| ――こうやってアレンジャーを変えて出てきたアルバムってのは、やはりいちリスナーとして受ける印象はすごく変わったなと思わせてくれますが、やっぱり前のシングル「ちいさなぼくへ」を出す前までに取っていた、充電期間が大きかったんでしょうか?
柴田:そうですね。「ちいさなぼくへ」で瀬尾(一三)さんとやらせていただいたとき、柴田淳を“作られた”っていうのはなくて、“アレンジされた”って思ったんです。分解されて組みなおされたって感じはなくて、本当に私の素材を活かしてくれたって。それでも……まだミュージシャンとしての自信を取り戻せなくて、シンガー・ソングライターなのに曲を書いて歌っても、自分でいいのか悪いのかも分からなくなっちゃったんですね。自己満足でも「この曲、いい!」って思いたいのにそれすらなくって。で、この曲でいいのか自信を完全に持て切れない時点で「白い世界」を羽毛田さんにアレンジをお願いして、数日後ラフでアレンジしたものを聴かせてもらったら、……もう私の曲じゃないみたいで。確かに私の曲なんだけど、ラフなアレンジだけでもう素晴らしい世界ができ上がってて、「あ、私、まだやれるじゃん」って安堵感と勇気をくれたんですね。そこから詞もワーッと書けたんですね。でもその話、羽毛田さんにしたら「まだ何もしてないよ~。それ、まだラフ中のラフだよ」って(笑)。
――その「白い世界」を筆頭に、世界が広がってますよね。
柴田:私は常に全部シングルにできる曲のつもりで作ってるんですね。アルバムに入れても飛ばされちゃうような曲を入れるのはいやなんです。いつも幕の内弁当みたいなアルバムって。だからいつも1曲1曲主張が強いけど、今回はそれにまして1曲1曲が派手(笑)。ある意味ベスト盤聴いてるみたいに、全部迫力がある!
――短期間で作ったって感じしないですよ。
柴田:短期間なんですよ(笑)。「ちいさなぼくへ」くらいから曲作りはしてたんですが、レコーディングは2ヶ月くらいですね。締切がないとできないのもあるんですけど、長期間だと緊張感が続かないですしね。
――このアルバムにはジャズ・ピアニストであり、柴田さんの憧れだったという塩谷哲さんと「わたしの夢」を一発録りでレコーディング、贅沢ですね。
柴田:ですね。緊張しましたね。塩谷さんとはクリック(テンポを合わせるために流す音)なしでやったんです。「好きなときに歌いだして」とか言われて。最初、「え? 本当に?」って思ったんですけど、……もうね、心が寄り添えば音も寄り添うんだなって感じましたね。プロになってクリック使うが当然になったんですけど、これでまた音楽の原点でやらせてもらえた。この2人の録音にアレンジが加わって出来上がったのを聴いて泣いちゃいましたね。
――そして、気になる曲といえば「いつか王子様も♪~拝啓、王子様☆続篇~」……。
柴田:スミマセン! もう謝っちゃう(笑)。
――「拝啓、王子様☆」(アルバム『ため息』に収録。03年2月発売)を発表したときは、異色な曲で恥ずかしいっておっしゃってました。それは払拭されたんですか?
柴田:2年に1度はバカしようと(笑)。もうこれは割り切っておふざけですね。だからスタッフと4作くらいまで作ってミニアルバムにしようかと言っててね(笑)。今回結婚したので、離婚して帰ってくるとか(笑)。でも、これ、とても難しいテンポなんですよ。さっと歌っちゃったりノリで歌えちゃうテンポじゃなくて、それが恥ずかしさを呼ぶんですよ(笑)。でも出来上がったのを聴いたらすらっと聴けてよかった。
――「一人暮らし」はお母さんとのやりとりですね。
柴田:そうですね、歌詞のまんまですね。曲つくろうと思ったとき、まっ白だったんで、じゃあ、まずは現実から書いてみようってことで書き出した曲です。この曲、まだお母さんに聴かせてないんですよね。恥ずかしいですよねぇ。レコーディング終わったのに聴かせたくないから、まだできてないって。絶対、私のいないところで聴いてほしいですね!
――そして、『わたし』というアルバムタイトルですが、これはどこから?
柴田:よく今回のアルバムは、開き直って一歩踏み始めた感じですねって言われるんですけど、どちらかというと逆なんです。開き直ってもなくて、ただありのままの自分を出したんです。しかも曲というものを作るというよりは、今の私を形にしたっていう気持ちがあるんです。だから今までよりいびつになったところもあるだろうし、よりストレートなところもあると思う。その変化に何か言いたいのはあるだろうけど、それをひっくるめてすべて表現したアルバムなんです、だから“わたし”なんです! ……と言われる前に言っちゃおうと(笑)。
──“柴田淳”じゃなくて、“わたし”なんですね。
柴田:そうですね。今の、という意味で“わたし”なんです。自分の弱い部分もあまりにリアルに表現できたので、他の単語や名称をもってきても全然しっくりこなかったですね。
──そして今年はツアー実施も宣言されました。
柴田:はい。歌いにいくって言うよりは、みんなに会いに行くって気持ちでやりたいなって思っていて。やっぱりこのアルバムを作ったとき、ファンの人のありがたさってのを、今までちゃんと分かってたんだろうか?ってくらい実感して。手紙の1通の重さ……“あなたが私の支えです”って言ってくれているファンのあなたが私の支えですっていう感じで。そういう方々がまだ生で聴いたことがない、聴いてみたいってご意見が多かったので、その人たちへの恩返しってつもりで、会いに旅したいですね。ツアーって大掛かりなのは私がびびっちゃうんでね(笑)。
取材・文●星野まり子 |
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