デビュー25年目を迎えるポップスの重鎮、稲垣潤一の魅力:インタヴュー
――3枚組の『コンプリート・シングル・コレクション』を聴くと、初期の頃と今とほとんど歌声が変わらないのがすごいです。
稲垣:よく言われるんですけど、実際は変わってるんですよ。今、デビューの頃の声を聴くと、こっ恥ずかしいような、青い感じに聴こえますね。自分の声だから、余計にそう聴こえるのかもしれないですけど。
――こういう形のベスト盤は初めてですよね。
稲垣:そうですね。曲名を見てるだけでも、いろんな思い出が甦ってきます。自分ではもう忘れていて、“そういえばシングル・カットしてたんだ”という曲もあったし。
――稲垣さんには、一つのイメージとして、“AOR”というキーワードがありますが。
稲垣:デビューする以前は特にAORのアーティストの曲をカヴァーして歌っていたわけでもないので、それはデビューしてからですね。当時はシティー・ポップスとか、ニューミュージックとか、そういうところにカテゴライズされたわけですけど、僕がやろうとしていたのはポップ・ミュージックで、未だにそれは変わっていない。ただ今回の、前曲筒美京平さんの作品を歌った『Unchained Melody』というアルバムに関しては、AORということは意識して作りました。僕はいちヴォーカリストとして取り組んで、選曲と制作はプロデューサーの松尾潔さんにゆだねて。僕のセルフ・カヴァーを2曲入れて、新曲が2曲あって、他のアーティストの方のカヴァーが6曲入ってます。
――しかもほとんどがラヴソング。
稲垣:そうです。デビューの頃から99%はラヴソングですから、いろいろとテーマを変えて、背徳とか不倫とか、けっこうドロドロの世界も歌ってきてる(笑)。秋元康くんの作品とか、けっこうそういうものが多いんですね。今回の新曲「Eveの向こう側」も、そういう意味で秋元節が炸裂してる曲だと思います。
――2006年でデビュー25年目を迎えるわけですけど、どんな変化を感じてますか?
稲垣:変わってきてるのは……たとえば「ドラマティック・レイン」の詞なんて、ありそうでないんですよ、実は。あんな時に雨は降ってこない(笑)。この25年間で何が変わったかというと、そのへんですね。詞の世界の中で嘘をつくことができなくなった。嘘をつくんだったら、嘘か本当かわからないくらいの詞を書かないと聴いてもらえない、そういうふうに時代は変わってきましたね。僕がデビューの頃に歌っていた作品は、フィクションであることが多かったんですよ。それが受け入れられない時代にだんだん変わってきたというのが大きいですね。詞的には。
――確かにそうですね。
稲垣:僕がデビューした時には、職業作詞家の方がいっぱいいたんですよ。彼らは、フィクションの歌を作らせたらすごくうまい。今も残っている方はいますけど、それがJ-POPの歴史の中で、バンド・ブームとかいろいろあって、アーティストが自分で詞を作るという方向に変わってきた。でもそれが今、またちょっと変化しつつあるから。今はほんとに、何でもありの時代になってきてますね。
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