企画・監修の濱田高志氏がTVエイジ・シリーズへの熱き思いを語る
濱田:これまで10年、いろいろなコンピレーションを手がけてきました。今までは、すでにレコード会社から出ていた過去の楽曲を組み替えるようなものをメインでやっていたんですが、どうせなら今まで出ていなかったもの、レコード会社から一度も「盤」になっていないものも出したいと思ったんです。
昔のTVから流れた懐かしい音楽、TVにまつわるさまざまなものをまとめたい、この企画は濱田氏のそういった強い想いからスタートしていた。
濱田:あるときビクターのディレクターと、僕らが子供の頃に見聞きしてきた作品の音源をまとめられないかなという話になったんです。そこでまずタイトルを“TVエイジシリーズ”と決めて、“ああそういえば夕方TVで見てたな”と懐かしむような企画をいくつか提案しました。先頃発売された『のこいのこ大全』も、その歌声は誰もが知ってるはずなんだけど、声の主がのこさんだとは知らない。でもそれをまとめて聴くと色んな発見があって面白いんです。
昨年、「ルパン三世」や「七人の刑事」、「プレイガール」などで知られる作曲家の山下毅雄氏が急逝。そのとき濱田氏は山下氏の追悼盤を制作、そこからこのシリーズが次々に現実のものになっていく。
濱田:山下毅雄さんがTVエイジシリーズの第一弾です。その時点ですでに企画はたくさんあって、『のこいのこ大全』や渡辺貞夫さんのテレビ・サントラ、『タイム・トラベラー』なども並行して作業を進めていたんです。
『のこいのこ大全』はヒット作となった。しかしこのようなヒット作でも最初から順調に進んでいたわけではなかったようだ。
濱田:担当ディレクターは、当初、のこさんが歌った童謡やポンキッキの歌だけを集めようとしていたんです。でも、のこさんならCMソングを入れたらどうかと提案したんですね。もっとも、CMソングが何十曲も収録されていたって、全部が有名な曲じゃないし、周囲の人間からは、そんなの誰も買わないよって言われましたけど。でも僕自身が、物心つく前に発表された音源や、それこそ小さいときに聴いたうっすらとした記憶しかないものを、もう一度聴いてみたいという欲求がどうしてもあって、結果的にああいった構成になりました。
企画の根本は、“僕自身が聴いてみたい作品を発掘する”ことだと濱田氏は言うが、収録曲を集めCDとして成立させるまでには、相当な苦労があったようだ。
濱田:僕は昔から蒐集癖があって、気になったものは、時系列を辿りながらいろいろ集めてきたんです。そこで最初は自分の倉庫から面白そうなものを探してきて“これをCDにしたいな”と考える。で、それだけでは魅力に欠ける場合、レコード会社やCM制作会社を回って音源を調査・発掘します。実はその過程が一番楽しいんですよ。逆に一番大変なのは、収録にあたっての許諾をとることですね。せっかく音源が見つかっても許諾申請した段階でNGのものもたくさんあります。のこさんのCDなんて60曲も入ってるから、1曲1曲つぶすのは大変。まさに現場泣かせですよね。 今度10/21にNHKの子供番組の音楽を集めたCD(「あの日の教室~さわやか3組~NHK子ども番組テーマ集」)を出すんです。収録曲は、どれも30秒や1分の曲ばかりで、きっとタイトルだけ見てもピンとこないと思うんですが、聴けば、僕らの世代なら絶対に誰でも知ってるはずの曲ばかり。「できるかな」とか「はたらくおじさん」とか。素材としては、4年かけて200曲ほど集めたんですが、中には歌唱者はおろか作家もわからない作品がたくさんあって、結局、収録曲は50曲くらいに落ち着きました。同様に11/22発売の「MOONRIDERS CM WORKS1977-2006」もほとんどが初音盤化曲で構成した作品集です。こちらは、ムーンライダースのメンバーがこれまでに書いたCM音源を集めたものです。かなり面白いと思いますよ。
こういったマニアックなコンピレーション盤を作るには、周囲の人間との信頼、連携が不可欠だと濱田氏は言う。
濱田:音源はレコード会社やCM制作会社、時には作曲家の方々のご自宅などを訪ねて集めてくるんですが、そうしたところに“こんなのないですか”と尋ねる好奇心と情報網を持てているのが僕の財産です。こうした企画を実現する際に“肝”になるのは、これまで足で培った信頼関係なんですよ。企画の実現には、やはりいろいろな人の助けが必要になります。各社のディレクターと話をして、お互い納得して出すということになるので、商品になるまではすごく時間がかかりますね。僕の企画は常に並行して進めているので、なかには実現までに8年なんていう企画もあるんですよ。
濱田氏は、今後についても意欲的だ。これからもあまり表に出ることなく、地道に、しかし着実に良質な作品集をまとめたいという。
濱田:僕は基本的に表に立つよりも裏方でいろいろやりたい性分なんです。こうした作品集の場合、やはり、主役は作品そのものだし、監修で名前を入れるのもあくまでも責任の所在を示すため。でもこれだけやってくると、たまに“濱田さんがやってるのはいつも買ってますよ”と言ってくれる奇特な人がいたりして、ある程度の信頼は得られているようで嬉しいですね。今後は、“TVエイジなら買って損はない”というイメージが定着してくれればいいなと思っています。