『TAGS OF THE TIMES VERSION 3.0』…それは現実と真実の記録

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『TAGS OF THE TIMES VERSION 3.0』
それは現実と真実の記録


『TAGS OF THE TIMES』のコンピレーション・アルバムは、日本のヒップ・ホップ・レーベルである“メリー・ジョイ・レコーディングス”により、<タグス化計画>としてリリースされている注目すべきアルバム群である。

良質なアンダーグラウンド・ヒップ・ホップを集めて作品を作り、世に輩出しようという<タグス化計画>。

これは、常にレーベル代表自らアメリカ各地を周ってアーティストや楽曲を集めてくる偉大なるプロジェクトである。

文●イトウトモコ

メリー・ジョイが“TAGS”に込める熱き想い

■'98年1月リリース

『TAGS OF THE TIMES 』
Mary Joy Recordings MKCM-1001


■'99年1月リリース

『TAGS OF THE TIMES VERSION2.0』
Mary Joy Recordings MKCM-1004

■'01年2月リリース

『TAGS OF THE TIMES VERSION3.0』
Mary Joy Recordings IDCM-1023
2,550(tax in)


タグス化計画として、“メリー・ジョイ・レコーディングス”は、'98年1月に『TAGS OF THE TIMES』を、続いて'99年1月に『同 VERSION 2.0』をリリースした。

しかしこの計画は、元を辿ればそれ以前にリリースされた『TRUE UNDERGROUND HIP HOP VOLUME1、2』に端を発している。その頃からアンダーグラウンド・ヒップ・ホップが時間の流れと同じベクトルで進化していく事実を捉え、それを時代の足跡…いやもっと単純にいえば“記録”として刻んでいこうという気運が芽生えていた。それが<タグス計画>である。

この計画が表現している中で、音はもちろんのことながら“リリック”に対して多大な配慮がなされている。ほとんどの曲が英語なので、1曲ごとに対英訳と日本語訳がついている(かなりわかりやすくまとめられている)。

なぜならば、それを理解することにより、言葉と音楽の結合→表現→時代→メリー・ジョイ・レコーディングスが表現したいヒップ・ホップ…そういった流れと本質の姿がそこから浮かび上がってくるからだ。

そもそも音楽の楽しみ方や感じ方は千差万別。まして英語の歌詞となれば“楽曲を音から楽しむ”=“リリックも音として聴く”という楽しみ方がある。しかしリリックを理解することによって、リスナーは、いろいろな違った側面を発見し、自分と照らし合わせたり考え直したり、その時代の“現実”として言葉、音、文化全ての様々な形を具象化していくこととなる。

“現実とアーティストの強い想いをそのまま表現したこの記録”

このメリー・ジョイのスタンスこそが、ヒップ・ホップの真髄に迫ることと、そのものなのだと思う。

新しい世紀を越えて届いた『TAGS OF THE TIMES VERSION 3.0』

とにかく初めに音を聴いてみた。

全体的にドープな曲が多いのだが、トラックで使われている切ないメロディ・ラインをビートが煽り、ライムと複雑に絡んで心に入り込んでくる。全体の一音、一音がとても繊細で深みを感じるのはもちろん、たくさんの驚きが感じられる新しい音。

進化している。

それはまさにアンダーグラウンド・ヒップ・ホップという枠をはるかに越えている。ただ、敢えて説明するならば、彼らがこだわる“アンダーグラウンド”は、常に前進することであり、そしてメインストリーム文化では気付き得ない、そこにこそ介在するもの突き詰めて捉えた結果なのである。

当作品、ライムを読み音と絡みあわせて聴くと、その楽曲からは“今”が強烈に浮かび上がってくる。

その中での叫び、現実を見つめ、重要な伝達手段である言葉を最大限に吐き出し、音というもっと心の奥底の表現を変革しつづけ、表現するアーティスト達。

全体を通して“今”というテーマを持ったあるひとつの共通したストーリーが見て取れる。もちろんそれぞれの各アーティストのパフォーマンスは違うし、自分がやられたトラックやライムもあるが、それについて私情をはさむのはこの場では差し控えよう。

『TAGS OF THE TIMES』をどう感じ、どのように震え、触れる琴線がどこにあるのかは、ひとりひとりのオーディエンスに委ねられているのだから。


Mary Joy Recordings IDCM-1023
2,550(tax in)

▲今作でカヴァー・アートを手掛けたのは、オールド・スクール時代からグラフィティ・ライターとして活動し、アメリカのみならず、中南米、ヨーロッパなどを旅しているEmuse(イーミューズ)。
彼の描いたレタリングは、“過去”との繋がりを意味し、昔のレタリング・スタイルやムーヴメントを取り入れ、彼自身による言葉の解釈で描かれている。
入り組んだ文字のスタイルは、ヒップ・ホップという音楽と同様に、様々な時代や文化を経験して、吸収してきたことが、“今”の形で表現されており、時代のタグとして未来に残るだろう。
『TAGS OF THE TIMES VERSION 3.0』
1. It's Cracking(Intro)
2. They Say/DREAMWEAVERS feat.THE GROUCH
3. Love@aol.com/MEGABUSIVE
4. L.I.F.E.gives/SACH
5. Anti-Christ/SPOON(of lodine)
6. Freak What You Feel/SCARUB feat.TIOMBE LOCKHEART
7. Between The Lines/ATMOSPHERE
8. Rhyme Crime Stoppers/P.E.A.C.E.
9. First Things Last/MIKAH NINE~Up-right Strut(Interlude)
10. Wise Up/AESOP ROCK
11. Pack Animal/BUCK 65
12. It Was On This Night/SELF JUPITER~Who's Listening?(skit)
13. Future Rockers/ACEYALONE
14. Introducing the Brain Busters/MURS & 2MEX~Everyone(Interlude)
15. Low Key/COMPANY FLOW + 3MG + MR.LIF + BMS
16. Confessions(of Three Men)/DOSE ONE,SHING02,DOC MAXWELL and KIRBY DOMINANT
17. What Was It(outro)

オールド・スクール時代から活動を続け、若いアーティストに強い影響を与えてきたアーティスト達から、次世代を担う新しい感性を持つアーティストまでがこのアルバムに参加している(ほとんどが西海岸出身のアーティスト達)。

長年活動しているアーティストとしては、Kool Keith以降のアンダーグラウンド・シーンの祖とも言えるLos AngelsのFreestyle FelowshipのACEYALONE(エイスィーアロン)、MIKAH NINE(マイカ・ナイン)SELF JUPITER(セルフ・ジュピター)、P.E.A.C.E.(ピース)が、それぞれの楽曲で個性溢れるMCスタイルとライムを披露している。

また7曲目で、心の中にジワジワ入り込むようなしっとりとしたMCで登場する、ミネソタ州ミネアポリスのATOMOSPHERE(アトモスフィア)=MC Slug(スラグ)。彼は現在、昔彼自身がKRS-1からライムの仕方を学んだように、若いMC達に彼のスタイルを教えている。

また、15曲目のコラボレーションは、先日、KRUSHの公演でも来日したNew YorkのCOMPANY FLOWと、Los AngelsのSCARUB(スキャラブ)、ELIGH(イーライ)、MURS(マース)からなる3MGとボストンのMr. Lif、そしてBMSが集結し、6人でマイクをまわして作ったという。そしておなじみメリー・ジョイ・レコーディングスから作品をリリースしているアーティストSHING02も16曲目で劇仕立ての曲で参加している。
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