【ライブレポート】ツユのライブは悲しいことも辛いこともすべてを曝け出して自分と向き合える空間でした

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寒さも和らぎ、ようやく春めいてきた3月4日。ツユがワンマンライブ<春時雨>を開催した。当日はポカポカと暖かく、快晴でとても気持ちが良い日だった。……だが多幸感に満ち溢れたそんな眩しいほどの空気が、ちょっと“しんどいな”と思ってしまうときもある。そんな人の気持ちに寄り添ってくれるのが、ツユの楽曲であり、ツユのライブだ。

“生きてるだけ無駄” ──「かくれんぼっち」
“お先真っ暗な人生 最早、どうでもいいや” ──「ナミカレ」

これはツユの楽曲にある歌詞。初春のお昼に聴くには似つかわしくない。でも、こうしたツユの言葉に救われる人が、今日もたくさんいる。

◆ライブ写真

先述の歌詞のような言葉を頭に思い浮かべたことのある人も多くいることだろう。少なくとも、私は思ったことがある。正直に言えば、自分の生に疑問を抱いたことも、生きることに投げやりになったことも、幸せそうな他人を羨んだこともある。もちろんその反面で楽しかったことも幸せだったこともあるのだが、ツユにはこういった感情の機微に寄り添ってくれる楽曲がたくさんある。

今回のライブタイトルに掲げられた『春時雨』とは、晴れたと思ったら降り出し、降ったと思ったら止むような不安定な春の雨のこと。ツユのライブに、こんなにぴったりなタイトルもないだろう。そう、ツユは春時雨のように移り変わる感情を、ライブでも丁寧に描いてくれるから。しかも、とても美しく。


今回のライブもとても美しい世界観で構成されていた。まずステージには花が飾られ、波の中に桜の木を模した丸型LEDが。それが桜色の照明で照らされ、オルゴール調のSEと相まって、幻想の世界にいるような雰囲気だ。開演時間になるとプログレスバーが表示され、ツユの世界がインストールされていく。そして100%になった途端、オープニング曲「傷つけど、愛してる。」が始まり、すぐにツユの作る世界の中に没入していくことになる。


ツユの楽曲は、もちろん音源もいいのだが、ライブだとさらに良い。「こんなの生で歌えるの?」「こんなの演奏できるの?」と思ってしまうテクニカルな楽曲が多いが、そんな心配は杞憂だ。全編ギターソロといってもいいほどの超絶ギタープレイを繰り出す、ぷす。ストーリーテラーのようなピアノを奏でるmiroは今回、ブロックごとにピアノソロを披露。ライブ全体の空気を彼が包括している。そしてボーカル・礼衣は耳に優しい声ながら、転調も展開もアップダウンも激しいツユの難曲を狂いひとつなく歌いこなす。「雨模様」の一曲の中で怒涛に繰り広げられるドラマティックな展開、「どんな結末がお望みだい?」のピアノとギターがかけ合わさった疾走感など、表現力がとてつもない。サポートメンバーのKei Nakamura(B)、樋口幸佑(Dr)、あすきー(Mani)も含めて全員で繰り出すハイクオリティなサウンドが、ツユの楽曲に説得力を与えているのは間違いない。



また、スクリーンに映されるミュージックビデオや照明、ステージセットも、楽曲に奥行きを与えている。オープニングを飾った「傷つけど、愛してる。」ではこの時点で未解禁だったミュージックビデオが映され歓喜を煽っていたし、「忠犬ハチ」の映像は何度見ても泣ける。ロックなサウンドに合わせサイレンのような赤の照明が交差し不安を掻き立てる「テリトリーバトル」があったかと思うと、ステージに傘のセットが登場し雨音をバックに披露された「梅雨明けの」、お祭りの灯籠を想起させる照明が綺麗だった「ナツノカゼ御来光」など、会場に切ない風景を描き出すシーンも。


そんな上質なサウンド、演出の中で届けられていくのだから、「デモーニッシュ」「ナミカレ」などの生々しい感情を歌った曲では、こちらの胸がザクザク抉られていく。そして、周りとの比較で自分を愛せなくなる「くらべられっ子」、それとは対照的に強くてプライドが高いゆえに大切なものを見失ってしまう「泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて」、今も歌舞伎町に行けばきっとトー横で座り込んでいる女のコの心を投影した「アンダーキッズ」と、心が痛くなる感情の応酬が続く。


自己肯定感と劣等感との戦い。自分を愛したい気持ちと愛せない気持ち。愛が与えられないことに対する自責と他責──これらの楽曲で描かれるのは、人生のどこかで出会ったことのある“今の自分”であり“あの頃の自分”であり、はたまた“いつか見たあの子”だ。この圧倒的リアルさが、情緒をぐちゃぐちゃにかき乱していく。それは悲しみでもあり、慈しみでもあり、なんとももどかしいエモーショナルな感情だ。

そしてツユのすべてが集約されていると言っても過言ではない2曲、これを受け取ることですべてが昇華される。それは本編ラストに披露された「あの世行きのバスに乗ってさらば。」「終点の先が在るとするならば。」だ。文字通りの重いタイトルで、“真っ先に死ぬのは私でよかった”など歌詞にもナイフのような鋭い言葉がたくさん使われていて、辛い。でもこの2曲を聴いたあとに残るのは絶対的な救いで、大きな愛で、ツユからの本気のメッセージだと、私は思っている。「生きているのも悪くないのかも」と思える、自己救済の曲だと言ってもいいかもしれない。いつかライブで直接受け取ってほしいので詳細は書かないが、今が苦しくて仕方ない人に届いてほしい楽曲だ。



ツユのライブ、約1時間半。今悩んでいることを思い出したり、悔しかったあの頃の気持ちが蘇ってきたり、あの時のあの子はどうしてるかなと思ったり……たくさんの想いが押し寄せた。けれど、決して不快ではなかった。ツユの楽曲がいろんな感情を認めてくれて、共感してくれて、寄り添ってくれて、その根底にある大切なものに気づかせてくれたように思うからだ。来た時には「今の私には眩しすぎる」と感じていた春の陽気も、会場を出たときにはなぜか心地よく感じられてた。いつの間にか、私も救われていたようだ。

取材・文◎服部容子(BARKS)
撮影◎堀卓朗(ELENORE)

セットリスト

1.傷つけど、愛してる。
2.忠犬ハチ
3.雨模様
4.風薫る空の下
5.どんな結末がお望みだい?
6.かくれんぼっち
7.テリトリーバトル
8.やっぱり雨は降るんだね
9.雨を浴びる
10.梅雨明けの
11.ナツノカゼ御来光/ぷす feat.初音ミク
12.過去に囚われている
13.デモーニッシュ
14.ナミカレ
15.くらべられっ子
16.泥の分際で私だけの大切を奪おうだなんて
17.アンダーキッズ
18.あの世行きのバスに乗ってさらば。
19.終点の先が在るとするならば。

en1.いつかオトナになれるといいね。
en2.新曲
en3.ロックな君とはお別れだ

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