【レポート】Ken Yokoyama、ツアー<Indian Burn>完遂「まるで明日なんかないようなライブをしてしまったな」

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とことんシビれた。もう、じんじんと。何にそんなにシビれたかって、この日、Ken Yokoyamaが32曲やったことももちろんだが、ステージングからも曲間のMCからもさらに前向きになった横山健(G&Vo)の心境の変化が感じられたことに対してだ。

◆Ken Yokoyama 画像

1月31日にリリースした8thアルバム『Indian Burn』をひっさげ、2月16日から全15本を開催したKen Yokoyamaによる<Indian Burn tour 2024>が4月26日、東京・立川STAGE GARDENでツアーファイナルを迎えた。

全公演が2マンライブとなった今回のツアー。全ヵ所でパンクをバックボーンに持つライブシーンの猛者達と熱いライブを繰り広げてきたKen Yokoyamaがファイナルに迎えたのは、The BONEZだった。





そのThe BONEZもまたライブに並々ならぬ思い入れを持っているバンドだが、開始早々、「おじゃまします! 楽しむ準備はできてますか!? Enjoy!!」とJESSE(Vo, G)が声を上げながら、The BONEZ流のハードコアパンク・ナンバーと言える「Revoluton」「GIMCRACK」をたたみかけるように繋げ、Ken Yokoyamaの登場を待ちきれないスタンディングのアリーナの観客にモッシュ&ダイブさせていく。

もちろん、観客はアリーナだけじゃない。そこでバンドは「We are The BONEZ」を早速、披露。現在の4人のメンバーの絆をラップで謳い上げながら、「2階、3階、フロア! ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ!」(JESSE)と曲が持つ大きなグルーブでアリーナのみならず、2階および3階席の観客を巻き込むことも忘れない。


そこからKOKI(G)のギターが不穏に唸る「Love song」、ZAX(Dr)が変拍子を操る「Rusted Car」、T$UYO$HI(B)が重低音で奏でるリフに観客が声を上げた「New Original」と目下の最新アルバム『Yours』からハードコアであると同時にアンセムでもある曲の数々を繋げ、バンドは客席さらに揺らしていった。客席の盛り上がりは、JESSEの言葉からも想像できるはず。

「この会場はホールなのか、ライブハウスなのか? 俺にはライブハウスにしか見えないけど!」──JESSE

コロナ禍の中、ライブハウスという自分達の文化が奪われたことに対する憤りを語ったJESSEによる「またコロナ禍みたいなことが起こるかもしれないけど、後輩ながら勝手に言わせてもらうと、今度ライブが規制されても、Ken YokoyamaとThe BONEZは無視して、ツアーを回ります!」という宣言を挟んでからの後半戦は8ビートのエモーショナルなロックナンバー「You & I」、The BONEZ流のパワーポップと言えそうな「It’s time to let go」と前半戦とは趣の異なる2曲を『Yours』から演奏して、曲の振り幅も楽しませる。



ZAXのダイナミックなタム回しで繋げた「Thread & Needle」では、「被災した能登半島の人達に向かって歌ってもらえるか!?」というJESSEの言葉に応え、観客が一斉にシンガロングの声を上げた。大きな一体感が生まれたその光景は、実際、ライブに足を運んでこそ体験できるものだ。

「ちょっとでも俺達のライブスタイルをわかってもらえたと信じてます。なので、人生がつまらなくなって、健さんがライブやってない時は、いつでも俺達のライブに来てくれ!」──JESSE

最後を飾ったのは、The BONEZのライブ賛歌「SUNTOWN」。曲が持つポジティブなバイブと跳ねるビートが再び観客をジャンプさせながら、勢いあまってステージにぶっ倒れたJESSEをはじめ、最後の最後まで熱演を繰り広げたThe BONEZの4人はしっかりとバトンをKen Yokoyamaに渡したのだった。



セットチェンジの間、ディセンデンツ、グリーン・デイ、ラモーンズの曲に混じって、流れていたミスフィッツの「This Magic Moment」は、Ken Yokoyamaの「These Magic Words」に掛けていたのか、いなかったのか、どっちなんだろうと考えていると、拍手喝采の中、横山とメンバー達──南英紀(G)、Jun Gray(B)、松本“EKKUN”英二(Dr)が登場する。

バックドロップに掲げられた『Indian Burn』のアートワークをあしらったフラッグがずいぶん小さいことに気づいた横山が「すごいちっちゃい(笑)。大きいの作らなかったっけ? 大阪と名古屋では使ってたと思うけど、なんで、今日これなんだ!?」と苦笑いしながら、冒頭こそ観客を笑わせたものの、それもほんの束の間。『Indian Burn』のオープニングを飾る「Parasites」から演奏になだれこむと、そこからが凄かった。





早速、アリーナの観客がモッシュ&ダイブを始める。そこに繋げたのが「My One Wish」。アリーナの観客がぐぐっとステージに押し寄せる。「Singin'!」と横山が声を上げ、観客にシンガロングさせると、2曲目にして早くも3,000人キャパの会場に大きな一体感が生まれている。

バンドはさらにシンガロング必至の「Your Safe Rock」と「4Wheels 9Lives」を、横山が自分のマイクを客席に放り投げながら、たたみかけるように繋げていく。EKKUNの力強いキックの音が3階席まである会場に響き渡る。たぶん、その頃には誰もが、“あぁ、今日のKen Yokoyamaはちょっと違うぞ”と気づいていたんじゃないか。



「ここの会場、前回やった時はまだコロナだったらからさ、マキシマム ザ ホルモンとやったにもかかわらず、ソーシャルディスタンスを守って、動かないでってやったんだよ。それがオールスタンディングだと、こんな光景になるんだ。なかなかすごいぞ、これ!」──横山健

なるほど。今日のライブはライブハウスならではのカオスを作れなかった前回のライブのリベンジという意味合いもあるのかもしれない。

「ニューアルバムから古い曲まで、ごちゃ混ぜにやっていくから楽しんでってな!」──横山健



その言葉通りこの日、バンドはラブソング3連発(「I Love」「New Love」「Popcorn Love」)、有名じゃない曲コーナー(「Cheap Shot」)、後述する怒涛のショートチューン9連発とブロックごとにテーマを立て、プロットを組み立てたセットリストを楽しませていったが、ちょっとしたハプニングが起きて、計画通りに進まないところもライブならではの醍醐味だろう。

「始めたら止まらなきゃいけないところまでやらなきゃ。始めたら止まるまでやるんだよ。普通さ、止まりそうになっても這いつくばってもやるって感じになると思うんだけど、正直に言うと、最近、歳食ったせいか、そこまで情熱が湧かないんだ。音楽に限らず、何事に対しても。しょうがない。人生ってそういうものなんだから。でも、止まろうと思うところまで全力でやるぜ! そんな思いを書いた曲。俺は俺の友達のことを書いた。でも、みんなはそれぞれに頭に浮かんだ人のことを思いながら一緒に歌ってくれ!」──横山健



曲のことを語る言葉に心境の変化を滲ませながら、演奏したパワーポップ・ナンバー「The Show Must Go On」から「Maybe Maybe」と繋げ、予定ではそのまま次の曲を続けるはずだった。しかし、「Maybe Maybe」を演奏し終えたタイミングでバックドロップのフラッグが大判のものに入れ替わったことに気づき、「いつでかくなったの!? えっ、「The Show Must Go On」の時? びっくりした!」と次の曲に入るきっかけを逃してしまった横山は「次の曲、このまま続けるつもりだったけど、聴きたい曲ある?」と観客からリクエストを募ると、必死に曲名を叫ぶ観客に応え、予定になかった「Walk」を披露。そこから「Better Left Unsaid」「What Kind Of Love」と繋げていったのだが、そんなウィットに富んだ展開から生まれたシンガロング必至のアンセムの3連発は、確実にこの日のハイライトの1つだったと思う。

「今日がアルバムのツアーのファイナルになるんだけど、ツアーが終わるからって何なんだよって気がするんだよ。この先もライブが決まってるしさ。ただ、いいツアーだったし、すごく自信があるアルバムを作ったから、みんなに聴いてもらいたいと思って、今日、アルバムの曲をやりながら、みんなの反応を見ていると、出してもう3ヵ月経つけど、だいぶみんなの人生って言うか、日々に寄り添ってんだなって感じられて凄くうれしいです」──横山健


いつも通り観客のシンガロングから始まったKen Yokoyamaのライブに欠かせないアンセム「Believer」を聴きながら、ライブが後半戦に突入していることを感じた観客に歓喜の声を上げさせたのが、「曲がたくさん残ってる!」という横山の言葉。

「下ネタは次回にして、今日は曲をやろう!」と横山が声を上げ、バンドは「Funny Things」から「Ricky Punks」3部作を含む2ビートのショートチューンをノンストップで9連発する。怒涛という言葉がふさわしいその勢いに圧倒されながら、Ken Yokoyamaがこの日一番やりたかったのは、これだったんじゃないかと思った。カオスと化したアリーナに横山も大いに満足したようだ。

「凄かったよ。パンクロックを鳴らしている気がしたぜ。最高の景色だった。すごく不思議な感じがしたよ。激しいギターを弾いて、ギャーギャー何語だかわからない歌を歌いながら、でも、みんなと1つの空間を生み出してさ。これでいいんだと思ったよ。俺はこれがあれば生きていける。18の頃からライブハウスでずっとやってきたから、音楽をやることイコール生きることになってる。音楽をやめて、どうやって生きていこうかなんてあんまり考えない。死ぬ間際まで音楽やってたいと思うからね。まだまだやりてえなと思ったよ!」──横山健


『Indian Burn』収録のマージービート・ナンバー「A Little Bit Of Your Love」を挟んでからの「I Won't Turn Off My Radio」「Let The Beat Carry On」「These Magic Words」「Punk Rock Dream」というアンセムのオンパレードに観客は大歓び。サビのシンガロングを何度も繰り返して、ライブのハイライトにふさわしい光景を作り出した「I Won't Turn Off My Radio」もさることながら、この日、特に印象に残ったのが「These Magic Words」だった。なぜなら、冒頭から横山と一緒に歌った観客のシンガロングがこの曲の深い浸透度を物語っていたからだ。

「あと1曲」と言いながら、バンドからの感謝を伝えるために演奏した「While I’m Still Around」で終わらずに、もう1曲、『Indian Burn』の最後を飾る「Heartbeat Song」を加えたことが重要だ。なぜなら、コードをかき鳴らす横山と南、タイトにビートを刻むJun GrayとEKKUNの4人が一丸となって鳴らすエモーショナル・ハードコアなサウンドに乗せ、横山は「最後のサヨナラの日まで全力で生きてやるよ」と宣言していたからだ。


たぶん、その「Heartbeat Song」が本編最後の曲だったのだと思う。しかし、いったんひっこんで、アンコールに応え、また出てくる時間がもったいないと考えたのだろう。「もう1曲どうだい?」「もう1曲どうだい?」と横山が言いながら、バンドはさらに2曲、「You Are My Sunshine」と曲間の掛け声も楽しいインストのスカチューン「Indian Burn」を演奏した。

「You Are My Sunshine」を演奏する前に横山が言った言葉がうれしかった。

「まるで明日なんかないようなライブをしてしまったな。やっぱりまだ若いのかな(笑)。やっぱり明日より今のほうが大事なんだ。また必ず会おうな。ライブの途中で、だいぶしみったれたことを言い始めちゃったから、最後は明るくみんなで歌おうぜ!」──横山健



50代半ばという自分の年齢に加え、周囲の状況も大きかったと思う。もちろん後ろ向きだと思っていたわけではないけれど、この数年、いつか終わりが来ることと、その終わりがそんなに遠いものではないことを認めた上で自らのミュージシャン人生を諦観しはじめているように見えた横山の口から「まだ若いのかな」という言葉が飛び出したのは、諦観するにはまだまだ早いと考え直したということなんじゃないか。「しみったれたことを言い始めた」という言葉が、この数年の彼自身に向けたもののようにも思えたと言ったら言い過ぎかもしれない。しかし、『Indian Burn』という自信作を作ったことをきっかけに横山の気持ちの中で何かが変わったことは間違いない。

前述したとおり、この日、横山は「まだまだやりてえなと思ったよ!」と言った。それは終わりが来ることを受け入れた時の気持ちとは違うところが出てきた言葉のように筆者には聞こえた。



横山のライブの魅力でもある下ネタもばんばん飛び出す饒舌なMCを極力省き、怒涛のショートチューン9連発も含め、曲を演奏することに全力を注ぎこんだ、この日のライブは、彼なりの新たなステートメントだったと筆者は感じているのだが、いかがだろうか? 今は、その心境の変化が今後の活動に、どんなふうに反映されるのかが楽しみでしかたがない。

ところで、この日、横山はほとんどの曲でソリッドギターを弾き、現在のメインギターであるKenny Falcon IIは「I Won't Turn Off My Radio」「You Are My Sunshine」「Indian Burn」の3曲でしか使わなかったのだが、それは心境の変化と関係があるのかないのか、それとも単純に『Indian Burn』のほとんどの曲をソリッドギターでレコーディングしたからだったのか、ちょっと気になるところではあると最後に付け加えておきたい。

取材・文◎山口智男
撮影◎岸田哲平/半田安政

■<Ken Yokoyama「Indian Burn Tour」>2024年4月26日(金)@立川 STAGE GARDEN セットリスト

【The BONEZ】
01. Revolution
02. GIMCRACK
03. We are The BONEZ
04. Love song
05. Rusted Car
06. New Original
07. You and I
08. It's time to let go
09. Thread & Needle
10. SUNTOWN
【Ken Yokoyama】
01. Parasites
02. My One Wish
03. Your Safe Rock
04. 4Wheels 9Lives
05. I Love
06. New Love
07. Popcorn Love
08. The Show Must Go On
09. Maybe Maybe
10. Walk
11. Better Left Unsaid
12. What Kind Of Love
13. Cheap Shot
14. Believer
15. Funny Things
16. Nothin' But Sausage
17. Support Your Local
18. Pressure
19. Don't Make Me Pissed Off, Fuckin' Son Of A Bitch
20. Cherry Blossoms
21. Ricky Punks
22. Ricky Punks II (The Lamepire Strikes Back)
23. Ricky Punks III
24. A Little Bit Of Your Love
25. I Won't Turn Off My Radio
26. Let The Beat Carry On
27. These Magic Words
28. Punk Rock Dream
29. While I'm Still Around
30. Heartbeat Song
31. You Are My Sunshine
32. Indian Burn

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