【インタビュー】ストレイテナー、『Next Chapter EP』という名のバンド感とポップが共存する現在地「今の自分達に自信を持って」

2025.10.31 18:01

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ストレイテナーが2023年、結成25周年とメジャーデビュー20周年を同時に迎え、3度目となる日本武道館公演を成功させてから3年を経て、自身の音楽性をさらにアップデイトしたことは、集大成とも言える12thアルバム『The Ordinary Road』以来、1年ぶりのリリースとなる最新EP『Next Chapter EP』について語るホリエの言葉からも窺える。

◆ストレイテナー 画像

ホリエアツシ(Vo, G, Key)、ナカヤマシンペイ(Dr)、日向秀和(B)、大山純(G)といった4人が持つオルタナティヴな感性が、それぞれに異なる曲調に実を結んだ再録を含む4曲が収録されている最新作が、『Next Chapter EP』だ。すでにライブでも披露している表題曲を聴けば、今回のタイトルがバンドのことを謳ったものではないことは明らかだが、このインタビューを読んだ誰もがストレイテナーはすでに“次の章”を開こうとしていることを確信することだろう。インタビューにはバンドを代表して、ホリエが答えてくれた。

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■バンド感を大事にしつつ
■ポップな曲にしたかった

──『Next Chapter EP』というタイトルはてっきりストレイテナーにとっての次の章という意味なのかと思いきや、8月に配信リリースした表題曲を聴いたら、我々全員で次の章を目指そうという大きな曲でした。

ホリエ:そうですね。歌詞から「Next Chapter」というタイトルを付けて、今回のEPのタイトルにもしました。

──つまり今回のEPを作り始める前に「Next Chapter」という曲があったわけですね。「Next Chapter」はどんなきっかけから作っていったんですか?

ホリエ:新曲を作ろうと思って作っているわけではなくて、普段の生活の中で気が向いた時にギターを弾いて、調子がよかったら、いいメロディーが出てきて、みたいな曲の作り方をしてるんです。「Next Chapter」って曲もそんなふうに今年2月ぐらいに、いいメロディーが出てきたってところから作り始めたんですけど。ちょうど戦後80年という節目にメッセージを込めた曲を作りたいとも思っていて、このメロディーがそれにふさわしいんじゃないかって形にしていったんです。

──戦後80年。なるほど。ストレイテナーは戦後70年のタイミングでも「NO 〜命の跡に咲いた花〜」という反戦ソングを発表していました。

ホリエ:そうですね、2015年に。あの曲は長崎のフェス<Sky Jamboree>でトリを仰せつかったとき、そこで披露しようと思って作ったんです。それから10年経って、世界はあまりいい方向に向かっていってないから、「Next Chapter」はまた違う書き方をしたというか。10年前もそんなにいい状態だったわけじゃないけど、日本人として忘れてはいけないことというか、大きな喪失、犠牲の上に今現在の平穏な日々があることをもうちょっとシンプルにストレートに書いてみようかな、というところで。悲観したり、絶望したりするんじゃなくて、自分たちの意思で変えていかないとってことを前向きに、しかも共有したいと。それを分かち合える人達と一緒に次の章に行きたいというメッセージを込めつつ、口ずさめるような曲にしたかったんですよ。

──“The music is the magic, never hurts anyone”(=音楽は魔法であり、誰も傷つけることはない)と歌っていますが、共有するためのツールでありメディアとしては音楽が一番だ、と?

ホリエ:ええ。いろいろなアートがあって、僕は映画も大好きなんですけど、映画って2時間じっくり見ないといけないし、見る人によって、受け取り方も変わる。見る人に委ねられるから、「こういう作品です」ってはっきり言う監督ってあまりいないじゃないですか。そこが僕は好きなんです。でも、音楽ってもっとシンプルだし、手に取りやすいし、アートの中で言ったら、かなりポピュラーではあるんですけど、それが音楽の良さでもあると思うんですよ。

──「Next Chapter」の歌詞を書く時は、まず伝わることを意識されたんですか?

ホリエ:意識したってことはないですけど、自分から出てくる言葉を素直に、捻くれずに。やっぱりメロディーが持つ語感みたいなものもあるので、書き出した時は、何も考えずに口ずさんでいた語感のまま言葉にしていきました。

──サウンドプロダクションとか、アレンジとかは、どんなテーマというか、方向性を考えていたんでしょうか?

ホリエ:バンド感を大事にしつつ。でも、ポップな曲にしたかったので、シンセのサンプルも使って、聴きやすく、幅広い層に聴いてもらえるものにしたいと考えてました。

──ディレイを掛けたギターの音色のせいなのか、ちょっと’80年代っぽいという印象もありました。

ホリエ:’80年代っぽさっていうのは、直接影響を受けたわけではないんですけど、2000年以降、主流になってきたものというか。2000年代のバンドって80’sっぽいサウンドを取り入れて、ポップな音作りをすることを恐れなくなったと思うんですよ。ロックだからってところに固執しなくなった。僕らもけっこう早いうちにそういうこだわりを捨てて、2018年に出した『Future Soundtrack』でもかなりシンセ寄りの音作りをした曲もあるんです。その流れもありつつ、明るくて、風通しのいいサウンドにしようっていう。実際、そういうサウンドになったと思います。

──ポリスとかニュー・オーダーとかを連想したのは、僕の年齢のせいだと思うんですけど、個人的にはそういうところも聴きどころでした。

ホリエ:それを言ったら、ポリスとかニュー・オーダーとかの影響を受けた2000年代のバンドの音に後押しされたというか。元々は’90年代後期のUKロックとか、2000年代に入ってからのアメリカとか、ヨーロッパとかのインディロックが自分の根っこにあるんですけど。「Next Chapter」のサウンドは、自分が直接影響を受けた世代ではなく、同世代か、それよりも下の世代の音を参考にしているところがあると思います。

──輪唱になっているBメロのコーラスはそれだけでもとても印象的なのですが、それに対応するように右から左に振ったアウトロのリードギターがカノンになっているところも聴きどころでした。

ホリエ:歌は僕のアイデアですけど、ギターはOJ(大山純)が弾いているので、好きにやってもらいました。そのギターのカノンは一回全部録り終わった翌日に、「やっぱりもう1本(ギターを)足したい」ってOJから要望があって、後から足したんですよ。単純に寂しく感じただけなのか、何か意図があったのか、わざわざ尋ねたりしないから、そこはわからないですけど。

──家に帰ってから、はっと閃いたのかもしれないですね。

ホリエ:そうかもしれない。僕らはレコーディングのとき、スタジオにずっと籠るってことはしないんですよ。煮詰まったら、「もうここで」みたいな感じで。大体、かなり明るい時間にスタジオを出ちゃうから、深夜までずっとやり続けるってことはないんです。逆にそのほうが帰宅してからとか、帰る途中とかに健やかなアイデアが出てくるんですよね。

──確かに、そういうことってありますよね。さて、そんな「Next Chapter」が完成して、今回のEP制作に発展していったんでしょうか?

ホリエ:いえ、「Next Chapter」は夏フェスで披露したいと思って、それに向けて作ってたんです。同時に「メタセコイアと月」と「My Rainy Valentine」も自然にできて、それぞれの個性をバンドアレンジでどう生かすか、ってやり始めてましたね。去年、『The Ordinary Road』というフルアルバムを出したばかりだったから、次の作品を焦って出そうとは思ってなかったんです。だけど、曲もできたし、ホールのワンマンライブも決まってるしってことで、今回EPをリリースすることになりました。

──過去曲の再録である「走る岩 (EXTENDED ver.)」を含め、それぞれに異なる魅力を持った4曲が収録されていますが、このEPが現在のストレイテナーのモードなんでしょうか?

ホリエ:というか、1曲1曲をおもしろくしたいとか、その曲の世界観を存分に表現したいということは考えてるんですけど、バンドの現在のモードっていうところはそんなに意識してないですね。アルバム『The Ordinary Road』で、自分達のこれまでの歴史の、あらゆる面を偏らずに出せたし、「これがストレイテナーです」って胸を張れるアルバムを作れたと思ってるので。EPは、今現在の自分達に自信を持って、チャレンジできるところはチャレンジしてみようっていう。音作りはもちろんですけど、自分のボーカルにも高いハードルを課すみたいなことが自分の中ではありましたね。歌うのが難しい曲は作りたくないんですけど、今回も難しかったです。

──どの曲が難しかったですか?

ホリエ:「Next Chapter」は、めっちゃ難しかったです。Aメロからサビまで声の出し方が全然違うんですよ。それを1曲の中で歌うとなると、喉のモードもパートごとに変えなきゃいけないので、かなり苦戦はして。ライブでもうやってるから、だいぶわかってきたんですけど、最初は自分で作ったにもかかわらず、“うわっ、なんだこれ!?”って思いながら歌ってました(笑)。逆に「メタセコイアと月」は、ずっと同じギアで歌えるんですよ。

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