唯一無二の三人衆、八十八ヶ所巡礼の第9作『八+九』が必聴である理由

去る5月2日に発売された八十八ヶ所巡礼の最新アルバム『八+九(はちたすきゅう)』が好調な滑り出しをみせている。この作品は、結成19年目を迎えているこのバンドにとって通算9作目にあたるもので、全17曲収録のCD2枚組仕様となっている。2枚組というだけで敷居の高さを感じる向きもあるかもしれないが、実際、音楽的にも多様で情報量に富んだ内容でありながら、それを一気に聴かせてしまう勢いと、ねじれた気持良さを伴った内容だ。



実際、その怪作ぶりは、アルバム発売の前日にあたる5月1日の千葉LOOK公演を皮切りにスタートしたワンマン・ツアー『八+九=88』の場でも実証されている。筆者は5月3日と4日の両日、このツアーの2本目と3本目にあたる公演を名古屋E.L.Lで観ているが、このツアーでの演奏内容は『八+九』の完全再現を軸とするものになっており、実際、この両日についても全17曲が実際のCD収録順通りに披露され、そのうえで他の作品からの必殺曲たちが演奏されるというプログラムが組み込まれていた。そして、そこで証明されていたのは、このアルバムをそっくりそのまま再現するだけで起伏と変化に富んだスリリングかつエキサイティングなライヴが成立してしまうという事実だった。

このバンドの音楽性についてはプログレッシヴ、サイケデリックといった言葉でも形容されてきたが、彼らはべつに、そうしたカテゴリーの先駆者たちが遠い昔に提示してきたものを再生しているわけではない。ただ、一筋縄ではいかない音楽としてのプログレ、得体の知れない摩訶不思議な音楽としてのサイケの匂いは、その音楽にたっぷりと染み込んでいる。今作の制作に際しては、従来と同様、「これまでに作ったことがあるような曲は作らないこと」にこだわり抜き、さらにはデビュー作の『八+八』の全16曲という収録量を超えることも念頭に置いていたようだが、実際、今作の中に同じような曲はふたつと存在していないし、過去の作品とも似ていない。ただ、同時に、これまでの音楽的変遷を総括しながらアップデートしたかのような感触を持ち合わせていたりもする。

少しばかりヒントを挙げておくと、このアルバムには無条件に踊りだしたくなるような曲もあれば、キング・クリムゾンの影がぼんやりと姿を見せる曲も、シティ・ポップス的な手触りを持ちつつもドラム・ソロが2回も登場する曲も、「これは本当にギターの音なの?」と疑いたくなるような音も含まれている。そして興味深いのは、ダークな色調や負のエネルギーといったものを感じさせる反面、ネガティヴそうでいて実はポジティヴな作品として完成されているという事実だ。もちろんこれは筆者個人の解釈でしかないし、音楽の受け止め方は人それぞれであるべきものだが、イメージや先入観に邪魔されて彼らの音楽に触れずにいる読者がもしもいるならば、是非それをいったん捨て去って聴いてみて欲しい。

また、今回のツアーは『八+九』の完全再現を主体とするものだけに、これまでの作品や歴史にあまり明るくない人たちにとっても、彼らのライヴを初体験するうえで絶好のチャンスといえるだろう。なにしろ『八+九』さえ聴きこんでおけば、充分に予習ができるのだから。是非この機会に、底なし沼的な魅力に溢れた彼らの音楽と向き合ってみて欲しい。きっとそこには、他では味わえない快楽があるはずだから。

文・撮影◎増田勇一
<八十八ヶ所巡礼 one man LIVE tour『八+九=88』>
5月24日(土)静岡・umber
6月1日 (日)大阪・心斎橋BIG CAT
6月14日(土)広島・4.14
6月21日(土)高松・DIME
6月29日(日)盛岡・CLUB CHANGE WAVE
7月5日 (土)札幌・BESSIE HALL
7月6日 (日)札幌・BESSIE HALL
7月12日(土)福岡・天神graf
7月13日(日)福岡・天神graf
7月19日(土)京都・磔磔
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