Life Is Beautiful
08.You’re My Hero
09.Chocolate Banana Pie
10.Islander’s Dream
11.Precious
12.Sweet Dreams

<Major Debut 10th Anniversary Ryo’s Uke Journey ~Beyond the Rainbow~>
日時:2026年7月12日(日)開場15:00/開演15:30
会場:よみうり大手町ホール(東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル内)
出演:名渡山遼
スペシャルゲスト:DEPAPEPE 三浦拓也
入場料:¥7,500(税込/全席指定)
    ※未就学児入場不可。
お問合せ:キャピタルヴィレッジ(TEL:03-3478-9999)